ヤマハが電動車イスの開発に取り組み始めたのは、1989年のこと。さまざまな障害を持つ人びとのために、ヤマハ固有の技術によって貢献する方法を模索していた。車イスの研究開発は、国の認定を受けることで補助金が受けられるなどの優遇措置もあり、福祉社会への貢献という目標とともに開発を後押しした。

ヤマハ製電動車イスの特徴は、すでにユーザーが使い慣れている手動の車イスに動力を装着するユニットタイプであること。この新たな視点から登場したのが、電動ユニット「JW-Ⅰ」だった。JW-Ⅰの動力ユニットは、バッテリー込みで15kg、手動車イス本体との合計で25kg以下と非常に軽量に仕上がった。しかも、車イスはJW-Ⅰを装着した後も折りたたみが可能で、持ち運びや取り扱いが容易なことから大きな注目を集めた。従来の電動車イスや電動三輪車は、航続距離が長いという長所の反面、重量が約80kgもあり、取り回しや運搬が不便という問題点を抱えていた。JW-Ⅰは、1995年11月から地域限定で販売を開始。翌1996年10月からは全国発売に移行した。

車イス電動化ユニット「JW-Ⅰ」

JW-Ⅰの全国発売に合わせて、シリーズ商品として電動補助ユニット「JW-Ⅱ」も発売した。JW-Ⅱは、手動車イスと同じ操作をすれば、電動力がアシストしてくれるまったく新しいタイプ。電動ハイブリッド自転車、ヤマハPASで開発した「パワー・アシスト・システム」を手動車イスに応用したもので、電動だけによる自走はできないが、車イスのユーザーが手でハンド・リム(車輪を回す取っ手)に加える力の強さに応じて、モーターが車輪の回転力を補助するPASと同じ仕組みを持っていた。これにより、傾斜のあるところでも無理な力を使うことなく手動車イスと同じ操作で、自立した行動ができるようになった。

電動車イス「JW-Ⅲ」の発売は2000年4月。乗り降りのしやすい回転シートや車体各部へのアジャスタブル機能の採用、専用バッテリーを2個搭載して航続距離を確保するなど、使いやすさを追求した。さらに、2001年3月には電動ハイブリッド介助用車イス「タウニィパス」も発売。電動アシストタイプで、介助者が車イスを押す力を軽減するという、押す人にやさしい新発想の商品だった。

電動補助ユニット「JW-Ⅱ」を装着した車イス
軽量型電動車イス「タウニィジョイ」(2004年4月発売)
電動カート「マイメイト」(2002年1月発売)

また、こうして福祉関連の製品を幅広く展開する中で、障害を抱えながらもスポーツに挑戦する人びとを応援するためにボランティアとして競技用の「チェアスキー」の開発にも力を注いだ。ヤマハが開発したチェアスキーは、1998年の長野パラリンピック冬季大会で2個の金メダルを含む5個のメダルを獲得するなど活躍し、2002年のソルトレークシティ・パラリンピック冬季大会でもニューモデルを投入するなど、積極的に障害者スポーツの振興に取り組んでいる。

長野パラリンピックで活躍したチェアスキー(1998年)
FRP製エアロシェルを装備したチェアスキーの風洞実験

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