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外装部品の手吹き塗装 「手吹き」を伝える匠のアトリエ

自動化された塗装職場に、手業と感性を残し続けるその理由

塗装ロボットには右手があり、左手がある。右手にはスプレーガンを持ち、左手には塗装の対象となる製品を握る。その両手を細かく軽やかに動かしながら塗料を吹き付けてゆく。日本で生産されるヤマハモーターサイクルの塗装現場は、クラフトマンたちの技を忠実に再現するロボットによってほぼ自動化されている。しかし、匠の技と感性が途絶えたわけではない。自動化が進む塗装現場に、わずかに一つ手吹き職人のアトリエとも言える空間が残された。手吹きでなくてはならない理由、技術を伝承しなくてはならない理由がそこにある。

ゆらり、
泳ぐ
魚のような。

メタリック塗装とは、塗料の中に微粒の金属箔を混ぜ込んで塗装する技術を指す。ヤマハモーターサイクルの車体色を例に挙げるなら、ディープパープリッシュメタリックC、マットグレーメタリック3などがこれにあたる。メタリック塗装が施された車体はキラキラとした金属光沢を放ち、製品のフィニッシュをもう一段、ラグジュアリーな印象に押し上げている。

「ねっとりとした液状の塗料の中で、小さな小さな金属箔がゆらりゆらりと不規則に泳いでいる。吹き付けをしている時の感覚は、そんな印象」。手吹きの匠は、メタリック塗装の工程をこう表現する。

その薄く小さな金属箔をきれいに寝かせ、製品全体に均一に散りばめることができれば輝きはさらに増す。反対に、ムラができれば暗くくすむ。小刻みかつ滑らかに手首を返し、スプレーガンに角度と緩急をつけながら水の中を泳ぐ魚たちを寝かせてゆく。その違いは「わかる人には、わかる。でも、それでいい」。オーナーの手元に渡ったヤマハモーターサイクルは、陽光の下で輝きを放つ。

ロボットに
授ける、
匠の感性。

匠のアトリエは、ある塗装現場の一角に残されていた。ここでは一部の量産品や少量の部品塗装のほか、開発中のモデルの試作塗装も行われている。塗装の現場ではロボットによる自動化が進んでいるが、デザイナーとともに製品の風合いをつくり込み、その仕様を確定させていくのは今も昔も手塗り・手吹きのクラフトマンである。

ロボットは、クラフトマンが丹念につくり込んだ手順や技のティーチングを受け、それを高速で、何度でも再現してみせる。その繊細なティーチング・プログラムをロボットに与えているのは、情報技術系のIT専門家ではない。長年、生産現場で手吹き塗装を重ねてきたメンバーたちである。「数字ではない。職人の感性で塗る。塗料の着き方、のり方といった感覚は手吹きをやってきた人間にしかわからない」。その感覚をロボットに授けてゆく。

肌を見る。
塗装の匠の
審美眼。

塗装の仕上がりを評価するスキルを、現場では「肌を見る力」と言う。「肌を見る力は、スプレーガンを握った経験で養われる。だから目視による最終検査は、塗装の現場で経験を積み上げてきた検査員が担う。検査を通したものはそのままお客様のもとに届けられる。その責任は重い。もちろんプライドも問われる」

あえて手吹きのアトリエを残し、その技を伝承し続けるのはなぜか? たとえば塗料メーカーでは、試作した塗料を手吹きで評価する。その塗料をロボット塗装に転換すると、色味や風合いのニュアンスがわずかながら変化する。塗料が持つ本来のポテンシャルを知る手立ては手吹きしかない。さらに、日本は世界各地のヤマハ生産現場のマザーファクトリーと位置づけられている。海外では、まだまだ手吹き塗装が主流である。「そうした国々の生産現場に、クラフトマンを育てていくのも本社工場の使命。その育成を担うのも、日本の匠たちの役割」

「SR400」のサンバースト塗装も、こうした匠たちの仕事だった。「ロボットにも、サンバースト風の仕事ならさせられる。ただそれはサンバーストではない。ヤマハが意匠にこだわり、塗装にプライドを持つブランドである限り、これから先も匠の技が必要とされ続ける。その伝承が絶えることはない」

これが、 ヤマハの手

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