人々が心に抱くモノ:嫌いな人はあまりいないが、大多数にとってハヤシライスは自分の生活にはあまり関係ないモノで、言われたら思い出すくらいの存在である。一方、ハヤシライス好きは少数派だが、その反面、大勢に流されず、こだわりをもった個性派でもある。
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その理由は料理自体の特徴・味にあることは当然だが、おそらく、ハヤシライスの物語性、背景に潜む職人気質も影響していると思われる。カレーライスのように、どこでも食べられるほど一般的ではない。その反面、提供している店は、日本人の多くが好む「和洋折衷」な佇まいがほどよく、味へのこだわりが強く、なのにそれほど気取らない、高い値付けもしない、ゆえに「名店」という評判が立っているところが多い。
ハヤシライスは調理に時間と手間が掛かるし、牛肉を使うためコストもかかる(ゆえに家庭料理として普及しなかった)。店側にしてみれば、商売の効率を考えたらあまり魅力的ではないので、一種の心意気・思い入れの強さが作り手に求められる料理である。客側にしてみれば、もともと自分の口に合う料理が、その奇特性・作り手のこだわり・姿勢によって、さらにおいしいものに感じられることが嬉しくてファンになっているのではないかと思われる。
老若男女の隔てなく人気を集める他の洋食とは違い、通好みの洋食である
概要:この料理の発祥・名前の語源については諸説あるが、デミグラソースをベースに日本人が考案した料理、という説が有力とされている。考案者についても諸説あるが、丸善の創業者・早矢仕有的(はやしゆうてき)が票を集めているようである。ハヤシさんが作った料理だからハヤシライスという、分かりやすいストーリーゆえかもしれないが。
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発祥の店、もしくは老舗とされている洋食店は幾つかあり、デミグラソースがベースのソースに、細切れの牛肉・玉葱を具としているところは共通しているが、ソースの味付け・色合い・柔らかさ、他の具材等は、それぞれの店で独自の特徴がある。
洋食のなかではマイナーな存在である。断トツの普及度のカレーライスはさて置き、ナポリタンやオムライスよりもメニューに載せている店は圧倒的に少ない。また、家庭料理として食されることはあまりない。
歴史:ハヤシライスが考案されたのは、カレーライスやナポリタン等と同じ頃、明治時代の初頭とされている。日本社会に特有の極端な方向転換で、260年以上続いた江戸時代の価値観・風習にいとも簡単に見切りをつけ、「西洋のものをいち早く取り入れることがよい」という風潮が蔓延すると、それまで忌み嫌う人が多かった肉食が大流行し、牛鍋屋が日本の各都市に生まれた。そうして肉や香辛料が普及したことで、これもまた日本の特徴である「和洋折衷」が出番を迎え、日本人の好みにあったハヤシライスという料理が生まれたと考えられている。 つづきを読む
その辺りまでは、他の洋食と同じ道のりであったが、ハヤシライスは他の人気者とは別の道を辿った。普及したのはホテルや洋食専門店までで、庶民向けの食堂に広がっていくことはほとんどなかった(もちろん例外はあるが)。喫茶店での状況をみても、ハヤシライスがメニューにない店のほうが一般的である。