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W・ズィーレンベルグインタビュー

FIAT YAMAHA TEAM監督 W・ズィーレンベルグが2010年シーズンを振り返ります。

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MotoGP

W・ズィーレンベルグインタビュー|ホルヘと二人三脚の旅


GPライダーとしてヤマハを含む3メーカーで計100レースに出場した経験を生かし、ロレンソをチャンピオンへと導いた

大成功の裏にあったもの

 世界中のヤマハファンの皆さんに、MotoGPのファクトリーチームで大成功を収めた一年目のシーズン報告を行える私は、本当に幸せな男だと思う。皆さんもよくご存じの通り、私は今年からMotoGPに参加した。そして、そのたった一年が私の40年に及ぶレース人生(現在44歳-私は4歳からレースを始めたのだ!)の中でも最高の年になった。この一年間について、どこから話を始めればいいのか迷うところだが、おそらく私のチーム内での役割やその立場からの見解に皆さんはご興味がおありであろうと推察し、まずはそこから開始することにしてみようと思う。
 現在の組織に加わった当初は、まさか世界チャンピオンとしてシーズンを終えることになるとは思ってもみなかった。本当に最高の気分だ。私個人は、昨年にカル・クラッチローを擁するチームでWSSのチャンピオンを獲得するという幸運に巡り逢わせ、Javier Ullateはアレックス・クリビーレが1999年にGP500のチャンピオンを獲得した際のメカニックを務めていた。それ以外のチームクルーは、あの経験豊富なラモン・フォルカーダですら、今回が初のチャンピオン獲得である。皆がたいそう喜んだのはいうまでもない。
 18戦9勝、しかもクラッシュによるリタイアが一度もないという成績は、もちろん大変素晴らしいことである。シーズン前半は多くの勝利を挙げる申し分のない流れだった。だが、サマーブレーク後は一筋縄ではいかない展開になった。ブルノではホンダ勢が一気に巻き返してきたのだ。ホルヘは勝利を収めることができたものの、ポイント面で大きなアドバンテージを持っている以上、そこから先は戦い方をやや変更していくのは自然なことだった。状況は容易なものではない。ホルヘはレースに勝利し、なんとしてでもチャンピオンシップを獲得したいと渇望していた。だから、そのためには何をすればいいか、ということを私たちは話し合った。レースに勝つことは重要だ。ホルヘはこれまでの人生で、唯一そのために全力を尽くしてきた。だが、今やそれだけがすべてではない、ということをホルヘは感じ取りつつあった。
 昨年の冬、私はホルヘにこんなことを話したのを思い出す。「もし君が毎戦表彰台に上がるなら、チャンピオンになれるよ」と。この当時、MotoGPでの総獲得ポイント記録はバレンティーノ・ロッシの373だったのだが、彼は18戦全勝してこのスコアを達成したわけではない。レースに勝たないことにはタイトルを獲得できないのは言うまでもないが、例えば年間6勝したいという目標を掲げるとすれば、そのシーズンは大変に困難なものになることだろう。毎戦、不要なプレッシャーの中に自らの身を置くことになるわけだから。2009年にバレンティーノは9勝を挙げた一方、ホルヘは4勝だったが、シーズンを終えたときの彼ら違いは勝ち数の差ではなく、ゴールしなかったレース数の差によって決まっていたのだ。ホルヘは今年の開幕前に負傷をした。開幕戦のカタールを2位で終えたが、それは十分満足のいく結果だと理解をしていた。これは私たちにとって、大きな前進だった。

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私の役目はもう一人のホルヘになること

 私の見るところ、バレンティーノとケーシーは最初のテストから競い合っていたように見えた。テストというよりも、むしろ予選のようだった。彼らはセパンテストでラップレコードを更新する勢いだったが、ホルヘはゆっくりと目覚めたような状態だった。バレンティーノとケーシーは、あまりにも早い時期からプッシュしすぎているようにも思えた。私はホルヘに気にするな、自分の仕事、シーズンに向かってバイクと自分自身を仕上げていくことに集中するのだ、と話した。これは忍耐を要する作業ではある。シーズン終盤まで毎戦いいスピードを維持していけるのは、ベン、ホルヘ、バウティスタ、ケーシーの四人のみだ、と私には思えた。シーズン最後まで戦いきるには、心身ともに高い水準を保っていなければならない。もちろん、幸運も必要だ。だが、何よりも大切なのは、これから先に長いシーズンが待っている、今はまだその端緒にすぎない、と心に留めておくことなのだ。
 シーズンも折り返し地点を越えると、いよいよ状況は難しくなってきた。勝てるようなパッケージに仕上がらないレースもあった。レース序盤からホルヘは意のままにマシンを操ることができないものの、しかし、ミスをおかすこともまた、してはいけないのだ。チャンピオン獲得が現実味を帯びてくると、プレッシャーも大きくなる。だが、ホルヘはそのことをしっかりと理解し、私と議論を重ねた。そして、タイトル獲得へ向けて戦う準備を整えていったのだ。世界チャンピオンを8回も9回も獲得したことのある選手なら、勝利を目指して戦うのもいいだろう。だが、ホルヘにとってはこれが最初の経験なのだ。アプローチもおのずと違ったものになる。マレーシアに着いたとき、ホルヘは、どんなふうに戦えばいいのだろう、と私に尋ねてきた。「チャンピオンシップを目指すのだ。それ以外は考えなくていい。序盤10周は引き離しにかかり、その後は他の選手がついてくるかどうか様子を見るんだ。追いつかれるようなら、先に行かせてしまえ。レースに勝つことよりも、チャンピオンシップを獲得するほうがはるかに重要なのだよ」と私は答えた。
 私は多くの人からよく、こんなことを言われる。「あなたがホルヘに何を言うことがあるのかね。彼は世界最高のライダーじゃないか」。選手としてなら、私は彼のレベルにはとても及ばなかったのは事実だ。しかし、コース上での彼に対して指摘できることはあるのだ。例えば最終戦のバレンシアでは、ホルヘが3速で走っている箇所があった。昨年はそうではなかった。私がそれを指摘すると、ホルヘはそこで2速を使うようになり、バイクもアジャストしてさらに乗りやすくなった。その後、テレビでの走行を二人でチェックしていると、最終コーナー立ち上がりでケーシーは1速を使っていることがわかった。ホルヘはそこを2速で立ち上がっている。私はホルヘに言った「ケーシーに勝つチャンスを手にいれたければ、あそこは1速だな」。私たちは決勝日午前のウォームアップで1速をさらに10km/hロングにするようギアリングを変更し、あとは幸運を神に祈った。幸いうまくいって、ダニに前を奪われて順位を落としたものの、その後の周回ではギアリングの変更が功を奏することになった。ホルヘは頑固な男で、物事を納得させるのが大変なこともあるとはいえ、それを受け入れる賢明さも持ち合わせているので、変化にも上手に適応してゆくのだ。
 私が行ったもう一つの作業は、昨年うまくいかなかったことを検証して是正し、もう大丈夫だから心配しなくていい、とホルヘに伝えることだった。この作業は、何戦かでホルヘのレースに対するアプローチが良くなり、精神的にもリラックスさせることに役だったと思う。ホルヘはせっかちな男だから、レース前に彼を焚きつけるようなことをしてはならないのだ。どちらかというと、その火を鎮めるようにむしろ落ちつかせなければならない。私は彼を変えようとは思わない。彼は特別な資質の持ち主なのだから。ただ、落ちつくようにはなってほしい。ホルヘはあるとき、僕は多くのことを学んで良くなかったところをだいぶ変えたんだ、と言っていたことがある。だいぶ変わったとはいえ、言わなくてもいいことを言ってしまうことが、やはり未だにある。だが、正直にならざるをえないときもあるのだろう。

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重要なのは正しい変化!

 我々の課題は来年に向けてのさらなる改善だが、実は3戦前からこの作業を開始している。何戦かでホルヘのアプローチの変化を観察し、技術的な側面からバイクのことをさらに深く理解して、問題の発生に対してチームはより迅速に対応する。ウインター期間中はテストをする十分な時間がないので、チャンピオンを獲得すると即座に上記の事柄への準備を開始したのだ。
 例えば、今の乗り方が必ずしもベストではないことをホルヘは理解しなくてはならない。すでに述べたように私はホルヘを変えようとは思わない。だが、ある種の状況に対して今まで以上に良い対応ができるようになる必要がある。ホルヘは高いコーナリングスピードを好むが、コーナーによっては旋回速度の高さはさほど重要ではない場合がある。ラップタイムが最優先事項ではないときもあるのだ。ブロックラインをとったり、あるいはオーバーテイクの準備をしなければならないときは、コーナーへのアプローチも異なったものになる。シーズン最後の数戦で我々が取り組んでいたのは、主にそういった事柄だ。
 私個人としては、来年が待ち遠しくてしかたない。選手たちの激しいバトルを見ることができるのは非常に胸が躍るが、私たちもそれに向けて準備を進めなければならない。チャンピオン獲得チームは何も変えてはならない、という人々もいるが、この世界では高水準を維持するために毎年変化を続けてゆかなければならないのだ。実際に、今シーズンはライバル勢が変化してパフォーマンスをどんどん向上させてゆく姿を目の当たりにした。我々もそうしてきたし、マシンやライダーと同様に、チームが進化を続けてゆくことが重要なのだ。
 ホルヘはシーズン最後の2戦で連勝した。バレンシアでケーシーを凌駕したことの意味は大きい。来年に向けて大きな自信になったが、私たちはさらに懸命に努力を続けなくてはならない。まだまだ改善の余地はあるのだから、手を休めずに自分たちの仕事を継続してゆくのみだ。進歩しなければ、あっという間に置いて行かれてしまう。というのも、今シーズンは我々も問題を抱えながら戦っていたが、ライバル勢はいくつかミスをおかし、不運に見舞われたにすぎないのだ。今年はポイント差を稼ぐことができたが、それは真の姿ではないことを私たちは肝に銘じなければならない。私見では「四強」は、いずれも勝つ可能性を持っている。パッケージが決まれば「四強」はいつでも勝つことができるのだから、わずかなミスが命取りになる。コース攻略のツボを掴んだ選手が、勝利を収めるのだ。
 2010年シーズンの最後の活動は、バレンシアテストだった。テスト項目をすべて消化したので早めに切り上げることにしたが、ホルヘは結果にも満足をしていた。長いシーズンを終えて感無量の最終戦を終えたのだから、一刻も早く解放して休養させてあげるべきだろう。ホルヘから得たフィードバックは「ニューバイクは2010年のマシンと同じフィーリングで良くなっている、さらに速く走れるし多くの点でパフォーマンスも向上している」というものだった。
 2011年に向けた私たちのアプローチは、2010年とまったく同じだ。可能な限り表彰台に上れるように努力し、勝利を目指してゆく。来シーズンは今年以上の接戦になるだろう。だからこそ、高い目標を見据えてゆかなければならない。来年が待ち遠しい。 皆さんの応援に感謝します。

ウィルコ


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