人工島に自然は創れるのか。自然共生サイト認定へとつながった、ホテルとガーデンの12年
人工島・舞洲で12年かけて育てたホテルのガーデン。人と自然が関わり合い、自然共生サイトに認定されるまでの歩みをたどります。
人工島・舞洲で12年かけて育てたホテルのガーデン。人と自然が関わり合い、自然共生サイトに認定されるまでの歩みをたどります。
RePLAY編集部より
自然を守ることと、人が豊かに過ごせる場所をつくることは、別の話なのでしょうか。
大阪・舞洲のホテル「The Day Osaka」では、ホテルの価値を高めたいという思いから始まったガーデンが、やがて多様な生きものが集う環境へと育っていきました。
本記事は、The Day Osakaを運営する株式会社キャッスルホテルによる寄稿です。RePLAYでは通常、寄稿という形式の記事は掲載していません。しかし、同ホテルの取り組みには、「人が関わり続けることで自然は豊かになれるのか」という問いを考えるうえで多くの示唆があると感じ、今回ご紹介することにしました。
12年にわたるガーデンづくりの歩みと、その背景にあった試行錯誤や思いを、当事者の言葉でお届けします。
建物を増やすより、魅力的なガーデンをつくろう
大阪湾にある、家庭ごみや建設残土、浚渫土砂などでつくられた人工島、舞洲(まいしま)。そこに、私たちが運営するホテル「The Day Osaka」はあります。人工島と聞いて、緑いっぱいの風景を思い浮かべる人はあまりいないでしょう。まして、鳥がやってきて、虫たちが暮らし、季節の花が咲く場所になるとは
でも今、ホテルのまわりにはそんなガーデンが広がっています。十数年前から少しずつ育ててきました。といっても、最初から「自然を守ろう」と始めたわけではありません。始まりは、もっと現実的な悩みでした。
私たちがホテルの経営を始めたのは2014年4月。名前を「ホテル・ロッジ舞洲」とし、新しい一歩を踏み出したものの、宿泊施設は本館とログハウスだけ。約3.4ヘクタールの広い敷地には、建蔽率にも容積率にも余裕がありました。これだけの土地があるなら、もっと建物を建てなければもったいない。そんな見方もあったでしょう。
でも私たちは、この広さそのものを、舞洲まで足を運んでもらう理由にできないかと考えました。海と空、風、緑に包まれて過ごす時間を、このホテルの魅力にしよう。ガーデンを活かすことは、ほかのホテルとは違う滞在を届けるための経営判断でした。環境保全という大きな理念よりも先に、「選ばれるホテルになりたい」という切実な思いがあったのです。
失敗を重ね、土と植物に教わる
ガーデンづくりの先頭に立ったのは、ホテルのオーナーでした。ホテルの経営を始めた翌月のことです。作業着に着替えて、外へ出る。草をむしる。木を伐る。肥料をまく。花を植え、手入れをする。暑い日も、寒い日も、雨の日も。ときには、自らトラクターにも乗りました。最初のころは、奥さんも一緒になって草をむしっていました。
夫婦で始めた草むしり。振り返れば、このガーデンの物語は、そんな小さなところから始まっています。そこに、壮大な計画があったわけではありません。ただ、目の前にある場所を、もっとよくしたい。ここで過ごす時間そのものを楽しんでもらいたい。そんな思いでした。
当時も植栽はありましたが、今のように木々や草花が幾層にも重なる庭ではありませんでした。そのうえ舞洲は、海からの強い風、潮風、夏の乾燥と高温と、植物にはやさしくない場所だったのです。そこで花や木を育てるのは、うまくいかないことの連続でした。
よかれと思って肥料をたくさんあげた花が、かえって枯れてしまう。猛暑と日照り、潮風で、植えた花が根づかない。そんなことが、何度もありました。土がよくなってくると、今度は育てたい植物だけでなく、雑草まで元気になりました。除草の手間が、むしろ増えてしまったのです。
そのたびに、肥料の量、植える場所、時期、植物の種類を見直しました。植えて、様子を見る。育たなければ、場所や時期、種類を変える。また、様子を見る。そして、待つ。大きな完成図に沿って一度につくったのではありません。場所ごとの日当たりや風、植物の育ち方を見ながら、少しずつ。 短い期間で正解を求めず、土と植物の反応を見てやり方を更新し続ける。いま思えば、それがこのガーデンの「つくり方」でした。
植物選びも同じです。ホテルの庭としての美しさや季節感と、潮風・強風・乾燥・高温への強さを見ながら選んできました。外来植物は一律に排除せず、生態系への影響を見極めたうえで、必要なものを抜いています。
きれいなガーデンだけを見ていると、最初からそこにあった風景のように思えるかもしれません。でも、その下には、何度も土に触れ、汗を流してきた時間があります。そんな試行錯誤の末、初夏の「あじさい展」のような、植物を主役にしたイベントも開けるようになりました。
土を整え、落ち葉をめぐらせる
失敗と見直しを重ねるなかで、私たちがいちばん大切にしてきたのは、花や木の足元にある土でした。施肥に加えて生薬も使い、落ち葉など敷地内で出る有機物を集めて、時間をかけて土に戻す。農薬にも、できるだけ頼らずに。
2024年秋には、スタッフが敷地の剪定枝で手づくりの枠をつくり、その中に落ち葉を集める「バイオネスト」を設置しました。落ち葉は分解されて腐葉土になり、またガーデンの土になっていきます。骨組みに使わない剪定枝は焚き火の薪として使い、夕暮れ時にお客様が火を囲む時間を支えています。敷地のなかで生まれたものが、敷地のなかでめぐる。ガーデンの手入れと、お客様がホテルで過ごす時間がつながっていきました。
夫婦で始めた草むしりは、いつしか、チームで取り組む仕事になりました。今、日々の管理を担うのは、アルバイトやパートを含む約10人。大半は、もともとホテルの他の部署や、敷地内のバーベキュー場で働いていた、ガーデンづくりの未経験者です。
外部の専門家に、剪定、植栽、土づくりを教わる。現場で試して、また聞く。経験があるかどうかより、毎日ガーデンを見続けること。それが、この庭を支えています。
約2年前からは、ガーデンキュレーターの小島理恵氏に助言をいただき、今年度から「ガーデン3カ年計画」も動き出しました。計画の柱は、「場所ごとに役割を変える」こと。宿泊のお客様が多く歩く場所は、景観や安全、歩きやすさを大切に。人の出入りが少ない奥まった場所は、草を刈りすぎず、落ち葉も残す。ホテルとしての心地よさと、生きもののすみかを、同じ庭のなかで両立させる試みです。
招待していないのに、やってきた
土を整える。植物を育てる。落ち葉を土へ還す。そんなことを続けているうちに、少しずつ変化が起きました。
虫がやってきました。鳥がやってきました。もちろん、招待状を出した覚えはありません。それでも、やってきた。そして、この場所で羽を休めたり、食べものを探したり、命をつないだりしている。
これまでに確認されたのは、ヤマトタマムシ、ニホンミツバチ、ギンヤンマ、ショウジョウトンボなどの昆虫、カワラヒワ、ツバメ、カルガモ、ジョウビタキなどの野鳥、ニホントカゲ、海浜植物のハマヒルガオ。なかでも驚いたのが、コヤマトンボです。通常は河川の中・上流域にすむ種類のトンボが、河川のない大阪湾岸の人工島で見つかったのです。
人間はよく、「自然をつくる」と言います。木を植える。花を植える。緑を増やす。でも、それだけで自然をつくったと言えるのでしょうか。人ができることは、案外、小さいのかもしれません。土を整える。植物を植える。少しだけ手を貸す。そして、待つ。風が種を運ぶ。雨が降る。虫が来る。鳥が来る。
自然をつくるというより、自然がやって来られる場所をつくる。このガーデンを見ていると、そんな言い方のほうがしっくりきます。
そして、ガーデンの「別の顔」に気づいた
転機は、2024年6月。大阪自然環境保全協会の夏原由博会長(名古屋大学名誉教授)を中心に、ガーデンの樹木や花、生きものの種類を調べてもらうことになったのです。野鳥や昆虫、爬虫類・両生類は、ガーデンスタッフが日々の管理のなかで見つけては、写真に収めてきました。2026年以降は、同協会と一緒に、植物は春と秋、鳥は春と冬、昆虫は春と夏を基本に、本格的なモニタリングを続けています。
すると、私たち自身も気づいていなかったことが見えてきました。ホテルをもっと魅力的にしたくて育ててきたガーデンが、いつの間にか、さまざまな生きものにとっても大切な場所になっていたのです。
「これは、ホテルのガーデンというだけではないのかもしれない」。だったら、自分たちだけで「いいガーデンです」と言うのではなく、その価値をきちんと外から見てもらおう。そこで挑戦したのが、環境省の「自然共生サイト」でした。企業の敷地など、人が関わりながら豊かな自然が守られている場所を、国が認める仕組みです。
申請のために、新しい何かをつくったわけではありません。やったのは、これまでの積み重ねを、調査と記録で見えるようにすること。調べた植物や生きもの、植栽と落ち葉の循環の記録、そして、持続できる管理とモニタリングの体制。それらを整理して、保全の対象とする範囲をはっきりさせました。その結果、2025年9月、敷地のうちガーデン部分の2.17ヘクタールが、人工島に立地する宿泊施設として全国で初めて自然共生サイトに認定されました。
さらに、自然共生サイトに認定された場所は、その価値が国際的に認められることで、「OECM(生物多様性保全に貢献する区域)」という世界共通の国際データベースへ登録されます。2026年8月、The Day Osakaのガーデンも、OECMに登録されました。
自然共生サイトでは、健全な生態系が存在する場としての価値と、守り続けるための管理体制が評価された。
聞き慣れない言葉だと思います。でも、名前を覚えてもらうことが大切なのではありません。国立公園のような場所だけでなく、人が暮らしたり、働いたり、旅をしたりする場所にも、自然や生きものにとって大切な場所がある。そうした場所を世界で守っていこう。そのひとつに、この舞洲のガーデンも加わったのです。
ただ、ここで忘れたくないことがあります。自然共生サイトになるために、ガーデンをつくったのではありません。OECMを目指して、オーナーがトラクターに乗っていたわけでもありません。ホテルをもっと魅力的な場所にしたい。その思いで、草をむしり、土を耕し、花を植えてきました。自然共生サイトの認定は、その積み重ねの先にあったものです。
今度は「旅」の側から。そして、ホテルが「学校」に
2026年の夏、「人工島を“緑の島”へ」という当ホテルの取り組みが、第10回「ジャパン・ツーリズム・アワード」で入賞しました。今度は自然の分野ではなく、「観光」の側からの評価でした。鳥にとっては、羽を休める場所。虫にとっては、生きる場所。旅する人にとっては、季節や風を感じる場所。そしてホテルにとっては、「ここに泊まってよかった」と感じてもらう場所。ひとつのガーデンなのに、見る人によってその意味も変わります。
同じ夏、大阪市此花区とともに、「舞洲こどもの学校」を初めて開きました。子どもたちが企業や仕事、自然に触れ、新たな学びや地域への関心を深めるイベントで、15社が参加しました。
この日の自然は「先生」でした。渡り鳥と森、コーヒーのつながりを知り、苔で自分だけの小さな森をつくる。見て、触れて、つくって、気づく。遊びのなかに、自然と学びが生まれていました。オーナー夫婦が二人で草をむしっていた場所に、今、子どもたちが集まっている。土を育て、植物を育ててきた場所が、今度は人の好奇心を育てています。
「育てる」という言葉は、不思議です。こちらが育てているつもりでも、気がつけば、こちらも育てられている。私たちも、そうなのかもしれません。ガーデンを育ててきたつもりが、ガーデンの方から、ホテルのあり方を教えてもらっているのです。
このガーデンは、これからも育っていく
自然共生サイトになった。OECMに登録された。観光のアワードもいただいた。でも、それで「完成」ではありません。
今も答えが出ていない、いちばん大きな課題があります。人の手を、どこまで入れるか。どこから、自然に任せるか。ホテルには、安全も、快適さも、美しい景観も求められる。一方で、刈りすぎないこと、片づけすぎないことが、生きものを守る場合もある。その答えは、きっと一つではありません。
これからは、人が使う場所と、生きもののすみかを優先する場所を分け、モニタリングで効果を確かめながら、手の入れ方を更新していきます。いまは、コアジサシという渡り鳥が飛来できる環境づくりに挑戦しています。
「人工島に自然は創れるのか。」
そう聞かれたら、私はまだ「はい」とは言い切れません。むしろ、このガーデンを見ていると、「自然を創る」という言い方そのものが、少し違う気がしてきます。私たちにできるのは、土を整え、植物を植え、汗を流すこと。そして、自然がやって来られる場所を用意して、待つこと。
虫が来る。鳥が来る。子どもが来る。この場所はそうやって少しずつ育ってきました。人が自然を育て、自然が人を育てる。どちらが先なのかは、もう分かりません。
オーナー夫婦が草をむしるところから始まったガーデンは、まだ完成していません。たぶん、これからも完成しないでしょう。でも、それでいいのだと思います。完成しないから、次の楽しみがある。
人工島から、「緑の島」へ。その物語は、まだ途中です。
執筆:株式会社キャッスルホテル 広報室 大角 毅
編集後記
私たちがこの取り組みから持ち帰りたいのは、事業価値を高めることと自然環境への貢献は、必ずしも相反するものではないということです。
ガーデンづくりの出発点は、環境認定の取得ではなく、「選ばれるホテルになりたい」という事業上の思いでした。そこから12年という年月をかけて、土や植物と向き合い、試行錯誤を重ねた結果、ガーデンはホテルの魅力になると同時に、多様な生きものにとっても大切な場所へと育っていきました。
そして興味深いのは、そこでの人の役割です。人の手を加えないことが自然にとって最善だとは限らない。一方で、人の都合で整えすぎることが自然を豊かにするとも限らない。手を入れるところと自然に任せるところを見極め、変化を観察しながら関わり方そのものを更新していく。そんな試行錯誤が、このガーデンでは今も続いています。
事業と自然共生を分けて考えるのではなく、その場所に関わる人や生きものが、ともに豊かになっていく関係とはどんなものなのか。今回の取り組みは、私たちがこれからの事業やものづくりのあり方を考えるうえでも、大切なヒントを与えてくれるように思います。
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