技報【バックナンバー】
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| 巻頭言 | 渡部 克明 今、世の中は大きな変革期を迎えている。技術の領域でも、技術革新は従来の進化/深化とは違ったスピードと形で劇的に変わっている。特に、AI・データサイエンスの進展は目覚ましく、膨大な情報から学習することで新たな価値を生み出す。囲碁、将棋の世界では、10年前にはコンピュータが棋士に勝つには100年かかると言われていたが、それが10年で変わってしまう。がんの先端医療では、遺伝子工学と世界中の技術知識を組み合わせたAI技術による抗がん剤選定で飛躍的な治癒率(一部のがんではあるが)の向上がみられたとの報告もある。技術は、従来の領域の深化から技術の組み合わせで新しい価値を生むことを可能にした。 |
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| 技術紹介 | 三宮 宏之/新田 慶/川上 拓也 モーターサイクルはパワートレイン燃焼や機器冷却のために各種吸気口・換気口を備えるが、これらは同時にほこりや水も浸入しやすい。ほこりが入る現象を机上で検討するため、当社では市販CFD(Computational Fluid Dynamics)コードによる「ほこり入り解析」を運用しており、2008年より製品開発へ適用している。ここでは、当社で実施しているほこり入り解析の概要、その課題と解決へのアプローチ、解析の妥当性確認について紹介する。 |
アセアンコミュータービークル用 SMG 開発・製造 ~コスト低減への挑戦~ 正岡 晃/永田 剛 タイ市場で販売されているGRAND FILANOの2018年モデルより、空冷エンジン用SMART MOTOR GENERATOR(以下、SMG)システムが搭載されている。ヤマハモーターエレクトロニクス株式会社(以下、当社)ではSMGシステムの構成部品の内、基幹部品であるSGCU(STARTER GENERATOR CONTROL UNIT)およびSG(STARTER GENERATOR)を開発・製造した。当社のSMGシステムの開発においては、機能の作り込み以上にコストの作り込みが大きな課題であった。本稿ではコスト低減の取り組みについて紹介する。 | |
北郷 博成/羽田 利彦/田丸 翔吾 塑性加工分野を含む日本の製造業は、電気・自動車産業の発展とともに進化してきた。しかし、ここにきてかつて経験の無い大きなパラダイムシフトを迎えつつある。従来から求められている燃費向上や環境への配慮はもちろんであるが、製品を含む物作りそのものがスマート化し、高度で多様な機能や知能を有するものへと急激に変化してきている。これまで単一の物作りを追求し、効率向上やコスト低減のみを良しとした考え方は過去のものとなり、従来の考え方に囚われない広い視野で未来を見据えた物作り(工法開発)が必要になってきている。ヤマハモーターエンジニアリング(株)では、板金プレス成形技術をベースとした加工技術を提供しており、鍛造を含め様々な塑性加工工法の開発を行っている。今回の取り組みにおいて、モーターサイクル等に使用されるパワートレイン部品を単一部品ではなく、複合部品を一体で作る技術として、材料の特性を活かした複合的な塑性工法を取り入れて、新しい付加価値を生む複合塑性加工工法(板鍛造工法)を開発することができたので、ここに紹介する。 | |
岸部 友昭 ヤマハ発動機は、2018年6月にフラッグシップ船外機として、V85.6Lの大型モデルF425Aの発売を開始した。このF425Aは、過去最大馬力のF350Aと比較して全長・重量が大きく変更され、トランサム高さ(船外機取り付け高さ)の仕様追加等で商品性の幅も広がったことから、これらの変化に対応する梱包仕様の新規設計が必要となった。新規設計においては、梱包サイズの変更による輸送コストの増加抑制や過去に市場で起きた問題の再発防止に取り組んだ。さらに、製品ダメージ等の物流運搬リスクを排除するために、市場調査で得た改善案を梱包仕様に反映した。本稿では、ヤマハブランドを象徴するフラッグシップ船外機の梱包仕様設計を通じて、梱包に対する付加価値を追求した取り組みを紹介する。 | |
| 製品紹介 | Advanced Luxury European Scooter「LTF125-I/A」の開発 西村 健/船越 博/菊地 拓史/秋元 雄介/久保田 葉子 タイの二輪市場における販売台数は、2012年の約210万台をピークに減少傾向にあったが、2015年以降回復の傾向を見せ、2018年は180万台規模が見込まれている。スクーター系はこの中で約3割を占め、その中心が当社の「GRANDFILANO」などのファッションスクーターである。今回の「LTF125-Ⅰ」は、現行「GRANDFILANO」の特長・イメージを継承しながら外観をリフレッシュし、先進機能の追加に加え、新規開発エンジンを搭載することにより燃費と快適性向上を図り商品性を高めた。また、「LTF125-A」は、前述のモデルにABS(アンチロックブレーキシステム)とスマートキーを追加装備したモデルとして同時開発を行った。 |
鈴木 貴博 2009年の経済ショック以降、落ち込んだ需要は、ツーリングカテゴリーを中心に徐々に回復傾向がみられる。同時に、購入層は40代以上の目の肥えたベテランライダーが主購入層となっており、基本性能の高さと独自性を兼ね備えたモデルが求められている。独自のポジションと提供価値でこのような市場要求に応えるべく、世界初となるスポーツタイプのLMW(リーニング・マルチ・ホイール)「NIKEN」の開発を行った。NIKENは、TRICITY、TRICITY155に続くLMWの第3弾であり、LMWの可能性をコミューターからスポーツ領域へ広げる開発となった。本稿では、NIKENの開発コンセプトや製品の特徴、技術トピックスについて紹介する。 | |
円谷 祐司/渡邉 岳/江口 宗光/山田 雅一/中林 雄介 電動アシスト自転車PAS(Power Assist System)は、電動モーターで人のこぐ力をアシストする自転車であり、ヤマハ発動機株式会社が1993年に世界で初めて開発・発売した。自転車の基本的な弱点(発進、坂道、向かい風および荷物積載時などでの肉体的負荷増大)を補い、その利便性を高めることはできないかというアイデアから生まれた商品であった。以来、ドライブユニットの小型軽量化やバッテリ性能の向上など商品の熟成は進み、またユーザー層も発売当初のシニア層から、最近は主婦を中心とした女性層、一般男性層・若年層へと広がってきた。PAS事業が今年25周年を迎える中、国内電動アシスト自転車市場は60万台を超える規模にまで拡大している。当社では新たな需要を創造する活動を行っており、“楽する道具(PAS)”から“乗って楽しむ趣味材(YPJ)”へ、をキーワードとするスポーツ自転車ブランド「YPJ」を2015年に立ち上げた。この「YPJ」シリーズに、楽しむフィールドをさらに広げる4モデル、「YPJ-ER」、「YPJ-EC」、「YPJ-TC」、「YPJ-XC」を新たに投入したので、その概要について紹介する。 | |
薬剤散布用無人航空機教習システムYamaha Academy Simulator 菊地 正典/太田 博康 1987年、ヤマハ発動機は、産業用無人ヘリコプターであるエアロロボット・ヤマハ「R-50」の販売を開始した。R-50は、ペイロード20kgを有する本格的な薬剤散布用無人ヘリコプターとして、世界初の製品である。R-50の販売開始以来、ヤマハ発動機は産業用無人航空機の普及を目的に、操縦技術・安全運航の指導を行ってきた。その一環として、産業用無人ヘリコプターの教習を行っている。教習の内、技能教習は市販のエンジン付きフルスケールのラジコンヘリコプターと「R-50」等の実機を用いて行われてきた。その後、ラジコンヘリコプター向けの市販シミュレーションソフトの利用が普及してきたが、産業用無人ヘリコプターとラジコンヘリコプターの機体制御の方法が全く異なることから操縦性に違いがあり、技能習得を難しくしていた。それらを考慮し、2014年、ラジコンに成り代わる存在として、前年に販売を開始したFAZERのフライトシミュレータを開発し、フライトシミュレータと実機を用いた技能教習を開始した。2018年、ヤマハ発動機は、産業用マルチローターである「YMR-08」の販売を開始するにあたり、FAZERのフライトシミュレータを用いた技能教習から得られた知見を元に、薬剤散布用無人航空機教習システム「Yamaha Academy Simulator」を開発した。本システムは、YMR-08専用となっているが、今後FAZER Rなど他製品への展開を予定している。本稿では、Yamaha Academy Simulatorを紹介する。 | |
産業用搬送装置「リニアコンベアモジュール LCM-X」の紹介 片山 学 ヤマハ発動機(株)ロボティクス事業部(以下、当社)では、モーターサイクルの社内生産ライン向けに開発したスカラロボットをきっかけに、単軸ロボットや直交ロボット、スカラロボットを中心とした産業用ロボットを開発してきた。以来、当社の製品は電子部品の組立や車載部品の搬送など、様々な業界における生産設備の自動化に貢献し続けている。近年、様々な業界で労働力不足や人件費の高騰、生産性向上などの理由により、自動化のニーズは加速し、産業用ロボットの需要は拡大の一途をたどっている。需要の拡大にともない、ロボット市場に参入する企業も増加しており、市場では熾烈な競争が続いている。このような状況の中、ロボットメーカーは様々な形で差別化を図っており、当社は生産設備の搬送工程において今までにない新たな価値をユーザーに提供すべく、「リニアコンベアモジュールLCM-X」を開発したのでここに紹介する。 | |
鈴木 孝典/新堀 雅秀/前田 健一/鈴木 博就/田中 大輔/福嶋 健司 ROV(Recreational Off-Highway Vehicle)市場は北米を中心に、農業/酪農などの業務からハンティング、トレール走行などのレクリエーション、そしてスポーツ走行、レースまで幅広い用途と高い需要があり、今後も伸張していくことが予想される。それらの広範な用途をカバーするために、2013年からVIKING/WOLVERINE/YXZシリーズを開発、市場導入してきた。ピュアスポーツであるYXZ1000R(シーケンシャルマニュアル5速トランスミッション)は、YCC-S(ヤマハ電子制御シフト)採用のYXZ1000RSSでさらに操作性が向上し、スポーツ領域で幅広いお客様に使って頂くモデルとして進化した。今回、さらに快適に自信をもって様々なスポーツライディングエリアでの走行を楽しんで頂けるように、2019モデルとしてマニュアルトランスミッション/YCC-S仕様を同時開発した。ここにそのモデルを紹介する。 | |
荒川 博/大河内 龍太/光石 直生/佐藤 佑也/藤井 隆 ゴルフカー事業の最大市場である北米において、これまで既存ゴルフカーベースのYTFで戦ってきたが、競合モデルの戦闘力アップに伴い、競争力が不十分となってきた。そのため、成長性のあるUtility市場に攻め入る競争力の高いモデルの実現を目指して「UMAX」の企画をスタートさせた。「UMAX」は、従来モデルでは出しきれなかった「ホンモノ」の働く車が持つタフさ·強さ感、押し出しの強いSUVライクな外観でアピールするとともに、パワーを出すためにより大きな排気量のEGを搭載し、デザインと機能の両立を実現した。本稿では、名実ともに働く車、「Real Work Horse」を具現化した新Utilityモデル「UMAX」を紹介する。 | |
小久保 幸栄/小松 央昌/長島 充 大型船外機の主要市場である北米では、従来、全長9メートルを超えるオフショア(外洋)向け大型ボートの動力として船内外機や船内機が主流であった。しかし、近年はスピード性能と燃料経済性に優れ、据え付けやメンテナンスが容易なうえ、船内スペースが広く確保できる船外機が大型ボートの動力として注目されており、船外機の高馬力化に加え、複数機を搭載する流れが加速している。ヤマハ発動機では、2007年に最大馬力となる4ストローク350馬力を市場に投入しているが、当時は12メートルを最大クラスのボートとし、搭載も最大で3機を想定していた。近年では18メートルを超えるボートや、5機を搭載するボートも現れ始め、さまざまな航海計器や操船デバイスが使用されることで、ボートの運航は専門性の高いスキルが求められるようになってきている。今回開発したF/FL425Aは、大型化するボートを十分に動かすことができる推進力だけではなく、統合制御された操船システムを加えることで、より多くの人が簡便にそして快適にボーティングを楽しむことを目指した商品である。 | |
武富 大海 ヤマハボートの最高峰モデルとして誕生した、EXULT45 Convertibleのデビューから10年が経過した。その翌年に開発されたEXULT36 Sports Saloonは、2009年度日本ボート・オブ・ザ・イヤー大賞を受賞し、現在もフル生産を行っており、多くのお客様に認めて頂いているモデルとなっている。EXULTシリーズとしては、累計100隻以上の販売実績を上げ、次のステップアップを望む声も多い。そこで、世界の一流輸入艇に負けないモデルを造り、ヤマハブランドを輝かせる“FLAG SHIP”の名に恥じない最高級ボートを目指し、プレミアムサロンクルーザー「EXULT43」を開発するに至った。 | |
佐藤 英吉/小澤 重幸/岩城 龍汰郎/高島 純広/木野本 直樹/原田 直樹/三輪 純也 FXシリーズは、“King Of Cruiser"と謳われ、ロングクルーズをコンセプトにYAMAHAマリンジェットのフラッグシップを走り続け、上品で凛とした佇まいの外観、高出力でありながらも静粛性を感じさせるエンジン、不安なく操縦を楽しめる安定性を提供し続けてきた。2018年、スーパーチャージャーを搭載した1800ccの大排気量エンジンに、超軽量ハル「NANO2」を採用したSVHOモデルを最上位機種とするシリーズを7年振りにフルモデルチェンジした。他の追随を許さない絶大な快適性、トレンドを取り入れたデザイン、より高い走行性能を実現したハル、お客様目線でより使い勝手の良い機能を高次元で融合させ、ブランド価値をさらに高めたNEWモデル「Wave Runner FX」を紹介する。 | |
| 技術論文 | Diamond Like Carbon 膜の成膜因子とラマン分光分析によるラマンパラメータの関係性 土居 航介/村瀬 雄太/杉浦 敏昭 PIG(Penning Ionization Gauge)プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)方式によるDiamond Like Carbon成膜装置にて、各種成膜因子を調整し、硬さの異なる8種類の膜を作成した。この膜について、膜硬さ、膜厚、ラマン分光分析、ERDA(Elastic Recoil Detection Analysis)分析、EELS(Electron Energy Loss Spectroscopy)分析を行い、各種成膜因子と、膜硬さ、膜厚、ラマンパラメータ、水素量、膜構造の相関性を確認した。ラマンパラメータは、基板電流値、膜硬さ、水素量、sp3結合比と相関性があった。またEELS分析値(膜構造解析)は、ラマンパラメータのD半値幅、水素量と相関性があった。ただし、硬さとは直接の相関性が見られなかった。これらの分析手法を用いて膜特性を最適化し、二輪車用エンジン部品へ量産適用を行った。 |
DiASil シリンダーに適合したピストン樹脂コーティングの開発 渡邉 慧太/佐藤 龍彦/青木 哲也/伊藤 文彦/栗田 洋敬 ピストン樹脂コーティングとは、固体潤滑剤を含む樹脂材料でピストンスカートを覆うことにより、シリンダーとの摩擦ロスを低減させる技術である。近年、一層高まる低燃費志向を背景に輸送機器業界での適用が拡大しており、当社でも重要な燃費向上手段として位置づけられている。エンジンの高効率化のため、当社独自技術であるDiASilシリンダーに適合可能な樹脂コーティングを開発した。 | |
奥田 裕也/鈴木 貴晴 7000系アルミニウム合金の強度特性と延性を両立させ、ハンドルに必要とされる要求機能を得るために最適化した工程と生産技術を開発することで、軽量かつ操作性に優れるアルミニウム製テーパーハンドルを実現した。モーターサイクルにおけるハンドルの役割は、路面の状態を感知したり、ライダーの操舵意思を車両に伝えたりすることであり、ハンドルは操縦安定性に影響を与える部品のひとつである。製法は、鋼管を曲げるのが一般的だが、最近では、アルミニウム管を使用し、かつ断面形状を変えるハンドルを採用する機種もみられ、ハンドル軽量化のニーズは強い。本報では、軽量かつ高剛性、さらに外観の美しさで定評のあるアルミニウム製テーパーハンドルに着目し、二輪車、特にオフロードモデルやコンペティションモデルの使用環境に耐えるハンドルをさらに軽量化した事例を紹介する。このようにして開発したアルミニウム製テーパーハンドルは従来品(644g)よりも約100g軽量化し、2018年より当社を代表するコンペティションモデルであるYZ450Fに採用されている。 | |
リゾート施設における低速モビリティの利用調査と自動運転サービスデザイン 荒木 幸代/藤井 北斗/見米 清隆/渡辺 仁 ヤマハ発動機では、Public Personal Mobility(以下、PPM)の研究開発を行っている。PPMとはランドカーをベースにした複数の低速自動運転車両とそれらを集中制御する管制サーバーによって構成されており、公共交通でありながら相乗りを前提とせず、パーソナルな使い方ができるヤマハ独自のMobility-as-a-Serviceを実現するシステムである。将来的には、高齢者、子連れなどを含む一般のユーザを対象とした、数キロ四方程度の広さの市街地やリゾートなどでの移動サービスの実現を目指している。本稿では、リゾートにおける自動運転のサービスシステムを開発する目的で、300台近くのランドカーを活用しているカヌチャリゾートを実証フィールドとし、リゾート内移動サービスの顧客価値を分析した。ランドカーの使われ方から、自動化とシェアリングにより稼働率などの様々な課題が解決できる可能性が見えた。また、顧客価値分析の結果からPPMのサービスモデルの仮説を導出し、管制サーバーにオンデマンド型のサービスを実装している。サービスシステムのフロントエンドであるサービスアプリのデザインを一つの具体的な成果として紹介する。 | |
Study on appropriate cooling systems according to output of motor for small EV's 清水 司/伊藤 仁/白澤 秀樹/村松 恭行 小型EVにとって、小型軽量モータは非常に重要であり、出力に応じて適切な電動コンポーネント冷却方式(液冷、空冷)を選定することは必須となる。液冷を選定する場合、液冷システムの体積、重量も考慮する必要があり、上記システムを含んだ状態でも小型軽量化が可能となる出力の切り替わり点があると考えた。概算した結果、10kW以上の出力域で液冷を適応することにより重量低減可能であることがわかった。本研究では、モータと冷却システム両方を含んだ状態での体積·重量に着目し、モータ出力ごとに適切な冷却方式の明確化を試みた。 | |
Development of Motorcycle Engine Starting System Simulation Considering Air-Fuel Ratio Control 伊東 善人/伊藤 大貴/飯田 実 昨今、燃費向上や排出ガス削減の観点より、二輪車におけるアイドルストップシステムの採用が拡大している。アイドルストップ車両ではエンジン停止後の再始動が頻繁に行われるため、スロットル入力から発進までの時間短縮による発進時操作性の確保や、未燃炭化水素の排出低減のための始動時の速やかなエンジン回転上昇が従来に増して重要となっている。そこで筆者らは、エンジン始動時の回転上昇における主要な因子である燃焼と空燃比との関係を実験的に明らかにしたうえで、始動時の吸気ポート内噴射燃料の蒸発モデルおよび低温環境を含む始動時のエンジン回転速度の変化を机上検討できる始動システムのシミュレーションを開発した。さらに本手法は、空燃比制御を成立させるクランキング回転速度および速やかなエンジン回転上昇を実現するデコンプタイミングの検討が可能であることを異なる噴射系の適用例を通して示した。 | |
土屋 光生/辻井 栄一郎/寺山 敬/鶴見 尚 二輪車において高速走行中の直進安定性については、長年にわたって理論的かつ実験的な解析が行なわれており、実際の開発にも応用されている。一方、極低速での走行時は安定性がなく、その結果転倒というリスクが存在していることは周知であり、二輪メーカだけでなく二輪ユーザーにとっても大きな課題の一つとも言える。そこで、その安定性をいかにして保つかも近年では研究され始めている。また、過去にはフライホイールの回転によるジャイロモーメントを利用したジャイロカーやジャイロモノレールなど自立制御を実現したものがある。さらに近年では、フライホイールの回転によるジャイロモーメントを用いずに二輪車の自立制御を実現するシステムの研究もされている。特に巨大で重厚なフライホイールを高速で回転させる方式は、二輪における軽量という大きなメリットを阻害するものであると言わざるを得ない。そこで、本報では車体の構造に自由度を追加することで車両の重心を制御可能とし、フライホイールの回転によるジャイロモーメントなどを用いずに極低速での安定性向上および自立制御を検討した結果を報告する。回性と安定性を両立させることは固有の課題であり、固有技術とも言え、それは永遠のテーマとも言える。特に運動エネルギーが無い車速0km/hにおいては、何かで支えなければ転倒という不安定状態になることは必至である。そこで、まずは転倒の運動方程式について改めて考察した。車両の前方から見たz-y平面で考えると、Fig.1のように倒立振子の一自由度と捉えることができる。またここでは説明を簡単にするために、サスペンションはストロークしない、ライダーは動かない、もしくはライダー無しと仮定した。 | |
Fundamental Research and Observations Concerning Leaning Multi-Wheel Vehicles 辻井 栄一郎/豊田 剛士 2007年に東京モーターショーでコンセプトモデル「Tesseract」四輪モーターサイクルを出展した当社は、2014年には二輪と同じように傾斜してコーナリングする三輪以上の乗り物(以下、「LMW」という)として、ニューコミューターモデル「Tricity」の市販を開始した。次いで2015年の東京モーターショーでは、「コーナリングマスター」をコンセプトに開発された「MWT-9」を参考出品し、その2年後となる2017年には「NIKEN」として発表した。
一方で、当社におけるLMW技術の研究開発には長い歴史があり、スクーター「Passol」が大ヒットした1977年にはすでに、このモデルをベースとしたフロントニ輪のバイクを他社に先駆けて開発していた。そこで本報では、ヤマハにおけるLMWの歴史を紹介するとともに、2004年から2012年にかけて研究開発された四輪モーターサイクルの試作車「Tesseract II」について報告する。 |
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