古代ギリシャの哲学者が残した「万物の根源は水である」という言葉が、かつてこれほど人々の心に響く時代はなかったかもしれない。水不足や水質悪化への懸念が国際社会に広がりつつあるいま、西アフリカや東南アジアできれいな水の安定供給が人々の暮らしの姿を変えようとしている。

ヤマハと「安全な水」の関わりは、インドネシアに駐在する日本人社員の家族から水への不安が本社に届けられたことがきっかけだった。これを契機に家庭用の浄水器などを開発したヤマハは、やがて新興国の水問題の現実を目の当たりし、新たなシステムの開発に着手していった。

「ヤマハクリーンウォーターシステム」は、飲料水不足に悩む新興国に向けた浄水装置。「緩速ろ過」という自然界の浄化機能をベースにしたシンプルな構造を持ち、フィルターの交換や専門の技術者によるメンテナンス、また大規模な電力などを必要としないことから、設置された集落の住民によって自主運営できる。ヤマハでは、外務省や経済産業省、JICA(国際協力機構)、JETRO(日本貿易振興機構)など公的機関、UNDP(国連開発計画)など国際機関との連携・協力によって、この小型浄水装置の導入を進めている。2015年9月時点で、アフリカに4か所、東南アジアにも7か所、さらにアンゴラ、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、ガーナ、カメルーン、フィリピンなどに18基ほどの設置プロジェクトが進められている。

自然界の浄化機能を応用したシンプルな緩速ろ過方式を採用

開発の始まった当時から、担当者たちを衝き動かしてきたのは「水が変われば暮らしが変わる」という住民の生活に対する思いだった。その言葉どおり「ヤマハクリーンウォーターシステム」が設置された集落では、女性や子どもたちが水汲みの重労働から解放され、近隣集落への販売や配達など水に関わるビジネスも生まれている。

「水が変われば暮らしが変わる」という理念を具現化した「ヤマハクリーンウォーターシステム」(セネガル) 写真提供/久野真一/JICA
設置された集落では住民が水委員会を組織し、自主的な運営やメンテナンスが行われている

こうした実績が「新興国の事情を理解したシステムデザインとして秀逸」と評価され、2013年には日本デザイン振興会による「グッドデザイン賞金賞(経済産業大臣賞)」を受賞した。

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