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仲間との遊び場から地域と育むフィールドへ ミリオンペタルバイクパークの現在地

静岡県周智郡森町にオープンした、マウンテンバイク専用コース「ミリオンペタルバイクパーク」。このパークはマウンテンバイクをこよなく愛するヤマハ発動機社員が、副業という形で地元の方々とともに立ち上げたものです。豊かな自然に囲まれた森町の山奥に、なぜマウンテンバイクパークを作ろうと思ったのか。パークを運営するミリオンペタル合同会社の小倉幸太郎さんに聞きました。

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仲間との遊び場から地域と育むフィールドへ
ミリオンペタルバイクパークの現在地

共創・新ビジネス開発部(2025年6月時点)
小倉幸太郎
静岡県周智郡森町にオープンした、マウンテンバイク専用コース「ミリオンペタルバイクパーク」。このパークはマウンテンバイクをこよなく愛するヤマハ発動機社員が、副業という形で地元の方々とともに立ち上げたものです。豊かな自然に囲まれた森町の山奥に、なぜマウンテンバイクパークを作ろうと思ったのか。パークを運営するミリオンペタル合同会社の小倉幸太郎さんに聞きました。

仲間と心置きなくマウンテンバイクを楽しめる場所を作りたかった

マウンテンバイクに出会ったのは、40歳になる少し前のこと。スノーモビルの開発部門に所属していた際に、雪上用電動アシスト自転車の先行開発に携わったことがきっかけでした。「自転車本来の良さや楽しさを知らないままで、本当に良いものが作れるのだろうか?」と思い、まずは自分で体験してみようとマウンテンバイクに乗ってみたところ、すっかりその魅力にハマってしまいました。

それからすぐにマウンテンバイクを購入して、本格的にのめり込んでいきました。しばらくは、友人たちと一緒に楽しんでいただけだったのですが、2020年に社内で有志を募って「森マウンテンバイククラブ(MMTBC)」を立ち上げ、活動を始めました。当時はコロナ禍だったこともあり、人との接触を避けながら楽しめるアクティビティとして、マウンテンバイクの人気が急速に高まった時期でもありました。

しかしその半面、日本にはマウンテンバイクが走れる環境が少なく、また私有地に無断で立ち入ってしまうなど、山の所有者とトラブルになるようなケースが全国のあちこちで起きているという話を耳にするようになったんです。僕たちもこの森町の山で走らせてもらっていたので、決して他人事ではありませんでした。だからこそ「誰かに迷惑をかけることなく、自分たちが心置きなく走れる環境を作っていきたい」と思うようになりました。

奇跡のような出会いから始まったコースづくり

「いつか、自分たちのパークを作ってみたい」。そんな想いを抱いていた私たちに声をかけてくださったのが、森町森林組合の組合長である甚沢さんでした。甚沢さんが所有する森町の山を見せていただいた際に、「よかったら、うちの森を使ってみないか」とお誘いをいただいたのです。その一言が、まるで神のお告げのように感じられたのをよく覚えています。

そこから2021年の正月頃に、本格的にパークの造成をスタート。クラブのメンバーと力を合わせて、一から手作りで作業を始めました。試行錯誤を重ねながら少しずつ整備を進め、約1年後には5、6本のコースが完成していました。しかし、そのときふと「このまま内輪のメンバーだけで楽しんでいても、地主さんや、地域の方々に何もお返しできていないんじゃないか」と思ったのです。せっかく素晴らしい森を、自分たちの活動のために使わせてもらっているのですから、何かしらの形で地域に還元していくべきだと思いました。

そこで、週末だけですが一般にもパークを開放することにしました。そうすれば利用料金から地主さんに借地料をお支払いすることもできますし、森町にも多少なりとも経済効果を生むことができます。持続可能な形でパークを運営していくために、2022年4月、運営会社「ミリオンペタル合同会社」を設立し、「ミリオンペタルバイクパーク」として営業をスタートしました。

地元・森町と向き合い、信頼を積み重ねながら進めていった

オープンにあたり、まず取り組んだのは、地元の方々の理解を得ることでした。森町の山を使わせていただく以上、地元の方々との連携が不可欠だと考えたからです。そこで、周辺の自治会の会合を訪ね、どのような活動を行うのか丁寧に説明して回りました。当初は「受け入れていただけるだろうか」と不安もありましたが、予想に反して多くの方が好意的に受け止めてくださり、大きな励みとなりました。オープン後に、地元の方がパークを見にきてくださったときはとてもうれしかったですね。きちんとコミュニケーションを取っていれば、理解し受け入れてもらえるのだと実感しました。

一方で、すべてが順調だったわけではありません。あるとき、私たちの仲間が山の中のトレイルを走行していたところ、トレイルの一部が近隣の墓地の裏を通過しており、墓地の持ち主の方から「お墓の裏を通らないでほしい」とご指摘を受けました。そのときは、地域の方にご迷惑をおかけしてしまったと、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

すぐに謝罪してルートを修正し、周知のための看板設置などを行いました。その後、改めてお詫びと改善内容の報告に伺ったところ、その方から「お前たちのこと、応援しているからな」と温かい言葉をいただいたのです。思いがけないその一言に、感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。このとき、仲介に入ってくださったのは、日ごろから立ち話をすることの多かった地域の顔なじみの方でした。普段の何気ない会話から始まったご縁が、結果として信頼の土台を築き、大きな問題を未然に防ぐことにつながったのだと思います。地域とのつながりは、日々の積み重ねの中で育まれるものだと実感しました。

仕事と地域活動、それぞれが生み出した相乗効果

ミリオンペタルバイクパークの活動を進める上で、これまで仕事で培ってきた知見が支えになっていることもあります。私は現在、共創・新ビジネス開発部で、新事業の企画を担当しています。この部署では、プロジェクトを通じて行政の方々と関わる機会が多く、地域住民の暮らしやまちづくりについて学ぶ機会が増えました。

行政といっても、都市部と中山間地域では、抱えている課題も、住民の暮らしの在り方も大きく異なります。そうした課題違いに触れながら、「行政の方々が何を考え、何を望んでいるのか」いった視点を自然と学ぶことができました。この積み重ねが、後に地域と連携して進める「MOUNTAIN RIDE HUB」の活動において、大きな助けとなっています。

「MOUNTAIN RIDE HUB」というプロジェクトは、現在私が取り組んでいる新規事業のひとつです。これは、日本各地にある未活用の山林をマウンテンバイクのフィールドとして展開することを目指す新規事業企画です。単にマウンテンバイクの販売促進を図るものではなく、自然を活用した持続可能な場づくりとともにその地域の活性化にも貢献するというもので、事業として日本全国に展開したいと考えています。この提案ができたのは、私自身が地元の方々と対話しながらミリオンペタルパークを立ち上げ、運営してきた経験があったからこそだと思います。

日本の山の魅力を、マウンテンバイクの楽しさと共に伝えたい

オープンから約3年。当初は、「みんなで好きなように走れる遊び場がほしいよね」という思いから、仲間と一緒にコースづくりを始めました。まさかそれが事業として形になるとは、当時は想像もしていませんでした。今では、ミリオンペタルバイクパークには毎週末、県内外から本当に多くの方が訪れてくださっています。中には年間パスポートを購入して通ってくださる常連の方もいて、初心者の方が来場されたときには、自然と声をかけて乗り方を教えてくれたりもします。

そんな光景を見ていると、マウンテンバイクを通じた「輪」が少しずつ広がっていることを実感し、心からうれしく思います。この「輪」を、もっと広げていきたいです。もともと私はスノーボードが趣味だったこともあり、山の中で過ごすことが好きでした。だからこそ、日本の山々がもっと多くの人にとって身近な存在になって、誰もが日常的に自然を楽しめる環境が広がっていったら、素晴らしいことだと思うのです。

例えば、子どもたちが森の中で夢中になって遊び、「この地域には、こんなにきれいな山や森があるんだ」と思えるような、そんな環境がもっと各地に増えていってほしい。そうした未来をつくるために、マウンテンバイクはとても有効な手段だと考えています。マウンテンバイクというアクティビティがもっと広く認知され、地域の方々にも自然と受け入れられるような存在になっていったらうれしいですね。一人でも多くマウンテンバイクファンを増やしていくために、地域をより豊かにするために、今後も活動を続けていきたいと思います。

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