1984年9月、西ドイツ(当時)のケルン市で開かれた世界最大の二輪車ショー「IFMA」は、ヤマハが発表したスーパースポーツモデル「FZ750」で持ちきりとなった。
FZ750は、ヤマハ初の4ストローク・スーパースポーツとして、総力を結集したニューフラッグシップモデル。世界初のDOHC・5バルブ機構を搭載したパワーユニットは、その構成そのものがトータルパフォーマンスを向上させる前傾・低重心設計を具現化したものだった。
FZ750の開発テーマは「マン・マシン一体化」の徹底的な追求。最新技術を結集し、総合性能を磨き上げた。FZ750のエンジンは、世界初の5バルブ・ツインカム。5バルブの採用に当たっては、エンジンのポテンシャルを最大限に引き出すことを念頭に、吸気バルブ多本化による吸気面積の増大、バルブ重量の軽減、燃焼室のコンパクト化による高圧縮比化を実現した。吸気3、排気2と配置されたバルブまわりは、「球状に近い」「バルブ配置が鋭角」「プラグ周りの容積が大きい」「全体的にコンパクト」という理想的な燃焼室設計を実現。このコンベックス型(凸型レンズ状)燃焼室により、強大な出力とトルク、そして燃費の経済性を両立。従来の4バルブエンジンと比べて、幅広い回転域で出力、トルクともに向上し、総合的にパワーは約10%、燃費は5%向上した(当社テストエンジン実験値)。
「マン・マシンの一体化」いわば"人機一体感"を追求したエンジンレイアウトは、「ジェネシス」思想と名付けられた。創世期を意味するこの技術思想は、FZ750に続いて、「FZ250」、「FZX750」、「FZR400」などにも導入され、一連の「ジェネシスシリーズ」として開花する。走行・操縦性能、さらにデザインやサウンドなどを含めて、ライダーの感性に訴えるトータルパフォーマンスを徹底的に追求。マシンとライダーがハーモニーを奏でるような一体感を目指して、「ジェネシス」をベースとした思想は以後のヤマハモーターサイクルづくりにも脈々と息づいている。
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