技報【バックナンバー】
ヤマハ発動機では研究開発の成果や製品を支える技術をご紹介するために、年1回(12月)、技報を発行しております。
本ページでは、PDFファイルのダウンロード・閲覧ができます。(現在、冊子の配布はいたしておりませんのでご了承ください。)
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| 巻頭言 | 木村 隆昭 今年はヤマハ発動機創立60周年にあたり、また来年からは新中期が始まるという節目の年にあたります。この節目の年にあたり、ヤマハ発動機は今後どのような技術開発を行っていくのかを考えてみたいと思います。まず初めに、技術革新により社会がどのように変化してきたかを見てみます。右の表から、今後の技術革新の重要な2つのキーワードは①スピード②社会への広がりであることがわかります。つまり、今後の技術革新は我々の経験しないスピードで起こり、インターネット等を通じて、過去の比ではない広がりをもって社会を変革していくことが予測されます。このような社会の変化の中で我々はどのような方向で技術開発を行っていくかを考えてみる必要があります。 |
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| 技術紹介 | 山谷 正貴/池谷 昌彦/大城 郡二/望月 靖之/設樂 尚希 2015年に発売されたYZF-R1Mに標準装備(YZF-R1にオプション設定)されるデータロギングシステムを開発した。当システムのねらいは、走行記録を用いてライディングを分析するという楽しみの提供、さらにはスキルアップに貢献することである。なお、ターゲットは、サーキット走行会やアマチュアレ-スに参加するユーザである。開発における課題は2つあった。まず、ロガーユニット(CCU:Communication Control Unit)の車両への取り付け性が挙げられた。搭載するCCUは、車両本体の改造無く取り付けられ、小型であることに加え、FIECU相当の耐環境性を備えるという条件をクリアする必要があった。次に、使い勝手の良いユーザインターフェースが挙げられた。サーキットユースであることから、分析用機器はパソコンではなく手軽に持ち運べるスマートデバイス(タブレットやスマートフォン等の携帯情報機器)を利用し、さらに、簡単で直感的な操作性のユーザインターフェースが求められた。これらの課題に対応できる汎用ロガーは存在しないため、本開発を進めることになった。 |
LEXUS プレミアムスポーツRC F用 新2UR-GSEエンジンの開発 菅原 順也/鈴木 千雅/木下 裕治/塚本 啓介/多田 博/川村 博 クルマを思い通りに操る歓びを得たい、クルマを走らせる楽しさを感じたいといった欲求は、人々の環境への意識が高まった現代でも減少することはなく、出力性能と官能性能をより磨き上げた高性能エンジンを搭載するスポーツカーへの期待は益々大きなものになっている。今回“F”の名を冠した最新LEXUSプレミアムスポーツRCF用として、自然吸気V型8気筒5.0Lの新2UR-GSEエンジンを開発した。このエンジンは圧倒的な出力性能、「サウンド」「レスポンス」「伸び感」といった官能性能の向上、時代にあった環境性能を達成すべく、ほとんどの部品を見直し、最新直噴システム、吸排VVT(吸気側は電気駆動)や、多くの高出力高回転化技術を惜しみなく投入した。なお、このエンジンはトヨタ自動車株式会社とヤマハ発動機株式会社が共同で開発した。 | |
加茂 利明/原田 豊二/沢井 誠二/岡田 弘之 自動車の操縦安定性・乗り心地の開発において、車体剛性が重要なことは広く知られているが、パフォーマンスダンパー(以下、PD)は、車体を弾性体と考え、非可動部に直接減衰を付与することで車体性能をさらに向上させる技術である。PDは2001年の発売以来、自動車メーカにより累計で約30機種に採用され、アフターパーツとしても累計60を超える機種で販売されている。PDを取り付けたことで体感できる効果(以下、PD効果)としては、以下が挙げられる。・操縦安定性の向上・乗り心地の向上・車両の上質感の向上PDの減衰力選定は、熟練したドライバの官能評価に委ねられるが、さらなる最適化のためには、その数値化および官能評価と車両挙動の紐付けは必要不可欠である。本稿では、PD効果のメカニズム解明に向けて取り組んでいる“効果の数値化”のうち、“操縦安定性の向上”についての取り組みを中心に紹介する。 | |
太田 淳司 ヤマハ発動機(株)(以下当社)は、1958年にボート事業を開始し、翌々年の1960年の『CAT-21』をはじめとして、小型から大型まで数多くのボートを発売し続けている。近年では、2014年に『DFR』、『YFR』、2015年には『F.A.S.T.23』とニューモデルを市場に投入した。いずれのモデルも優れた性能、五感をくすぐるデザインと最適なレイアウトを併せ持ち、発売以来お客様から高い支持を得ている。本稿では、ボート開発において最も重要な性能開発に焦点を絞り、その開発手法として当社で用いているシミュレーション技術Yamaha Performance Development System(以下Y.P.D.S.)と性能検証手法について紹介する。 | |
中山 浩典 農業分野における無人ヘリコプターは既に約2600機が市場で利用され、延面積106万ヘクタール、日本で収穫される米の36%を防除するまでに発展している。一方で農業用無人ヘリコプターにカメラ、自動飛行機能を付加して撮影や観測に用いる「自動航行」タイプも開発し、市場で利用されている。これは人が立ち入ることができない火山地帯での地震計測や、福島県内の放射線量計測、レーザ形状測量機による地形測量等で活躍している。このような観測業務実績が認められ、NHKから「大地創世・西之島」というテーマの科学番組制作のために自動航行タイプRMAX G1による西之島近海からの撮影、溶岩礫採取の委託があった。西之島は2013年11月から39年ぶりに噴火活動を再開し、吹き出す溶岩流によって少しずつ陸地面積を広げつつあり、約2km四方の大きさにまで拡大している。この現象は地球上に陸地が生成されるメカニズムの縮図と地質学者は捉えているが、海上保安庁は安全確保のため、島から4km以内の立入規制を強いている。NHKの狙いは4km離れた船上から無人ヘリコプターを利用して高解像度カメラによる昼夜間撮影、サーモグラフによる地表面温度の観測、島の土壌成分解析用の溶岩サンプル採取等、成功すれば非常に価値の高い学術データと映像を獲得することにあった。本稿では、このプロジェクトを遂行するために解決すべき技術課題とその対策および現場の状況を報告する。 | |
齋藤 亮/大西 範幸/安藤 裕介/中村 仁 リチウムイオン電池(以下LiB;Lithium-ion Battery)は小型・軽量であることから、スマートフォン等の民生用途からハイブリッド車や電気自動車といった動力用途に幅広く利用されている。特にハイブリッド車を含む車載向けのLiB市場は近年急速に伸びており、市場規模は2020年には2.5兆円から5兆円の間で推移するとされる。このような市場傾向から車載用LiBの技術動向に注目が集まっている。動力用LiBには車両要求から様々な機能が要求される。代表的な特性として、航続距離に関わる電池容量、加速力に関わる出力密度などがある。電池の劣化特性もその一つである。電池の劣化による性能低下は、電動車両での電池残量表示や航続距離に大きな影響を与える。つまり電池の劣化傾向を車両があらかじめ把握しておくことは、電動車両の利便性、信頼性向上につながるため重要である。そこで、本稿ではLiBの劣化傾向の効率的な把握を目的とし、劣化係数を用いた容量劣化推定手法について紹介する。 | |
| 製品紹介 | 瀧 篤志/五反田 健彦/浅井 貴之 世界の都市部では慢性的な渋滞が発生し社会問題になっている。その中で、スクータは日々のコミュータとしての利便性が支持され、全世界の需要は年々増加し2014年実績で約1,100万台に達する。当社は、各市場のお客様のニーズにあった商品を提供し続けてきた。一方で、近年お客様のニーズはインターネットの普及で世界中の情報が共有できるようになり、地域を超えて共通する要素が増加してきた。本モデルは、成長を続け変化の激しい新興国と、成熟市場である先進国のコミューティングのニーズを1モデルで補完するグローバルモデルとして開発された。1モデルを多仕向地に展開することにより、開発効率の向上と規模効果によるコスト低減を実現し、これまでよりワンランク上の価値をお客様に提供する。 |
宮部 敏昌 かつて、日本でバイクブームが起こった80年代は250cc全盛の時代であった。250ccスポーツバイク市場は90年代以降次第に低迷していくが、近年活躍の場を世界に広げ、様々な国で多くの人々に親しまれるカテゴリとなっている。YZF-R25は同時開発のYZF-R3と共に、YZF-R1を初めとするYZF-Rシリーズの一員としてグローバルに展開することを目的に開発したモデルである。 | |
鈴木 孝典/鈴木 康弘/大崎 逸人/Todd Booth 北米のROV(Recreational Off-Highway Vehicle)市場は現在、年24万台規模の需要(VIKING販売開始の2013年比4万台増加)があり、今後も伸長していくことが予想される。その用途は農業/酪農などの業務から狩猟などのレクレーション、スポーツまで多岐に渡っており、それら広範な用途をカバーするために、2013年にVIKING、2014年にVIKING VI、2015年にWOLVERINEを開発、市場導入してきた。上記用途の中のスポーツについては、現在高伸張中で、各メーカから次々と新モデルが投入されている。ヤマハはレクリエーション/スポーツは得意領域であり、常にパフォーマンスNO.1でブランドイメージを牽引してきた。そのイメージ構築とROVでの基盤をさらに強化するために、他社が追従できない高次元の走行性能をもったピュアスポーツ「YXZ1000R」を開発したので、ここに紹介する。 | |
中野 太久二/澤淵 敦志/辻 陽介/衣笠 健 現在、ヤマハスノーモビルは、北米、ヨーロッパ、ロシアなど幅広い地域で販売されている。その中でも、業務からレジャーまで幅広い用途で使用できるユーティリティモデルのメイン市場はロシアである。ロシアにおいて「RSViking Professional」は、大平原や雪深い森林などを楽しみながら移動するレジャーユースが中心であり、厳しい環境下における走破性や快適性に加え、ロングランが可能な燃費性能が求められている。この市場要求に応えるべく、2016年モデルとしてヤマハユーティリティモデルのフラッグシップ「RSViking Professional」をベースに、エンジン、車体、デザインを一新した「VK ProfessionalⅡ」を開発したので紹介する。 | |
中村 光義/原田 直樹 4ストローク·Personal Water Craft(以下PWC)の登場から約15年が経った。モーターサイクルR1の初期モデルに搭載されたエンジンをベースにした第1世代、完全オリジナル設計の大排気量エンジンの第2世代に続き、第1世代と同等排気量を持った第3世代PWCエンジンの開発を行った。ベースとしたのは、スノーモビルSR Viper等で実績のある3気筒ハイパフォーマンスエンジンである。本エンジンは、2015年にオールニューモデルとして発売されたVXシリーズに2016年から搭載され、全世界向けに展開されていく計画である。 | |
寒川 雅史/小久保 幸栄 高い信頼性でロングセラーを続けてきた従来のF115Aは1999年に登場以来、多くのお客様に使われてきた。しかし近年、需要の多いアメリカではリーマンショック後の経済の回復でファミリー志向のポンツーンボートが急増しており、それらの重量艇を快適に走らせるために、より力強さとスムーズ性が重要となってきた。さらに、他社より新機種の投入もあったことからモデルチェンジをすることになった。今回、第二世代の4ストローク船外機として統一されたエッジデザインの外観を採用し、より軽量でパワフルそして低振動で快適なF115Bを新しく開発した。同時に、当社の4ストロークシリーズで存在しなかった130馬力帯にF130Aを、さらに北米専用のパーフォーマンスモデルとしてVF115をシリーズで開発した。 | |
鈴木 康芳 ヤマハモーターハイドロリックシステム株式会社(以下、当社)は、2輪・4輪車用ショックアブソーバや船外機用電動油圧式パワーチルト装置など、主に油圧機器を製造している。当社のコア技術を活用できる新商品として、株式会社オーディーエム(以下、ODM)が販売する制振装置の共同開発および製造を受託することになった。制振装置とは自動車や産業用の緩衝器と同様、地震からの揺れや振動を減衰・吸収によって抑える装置で、基本構造には当社の油圧式ダンパを採用している。本稿では、開発した木造建物制振装置「商品名:ダイナコンティ」について紹介する(「ダイナコンティ」はODMの登録商標)。 | |
| 技術論文 | 尾上 太郎/内田 吉陽/瀬戸 賢治 近年欧州では車車、路車間通信に関するシステム検証および標準化が進められ、実用化に向けた動きが活発化している。我々は欧州での二輪車用通信利用運転支援システムの開発を進めるため、欧州で実施されたDRIVEC2Xプロジェクトに参加し、机上検証では得られない課題の明確化を目指した。本プロジェクトでは、欧州実路での情報提供に関するシステム動作や通信機能の確認、および情報提示に対する運転行動への影響を調査した。その結果、サービスの提供に必要な通信距離を保つことができたが、後方との通信では要求を満足できない状況が確認された。また、ライダへの影響では工事情報や故障車など対象物の存在する情報に対しては走行速度の抑制が得られたが、速度規制などの情報に対しては運転行動に変化がないことがわかった。 |
高橋 宏明 射出成形による樹脂部品は幅広い分野で使用されており、当社製品においても多くの部品に採用されている。当社はプラットフォーム化構想を掲げており、外装部品を変えることでバリエーション違いのモデルも展開している。これらの生産現場では多種多様な商品を高品質·低価格·短期間で作り込むことが求められている。そのため、海外拠点の生産準備従事者が新規モデルを手離れ良く立ち上げる手法や仕組みが必要となっている。今回、このような状況に対して「金型内のモニタリング」と「成形機の機差吸収補正」を行うことで、効率よくトライを進められる手法を確立したので紹介する。 | |
トランスミッション歯車シェービング加工工程の振動解析を用いた歯車精度対策 牧瀬 芳輝 モーターサイクルのトランスミッション歯車は強度向上、騒音低減を目的に歯面仕上げ工法にシェービング加工を採用している。シェービング加工における歯形精度が周期的に変化する現象について、振動モード解析を用いて共振のメカニズムを解明し、精度改善する手法を開発したので紹介する。 | |
久保田 剛/土居 航介/村上 剛/小島 勇輝/三浦 徹 チタン合金製コンロッドは、鋼製のものに比べて、原動機の往復重量および回転重量を大幅に低減できるため、エンジンの低燃費化および出力向上への効果が大きく期待される。しかし、材料コストおよび加工難易度が高く、摺動部の磨耗対策も必要なため、これまでは生産量が少なく高価な車種のみに採用されてきた。本報では、これをより幅広い車種で採用することを目的として、材料、加工法および表面処理方法を検討した。材料として、モーターサイクルのコンロッド用で一般的なSCM420鋼および6Al-4Vチタン合金に対して、合金成分が廉価である5Al-1Feチタン合金を比較した。加工方法については、切削加工量を減らすと共に、材料強度および靭性を高くするために、熱間鍛造を検討した。また、加工工程数を減らすと共に大端剛性を向上させるために、大端破断分割(FS)工法の適用を検討した。さらに、摺動部による磨耗や凝着を防ぐための表面処理手法を検討した。以上より、5A1-1Feチタン合金を用いたFSチタンコンロッドの利点が定量的に示された。本研究を応用したチタンコンロッドは、2014年より量産モーターサイクルYZF-R1およびYZF-R1M向けとして生産されている。 | |
Development of Strength Analysis Method for Off-Road Motorcycle Radiator Assembly 山谷 真和/千葉 晃広 水冷エンジンを搭載したオフロードモーターサイクルのラジエータは、一般的に車体側面に取り付けられている。そのため、モーターサイクルが転倒するとラジエータは樹脂外装を介して地面とぶつかり衝撃を受ける。そして、ラジェータは変形し、冷却性能の低下や冷却水の漏れに至ることがある。当社では、低速走行で転倒した時にラジェータが容易に変形しないように、ラジエータ本体とラジエータを覆う樹脂外装の強度設計を行っている。しかし、強度試験におけるラジエータの挙動は複雑なので、実験だけで強度対策をすると試行錯誤が必要となる。そこで、強度設計を支援するためのシミュレーション手法を開発した。 | |
佐藤 龍彦/栗田 洋敬/伊東 明美/岩崎 秀之 ピストンシリンダ系はエンジンフリクション低減において重要な役割を果たしている。同系の摩擦挙動を改良するためには、エンジン運転中の摩擦波形を観察・解析することが効果的である。上記要求を満たすため、新たに開発した浮動ライナー装置を用いて摩擦波形を測定した。新開発の浮動ライナー装置における計測は空冷110cc単気筒エンジンをベースとして、過共晶Al-17%Si合金製ダイカストシリンダ(DiASil)、軽量鍛造ピストンおよびDLCピストンリングを使用して行われた。本装置にて観察された摩擦波形は理論的に予測される波形と合致しており、適正に計測がなされていると判断された。各条件の平均摩擦有効圧(FMEP)の値を算出した結果、FMEPはエンジン負荷増加とともに増加することが分かった。これはピストンサイドフォースの増加に起因すると考えられる。さらに慣らし後のFMEPば慣らし前よりも30%減少した。この現象は接触部表面の粗さの変化に加えてトライボフィルム形成も寄与しているためと考えられる。 |
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