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YZR-M1開発者インタビュー

YZR-M1開発者が2010年シーズンを振り返ります。

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MotoGP

YZR-M1開発者インタビュー|来年は4連覇を目指す!

2010年、ヤマハは3年連続となるライダー、コンストラクター、チームの三冠を獲得した。今シーズンから施行されたエンジン使用制限やライダーのけが、また、強力さを増し続けるライバル勢力との苛酷な争い等、次々と発生する厳しい条件の克服は決して容易なものではなかった。長丁場の18戦を終えた今、三人の開発者が明かす2010年シーズンの真相とは……


MotoGP史上初の3連覇を達成した。ヤマハ開発陣が次に狙うのは、それを更新する4連覇である!
古沢政生 執行役員技術本部技術基盤統括部長兼MC技術統括部モータースポーツ開発担当
北川成人 MC事業本部技術統括部MS開発部レース担当兼ヤマハモーターレーシング[YMR]社長
中島雅彦 MC事業本部技術統括部MS開発部モトGPグループグループリーダー、フィアット・ヤマハ・チーム総監督

エンジン使用規制と年間開発戦略の狭間で

 「シーズンが終わって逆に時間を辿ってゆくと、安定して盤石な一年だったと言えますが、スタート当初からホルヘもバレンティーノもけがをしてしまったので、実はハラハラドキドキの連続でした」
 古沢政生(執行役員技術本部技術基盤統括部長兼MC技術統括部モータースポーツ開発担当)はこの一年をそんなふうに振り返る。
 「開幕戦ではバレンティーノが勝ち、第2戦ではホルヘが勝ち、と順調な滑り出しにも見えましたが、バレンティーノの肩の状態が芳しくなくて思ったような成績を挙げることができない。さらに脚にけがをして、しばらく休むことになりました。そのぶん、ホルヘが安定して勝ち、去年までとは打って変わって非常に賢いレースをするようになりました。安定した成績で結果的には他を引き離したのですが、バレンティーノの復帰後は二人のバトルが激しくなってきて、非常に危ない状態も何度かありました。レースを観ている方々は面白かったでしょうが、中では結構ハラハラしていたんですよ」
 中島雅彦(MC事業本部技術統括部MS開発部モトGPグループグループリーダー、フィアット・ヤマハ・チーム総監督)も、厳しい一年だったと回顧する。
 「今年はあまりにもいろんなことがありすぎて、楽なことなど一度もなかったですね。けがを含めて何となく落ち着かないことが続いたシーズンでした。特にサマーブレーク明けのブルノ以降は勝てない時期が続いて、その頃は特に厳しかった」
 チャンピオン獲得が確実に現実化しはじめて、自分たちが意識する以上に守りの姿勢に入ってしまったことや、他方ではライバルメーカー各社の追い上げが激しさを増してきたことが複合的に絡み合い、厳しい状態に拍車をかけることになった、と古沢は言う。
 「競合他社が力を上げてきたのを目の当たりにして、ライダーもスタッフも焦りに似たものを感じるのですが、ランキング首位を走っているものだから、失敗もまた許されない。そんなプレッシャーの中で、イライラが募っていましたね。ライダーから“もっとマシンをよくしてほしい”と要求を強く言われはじめた頃でもあります。相手のほうが優れている、というコメントは多分に心理的な面も強いとは思うんですが、ただ、シーズン中盤から他社のエンジンパワーが上がってきたのは事実。コーナーの立ち上がり加速等で置いていかれるので、ライダーに焦りが出てきたのですね」
 北川成人(MC事業本部技術統括部MS開発部レース担当兼ヤマハモーターレーシング[YMR]社長)は、年間6基というエンジン使用基数制限にもかかわらずライバル陣営が性能を落とさなかったことに、多少の焦りを感じたのは事実だ、と認める。
 「エンジン1基で3~4レースを担保するだけの耐久性を確保するために、オフシーズンの間に苦労を続けてきたので“他社も決して楽はしていないはずだ。性能も少しは落ちてくるだろう”と予測していたのに、蓋を開けてみるとそうではなかった。それどころか、シーズン中盤になると、さらに性能を上げてきた。我々も性能を上げたエンジンを投入したいんだけど、検証にもそれなりの時間が必要なのでなかなか投入できない、という苦しい時期でした。つまり、競合各社のバイクはセットアップも引き出して性能も上げてきているのに、我々は足踏みしている、という時期です。
 最終戦の2~3戦前から新しい仕様を入れて、ようやくライダーの不満もかなり解消されましたが、そこまでの数戦は“他社のエンジンは速いのにどうして我々は遅いんだ”というライダーの不満が募っていて、現場の中島さんは相当辛い思いをしたのではないかと思います」
 しかし、その中島はというと、このレギュレーションだからむしろ助かった面もあった、と意外な側面を明らかにした。自分たちを苦しめるレギュレーションは、実はピットの中でライダーを説得させるための材料として、有効活用もできたのだ。
 「こういうプランで開発して、このスケジュールで距離を管理しているから、新しいスペックの投入はここまで待つしかないんだ、という計画を説明すれば、ライダーも理解してくれるんです。バレンティーノの場合は、けがをした結果、チャンピオンシップに対しても既に白紙の状態で戦っていたので“そうか、じゃあしかたがないね”と我々の言うことを素直に受け取ってくれるんです。
 ただ、ホルヘのほうはチャンピオンもかかっていていろんな意味でピリピリしているから、ライダーに見える形で最高速が遅い、ということがわかると、ラップタイム全体がいくら速くても、当然、不満を持ちますよね。“(戦闘力的に)武器をつくってラクにしてくれないと苦しいよ”という彼の気持ちは、こちらにもひしひしと伝わってきました」

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「王者の資質とカリスマ性」を備えはじめたロレンソ

 表面上は連勝を続けて快進撃をしているように見えても、内情はギリギリの状態を何とか凌ぎつつ戦い抜いてきた2010年シーズン。昨年と今年の大きな違いがあるとすれば、チャンピオンを獲得したホルヘ・ロレンソの成長を第一に挙げるべきだろう。この一年で遂げた成長と進歩を、古沢は大いに評価する。
 「2年前は年中転んでいて、シーズンで1勝しただけ。昨年は4勝。そこから現在に至るまでの伸びしろ、変化の量は非常に大きかったですね。一番感じるのは、楽々勝てるレースでは思いきりいくけれども、きわどいときはセーブする。シーズン後半にいけばいくほど、ポイントを失わないように作戦を変えてきた。そういう点で、ホルヘは非常に成長しました。そのぶん神経質にもなり、自分に不利な部分を何とかしてくれ、とよく訴えてもいました。さきほど中島が言ったように、エンジンパワーをもっと上げてくれと常に言っていました。
 あとは、他のライダーに有利になるようなこと、つまり、敵に塩を送ることはしないように、とも言うようになりました。例えばバレンシアテストでは、バレンティーノがドゥカティに乗ることを許したわけですが、それに対しても実はホルヘは非常に不満を持っていた。“なぜ敵に塩を送るんだ、来年からバレンティーノは敵だぞ”というわけです。自分の腕だけじゃない、バイクだけでもない。ルールが許す限り、あらゆる条件を自分に有利に向けたい、と変わってきたのが今年。以前の彼なら、そんなことを考えてもみなかったと思う。去年のホルヘと今年のホルヘは、まるで別人ですね」
 この精神的な変化は、チャンピオンをとるためには絶対に必要なものだ。中島と北川も異口同音に、チャンピオンにはそれなりの資質が必要なのだ、と認める。
 「チャンピオンをとる選手は、自分が勝つ環境を整えることに関しては確実に、非常に努力をする。私たちはレギュレーションに基づいていかに速いマシンを作るかを考えるけど、彼らはレースに関わるものすべて、サーキットにあるものすべてを利用して、同じルールで走る限り自分の有利になるように環境を整えようとする。今まで約20年、いろんなライダーと付き合ってきましたが、本当に人が良くてただオートバイに乗ることだけを考えてチャンピオンをとった選手はいない。勝負に関してとことん執念深くないとチャンピオンにはなれない、と私は思っています」(中島)
 「一口で言うと、貪欲ですよ。自分の目的を達成するためにはなりふり構わず何でも利用して相手を蹴落としていくわけですから、結果的にはいい人ではいられない場面は必ず出てきます。素顔はいいヤツでフレンドリーで、例えばホルヘも実際には好青年なんだけど、勝負や運命を賭けるクリティカルな場面になると“悪人”の顔も出てこざるをえない。でも、それがなければ勝つことはできないと思います」(北川)
 そして、もう一つ、チャンピオンをとるライダーに欠かせない資質がある。周囲の人間を巻きこむ能力、この選手のためならどんなに辛くても頑張ろう、と思わせるだけの求心力だ。カリスマ性、といってもいい。バレンティーノ・ロッシがそれを備えているのは万人の認めるところだ。ホルヘ・ロレンソにもその資質がある、と中島は指摘する。
 「最終戦でバトルの最中に接触して転びそうになりましたよね。普通なら、あそこで転んでレースは終わってる。でも、あそこから持ち直して巻き返し、最後には優勝してしまった。そういう姿を目の当たりにすると“やはりホルヘは何か持っているな”と思うし、彼が喜ぶ姿を見ると我々も報われるんですよ。貪欲だの強欲だのと言っていますが(笑)彼らは皆を動かせるカリスマ的な何かを持っているんです。だからこそ私たちも最終的には、コイツのためならなんとかしよう、という気になる」

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