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電動トライアルバイクの研究開発

カーボンニュートラル実現のためのアプローチ

カーボンニュートラルの実現は世界共通の課題です。ヤマハ発動機は「2050年までに事業活動を含む製品ライフサイクル全体のカーボンニュートラル」を目標とし、CO2削減の重要なカギとされている「電動化」に関して、さまざまな先行技術の研究開発に取り組んでいます。

内燃機関(エンジン)を超えるEVの可能性に着目

ヤマハ発動機の研究部門には、日々の研究活動とは別に業務時間の5%を使って自発的・自律的な研究を奨励する「エボルビングR&D活動」という制度が存在します。電動トライアルバイク「TY-E」はこの5%ルールによって2018年に誕生した先行開発車両です。

なぜトライアルバイクなのか?発端はEV(電動車)の開発・普及にあたって最大の課題となっている「航続距離」でした。トライアルという競技では長距離の走行は必要とされません。そして、パワートレインに求められる特性は、低中速域でのトルク発生、ライダーの微細な操作に忠実なパワー制御が可能なこと。この点においてはICE(内燃エンジン)よりも電動モーターに分があります。

トライアルレース:岩場や林間など自然の地形を活かし、高低差や傾斜が複雑に絡んだセクション(採点区間)が設定されたコースをバイクで走り抜けることでポイントを競う。足を着かずにセクションをクリアすれば満点、足を地面に着くことで減点され、複数のセクションの合計点によって順位が決まる競技。

その一方で、トライアルバイクの車体は高度な剛性を備えていながらも極めて軽量でなくてはなりません。この点においては、従来からさまざまなEVが等しく直面してきているバッテリーシステムの軽量化という、別の大きな課題に電動トライアルバイクも直面することになります。

さらに、自動車(四輪車)でのEV普及が高級車やスーパースポーツ車から進んでいることからも分かるように、EVの技術開発には市販に見合う要件を実現するためのコスト設計という壁もあります。ヤマハ発動機は早くから電動バイクの研究開発に取り組んできました。「航続距離」「パワー・トルク特性」「軽量化」という三竦みのトレードオフ関係にある課題のパズルをさらに難解にする「コスト設計」という点では、ファクトリーチーム体制で少量を必要とする競技用車両であれば、市販車とは条件が違い、比較的自由な研究開発をすることができます。

こうした背景を踏まえて、二輪車の世界でも求める声が高まっている「電動化」の実現(普及につながる技術の先行開発)を視野に、エンジン車に近付けるのではなく、高出力・高効率で旧来のエンジン車を凌ぐEVを目標に掲げ、その可能性を探る研究開発の一環として2018年に誕生した電動トライアルバイクが「TY-E」でした。

内燃機関(エンジン)を上回る「楽しさ」をテーマに

ヤマハ発動機グループは2018年に策定した「環境計画2050」を2021年に見直し、「2050年までに事業活動を含む製品ライフサイクル全体のカーボンニュートラルを目指す」という新たな目標を設定しました。EVの可能性を探る電動トライアルバイクの研究開発も次のフェーズに入り、2022年にはカーボンニュートラルの実現に「楽しさ」でアプローチする「TY-E2.0」へと進化しました。

電動トライアルバイク「TY-E」
※写真は2.0バージョン(2022年)

開発コンセプトは「FUN×EV」、EVならではの力強い低速トルクや加速性能などの魅力を活かして"内燃機関を上回る楽しさ"がテーマです。

新設計のコンポジット(積層材)モノコックフレームに、メカニズムと制御の組み合わせで性能を向上した電動モーターパワーユニット、前モデル比で約2.5倍の容量を持つ新開発の軽量バッテリーを搭載した「TY-E 2.0」はさらに研究開発が進み、TY-Eと同じくコンペティションの世界での実証を重ねていくことになっています。(2023年は進化版の「TY-E 2.1」で全日本トライアル選手権に参戦。電動トライアルバイクの同選手権への参戦は史上初)

温室効果ガス削減がさらに社会的な重要性を増していくなか、二輪車の世界でも普及期を迎えようとしているEVに必要なさまざまな要素技術、知見やノウハウの獲得が、電動トライアルバイクの研究開発における最大の目標です。

しかし、それだけではありません。パワートレインやその周辺技術が様変わりすることはあっても、人がモビリティで感じる「楽しさ」はなくてはならないもの、カーボンニュートラルな社会においても存在するものであってほしいという人々の期待に応えることも、TY-Eの研究開発を通じてヤマハ発動機が目指す、もう一つの目標なのです。

《 TY-Eの技術 》

高エネルギー密度バッテリー(着脱式)

軽量コンパクトであることが重要なトライアル車両に搭載するために、一般的な着脱電池よりも出力密度を高めることがバッテリー技術開発の主眼となっており、体積密度が一般的な着脱電池よりも突出して高いことが最大の特徴です。

初期のTY-E(2018年)では出力密度を高めることが優先的なタスクであったため、エネルギー密度の方を犠牲にする設計になっていました。TY-E 2.0で新開発したバッテリーは高い出力密度を維持したままで一般的な着脱式バッテリーの中でも高水準となるエネルギー密度を実現しています。

TY-E 2.0の着脱式バッテリー

TY-Eのバッテリーの進化: 初代(2018年)からバージョン2.0

モーター・クラッチ・フライホイールバッテリーで構成された電動コンポーネント

密度の高いコイル巻きによって高回転・高出力かつ軽量コンパクトな形状を実現したモーターの搭載に加え、通常のEVでは不要とされるメカ二カルクラッチとフライホイールの採用が、トライアル競技での走行に必要な高度な出力密度を発揮するTY-Eのパワートレインの特徴です。

軽量でありながら出力密度が高い伝達機構であるメカニカルクラッチ採用の理由は、モーターの回転エネルギーから駆動力への変換効率を高めることにあります。

フライホイールで蓄えられるエネルギーは、電池からのエネルギーより遥かに小さく「一瞬で」使い切ってしまうものです。その「一瞬」によって通常のバッテリーとモーターの組み合わせにはない高い駆動力を得られることに着目し、トライアルバイクに必要な「軽さ」と「瞬発力」を実現するためにフライホイールバッテリーを採用しています。

(注)一般的なEVのエネルギー変換プロセスでは、バッテリーに蓄えられたエネルギーをインバータとモーターを介して回転エネルギーに変換して車輪を駆動する。電動トライアルバイクに必要な出力密度はこのプロセスでは得られない。

高出力密度に特化した専用設計モーター
(写真はTY-E 2.0)
パワートレイン構成とエネルギー変換プロセス
(写真はTY-E 2.0)

CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)モノコックフレーム

CFRP(炭素繊維複合材料)とモノコック構造の採用によって、ICE(内燃機関エンジン)を搭載したトライアル車両とは大きく異なる、EVに最適化した車体重量バランス(と軽量化)、フレームの剛性バランスを実現しています。縦(車体の前後を軸とした)方向と捻り方向の剛性を高めて、横方向は低めに設定した基本コンセプトを、TY-E 2.0ではさらに進化させています。

着脱式バッテリーの搭載スペースを考慮しつつ、車体全体の剛性や重量のバランスや強度を確保したモノコックフレーム

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