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学校にロボットがやってきた!地域産業界に「可能性」の種をまく

WithLocal / FirstMove

学校にロボットがやってきた!
地域産業界に「可能性」の種をまく

RV事業部
都築 明宏
ロボティクス事業部
小野 沙也花
少子化で若い世代の人口が減少し、いま多くの地方都市で産業の担い手不足が深刻化しています。その課題に対して、自治体・学校・企業が連携して地域の高校生に産業教育を行い、即戦力となる職業人材を育成する取り組みが始まっています。ヤマハ発動機で5年目を迎えた産業教育活動で奮闘する、二人の社員にお話をうかがいました。

「つながり」が足りなかった、工業高校とロボット産業

「マイスター・ハイスクール制度」は文部科学省が推進している教育改革事業で、自治体・学校・企業が連携して新しい教育の仕組みを作っていくものです。この事業では、企業の実務家や技術者(=マイスター)が教員となって、専門高校で最新の技術や知識を直接指導します。知識を蓄えた若手人材が地元の企業に就職し、今度は即戦力として地域産業をけん引していく、そんなエコシステムの形成を目指しています。

東海地方で初めて指定校として選ばれたのは、静岡県立浜松城北工業高校。そして連携するのはヤマハ発動機のロボティクス事業部です。次世代成長産業のひとつにロボティクスを掲げる浜松市、ロボティクス事業の認知度を高めるとともに、若手の人材不足を解消したいヤマハ発動機、そして静岡県と学校がスクラムを組み、この事業に参画することになりました。
マイスター・ハイスクールCEOとして事業を統括するのは、RV事業部でATVやROVの開発・設計を担当する都築明宏さん。以前から人材育成への関心が高かった都築さんは、ロボティクス事業部の南部秀樹さんとともに、2022年夏から城北工業高校に派遣されることになったのです。

都築さんは事業全体の舵を取りながら、産業界・学校・行政をつなぐコーディネーターとしてネットワークの構築を担当。一方でロボット制御の開発者として30年以上のキャリアを持つ南部さんは、産業実務家教員として教壇に立ち、実践的な技術や知識を教えています。

学校で教えるなかで二人が気づいたのは、授業で学んだことが社会でどう役立つのか、「つながり」が知られていないことでした。
「工業高校ですから、機械科、電気科、電子科、電子機械科でロボットに直結する基礎技術は教わるのです。ただ、それがどんな形でロボットや産業に活かされているか、といったつながりまで説明している授業があまりないのでは、と思いました」
知識はある。でも、使われ方がわからない。その「つながりのなさ」こそが、入社後の実務で敷居の高さになっていました。そこで誕生したのが、南部さんが1年生向けに行う「ロボット学習のすすめ」という授業。C言語の制御ロジックがどうロボットに活かされているかなど、授業で習うことが現実の機械の動きに直結していることを丁寧に示しました。
都築さんが特別授業で教壇に立つこともあります。「生成AIを駆使するためには、技術の知識よりも国語力が不可欠です。私が担当する『理系作文のすすめ』では、理系エンジニアに求められる文章力と読解力を解説しています。これは国語の先生より、ヤマハの現役エンジニアが話した方が説得力があるでしょ(笑)?」

引き継がれていく、「我が校のロボット」

実習でロボットに触れて動かしてもらうために、ヤマハ発動機はスカラロボットや直交型ロボットなど、これまでに4台を寄贈しています。その際にさまざまな社内処理や寄贈式の準備など、実務面で事業運営を支えているのがロボティクス事業部の小野沙也花さん。
また夏休みに学校を離れ、ロボティクス事業部に生徒を迎え入れる「ロボティクス実習」の運営全般を担っているのも小野さんです。これはロボティクス事業部の全部門100人以上の社員による、延べ400時間の工数をかけて行われる、かなり大規模な実習。各部署への根回しから当日のサポートまで、小野さんがこなしています。

そのロボット実習で、彼女にとって印象深いことがありました。ショールームを見学し、生徒たちが普段授業で使っているロボットを目の前にしたときのこと。「あ、私これ使えます!」「これ、お前が得意なやつじゃん!」など、自信を持ってロボットについて語り出す生徒が続出したのです。
「生徒さんが、寄贈したロボットにここまで真っすぐ向き合ってくれていたことが本当にうれしくて。寄贈した学年の生徒は卒業しましたが、後輩がそれを受け継ぎ、『自分たちでこれを守っていこう』と大切にメンテナンスしてくれていると知って、感動してしまいました」
そんな小野さんは、寄贈の際は学校で生徒に操作をレクチャーしたり、ロボット実習で製品紹介をしたりと、生徒にとってはすっかり「ロボット姉さん」の立ち位置なんだそうです。高校生からそう遠くない年齢でロボティクス業界に立つ女性の存在は、男女を問わず生徒にとって良きロールモデルとなっているようです。

「やらせまいか」精神で誕生した、高機能ロボット

都築さんは思い出深いこととして、成果発表会のことをこう振り返ります。
「文科省の事業指定期間中は、アクトシティ浜松で大規模な発表会を開催しました。目指したのは『生徒が生徒のためにつくる発表会』にすること。スポンサー企業が協力し続けたいと思えて、なおかつ下級生が(来年は自分がやるんだ!)と胸を躍らせるような舞台にしたかったんです」

スタートは暗転した真っ暗な大ホール。吹奏楽部の生徒が、サックスとフルートで校歌を演奏しながら最後部のドアから入場します。そしてスポットライトが照らす舞台の上には、校歌を歌う3年生たち。校歌が2番に入ると、生徒全員が舞台で大合唱――。そのドラマティックな開幕の演出は、生徒と先生が発案してつくり上げたものでした。
「フィナーレは全員で『学園天国』を大合唱しながら、スポンサーの方々を感謝の気持ちでお見送りしました。生徒と先生がプログラムを考え抜いて作ってくれたことに、涙が出そうになりましたね……」

毎年発表される研究内容も、都築さんの心を揺さぶります。特に印象に残っているのは「水やりロボット」です。スカラロボットにジョウロで水やりをさせようとした生徒たちは、4軸で動くロボットに「斜めの動き」をさせるための機構を自分たちで設計。さらに土の湿度センサーと連動した制御ロジックを組み込み、気温・湿度のデータをすべてログとして記録したのです。この機能は「夏休みの宿題を楽にしたい」という高校生らしい動機で搭載されました。
「それを実現するためにプログラムをロジックから全部作り直して、機構設計まで自分たちでやってる。高校生がよくここまでやったな、と本当に驚きました」

ほかにもじゃんけんで味を決めて盛り付けるアイスクリームメーカーなど、「しょうもないでしょ(笑)?」とうれしそうに都築さんが話す独創的なアイデアの数々は、実は高度な機械設計とプログラミングの塊です。

「『面倒くさい作業はやらせちゃえ』という発想こそ、産業用ロボットに求められるもの。その知見を持って入ってくる生徒さんは、本当に即戦力ですね」と小野さんも目を輝かせます。

浜松城北工業高校 公式YouTubeチャンネルより

あちこちで芽吹き始めた、可能性の種

浜松城北工業高校からは毎年8〜12名がヤマハ発動機に入社し、そのうち2〜3名がロボティクス事業部に配属されています。近年は大卒社員と肩を並べる技術職に就く卒業生も出てきました。「初めてロボットに触れる時の恐怖感が全くない。その敷居の低さは、工業高校で積み上げた経験があってこそです」と都築さんは話します。

マイスター・ハイスクール事業は3年間の期間を終えて文科省の手を離れ、現在は自前で連携を継続・発展させる「自走化フェーズ」の2年目に入りました。都築さんがいま最も力を注いでいるのは、人事異動が多い教育現場で、この取り組みを「学校の仕組み」として残していくこと。また産業界で構築してきたネットワークには現在6社が協賛し、15〜20社がインターンや技術交流で関わるまでに成長しました。これを地域全体の財産として根付かせていくこと、それも残された大きな課題です。
「今後はヤマハ発動機だけでなく、遠州地域の製造業が連合を組んで、産業教育活動を安定的に継続できる仕組みを作りたい。自走化フェーズ期間は残り1年ですが、任期を終えても別の企業や学校でこの事業は継続していくべきだと思います。また、この取り組みをロボティクス以外の業種にどうやって広げていくべきか。考えることは尽きません」と都築さんは語ります。

小野さんも「浜松にはたくさんの企業があるので、ヤマハ発動機以外の会社に就職する生徒さんもたくさんいます。いつかそこでロボットを必要としたときに、使い慣れているからヤマハ製のロボットを使いたい、と思ってくれたらうれしいです」と、就職のさらに先の未来を見据えていました。

可能性の「種」をまきながら、二人は今日も教育現場に時間と熱量を注ぎ続けます。やがて芽吹いた種は、ヤマハ発動機や遠州の産業界に根を張り、大きく成長を遂げるはずです。

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