日本の二輪レースファンの間では「真夏の祭典」、世界のファンの間ではEWC(エンデュランス世界選手権)シリーズに組み込まれた伝統と格式のある耐久レースとして知られる鈴鹿8時間耐久ロードレースは、世界有数の二輪ビッグレースの一つとして灼熱の鈴鹿サーキットを舞台にたくさんのドラマを生み出してきた。

2015年、ヤマハはYAMAHA FACTORY RACING TEAMを結成し、2002年以来じつに13年ぶりとなるファクトリー体制でこのレースに出場した。その背景には、フルモデルチェンジを果たした「YZF-R1」の導入により、日本を含む各国のレースシーンを活性化したいという願いがあった。日本を代表するNo.1ライダーの中須賀克行、MotoGPライダーのポル・エスパルガロ、ブラッドリー・スミスという布陣に、「YZF-R1」をベースとするファクトリーマシンが託された。

2015年、開発ライダーとして、またチームリーダーとしても力を揮い、自身初の鈴鹿8耐優勝を成し遂げた中須賀

エースライダーの中須賀は、全日本選手権でファクトリー仕様の「YZF-R1」の戦闘力を高めてきた開発ライダーでもある。MotoGPライダーであるエスパルガロ、スミスも中須賀を頼りにし、3人のライダーは8時間を通じて綿密な計画を着実に遂行していった。決勝はセーフティカーが6度コースに入る荒れたレースになったものの、55周目にトップに立つと終盤はライバルを引き離して優勝を飾った。ヤマハにとって通算5度目、19年ぶりの8耐勝利だった。

2016年は中須賀、エスパルガロの前年度優勝コンビに、スーパーバイク世界選手権で活躍するアレックス・ローズが加わり、218周を走破して連覇を達成。続く2017年と2018年は中須賀、ローズ、マイケル・ファン・デル・マークのコンビで3連覇、そして4連覇を達成した。2018年の決勝はケガの中須賀を欠いたものの、ローズ、マイケル・ファン・デル・マークが二人でタフなレースを走り抜き、「これほど心強いチームメイトは他にいない」と中須賀を感激させた。

2018年は「YZF-R1 20周年記念」のスペシャルカラーで4連覇を達成

3大会連続で中須賀、ローズ、ファン・デル・マークの体制で5連覇を目指した2019年は、最終周まで激しい優勝争いが展開され、チェッカー目前のライバルの転倒で一時は優勝を勝ち取ったかのように見えたものの、審議の結果、リザルトが改訂されて2位に。この年は、1985年にケニー・ロバーツ/平忠彦ペアでドラマを作ったTECH 21復刻カラーで走り、往年のファンの注目を集めた。

鈴鹿8耐へのファクトリー参戦は、各国のレースシーンの活性化を目指して進められたプロジェクトだった。それは現実となり、世界各地のレースでたくさんのライダーが「YZF-R1」で活躍した。またライバル各社も強力なチームを組んで参戦する流れが生まれ、結果、鈴鹿8耐は往年の輝きを取り戻して世界の注目を再び集めるようになった。

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