技報【バックナンバー】
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| 巻頭言 | 島本 誠 最近IoTやEVに関わる話題を今まで以上に耳にするようになってきました。いまだかつてないスピードで1800年代の産業革命以来の大きな変化が起こっているのを皆さんも感じているのではないでしょうか。今まで持っていた競争優位性がある日突然失われてしまうリスクに備えなければいけない時代です。そうしたとき、我々技術者が常に考えておかなければならないことは、どのような人(どのような地域)にどのような価値(ライバルよりも高い価値)を提供できるのかということです。これは時代が変わろうが、技術の対象がモノからコトに変わろうが同じです。 |
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| 技術紹介 | 大澤 秀樹/山崎 豊/河合 隆/片山 信二/中村 大/鈴木 保之/早川 昇邦/加茂 利明 ドライビングを楽しむ上で、操作に対して忠実に反応が返ってくることは非常に重要であり、そのためにはドライバーの体の一部のようにクルマを動かすことができる一体感が必要である。AM事業部では自動車事業推進の一環として、ドライバーの感性に訴えかけるような自動車シャシー技術の開発に取り組み、1997年にはREASを、2001年にはパフォーマンスダンパーを製品化してきた。これらに続く新たなコンポーネントとして、これまでにない“マイナス反力”を用いたショックアブソーバー:TRAS(Through Rod Advanced Shock Absorber)を現在研究開発している。本稿では、自動車のサスペンションに要求される商品性(操縦安定性・乗心地)を中心にTRASの開発について紹介する。 |
森本 琢也 ヤマハ発動機では、2016年発売の農薬散布用無人ヘリコプターFAZER Rをベースとした産業用ドローンのハイエンドモデルとなる自動航行型無人ヘリコプターFAZER RG2を同年開発した。ベースとしたFAZER Rは、2013年発売のFAZERに機能改良を加え、ペイロード性能(搭載可能な荷物の重量)を向上させたモデルで、今回開発したG2はこのFAZERRに自動航行用機能を追加したモデルである。FAZER Rが目視範囲内で人間が直接見ながら送信機によって操縦するのに対して、G2は自動飛行機能を備えたことで目視外でも運用が可能であり、基地局のコントローラーから簡単な命令を送るだけで操作が可能になっている。そのためG2は、遠距離(数km)まで電波が届く通信機と、操作者が飛行しているG2からの映像を見るためのカメラ装置および映像送信用の通信機を搭載している。今回、G2に衛星通信機を搭載したことによりさまざまな運用制限がなくなり、飛躍的に飛行可能範囲が拡大した。そのため、G2の本来のペイロード能力や対風速性能等のポテンシャルを最大限に生かせるようになった。ここでは、遠距離自動飛行運用を可能にした衛星通信によるG2の機能開発と運用事例について紹介する。 | |
小林 秀之/鈴木 康祐/鈴木 康秀/萩原 拓也/小柳津 奨太/神谷 格/堀内 慎高/井口 大輔/新村 英梨 電動アシスト自転車PASは、1993年にヤマハ発動機から世界で初めて販売された。その後、ドライブユニットの小型軽量化やバッテリ性能の向上に加え、乗り心地の熟成が重ねられてきた。その心臓部であるドライブユニットは、モータ、コントローラ、トルクセンサから構成されている。初期の電動アシスト自転車に搭載されたトルクセンサは、クランク軸と同軸上に設置された遊星歯車機構を用いて踏力を検出していた。しかしこの方法では、伝達ロスによりペダル踏力が増加するという点が課題として指摘されていた。そこで2003年より、クランク軸上に備わったセンサでペダル踏力を直接検知することにより、機械的なロスのない「磁歪式トルクセンサ」が採用されている。本稿では、「磁歪式トルクセンサ」のさらなるコストダウンを目指して、合金めっきにより高感度な磁歪膜を付与したトルクセンサの量産化に成功したので、その概要について紹介する。 | |
池谷 昌彦/設樂 尚希/伊熊 佳幸/太田 博康 2018年型YZ450Fに標準装備される新パワーチューナーを開発した。当システムのねらいは、オフロード競技におけるエンジン特性をチューニングすることにあり、ライダーの好み、コース特性、天候や路面コンディションに合わせたきめ細かなマッピングを行う。これらをスマートフォンで簡単に操作できることを目指した。なお、ターゲットは、オフロード競技会やアマチュアレースに参加するユーザーである。開発における課題を以下に示す。まず、通信ユニット(CCU:Communication Control Unit)の車両への取り付け箇所の制約である。搭載するCCUは、車両側での要求に沿った寸法、重量を満たすことはもちろんのこと、ECU(Electronic Control Unit)相当の耐環境性を備えるという条件をクリアする必要があった。次に、スマートフォンを活かした使い勝手の良い機能と、レースシーンに見合ったデザイン、操作感が挙げられる。これらの課題に対応するべく、新パワーチューナー開発を進めた。 | |
坂本 和信 お客様のニーズが多様化・個性化するのにともない、商品ライフサイクルの短期化が進んでいる。この変化に対応するため、当社では商品ラインアップの拡充と開発リードタイムの短縮を進めている。加えて、従来から重点的に取り組まれてきた軽量化・低振動化も依然として商品魅力の創出に不可欠な開発要素である。このような多岐にわたる二輪車の開発目標においても、耐久性・信頼性はお客様の安全に関わる最優先事項である。さらに、近年当社が進めているプラットフォーム開発では、グローバル展開を視野に、世界各国の路面状態といった多様な使用環境を想定しておく必要がある。車体耐久性の開発では、これまでも単品部品での評価や実走行状態の台上再現による試験効率の向上、そしてCAEを用いた設計検証による試作数、評価試験数の削減を進めてきた。しかし、昨今の開発環境下では効率向上に加えて、課題を上流で洗い出し、背反を明らかにした上で最適解を短時間で得ることが求められている。そこで本稿では、試作評価の繰返しによる造り込みが行われてきたフレーム溶接部の耐久性について、机上検証を可能にする疲労解析技術を開発したので報告する。 | |
藤井 北斗/渡辺 仁 ヤマハ発動機ではこれまでに、さまざまな自動走行車両を開発してきた。例えば、電磁誘導線による低速自動走行車両や、測量などで用いられる高精度のRTK-GPSを用いた自動走行車両、3D-LIDARと三次元地図によるオフロード自動走行車両などである。現在、これらの技術を応用し、複数の低速自動走行車両をオンデマンドで配車が可能な「移動サービスシステム」を開発している。将来的には、高齢者、子連れ、車いす利用者などを含む一般のユーザを対象とした、数キロ四方程度の広さの市街地やリゾートなどでの低速自動走行車両によるサービスの実現を目指している。本技術紹介では、上記移動サービスシステムの概要について説明する。具体的には、アスファルトなどの路面の特徴量を用いた自車位置同定によって自動走行するVGL(Virtual Guide Line)を搭載した低速自動走行車両および複数台の低速自動走行車両の交差点調停やオンデマンド配車などを行う管制サーバについて説明する。 | |
| 製品紹介 | 北村 悠/竹本 靖史 インドネシアの二輪市場は560万台規模で推移しており、スポーツモデルはそのうちの約10%を占めている。当社のスポーツモデルは、スクーターやアンダーボーンタイプが主流の市場において、若いお客様のステップアップの対象として好評で、市場の牽引役となっている。新型「YZF-R15」は、スーパースポーツの要素を醸し出す“シリアス感”や“レーシーイメージ”が支持され人気を博している「YZF-R15」の後継モデルとして、スポーツ性能のさらなる向上を目指して開発を行った。V-ixionシリーズは、2007年の誕生からスポーティなスタイルと走りの良さに加え、コミュータとしての実用性も兼ね備えたスポーツモデルとして人気を獲得している。今回のモデルチェンジでは、外観を一新しスタイルの先進性を高めた新型「V-ixion」に加え、“アドバンスドエディション”として「V-ixion R」も設定した。高い信頼性と街中での扱いやすさに定評のある従来型エンジンを搭載した“スタンダードエディション”の「V-ixion」に対し、「V-ixion R」は走りの基本性能を向上させるため、「YZF-R15」と共通のプラットフォーム(以下、PF)を活用して開発を行った。本稿では、「YZF-R15」および「V-ixion R」について紹介する。 |
青木 和重/大石 貴之/向井 保之/濱田 知宏/井上 正洋/福島 佑輔 2008年、当社はインド二輪市場の最新トレンドに敏感な若いお客様に向け、新コンセプトモデルFZ16(160cm3)を市場へ導入した。その後、FAZER(ハーフカウルモデル)、2014年にはFI化・外観を変更した2代目モデルFZ15、FAZER(150cm3)を順次導入してきた。同モデルは、優れた走行性能、ダイナミックなデザインにより、若いお客様を中心に高い支持を受け、累計販売100万台を超える人気モデルとなっている。FZ25は、その商品コンセプトを引き継ぐ上位モデルとして、排気量を250cm3に上げ、新規のお客様、および150cm3クラスカテゴリからステップアップされるお客様に向けて開発した。本稿では、その開発概要について紹介する。 | |
コストパフォーマンスに優れたインド向けストリートモデル「SALUTO RX」の開発 豊里 哲夫/鈴木 智一朗/佐藤 公彦/野中 章裕/岩崎 裕介/石田 孝幸 1,800万台規模の二輪車需要があるインドにおいて、100cm3から110cm3のクラスのモーターサイクルはおよそ3割を占める状況である(スクータを除く)。このクラスはモーターサイクルを初めて購入するお客様や通勤、仕事、家の用事など多目的に使用するお客様などから人気で、今後も安定した需要推移が見込まれる。お客様からは「燃費の良さ」、「扱いやすさ」、「求めやすい価格」だけでなく、「スタイリッシュなデザイン」への期待が大きく、これらの要素を調和させたモデルの誕生が期待されている。これに応え、本稿では“Affordable & Practical Street”をコンセプトに開発したニューモデル「SALUTO RX」について紹介する。 | |
鈴木 誠之/石川 陽平/谷口 将健/見崎 亮太/小河 卓也 急激な成長を遂げていたASEANスクーター市場だが、2012年ごろより全体としての需要が落ち着き、今後は微増レベルが続くと予想される。その中で可処分所得の向上によるカスタマーのステップアップが拡大しており、プレミアムモデルの需要の伸張が見込まれている。このプレミアムモデルの需要にこたえるためGDR155を開発した。GDR155は、スクーターとして誇れるサイズ感とスタイリッシュなデザイン、そして他を圧倒するエンジンを組み込みながら、スクーターとしての機能も充実させた。本稿では、“ASEAN Best Sporty Scooter”と呼べるワンランク上の価値をお客様に提供できるモデルとなったGDR155について紹介する。 | |
旅の喜びを最大化する先進の大陸横断グランドツアラー Star Venture 新庄 正己 米国のモーターサイクル需要は2008年の経済危機で落ち込んだが、2010年を境に回復傾向を見せている。総需要の約半数を占めるのがクルーザータイプのモーターサイクルである。中でも夫婦二人での長距離ツーリングに適した高価格帯フルドレスクルーザーカテゴリーの人気が高く、クルーザー需要全体の40%以上を占めている。2017年6月に生産が開始されたStar Ventureは、ヤマハ発動機(以下、当社)がRoyal Star Venture以来、実に19年ぶりに世に出す最高峰フルドレスクルーザーモデルである。ヤマハクルーザーの集大成ともいえるStar Ventureを本稿で紹介する。 | |
杉浦 利一/林 智之/上江洌 純司/Andrew Schwab ROV(Recreational Off-Highway Vehicle)市場は北米を中心に、農業/酪農などの業務用途からハンティングやトレール走行などのレクリエーション、そしてスポーツ、レースまで幅広い用途と高い需要があり、今後も安定した成長が見込まれている。それら広範囲な用途をカバーするために、VIKING Ⅲ、VIKING Ⅵ、WOLVERINE、YXZ1000Rを開発、市場導入してきた。上記用途の中、レクリエーションにおいて、家族や友人とトレール走行を楽しみたいという需要に応えるため、各メーカーから多人数乗り新モデルが投入されている。ヤマハの得意領域であるレクリエーションを楽しむお客様の期待に応えるため、4人乗りリクリエーションモデル「WOLVERINE X4」を開発したので、ここに紹介する。多様なリクリエーショナル用途に対応すること、加えてお客様に家族、友人とのOutdoor Adventure体験を共有し、楽しんでいただくため、下記3項目を主要なねらいとした。1)走破性:タイトトレールでの高い走破性と扱いやすさ。2)快適性:会話が楽しめ、大人4人が1日中乗車できる快適性。3)利便性:荷物置きにもなる可動式2列目シートとお客様ごとの多様なニーズに応えるヤマハ純正アクセサリパーツ対応。 | |
Snoscoot 2018 Model Snowmobile Masa Saito/Jim Vizanko/Lauren Nasca/Brian Rapnow/山本 正信/柴崎 佑太 SMB(Snow mobile)市場は、High Performance(高性能・軽量化)領域への進化が著しい。しかし、雪上の遊びは High Performanceを求める大人にだけ与えられたものではない。子供の頃から雪上の遊びとして、親と子、そして孫と一緒 にトレールを走る、バックヤードで遊ぶなど、SMBでその楽しみを享受した子供・若者は、大人になってもその楽しさを忘れない。この環境・サイクルによって雪上における遊びの文化は継承され、ファミリースポーツとして遊ぶ楽しみこそが、この 文化を支えている。ヤマハ発動機は、2018年にスノーモビル生産50周年を迎える。この節目の年に市場の要望に応えるべく、家族みんなで楽しめるYouth model「スノースクート(Snoscoot)」を開発したのでここに紹介する。 | |
大石 浩 北米で人気のジョンボート(軽量で手軽な平底のアルミボート)をはじめ、アルミVハルボート、FRPボート、インフレタブルボート(ゴムボート)、そして日本の和船、世界各国で25馬力船外機は多様なボートに取り付けられ、多様な使われ方をしている。ヤマハ発動機では、環境対応船外機として4ストローク船外機を市場導入しているが、当社既存モデルの4ストローク25馬力は、2ストローク25馬力が搭載されていたボートにとっては大きく重たい場合もあり、2ストローク25馬力との置き換えが可能な軽量・コンパクトでしっかりしたパワーを持つ新しい4ストローク25馬力モデルを待ち望む声が多く寄せられていた。また、市場のフューエルインジェクションシステム搭載への要望は強く、特に小型船外機であることからバッテリの搭載無しでも高い始動性能、パフォーマンス、燃費性能を発揮できるバッテリレスフューエルインジェクションシステムの採用が要望されていた。そのような背景の中、F25Gは軽量コンパクトでありながら、より高い性能、利便性を追求する船外機として開発された。 | |
福山 美洋 日本国内の一昔前のボート釣りといえば、「アンカーを打って釣り場を固定し、座って釣る。仕掛けはエサで、人数は一人か多くても三人まで」という釣り方が主流であり、それを要求品質としてフィッシングボートを開発することで、ほとんどのニーズに応えることができた。しかしトレンドは変化し、ここ数年でついにルアー(疑似餌)による釣りが、エサを用いる釣りの比率を上回った(自社アンケート調査)。また、「ラン&ガン」という言葉も生まれたように、複数人が乗船して釣りのポイントまで走って(ラン)は、デッキに立ったままルアーを投げ(ガン…“撃つ”の意)、またポイント移動してはルアーを投げる、というスタイルが主流になりつつある。当然、ボートに対する要求品質も変化する。そこで最新のボートフィッシングスタイルにマッチする、1軸インボードエンジン(船内機)、「DFR-33」を開発するに至った。 | |
金沢 敦/松下 頼夫/竹下 正敏/宮内 泰寛 除雪機は、家庭用として住宅の玄関先や車庫まわりに、業務用としては、商店の店先や駐車場、建設現場など、降雪地域のさまざまな場所で活用されている。近年は、温暖化の影響も指摘されているが、降雪量は増えており、局地的ゲリラ豪雪に見舞われることも多く、生活者の除雪機製品の認知度は向上している。一方で、降雪時期や積雪地域の変動が大きく、各地域での需要期、当用期にあわせて除雪機を供給することの難しさはあるが、国内では、年間約3万5000台~4万台の出荷・需要(ヤマハ調べ)があるものと推測されている。除雪機にはロータリー式(飛ばすタイプ)とブレード式(押すタイプ)がある。ブレード式は、融雪槽や流雪溝へ雪を押し運んだり、住宅密集地などの雪を飛ばす場所が限られたりする場面で使われることが多く、2008年頃から国内市場で台頭してきた。このような市場変化の中で、我々はブレード除雪機とロータリー除雪機双方の開発に取り組んできた。 | |
| 技術論文 | 人工知能と自動運転によるモビリティの変容と課題 -AI時代の「移動の社会学」に向かって- 奥野 卓司/岸 則政/横井 茂樹/原 以起/奥野 圭太朗 人工知能(AI)、自動運転(AD)に関して、政府や自動車産業界の期待は非常に高い。だが、社会科学の分野では、それらの期待は技術決定論、ハイプサイクル、監視社会化にあたるとして、むしろ批判的な言説が多い。一方で、近年、社会学の分野で、アーリの『モビリティーズ―移動の社会学』、エリオットとの共著『モバイル・ライブス』など、現代社会のモビリティに生じている変容に着目して、新たなパラダイムで解読しようする流れが起こっている。本稿は、このパラダイム転換の流れのなかで、先端技術の工学的最前線と社会科学の研究者との共同研究によって、近未来に人間のモビリティがどのように変容し、いかなる社会的課題が生じつつあるのか、考察した。「移動-不動」×「機能性-遊戯性」の2軸で構成した図で、情報技術の進歩により「移動×機能性」に属する事項が急減し、「不動」領域が拡大していることが実証された。これにより、人工知能、自動運転が進めば進むほど、自動車の必要な作業はロジステイックス(物流)の領域に限定されていくことが判明する。近未来に、人間の移動欲求を解発するには、移動の体感拡張、個人対応の観光情報の移動中での提示、歴史文化・サブカルチャーへの個人対応接触、人間関係の紐帯変化に適応したクルマと社会システムが必要であることを明らかにした。ここから、自動運転小型ビークルによるワイナリー・酒蔵巡り、個人履歴のビッグデータによる文化観光リコメンドシステム、AIによる不自由度の低いシェアライドなどの可能性を、技術と社会の両面から検討し、提案した。 |
可視化エンジンを用いた筒内混合気形成過程の可視化による低負荷時の燃焼変動要因の解析 保木本 聖/窪山 達也/森吉 泰生/渡辺 敬弘/飯田 実 自動車に用いられる内燃機関の燃料消費率および排ガスに対する要求は一層高まっている。その改善を進める上で、燃焼のサイクル変動が注目されている。サイクル変動は燃費やドライバビリティの悪化だけでなく、変動により1回でも失火サイクルがある場合、排出される未燃HCが急増するため、その抑制は排ガス規制の観点からも重要な課題である。燃焼変動は、筒内流動分布、燃料濃度分布、筒内温度分布、筒内残留ガス分布、点火エネルギなど、それぞれがサイクル変動することで相互作用し燃焼に影響を与え、サイクル間の変動が発生すると考えられる。しかしながら、通常の内燃機関では、それらを観察することは困難であり、開発段階では数値流体力学(CFD)を併用するしかない。しかしサイクル変動のシミュレーションは未だ発展途上である。燃焼変動時の筒内の現象を詳細に解析するためには可視化エンジンを用いることは有用である。これまでに燃焼変動を筒内可視化し解析した研究例はあるが、対象としたエンジン固有の結果は得られているものの、普遍的な現象解明は出来ていない。本研究では、前述した燃焼変動に影響を及ぼすと考えられる要素の中から筒内流動のサイクル変動に着目し、その計測と評価方法を検討し、スロットル開度が筒内流動サイクル変動に及ぼす影響を調査した。 | |
石井 航/椎 典子/原田 佳典/多田 充徳/宮田 なつき/村井 昭彦 二輪車は四輪車など他のモビリティに比べて、乗員(ライダー)が車両の運動特性に与える影響が大きいため、運転・操作技術の向上には、実走行中のライダーの身体姿勢や車両に与える荷重といった運動を計測し、定量的に技量を把握することが効果的である。しかし、車両挙動に影響がない小型・軽量で、かつライダーの運動比較ができるレベルの精度を備えた計測システムは確立されていない。そこで本研究では、二輪車に乗車中のライダーが取りうる姿勢の自由度が少なくなる点に着目し、デジタルヒューマンモデルとモーションキャプチャによる少数の身体座標計測により、ライディング運動の計測技術を構築した。開発した計測システムにより実走行時のライディング運動を計測し、運転技量の異なる2名のライディング運動の差異を定量的に示した。 | |
Investigation of the behavior of three-wheel vehicles when they pass over a low μ road surface 寺田 圭佑/佐野 貴透/外川 高男 近年、高い安定性と2輪車並の運動性能から前2輪、後1輪の3輪キャンバ車両が普及しつつある。我々はこのような車両を Leaning Multi Wheel 車両(以下LMW車両)と呼び、研究と開発を進めている。LMW車両は様々な特徴を持つが、その中の一つとして旋回中に前輪片輪が路面摩擦係数の低い箇所を通過しても安定して走行可能な点があげられる。ただ、なぜそのような特性になるか調査はできておらず、車両理解の観点からも理論的に現象を明らかにすることが求められている。そこで、本報告では計測とシミュレーションによりLMW車両が旋回中に低µ路を通過した際の挙動に注目して検討を行う。初めに確認のため、実機での計測を実施した。その結果、車両姿勢の変化が小さいことと、もう一方の前輪が減った横力を補うようにタイヤ力を発生していることを確認した。次に要因調査を行うため、機構解析上で検討を行った。その結果、解析上でも実機と同様の現象を確認することができた。以上の検討を通じて現象を明らかにすることにより、LMW車両が持つ旋回安定性の一因を示すことができた。 | |
塚本 健二/小倉 純一/稲村 隆義/下位 誠 マグネシウムは実用金属中の材料比強度がもっとも高く、密度は鉄の約1/4、アルミニウムの約2/3と非常に軽いことから、近年求められている車両の軽量化には欠かせないものとなっている。また、二輪車のホイールには軽量化とともに高い意匠性も要求される。材質をアルミニウム合金からマグネシウム合金へ置換し、従来の重力鋳造法ではなく、当社の固有技術である真空ダイカスト鋳造法を採用することにより、商品性と量産性を高次元で両立させたマグネシウム真空ダイカストホイールの開発に成功した。これにより、従来の重力鋳造法によるアルミホイールと比較して、フロントホイールで530g、リヤホイールで340gの軽量化に成功した。また、フロントホイールで4%、リヤホイールで11%の慣性モーメントの低減を達成し、操縦安定性の向上に大きく寄与している。 | |
山崎 吾朗/川谷 龍勢 近年、輸送機器業界では軽量化のためにアルミニウム合金の使用が進められている。当社でも二輪車部品等にアルミニウムが広く用いられており、それらの多くは薄肉化や高意匠化を実現するためにダイカスト鋳造で作られている。ダイカスト鋳造の主な不良の一つに鋳巣不良が挙げられる。これは鋳造時のアルミニウムの凝固収縮や空気の巻き込みによって発生する不良である。本研究では空気の巻き込みを低減する活動を行った。まずダイカストマシンを模擬した水モデル実験装置を作成し型やスリーブ内部の可視化を行い、空気巻き込み現象のメカニズムを解明した。その後、汎用熱流体解析ソフトウェアを用いて空気巻き込み量を定量評価し、遺伝的アルゴリズムを用いて鋳造条件や形状を最適化することで空気巻き込み量を低減した。最後に、最適化された条件を用いてダイカストマシンで鋳造を行い空気巻き込み量の低減を確認した。以上より提案手法の有効性が確認できたため本稿で報告する。 |
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