「パッソル」誕生の背景には、女性をターゲットとしたモーターサイクル需要の拡大という市場の期待感があった。既成技術にこだわることなく、マーケットインの思想で、実際に顧客のニーズはどこにあるのかを分析し、その上に立って商品企画を進めた。その中から出てきたのが、女性がスカートでも足を揃えて乗れる「やさしさ」というキーワードであり、これが「ステップスルー」とう新しいスタイルを生み出した。デザインを優先してエンジンや駆動系周りもカバードタイプにし、衣服の汚れなどの心配がなく、乗る人に清潔感とともにやさしく親しみやすさを感じさせるようにした。

さらに、自転車と同様の前後輪ハンドブレーキ操作やオートマチック機構による運転のやさしさ、一発でかかるキック機構、キャストホイールの採用なども大きな特長とした。加えて、680mmと低いシート高や全長1,515mm、重量45kgと小型・軽量なところも女性にとって扱いやすいポイントとなった。また1リッター当たり走行距離が75kmと経済性を実現し、"ソフトバイク"という新しいジャンルを定着させた。

ソフトバイクキャンペーン(1977年3月)

「パッソル」の商品化は、デザイン優先の商品企画を実現できる技術開発力があったからこそ成功した。コンパクトな設計に対応した小型強制空冷エンジンや1段自動変速機の開発、強度基準をパスしたパイプフレーム構造やキャストホイール、プラスチックカバーなど、ソフトバイクとして新しいスクーターのジャンルを確立できたのは、新技術の開発に果敢に取り組んだ技術部門の協力があってこそのものだった。

「パッソル」の生産ラインは全員女性で編成された(1977年)

こうした数々の特長を備えた「パッソル」は1977年3月に発売。イメージキャラクターに女優の八千草薫を起用し、「やさしいから好きです」のキャッチフレーズとともに、テレビコマーシャルをはじめとした一大キャンペーンを展開。また、スーパーやデパートなど人の集まる場所で展示試乗会を開催したり、それと並行して「ヤマハ原付免許教室」を開催するなど、販売促進活動にも積極的に取り組み、ファミリーバイク市場でのシェアを大きく拡大させた。

翌年には「パッソーラ」を発売(1978年)

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