次へのモチベーション 三世代のMOTOROiDが示す、人とモビリティの新しい関係
篠原 功次

篠原 功次

MOTOROiD2 プロジェクトリーダー
人間研究部バイオメカニクスグループ

寺田 圭佑

寺田 圭佑

MOTOROiD:Λ プロジェクト責任者
プロジェクト推進部新事業商品2グループ

佐野 貴透

佐野 貴透

MOTOROiD:Λ プロジェクトリーダー
プロジェクト推進部事業支援2グループ

自ら学び、転びながらも立ち上がり、新たな能力を獲得してゆくモビリティ、MOTOROiD。その姿は、日常のなかで試行錯誤と成長をくり返す私たち自身の姿にも重なります。そして私たちの思いを感じ、挑戦をそばで支え、「次はいけるかもしれない」とモチベーションを奮い立たせてくれるその姿は、まるで人生のパートナーのようでもあります。
ヤマハ発動機は、人とモビリティの関係を捉え直すとともに、培ってきた技術と「人機官能」という開発思想を注ぎながら、MOTOROiDを創り続けています。

MOTOROiDは、単なるモビリティではありません。次に向かう挑戦へ導くための、未来を見据えたプロジェクトなのです。

1 「MOTOROiD」を創り続ける理由と未来のビジョン

篠原 功次

――ヤマハ発動機の歴史の中で、MOTOROiDはどんな役割を担っているのでしょうか。また、初代MOTOROiDには、どんな思いが込められていたのでしょうか。

篠原:MOTOROiD の開発は、「ヤマハ発動機の根底にある開発思想『人機官能』に基づいた未来の感動を作りたい」との思いからスタートしました。そのコンセプトは、「常識からの解放」。「未来のモーターサイクルに最適なインターフェース」を探りつつ、「人とマシンが一体となれるモビリティ」としてスタートしました。

――そこからMOTOROiD2、そして最新のMOTOROiD:Λへと進化する中で、開発のコンセプトなどは変化していったのでしょうか?

篠原:MOTOROiD2は、「『指示を与える人と従順に実行するマシン』という関係から、『対等のパートナー』という関係性になると、どんな感動が生まれるだろう」という発想のもとで開発が始まりました。そのため、機械的で無機質な初代MOTOROiD と対照的に、MOTOROiD2は有機的でエレガントなデザイン。さらに乗車姿勢に合わせて身体を受け止め、バランスを保つ制御などを進化させており、身を任せてより一体感を楽しめるモビリティとなっています。

寺田:MOTOROiD:Λ(ラムダ)のコンセプトは、フィジカルAIを活用しながら、モビリティ自身が考えて自律的に動き、成長していくというものです。「自立したモビリティと人が関わり合うことで、Togetherness(関係性としての一体感)の人機官能が生まれるはず」という考えのもとで開発を進めました。

佐野:AI技術を活用して、さまざまな車両運動を膨大な回数のシミュレーションを行い生き物の様に自律的な行動の実現を目指す「AI技術×車両運動」という我々にとって初の試みに挑戦しています。開発過程ではコンピュータ上でシミュレーションを重ね、構築したAIを実車のMOTOROiD:Λに移植して現実世界でも試行しながら開発を進めました。当初はシミュレーションとリアルのギャップが大きく、トライアンドエラーの繰り返しでした。でも、ある壁を超えるといきなり立てるようになる。それを繰り返しながら段階的に成長し、現在ではさまざまな動作が可能になってきました。

2 MOTOROiDに内包される「人機官能」

佐野 貴透

MOTOROiD を通じて、ヤマハ発動機の根底にある開発思想「人機官能」のOneness(身体性としての一体感)、Togethernessは、どのように表現されているのでしょうか?

篠原:ヤマハ発動機らしさを突き詰めるため、MOTOROiDは「人機官能」、「Oneness」や「Togetherness」を重視して開発されています。初代MOTOROiDは、バイクと一体となり運転に没入するOnenessをさらに高めるような設計となっています。これは創業以来培ってきた「ハンドリングのヤマハ」に代表されるような技術の基準を生かしつつ、機能と構造の最適化を目指すものです。

そしてMOTOROiD2では、Togetherness、つまり人とモビリティの精神的・心理的な一体感を高め、マシンと呼応する悦びを追求。さらに人との情緒的な関係性を表現するために、発光表現を取り入れた反応の視覚化、AIを使って動きを介したコミュニケーションなどを可能にし、人生の伴侶のようなモビリティとして設計していきました。そのため人が直接触れ、繊細な意思疎通ができるよう、ライダーは車体に体を預けながら操作できるデザインとなっています。

――自ら学習するMOTOROiD:Λでは、人との関係性がさらに発展しているように感じます。

寺田:MOTOROiD:Λは、「人と馬のような関係」を築けるモビリティとして、ライダーとのTogetherness実現を目指しています。それはつまり、難しい運転に挑戦する際にも技量に応じてサポートしてくれる、つまり人のチャレンジを後押しできるモビリティ。例えばコーナリングの補助をすることで、いつの間にか乗れるようになっていく、ということもあるかもしれません。今はまだ基礎技術を獲得している段階ですが、今後さらにMOTOROiD:Λが育った暁には、人とのそんな関係性が生まれてくると考えています。

佐野:さらに先の構想としては、MOTOROiD:Λが人の喜びや楽しみを感じ取りながらライダーの行動を学習することで、よりワクワクするような走り方や、より快適な走り方など、ライダーだけでは辿り着けない新しい体験を与えるようになればと考えています。つまり、お客様に合わせてMOTOROiD:Λは成長していき、お客様もMOTOROiD:Λのアシストを得てより成長することができるという、良き相棒でありサポート役のような関係となるはず。まさにTogethernessであり、人機官能を体現するマシンとなるはずです。

3 ART for Human Possibilities

寺田 圭佑

――その成長のサイクルは、ヤマハ発動機の長期ビジョンにある「新たな感動体験がモチベーションとなり、次への挑戦につながっていく」サイクルとも重なりますね。

佐野:そうですね。「MOTOROiD:Λが成長することで、人も新たな挑戦をすることができ、ともに成長し続けるサイクル」を実現することで、人とモビリティが長く寄り添える関係性を構築できればと思います。

篠原:まったく立てず動きもしないマシンが、数え切れないほどの失敗を重ねながら自ら起き上がり、自立した時は「できた…!」と、メンバー全員で喜びました。MOTOROiDの成長と、開発チームの成長が重なったようなその感覚は、強く印象に残っています。

――その一方で、「生活を楽しむ事に挑戦」という、創業者・川上源一の思想と通じるものも感じます。

篠原:MOTOROiD2は、AIカメラでオーナーを認識して近づいてきたり、生き物のように感情を宿したしなやかなダンスをしたり、並んでゆっくりと散歩するなど、多様なコミュニケーションを取ることができる。まるで伴侶のように人に寄り添うことで、「相互に心をかよわせながら生活を楽しむ」ことができるモビリティとなっていると思います。

寺田:将来的にMOTOROiD:Λは危険を察知して、ライダーが違和感のないように回避してくれることも目指しています。それによってライダーは走る喜びを感じて、新たな挑戦へのモチベーションとなり、成長を遂げることができるはずです。

篠原:その先の未来には、AI技術を活用しながらMOTOROiDが人の感情に寄り添い、まるで気心の知れた友人のようにサポートするという可能性もあります。その技術もまた、「楽しむ」ことにつながっていくと思います。

MOTOROiD 三世代

長期ビジョンの観点から見て、将来のモビリティはどのように人と関わっていくのでしょうか。

佐野:ヤマハ発動機は「感動創造企業」として、ユーザーの感動や、人とモビリティの関係性を大事にしています。だから MOTOROiD:Λ が目指す方向は、「完全自動運転」ではなく、「人とモビリティが一緒に楽しむ世界」。たとえばバイクに興味はあっても踏み出せなかった方が、MOTOROiD:Λのサポートで安心して一歩、踏み出してもらえるような未来があると考えています。

――最後に、開発者として研究を続けるモチベーションをお教えください。

佐野:もう「研究開発そのものが楽しくて、モチベーションに直結している」という感じです。これまでの制御開発は、「人間がロジックを考えて、それをモビリティに落とし込む」という手法でした。でも、自身で考え成長していくMOTOROiD:Λは、まさに"人の想像を超えた答え"を実現してしまう。そこがものすごく面白いし、新しい可能性を感じています。

寺田:いま、AI業界の進歩はものすごく早い。そこにキャッチアップしつつ、何をどう考えさせるかを学習に織り込んでモビリティを作っていかないといけない。さらに人との一体感やバランスを取りながら違和感なく動作させるためには、今まで以上に人の動きやバランスも理解することが必要になってくる。自分にとっては、「実現したい未来」が研究のモチベーションになっているかもしれません。

篠原:「MOTOROiDが自分で起き上がる」という、今までどんなマシンもできなかった動作を実現したときの感動は、言葉では言い尽くせない。「世の中にないものをつくる」というエンジニアの使命が、実現できた瞬間でした。そんな「思い描いた未来を実現できた」時の感動をモチベーションに、これからもさらなる開発に挑み続けたいと思います。