スポウクが操るYZF-R1とワタリの乗るVMAXのマシンサウンドは
ヤマハ発動機の無響音室で収録!どのような方法で録音が行われたのか?
その現場に携わったスタッフが、サウンドメイキングの裏側について語る。
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野中銀矢
第2PT実験部
PT実験技術3グループ「Tokyo Override」 コラボレーションプロジェクトではバイクの音を録音する際のライダーを担当
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橋本晃
クリエイティブ本部
プランニングデザイン部
イノベーションデザイングループ
「Tokyo Override」コラボレーションプロジェクトではサウンドデザインに関してアドバイス等を行う
Netflixシリーズ「Tokyo Override」が描く近未来の世界において、主人公たちが乗りこなす“時代遅れ”のガソリン・バイク。
スポウクが操るYZF-R1とワタリの乗るVMAXの3Dデータは、ヤマハ発動機が監修。さらに劇中で聴くことのできるバイクのエンジン音などは、ヤマハ発動機が持つ無響音室で9本のマイクを使用し、アニメーションに合わせて運転操作を行ないながら収録されたのだという。
「おそらくここまでこだわってバイクの音を収録したアニメーションはないのではないか」と関係者自らが語る方法を用いて、ドルビーアトモス7.1chの性能をもフルに活かし切るよう行われた音の収録。その現場に携わったスタッフに、サウンドメイキングの裏側について聞いた。
ヤマハ発動機のコラボレーションに対する姿勢にNetflixさんが共感して頂いたようで、100年後の東京の世界観の構築、つまりワールドビルディングや、レースに使われる未来のバイクのデザインにも協力させて頂きました。
さらに、劇中で登場するエンジン音を収録する際にも、バイクや無響音室を提供するとともに、バイクを操作するライダーやアドバイザーなどの形で協力させて頂きました。
VMAXは、水冷4ストロークV型4気筒DOHC1,679ccにVブーストシステムが組み込まれた、いわゆるモンスターバイク。パワーを感じさせる図太いエンジン音が魅力ですね。
それぞれ加速していく際の音の変化も全く違うため、あまり詳しくない方であっても、聴くだけでバイクのキャラクターが感じられると思います。
それぞれのルックスに加えて、音も聞いて頂きながら「このタイプのバイクが好きだな」と思っていただけたら嬉しいですね。
バイクを置くタイヤの接地箇所はローラーになっており静止しながらも実際の走行を再現できるようになっています。
さらに急加速した際のエンジン音や、急ブレーキや段差の際の衝撃音、エンジンの始動/停止音などに加えて、シートに座る音、クラッチやブレーキのレバー音、スイッチやクラクションの音などの収録も行いました。実際に収録したのは1話分ではあるのですが、丸1日の収録作業となりましたね。 野中さんはエンジン音における効果検証の際にもライダーをされているということですが、アニメとシンクロさせて操作するということは初めてだったそうですね。 野中:スロットルの操作や、 シフトアップダウンのタイミングなどが秒単位で指示されていて、それに従って操作を行いました。さらに、アニメにおいて流れる風景の速さから、どのギアでどのくらいのエンジン回転数でスタートするかなども気にしていましたね。
「アニメの加速感からこれは4速か5速だろうな、そのあとこのタイミングでシフトアップ入れたくなるよね」のような発想で、アニメからは分からない操作も想像しながら行っていました。
最終的には録音チームからも「こだわって頂いたおかげで、よりかっこいい音を収録することができました」との言葉を頂くことができて、非常に達成感がありましたね。
橋本:このような収録は、バイクを想像通りに操れるライダーがいないとできない。映像作品に音効を付けていく方のことを「フォーリーアーティスト」と呼んだりするのですが、そのライダーバージョンとして、僕らは野中さんを「フォーリーライダー」と呼んでいるんです。
そもそもバイクのエンジン音などを綺麗に収録する際には、今回のようなバイク専用の無響音室でなければクリアに収録できず、かなりハードルが高いと思います。例えばバイクにマイクを付けて、実際の道路を走るっていう収録方法も可能ではあるのですが、ロードノイズや風の音、さらに街の音などがどうしても入ってきてしまい、クリアなバイクの音だけを録ることはできないんですね。
今回の収録では、無響音室でバイクの周りにモノラルマイクを8本、ステレオマイクを1本立てて録音を行なっています。さらにこれだけのマイクを使用しているため、アニメの絵に合わせて音のバランスも細かく調整することができるんです。
これまでも5.1チャンネルや7.1チャンネルの作品はありますが、実際にそれに対応するくらいのマイクの数を使ってエンジン音が収録されている作品というのはあまりないのではと思います。今回は、実際のバイクを使い、専用の無響音室で専門のライダーが録音を行なっているため、ドルビーアトモスのポテンシャルを活かし切った音作りを楽しめるのではと思っています。
可能であれば、ぜひ良い音響のもとで視聴頂いて、ヤマハ発動機のバイクに興味を持って頂けたら嬉しいですね。