コロナ禍の中で開かれた「セロー」生産終了のセレモニー

完成検査員に押されてその一台が出荷場に姿を現すと、見送りのために集まった社員有志から拍手が沸き起こった。マウンテントレール「セロー250 FINAL EDITION」。その最後の一台が生産ラインを後にすると、35年間にわたる「セロー」シリーズ生産の歴史が静かに幕を下ろした。

「セロー」は、1985年に誕生したオフロードバイク。オフロード二輪車市場にマウンテントレールという新たなカテゴリーを創出してファンを拡げるとともに、その扱いやすさや汎用性の高さで女性や初心者からも大きな支持を集めた。国内向けだけでも14万台を超える記録的なロングセラーモデルだけに、その新型を「FINAL EDITION」として発表した頃から惜しむ声がひろがった。

43年の歴史を閉じた「SR400」の初代モデル(1978年)

一方、「セロー」よりさらに長く愛され続けた「SR400」生産終了(2021年)のニュースは、瞬く間にSNSを駆けめぐることになった。「FINAL EDITION」発売のリリースと同時に予約が殺到し、わずか数日間で年間販売数の2倍以上にあたる約6,000台を受注した。この反響は予想をはるかに超えるものだった。

国内向けに生産された「SR400」は、43年間で累計12万台以上。その間、排出ガス規制をはじめ幾度となく訪れた存続のピンチも、「変わらないために変わり続ける」工夫を重ね、毎年のように細部の仕様変更が繰り返されてきた。「どうすればSRがSRであり続けられるか」、そして「どうすれば次の世代につなげることができるのか」――。その議論は2000年代初頭からずっと続けられてきた。

「FINAL EDITION」には1000台限定のリミテッドモデルが設定された。シリアルナンバー入りのエンブレム、本革調のシート、真鍮製の音叉マークなどの奢った仕様は、長きにわたって愛され続けた「SR」、そしてファンに対する感謝の表れだった。

「YZR-M1」を駆りMotoGPで56勝を挙げたバレンティーノ・ロッシが引退

2021年は、ヤマハ発動機にとって大きな別れがもう一つあった。通算9度の世界チャンピオンに輝いた伝説のライダー、バレンティーノ・ロッシのMotoGP引退だった。

ロッシとヤマハのパートナーシップは2004年、南アフリカGPから始まった。以来、サーキットの内外で素晴らしい瞬間を共有し、56回の優勝と142回の表彰台、4度(2004年、2005年、2008年、2009年)のMotoGP世界選手権チャンピオンをともに勝ち取った。彼がサーキットに刻んだ偉大な戦績、比類なきレースへの情熱とカリスマ性はMotoGPの歴史に大きな影響を与え、GOAT(Greatest of All Time)の称号が贈られた。

2023年、ヤマハはロッシとアンバサダー・ブランド契約を結び、ブランド・アンバサダーとして迎えた。

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