「新たな感動体験」を創る人
ヤマハモーターオーストラリアの取り組みから「新たな感動体験」をご紹介します。
Ollie Sharp
Brand & Content Marketing Manager,
Yamaha Motor Australia
長期ビジョン「ART for Human Possibilities」は、暮らしの中で何かを楽しみ、人間性を探求し、
新たな感動体験が生まれ、次の一歩を後押ししていく。
その一つの具体的なかたちが、オーストラリアで始まったプロジェクト。
これはキャンペーンではなく、「新たな感動体験」をリアルな物語として映し出していく試みです。
14歳の体験から、Yamaha Motor Australiaへ
最初に"心が動くような感動体験"をしたのは、いつ頃のことですか。
14歳のときに、中古のYZ125に初めて乗ったときですね。進路に迷っていた時期でしたが、マシンの高揚感だけでなく、そこで偶然出会ったライダーたちがフレンドリーに受け入れてくれて、「ここにいていい」と思えた。その体験が、自分にとって最初の大きな感動体験でした。
その後、レースはすぐに生活の一部になり、夢を追いかけすべてを注ぎ込みました。ニュージーランドやオーストラリア、さらには海外のさまざまな場所で10年以上レースに挑戦し、勝ち負けや怪我も含めて「自分を知る」時間を過ごしました。レースを引退したあとはマーケティングを学んで学士号を取得、ロードとオフロード両方のバイク雑誌でジャーナリストとして働きながら、業界を外側から見る経験も積みました。レースそのものが自分の存在理由のすべてだったわけではありませんが、人生を形づくってくれたあのコミュニティとつながり続けたいという強い思いだけは、ずっと消えることがありませんでした。
そんな中、2010年ごろにYamaha Motor Australiaのマネージングディレクターと出会い、その縁からYamaha Motor Australiaに入社しました。今は13年以上在籍し、ブランド戦略やマーケティング、コンテンツ企画などを担当しています。根底にあるのは、あの14歳のときと同じ「人の人生に刻む体験をつくりたい」という思いであり、手がけているプロジェクトは、その思いを象徴する取り組みだと感じています。
プロジェクトは、どのように生まれたのか
どのような経緯で立ち上がったのでしょうか。
きっかけは、オーストラリアで「お客様がヤマハ発動機をどう感じているか」を調査したことでした。多くの方は船外機やオフロードバイクなど、ひとつの製品からヤマハ発動機を知りますが、使い続けるなかでその製品を通じて新しい情熱や楽しみ方に出会い、そのライフスタイル自体がヤマハ発動機によって豊かになっていることに気づいていきます。そうしたプロセスを追うなかで、「ヤマハ発動機は“単なるモノ以上の存在“として受け取られている」と分かってきました。
製品が違っても、「信頼感」や「コミュニティに属している感覚」、「乗るたびに得られる高揚感」だけでなく、「パフォーマンスのスリル」や「クラフトマンシップ」など、心の動きには共通点がある。そこに、ヤマハ発動機ならではの価値があると気づいたんです。
ちょうど同じ頃、グローバルで長期ビジョン「ART for Human Possibilities ― 人はもっと幸せになれる」が掲げられました。人とモビリティ、コミュニティとの関わりを通して、一人ひとりの可能性をひらいていこうという方向性と理解しました。
お客様のリアルな物語を通して、こうしたビジョンをオーストラリアやニュージーランドの文脈で具体的に伝えたい――その答えとして、プロジェクトを立ち上げました。お客様だけでなく、パートナーやアンバサダーのストーリーも入り口にしながら、ヤマハ発動機の姿勢や想いを感じてもらうためのプラットフォームと言えます。
描かれた感動体験と、これからの広がり
どんな物語が描かれているのでしょうか。
また、その先にどんな未来を見ていますか。
大きなコンセプトは、「ヤマハ発動機や製品を語る」のではなく、「ヤマハ発動機が人にもたらしている体験そのものを見せる」ことです。キャンペーンローンチ時のムービーでは、ヤマハ発動機とともに暮らす家族やライダー、海を愛する人たちが、それぞれの道からキャンプサイトに集まり、同じ場所と時間を分かち合う様子を描きました。そこにあるのはスペックや機能ではなく、喜びや安心感といった“心の動き”です。
その後に制作してきたシリーズのムービーでも、基本的な考え方は同じです。障がいのある少年が、自分の力で初めてマシンに乗ることができた瞬間。若いライダーたちに時間を注ぎ、次の世代を育てようとするアスリートたち。水上オートバイを通じて海やコミュニティ、文化とつながり続ける先住民アーティスト。ロボティクスで農作業を支え、仕事と暮らしの可能性を広げようとする人たち。そして、危険な海洋環境でサメなどを調査しながら生態系を研究し、船外機を「自分たちを安全な場所へ連れ帰ってくれる存在」として信頼している科学者たち。
それぞれの現場で見えてくるのは、「ヤマハ発動機の製品」というより、その周りで生まれている関係性や感情です。暮らしのなかで何かを楽しむ時間があり、自分や他者との向き合い方を考える瞬間があり、その延長線上で強い感動が生まれ、また次の一歩を踏み出そうとする人がいる。その流れをドキュメンタリーのように切り取っています。
そしてもう一つ、欠かせないのが「自然」です。オーストラリアやニュージーランドの海や森、川、ブッシュ(低木地帯)といったフィールドは、ヤマハ発動機の製品がもっとも生き生きと使われる場所であり、同時に守るべき環境でもあります。もしこの舞台が失われてしまえば、そこで生まれている体験も一緒に失われてしまうかもしれません。
だからこそ、Yamaha Rightwaters *1 のような海洋保全活動や、Outback Cleanups *2 と連携した清掃活動など、自然環境を守る取り組みも伝えるようにしています。感動の舞台そのものを未来に手渡していくことも、Yamaha Motor Australiaが大切にしているチャレンジのひとつです。
今後は、オーストラリアだけの取り組みではなく、世界中のヤマハ発動機の仲間たちとつながりながら「人」「モビリティ」「自然」「可能性」といった共通テーマで物語を共有できるようにしていきたいと考えています。
いろいろな製品やカテゴリーに関わってきて感じるのは、そこにある感情には共通点があります。喜び、信頼、自由やつながり。
そうした「心の動き」を物語として丁寧に描き、それを見た人が「自分も何か一歩踏み出してみよう」と思えるきっかけをつくること。そんなプラットフォームを育てていきたいですね。
*1 Yamaha Rightwaters:ヤマハ発動機マリン部門が展開する、水環境の保全や海洋ごみ削減、環境教育などを行うサステナビリティプログラム
*2 Outback Cleanups Australia:オーストラリア各地のビーチやブッシュ、海域で、不法投棄ごみや漂着ごみを回収している非営利の環境保全団体