技報【バックナンバー】
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| 巻頭言 | 秀島 信也 入社早々の駆け出しの頃、海外技術部のプロジェクト担当になり、生産立ち上げ準備の仕事で初めて海外出張をした。その工場ではすでに競合他社の生産も行っており、同じ建屋内でヤマハ製品の生産を行うというプロジェクトであった。生産立ち上げに必要な設備、治具、工具等の仕様書・見積もりを携え、その資料をベースに説明をしていったが、それらの値段が高いと先方の技術者から散々クレームがついた。一通りの準備をして、納得して頂けるものと考えていた自分にとっては大変ショックだった。なぜそんなに高額なのか説明を求められ、さらには必要機能を明確にして、現地で製造・調達できるものを判断してくれと迫られ困ったことも覚えている。必要機能をしっかりと理解していない弱さを痛感した。加えてお客様側に立ち、何が本当の価値で何が不要なものなのか理解していないことも恥ずかしく感じた。お客様目線での提案が足りなかったのである。先方の技術者の言葉を今でも覚えている。「そういうことでヤマハ製品の競争力は無くなるよ。」 |
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| 技術紹介 | 渡邊 博人/藤井 隆弘 2015年に発売されたYZF-R1/R1Mに搭載されたスライドコントロールシステムを開発した。ヤマハらしさを極めるという視点でライダーとマシンの人機一体を実現するために、基本はライダーの意思を尊重しながら、本当に必要な場面でのみ介入し、かつ介入感を感じさせない自然なフィーリングの制御システムを提供することを心掛けた。あくまで主役はライダーである。本プロジェクトでは、主にコーナー立ち上がり加速時における車両のバランスを崩すような後輪の横滑り挙動に着目し、ライダーの加速操作を支援するシステムの開発を目指した。四輪自動車(以下、自動車)においてはすでに実用化されているESC(横滑り防止装置)があるが、これを二輪車に適応するための開発課題は大きく2つある。一つ目は横滑りを検出することである。自動車と異なり三次元的な動きをする二輪車ではハンドル舵角とヨーレートからオーバーステア、アンダーステア等の横滑りを検出することはできない。二つ目は横滑りを抑制することである。タイヤが前後2本しかない二輪車では自動車のように四輪のブレーキ力を制御してヨーモーメントを発生させることができない。本稿では、これらの課題に対して取り組んだ内容を述べる。 |
坪井 隆昌/大賀 浩次 近年、東南アジア諸国連合(ASEAN)においては、道路整備や所得増などの影響によって二輪から四輪に需要が移行していることもあり、二輪車市場は全盛期に比べて減少傾向にある。この限られた市場規模の中でシェアを獲得するには、性能、コスト等で他社よりも優位でなければならない。しかし、高性能化とコスト削減はトレードオフの関係にある場合が多いため、車両価格に転嫁するのではなく、双方を両立させる取り組みが求められている。ASEANの市場で販売される主力機種は単気筒エンジンを搭載していることが多く、単気筒エンジン内にある分割型クランクシャフトのクランクピンにおいては、小径化による摺動ロスの低減が求められ、材料や熱処理の視点で開発を進めてきた。今回は高性能と低コストの両立という課題を解決した浸炭窒化について紹介する。 | |
佐野 公大/大石 武司/大村 尚生/大城 竜伯 インサートグラフィック工法は加飾したフィルムを金型形状にプリフォーム(賦形)して射出成形することで樹脂と加飾フィルムが一体となった成形品が得られる工法である。従来の部分的なグラフィックと比較すると、段差がない、耐擦り傷の向上、加飾範囲の向上などの利点があげられることから、2014年のYZ450Fサイドカバーに採用され社内にて生産が開始された。インサートグラフィック成形の賦形工程では、意匠形状をフラットなフィルムに印刷した状態からフィルムを加熱し、軟化後に真空圧空成形により賦形する。この工程において、印刷した意匠がゆがむ課題があった。そのため印刷形状の修正は試行錯誤を繰り返しながら決定しており、満足な意匠を得るまでに時間とコストが必要となっていた。この課題に対し、賦形工程での意匠ゆがみをシミュレーションで予測することで、ゆがみ修正回数を減らし、リードタイムの短縮を達成した。本稿では、その技術と効果について紹介する。 | |
中村 行夫/岸部 友昭 製品を梱包する主目的は、保護性を持たせることにある。運搬中の製品損傷を防止して、お客様の手元に届けることが重要である。そのために、製品の形状・輸送環境などを考慮した梱包仕様が設定されている。船外機の梱包仕様も例外ではなく、製品別に個々の仕様が設定されている。船外機の梱包仕様においては、耐衝撃・振動など外圧から製品を守る機能が考慮されており、それぞれの機能を確認する評価方法が存在する。しかし、このような過程で設計された船外機の梱包であっても、市場で資材が損傷して、製品の保護性が損なわれる場合がある。この時、梱包仕様を見直して損傷を防ぐ対策を検討するが、損傷事象と対策ロジックが定量的になっていないため、過剰な梱包仕様になる場合がある。これは、本質的な原因に見合った対策仕様になっているか疑問となって残る。本稿では、船外機の梱包強度を定量化して設計することで、最適な梱包仕様設定を追及した取り組みを紹介する。 | |
自律ビークルの知能化プラットフォーム開発 -ROS, Autowareの活用- 難波 直樹/藤井 北斗/張 炎甫/神谷 剛志 ヤマハ発動機(以下、当社)ではこれまで、屋外で人の代わりに測量や監視などを行う自律ビークルの研究を進めてきた。当社の自律ビークルの制御システムは、車両の自律制御を行う機能を搭載した知能化PCと、PCからの指示でスロットルやブレーキなどをアクチュエータモータによって制御する複数のECU(Electronic Control Unit)から構成されている。このような自律ビークルの研究において、知能化技術として開発すべきものは、経路探索や車両の周辺環境認識、自己位置推定等様々である。また各要素技術の動作確認や評価においても、それぞれに応じたソフトウェア開発が必要になるなど、開発期間の長期化および開発コストの増加は避けられない問題である。そのため、研究用自律ビークルの開発速度向上のためには、様々な知能化技術に対応したソフトウェア開発体制の構築が重要となる。本稿では、ソフトウェア開発効率の向上を目指して行ったRobot Operating System(以下、ROS)対応自動運転プラットフォームの開発について紹介する。また、同じくROSベースで開発された自動運転用ソフトウェアAutowareと当社の自律ビークルを組み合わせて実現した自動運転について紹介する。 | |
赤穗 夏来/茂木 卓也/原田 久 近年、大気環境保護や健康被害防止の観点から、大気中の有害物質の削減が求められている。そのため、二輪車においても、高い環境性能が求められており、排出ガス中の規制物質を浄化するための三元触媒の性能向上が急務になっている。二輪車の販売台数が集中しているアセアン地域においても、排出ガス規制が強化されたため、三元触媒の使用量が増大しており、貴金属やレアアース使用量の削減が重要な課題になっている。三元触媒は高温の排出ガスに長期間さらされると、熱による触媒材料の劣化が生じる。熱による貴金属や助触媒のシンタリングが生じることにより、触媒の浄化性能が著しく低下する。貴金属やレアアースの使用量を削減するためには、このようなシンタリングを防止することが重要である。そこで、耐熱性向上のための助触媒材料の開発を行い、三元触媒の量産を開始した。 | |
| 製品紹介 | 福山 美洋 一般的なプレジャーボートのエンジン種類は、「船内機」「船内外機」「船外機」「ジェット推進器」に大別され、その艇のコンセプトにより、どの推進器が最適かを判断して設定される。本開発艇の前身は全長9mのサロンクルーザー「SC-30eX」であるが、業界常識としてこのクラスの10m未満は「船内外機」を搭載するというのが一般的であり、SC-30eXも同様である。また、「船外機=小型艇へ搭載するエンジン」というイメージが日本国内では定着している。片や、北米を中心に展開している、大型船外機2機掛け以上を用いてジョイスティック1本で低速操船できる「ヘルムマスター」の話題が日本国内でも高まるとともに、特にターゲット層の一つである若年富裕層などは、エンジンに対するこだわりが少なく、過去の常識に捉われない人も増加してきた。そこで、新領域の需要層を獲得すべく、SC-30eXの艇体を活用し、船外機2機+ヘルムマスター搭載のスポーツクルーザーとして「SR320FB」の開発に着手した。 |
藤田 博一/神田 栄作/宮崎 崇明/折茂 敏郎/室田 尚輝/陳 昱崴 2015年11月にCOP21(気候変動枠組み条約第21回締約国会議)が開催されるなど、近年は地球温暖化対策への関心がさらに高まり、自動車産業においてもCO2排出削減/燃費向上の技術開発が高度化している。ヤマハ発動機(以下、当社)もCO2排出量削減の一手法として、電動車(以下、EV)の開発を続けており、2002年に「Passol」、2005年に「EC-02」、2010年に「EC-03」と継続的にモデルを導入して市場への提案を続けてきた。今回開発した「E-Vino」は、当社がこれまでに蓄積してきたSP(スマートパワー)技術思想をベースに、ユーザーの利便性向上を目指し、当社の掲げる「ひろがるモビリティ」のひとつとして市場に導入したEVコミューターモデルである。 | |
鈴木 孝典/砂廣 一雄/田中 大輔/福嶋 健司 ROV(Recreational Off-Highway Vehicle)市場は北米を中心に、農業/酪農などの業務から狩猟などのレクリエーション、そしてスポーツ、レースまで幅広い用途と高い需要があり、今後も伸張していくことが予想される。それらの広範な用途をカバーするために、2013年にVIKING、2014年にVIKING VI、2015年にWOLVERINE、YXZ1000Rを開発、市場導入してきた。YXZ1000R(シーケンシャルマニュアル5速トランスミッション)は、スポーツ領域におけるパフォーマンスNO.1のイメージ構築とROVでの基盤をさらに強化するのが目的であるが、そのスポーツ領域を幅広いお客様に使っていただけるようにYCC-Sを搭載したニューモデルを開発した。そのニューピュアスポーツ「YXZ1000R SS」をここに紹介する。 | |
鈴木 豪仁/Jim Vizanko/Lauren Nasca/村嶌 篤/宮崎 政直/坂井 裕司/明石 将 スノーモビル(以下、SMB)の市場要望が、パフォーマンス向上であることは、いつの時代も変わっていない。当社は、平地では「最速」、高地では「山の王者」の名に相応しい究極の高性能SMBを目指し、長年にわたり研究を重ねてきた。従来より、エンジン性能に対しては好評をいただいており、次世代SMBの開発に向けてその期待に応えられるよう開発体制を整え、「究極のパフォーマンス」を目標に開発に取り組んだ。この目標達成に向け、開発チームは自然吸気エンジンのようなレスポンスを持つSMB用ターボエンジンを設計し、協業パートナーと開発した次世代シャーシに搭載した。新開発のエンジンは、全レンジを通して滑らかでリニアな出力特性を持ち、期待を上回る性能を実現している。また、スロットル反応は鋭く、他のターボエンジンにありがちなターボラグはほとんど無い。余分なものを排除したシンプルなエンジンは、既存のターボエンジンと異なり、走行コンディションを問わず強力なトルクを発揮する。当社は、平地のみならず、標高3000mの高地でも最高馬力を維持するエンジンにこだわっている。これを真に感じるには、実際に「Sidewinder」のパフォーマンスを体験するしかない。 | |
川村 誠/前田 裕幸/杉山 文敏/古澤 隆志/佐々木 和敬/岡田 祐介/水木 太喜/安藤 純介/佐藤 稔/國重 祐介/奥出 智重/菅原 徹/脇屋 努 2015年7月、ヤマハ発動機株式会社で8年振りとなる自動車用ターボエンジンの生産が始まった。レクサスIS、RC、GSとトヨタクラウンアスリートに搭載されるFR版8AR-FTSエンジンである。高熱効率・低燃費を実現したこのエンジンは、トヨタ自動車株式会社の最新の過給ダウンサイジングエンジンの1つで、トヨタとヤマハが共同で開発した。またヤマハにとっては100万基以上の生産をしてきた4GR-FSEエンジンの置き換えエンジンとなる。本稿ではエンジン概要と、先行したFF版エンジンからFR版エンジンへの主要変更点および製造技術について紹介する。 | |
Pisithsak Surawichai/Rittanon Chongchatklang/Ken Rungruang/小原 透 アセアン地域では近年ビッグバイクの人気が高まりつつあり、ビッグバイクにシフトしたいと考える一般スクーターおよびモペッドのカスタマーが多い。しかし、ビッグバイクは若者においては手の届かない価格であり、高い操縦スキルが必要とされる。M-SLAZは、ビッグバイクにシフトする前のステップアップモデルとして、本格的な外観と機能を兼ね備えながらも、「扱いやすさ」と「お求めやすい価格で提供すること」を狙いとして開発された。エンジンとシャーシは、アジア地域で人気を博すスポーツモデル「YZF-R15」からプラットフォーム展開し、力強さが凝縮された躍動的な新スタイルと機敏性に優れた操縦性を兼ね備えている。主な特徴は、1)高い走行性能を実現する高剛性の倒立式フロントサスペンション、2)車両との一体感を楽しめるアップライトなライディングポジション、3)“Street Extreme”をイメージした外観デザイン、4)先進的でミニマムなフロント周りを演出するLEDヘッドライトなどである。 | |
永田 一/内門 玄 本モデルはMT-09 TRACERをベースとしたポリス専用車両である。メインターゲットのフランス警察機関では、市街地の運用で必要十分な動力性能と取り回しの良さを持ち、導入価格も安価に抑えられるという理由から1,000ccクラスモデルの需要が高まっている。当社はそのクラスにTDM900Aを長く導入してきたが、次期入札要件としてトラクションコントロールの装着が必要となることに加え、入札競合他社に対し性能・機能を高めたニューモデルを投入する必要があった。一般車両とは異なり特殊な用途で使用されるモデルであり、要求機能の把握と、軽量・コンパクトなベースモデルの特長を生かしながらポリス専用装備を追加するには、スペース効率を高めた部品レイアウトや、重量増加に対する走行安定性の作り込みなどいくつかの工夫が必要であった。 | |
加治屋 晋一/津田 真矢 汎用エンジンの世界総需要は年間約2800万台(4サイクル50~1000cc)であり、その中でも最大の市場は北米で年間約1200万台(全世界総需要の40%以上)となっている。北米で消費される汎用エンジンの70%がバーチカル(出力軸垂直取り出し)エンジン、30%がホリゾンタル(出力軸水平取り出し)エンジンで、用途はWALK-BEHIND ROTARY MOWERS(手押しタイプ芝刈り機)、LAWN TRACTOR(乗用芝刈り機)といった芝草市場に関係する商品が約70%を占めている。WALK-BEHIND ROTARYMOWERSは家庭用でコスト重視のモデルが多いことから、低価格な小型エンジンが搭載されている。もう一方のLAWN TRACTORで、特に芝刈業者向けのZERO TURN RADIUS MOWER(以下、ZTR)とよばれる芝刈り機は、大型エンジンが搭載され、高品質、高性能、高信頼性が要求される。WALK-BEHIND ROTARY MOWERSでは中国製エンジンが多数存在するのに対して、この領域は日系および米系メーカー製エンジンが占めている。ヤマハは現在、80~400ccの単気筒ホリゾンタルエンジンをラインナップしているが、最大市場である北米でのマーケットシェアを拡大するため、芝刈業者向けZTRに搭載するヤマハ初のFIバーチカルV-Twinエンジンを開発したので紹介する。 | |
北島 和幸/宮崎 哲平/高野 達也 船外機小型カテゴリーにおいて2002年に2ストロークに置き換わる4ストロークモデル第1世代として市場に導入し、世界中の幅広いユーザー層に受け入れられてきたF2/2.5Aであるが、発売から10年以上経過し競合他社製品に対する商品競争力が低下してきた。今回小型船外機をフランスMBK社からタイTYM社へ製造移管するタイミングに合わせ、環境対応、商品競争力強化、採算性向上を図るべくF2B(2馬力)/F2.5B(2.5馬力)へのモデルチェンジ開発を行った。 | |
大容量32Lの薬剤搭載を実現した産業用無人ヘリコプター FAZER R 木戸 徹/大西 慎太郎/平城 大典/木下 勝之/林 隼之 無人ヘリコプターは現在、全国の農業分野において活躍している。その稼動機体数は、すでに2600機(2015年1月時点)を超える。主たる用途となる水稲防除では、短時間で広い面積を散布できることによる高い作業効率を利点としており、無人ヘリコプターを使用した防除が占める割合は今や延べ面積で防除全体の3割を超え、必要不可欠な存在となってきている。ヤマハ発動機では、1983年から農薬散布用の無人ヘリコプターの開発を始め、2013年には従来モデルを約16年振りに一新し、ペイロード性能を向上させた現行モデルFAZERをリリースした。3年目を迎えた今年、FAZERをベースに変更を加え、さらに性能を向上させたモデルFAZERRを開発した。 | |
| 技術論文 | ダイカストリヤアームへの適用に向けたAl-Si-Mg系合金の熱処理特性の検討 奥田 裕也/進藤 孝明/鈴木 貴晴/栗田 洋敬 汎用合金と簡便なプロセスの組合せで高強度なリヤアームを実現することを目的とし、ADC3系合金を用いたダイカストリヤアームのT5熱処理による高強度化を検討した。検討する上で、二段時効による負の効果の発現を防ぎ、強度が安定して向上する熱処理条件を設定することが必要不可欠である。本研究では、複雑な時効硬化特性を有するAl-Si-Mg系合金を用いて、リヤアームが生産可能な熱処理条件を明らかにするために、T5熱処理後の硬さに及ぼす材料組成の影響、水冷条件の影響、時効条件の影響を調査した。本研究により、Mgの含有量は時効硬化による硬さ上昇に影響があり、0.32から0.37wt%の場合、時効温度473Kでは7.2ksでピーク時効硬さ88.7HRFを示した。483Kでは3.6ksでピーク時効を迎え、最も高い90.6HRFを示した。Cuの含有量と水冷時の水温は硬さに影響を及ぼさなかった。これらの特性は平衡状態におけるMg2Si量の計算結果から正の効果の発現が示唆された。本研究で得られた知見に基づき開発されたリヤアームは、2015年タイで発売したM-SLAZに代表されるASEAN向けスポーツモデルに採用された。 |
浸炭処理を施した実体部品の昇温脱離法を用いた水素吸蔵量測定による耐遅れ破壊性評価の検討 井上 陽一/太田 敏也 遅れ破壊とは部品に負荷を与えてからある時間経過後に微量の水素により生ずる脆性破壊であり、高強度な鋼を用いる場合最も留意すべき重要な特性である。しかし、実際に部品を扱う設計者、製造技術者に遅れ破壊の特性と危険性が十分認識されているとは言えない。そこで、本稿では合金鋼に浸炭処理した部品の遅れ破壊特性を昇温脱離法により評価する手法を検討したので紹介する。 | |
新井 寿一/中東 里英 リチウムイオン電池(Lithium Ion Battery: LIB)は電動アシスト自転車(PAS)、電動スクーター(e-Vino)や電動車いす(JW)等に利用が広がっている。電動化製品において重要なエネルギー源であるLIBの本質動作を理解することは製品の性能向上に繋がるものと考えられる。LIBは金属の缶やラミネートフィルムに包まれているので中の様子を観察することはできない。そこで、我々は近代医療でも広く活用されている核磁気共鳴法(NMR: Nuclear Magnetic Resonance)によりLIBを壊すことなく、動作する状態のままで観察する方法を検討した。その結果、NMR装置とセル(実験用のLIB)の工夫により、LIB内部のリチウムイオンの動きを観測することができるようになった。この手法によりLIBの1.過充電過程での反応、2.サイクル試験時の変化等を解析したので、本稿ではその内容に関して紹介する。 | |
Development of data logger for motorcycles 松尾 匡史/森岡 剛/渡辺 仁 モータサイクル用のデータロガーには、レースやクローズドコースでの走行データの計測を行うためのものがある。これらのデータロガーでは、車載するときに、走行に影響がないように小型、軽量、最適化がされている。そのため、ひずみ式のセンサ類を計測するためのアンプやフィルタ類が搭載されていない物がほとんどである。また、アンプやフィルタが内蔵されているデータロガーは、大型のものが多く、耐久性や防水、防塵性といった観点で二輪車の走行時には、使用できないものがほとんどである。モータサイクルの車体開発では、車体の強度や運動特性を理解するため、ひずみや加速度の計測を行っている。また、開発の効率化や走行時の現象の理解を深めるため、計測チャンネルをより多くすることと位置情報の取得が求められている。そこで、モータサイクルの車体開発で使用するために、データロガーの開発を行った。本開発では、アンプとフィルタを内蔵することで、各種センサ情報を計測できるようにした。また、複数のデータロガーを同期させることで、チャンネル数を増やせるようにした。さらに、データロガーのケース内に樹脂を充填することで、耐久性や防水、防塵性を向上することができた。結果、モータサイクルの車体開発に最適なデータロガーが開発された。 | |
Analysis of Mixture Formation Process in a PFI Motorcycle Engine 森吉 泰生/窪山 達也/後藤 久司/飯田 実 吸気管内燃料噴射システムを備える二輪車では、レイアウトの制約などによっては噴射した燃料の一部が管内壁面に付着し、レスポンスの低下等の問題を生じる場合がある。このため燃料液滴径や空間濃度分布といった噴霧の特性を理解することが重要となる。ポート内での噴霧形成を考慮する際、燃料液滴の分裂、蒸発、壁面衝突という3つの事象が不可欠となる。しかしそれらを同時に観測することは難しいため、著者らは個々の事象に分けて研究を行なってきた。これまでは液滴の分裂と壁面衝突について着目した計測を行っており、今回は液滴の蒸発に着目した。FID(Flame Ionization
Detector)を用いた蒸発燃料の直接サンプル法を確立し、簡易ポート内での空間濃度分布を計測、解析した。結果、ポート内の空気流速が速くなるほど液滴がせん断力で分裂、微粒化することにより蒸発量が増加し、また流動の仕方や燃料の蒸留特性によっても容易に燃料蒸発が影響を受けることが分かった。 |
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