JMX IA1シーズンレビュー
JMX IA1の2010年シーズンをご紹介します。
JMX IA1シーズンレビュー|成田&YZ450F、最高峰4連覇の夢、破れる…
土壇場のけがに泣いた2010シリーズ
土壇場のけがに泣いた2010シリーズ
今シーズン、成田の目の前にはいくつもの見えない壁が現れた。レース毎にその壁を打ち壊し8勝という勝利を挙げて、4連覇に王手をかけた。しかし第9戦中国大会、公式練習中に右脚の脛骨を骨折。体の自由を奪われた成田は、同時にチャンピオンへの挑戦権も奪われた。2010年IA1、波乱に満ちた成田のシーズンを振り返る。
突如終わりを迎えた快進撃
例外もあるかもしれないが、どんな競技でもチャンピオンになるためには、多くの困難を乗り越えなければならない。その困難にもいろいろな種類があるが、なかでも厄介なのが競技者自身の体が傷ついてしまうことだ。今シーズン、成田亮(YSP・レーシング・チーム・ウィズ・NRT)は次々と降り掛かる困難を振り払い、チャンピオンに向けてまっすぐ突き進んでいたが、その前進を阻んだのも「けが」であった。成田は2009年、第3戦に向けた練習中に左腕の開放骨折に見舞われながらシーズンの早い段階であったことが幸いし、復帰してチャンピオンに輝いた経験がある。しかし、今回はシーズン土壇場でのアクシデント……魔法か奇跡でもない限り、成田のチャンピオン獲得は不可能になってしまったのだ。
こうした結末となった2010年だが、困難は開幕当初から成田を待ち受けていた。実は今年、成田はヤマハモトクロッサーで初となるFI、前方ストレート吸気・後傾シリンダーという独自のエンジンレイアウトを採用し、大きな進化を遂げた新型YZ450Fにスイッチ。そしてこれこそが第一の関門となった。なぜなら、いくら進化を遂げたマシンと言えども、完璧に自分のものにするにはある程度の時間がかかるからだ。
しかし、開幕の近畿大会で成田は、この関門をすんなりと通過してみせた。新コンビは両ヒートを制する完全勝利で、4連覇に向け最高のスタートを切ったのだ。さらに、季節外れの積雪によりマディコンディションとなった第2戦関東大会では、運を味方にする。第1ヒート、成田はトップの熱田孝高(スズキ)から約10秒差の2番手と、優勝の難しい状況に追い込まれたが、その熱田の転倒を機に逆転優勝。さらに第2ヒート、トップの田中教世(カワサキ)にガソリンキャップがはずれるアクシデントが発生、そこでトップに立って勝利をもぎ取り、開幕4連勝を飾ってみせたのだ。
ところが、成田の順調な戦いは第2戦で突如終わりを迎えた。実は、第3戦中国大会までのインターバルに、ご子息が他界するという事故が発生したのだ。レースには直接関係はないものの、計り知れない精神的なダメージが成田にのしかかっていた。
歯を食いしばって戦った中盤戦
その第3戦は、厳しい精神状態から出場を危ぶむ声も飛び交っていた。しかし成田は出場を決意し、いつもと変わらぬ力強い走りで予選をトップで通過。そして決勝第1ヒートもそれは変わらず、序盤にトップに立つと中盤までに独走態勢を築いて開幕5連勝に王手をかけた。ところがレース中盤、クラッチにトラブルが発生して思うような走りができず、4位でレースを終えてしまう。続く第2ヒート、序盤こそトップグループでレースを進めたものの徐々に後退し、一時は7番手まで順位を落とす。最終的には6位となったが、1・2戦で見せた強い成田の姿はそこにはなかった。
その原因は大きく2つが考えられた。ライダーの実力が心技体で構成されていると仮定するならば、訃報による精神的ダメージと、バイクに乗ることができなかったことによるコンディションの悪化が、成田に本来の走りをさせなかったのだ。これでランキングトップの成田と2位の熱田とのポイント差は1となり、トップ争いは振り出しに戻ることになった。そしてこれ以上に、今回の訃報が成田のシーズン全体へ与える影響が心配された。
しかし成田は、精神的、肉体的なバランスの崩れを、第4戦SUGO大会までに修復し、本来の姿を取り戻していた。そして第1ヒートを2位、第2ヒートとして行われた全日本選手権で初開催となったIA1とIA2の混走レース「IAシュートアウト」では勝利を飾ってみせたのである。
第5戦九州大会は家畜伝染病口蹄疫の感染拡大防止のため中止となったが、第6戦以降は、ライバルたちとの激しい戦いが待っていた。なかでもここ数年常にライバルとして戦ってきた熱田、そして田中の2人が襲いかかってきた。第6戦北海道大会は成田と田中、第7戦東北大会は成田と熱田がそれぞれ優勝を奪い合った。成田はそれぞれの第2ヒートで表彰台に立つことはできなかったが、大きく崩れることはなく、ランキングでは少しずつだが着実に2位以下との差を開いていった。まさに最高峰クラスを3連覇してきたトップライダーの意地を見せつけたのである。
途絶えた連覇
第8戦近畿大会、成田は第1ヒートで今季8回目となる優勝、続く今年2度目の「IAシュートアウト」では、表彰台を逃したものの5位と安定した成績を挙げ、ランキング2位の熱田に33ポイント、3位の田中には40ポイントと十分な差を付け、残り2戦4ヒートを迎えた。
そして第9戦中国大会は、決勝前日に降り続いた雨によりコースはドロドロのマディコンディションとなった。荒れたコースを得意とし、またマディも苦にしない成田にとっては、大きな不安要素ではなかった。しかしドライコンディションと異なり、何が起こるかわからないのがマディの怖さである。突然のスタックや転倒の頻発、マシントラブルなどが生じる可能性は大きい。それが成田に降り掛かることも十分に予想された。ただ、それが最悪の結果になることは誰も予想していなかっただろう。
アクシデントが起こったのは公式練習中だった。タイムアップをめざしてアタックを行っていた成田がテーブルトップの着地で転倒。すぐに救護室に運ばれると、痛みを訴え続ける様子から事態の深刻さを見て取った救護班によってすぐに救急車が呼び寄せられ、検査のため病院へと搬送された。そして診断を行った医師から言い渡されたのは、右脚の脛骨骨折という結果だった。
もちろん、レースは成田の安否の報告を待ってくれはしない。ランキングトップを走ってきた今シーズンの主役を欠いたまま決勝は行われ、成田は第9戦を終えてランキング3位に順位を落とすこととなった。そして最終戦、チャンピオンを決定するSUGO大会のグリッドにも成田の姿はなかった。レースは、成田とともにシーズンを引っ張ってきた熱田、そして田中の二人によるチャンピオン争いが焦点となり、熱田が2006年以来のチャンピオンに輝いた。その時成田は、手術を終えたばかりの右脚をいたわりながら、表彰台の後方にある観戦ルームで歓喜に湧く表彰台を見つめていた。ライダーでなく、観戦者としてシーズンを終えたのである。
2010年は成田にとって、地震と雷と台風が一度に押し寄せてきたようなシーズンだったかもしれない。それにより4連覇という大記録を達成できず、ランキングは5位で終わった。しかし、ダントツの優勝8回を筆頭に、2位1回、総合優勝3回という成績は、やはり全日本のトップライダーに相応しいものと言えるだろう。そして現在成田は、今年のリベンジと、国際A級通算100勝という記録達成へのチャレンジのため、既に来シーズンに向けて動き出している。