さまざまな領域でロボティクス技術が注目を集め、また社会や人々の期待が広がる中、ヤマハは自律ライディングロボット「MOTOBOT」(2015年)の開発にチャレンジした。目標は、サーキットで世界最高峰のプロフェッショナルライダーのラップタイムを上回るというものだった。1970年代から産業用ロボット事業を展開してきたヤマハには、「用途を特化することでロボットは人間の能力を超越する」という考え方が存在する。高い目標を掲げた「MOTOBOT」の開発は、まさにそれを証明するためのチャレンジと言えた。

プロフェッショナルライダーのラップタイムには及ばなかったが、時速200キロ以上でのサーキット走行を実現

一般的な自動運転の研究・開発の多くは、自動運転機能を車両そのものに組み込むという方法で進められていた。それに対し「MOTOBOT」は、車両には機能的な改造は加えず、ロボットがスロットルやブレーキ、シフトチェンジなどの操作を行うというアプローチだった。この技術を確立すれば、産業の現場で活躍するモビリティと後付けの自動運転ロボットを組み合わせ、さまざまな現場の課題解決につなげることができるだろうという狙いもあった。

「人とマシンが共響するモビリティ」の概念検証実験機「MOTOROiD」

「MOTOBOT」は約3年間にわたるチャレンジで、プロフェッショナルライダーのラップタイムを上回ることはできなかった。しかし、マイルストーンの一つであった時速200キロ以上でのサーキット走行を実現した。また、2017年には、知能化と自律技術を用いて高度なバランス制御を実装した概念検証実証機「MOTOROiD」を開発。“人とマシンが共響するパーソナルモビリティ” をめざした「MOTOROiD」は、車両が自らの状態をセンシングして重心移動によって起き上がり、そのまま不倒状態を保つことができた。

高度化が加速する情報社会、人々の価値観の多様化、さらに地球環境を取り巻く課題が複雑化する中で、2018年、ヤマハは2030年を見据えた長期ビジョン「ART for Human Possibilities」を策定した。ヤマハらしく社会課題の解決に取り組み、モビリティの変革にチャレンジするこの長期ビジョンの中で、ロボティクスはその核となる技術と位置づけられた。

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