MotoGPシーズンレビュー
MotoGPの2013年シーズンをご紹介します。
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TOP PAGEに戻るロッシの復帰で最強チームを再結成したヤマハ
タイトルを逃すもロレンソが最多勝を獲得
3回目のMotoGPチャンピオンをめざすロレンソは、再びチームメイトとなった最高峰クラス7回のタイトルを持つロッシとともに開幕戦で1-2フィニッシュ。連覇に向けて絶好のスタートを切った。しかし彼らの前に、新しいコンビを結成した強力なライバルチームが立ちふさがる。そしてロレンソの負傷。シーズン中盤には逆転不可能とさえ思えるビハインドを負ってしまったが、このまま終わるわけにはいかない。奇跡を信じて、ロレンソとヤマハの挑戦が続いた……。
開幕戦優勝のロレンソ&ロッシ
ライバルチームの新コンビに苦戦
2013年、ヤマハは2チーム・ライダー4人の体制でMotoGPに挑んだ。ヤマハ・ファクトリー・レーシングからディフェンディングチャンピオンのホルヘ・ロレンソと、3年ぶりのヤマハ復帰となったバレンティーノ・ロッシ。モンスター・ヤマハ・テック3からは昨年ランキング7位のカル・クラッチローと、昨シーズンまでMoto2クラスに参戦していた若手のブラッドリー・スミス。マシンはもちろん、過去6度の世界チャンピオンを獲得したYZR-M1である。
開幕戦は4月7日、例年どおりカタールでのナイトレースが舞台となった。ただ、これまでと異なるのは予選方法。3回のフリー走行と予選1(Q1)で12台がクォリファイ2(Q2)に進出し、15分間、3〜4周のタイムアタックによって上位4列のグリッド順位を争う。そのタイトなチャンスを最初にものにしたのがロレンソ。さらに2番手にはクラッチローがつけ、ロッシは7番手となった。決勝でも、ロレンソが予選の勢いそのままに圧倒的な強さを見せ、独走のポール・トゥ・フィニッシュ。2位にはチームメイトのロッシが続き、クラッチローもホンダのペドロサに次ぐ5位に入った。
ところが第2戦以降、ロレンソはしばらく優勝から遠ざかることとなる。ペドロサと、その新しいチームメイトとなったマルケスが圧倒的な強さを見せたのだ。加えて、第2戦アメリカズGPの会場となったCOTA(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)は開幕前のテストでも攻略に苦慮したコース。「ライバルのペースが速く、ここまでが精一杯だった」と語ったロレンソが3位、続いて4位クラッチロー、ロッシは6位でレースを終えた。その後MotoGPはヨーロッパラウンドに移り、YZR-M1と相性のよいヘレスでのスペインGP、ル・マンでのフランスGPが続いたが、ロレンソは本来の実力を発揮することができなかった。ホームコースのヘレスでポールポジションを獲得したものの、決勝はタイヤのグリップ低下に悩まされて3位。予選2位と健闘したル・マンでは、いきなりのウエット・コンディションにマシンを合わせることができず7位。この時点で、ランキングトップは2勝を挙げたペドロサ、2位にマルケス。ロレンソはトップと17ポイント差の3位に甘んじていた。
ここまでのレースを振り返ると、予選タイムはライバルに対してほぼ互角。しかし決勝では、タイヤとのマッチングを詰め切れず苦戦する傾向があった。すでにチームは、この状況を打開するためデータを集めて問題点を分析し、さまざまな対策を行っていたが、第5戦イタリアGPでようやくその成果が表れ始めた。初日のフリー走行でロレンソ、ロッシ、クラッチローがトップ3を独占。予選こそロレンソがペドロサにわずかに届かず2位となったが、決勝では逆に5秒以上の大差をつけて優勝を果たしたのだ。シリーズポイントでも、ノーポイントに終わったマルケスを抜いて2位に浮上。チームマネジャーのウィルコ・ズィーレンベルグはレース後、「チャンピオンシップの扉がまた開かれた」と喜びを表現した。
好調を取り戻した矢先のロレンソ転倒
少しずつ広がったポイント差は最大44
続いて第6戦カタルニアGPも制したロレンソは、ランキングトップのペドロサに7ポイント差まで接近し、チャンピオンシップに明るい光を見出していた。ところが、ここで思いがけない苦難に襲われる。第7戦オランダGPのフリー走行で、ハイサイドを起こして転倒。鎖骨を骨折し、緊急手術を受ける事態となったのだ。それでも、欠場を避けたいロレンソは、なんと36時間後の決勝12番グリッドに登場。序盤から果敢な攻めの走りを披露し、ついには4位までポジションを回復。その後5位に下がったものの、貴重な11ポイントを獲得したロレンソは「優勝以上に価値ある5位」と胸を張り、チームディレクターのマッシモ・メレガリは「忘れられない思い出になる」と感慨を語った。
その一方、オランダで輝きを取り戻したのがロッシ。4番グリッドからスタートして着々とポジションを上げ、5周目には早くもトップに浮上。そのままみごとに逃げ切ってGP通算80勝目となる今季初勝利を達成した。さらに好調のクラッチローも3位に入り、今季3回目の表彰台に立った。
しかし2週間後、第8戦ドイツGPのフリー走行でロレンソが再び転倒。治療中の肩を強打して再手術を余儀なくされ、ついに「一日も早く復帰できるよう治療に専念する」と決勝出場を断念した。ここで優勝を果たした20歳のルーキー、マルケスがペドロサを抜きランキングトップに浮上したが、ロレンソのビハインドは11ポイント。逆転のチャンスはまだ十分に残されていた。ただ予想外だったのは、マルケスの急成長。ラグナセカの第9戦USGPで復帰したロレンソが調子を取り戻すのに手間取る間、ロッシやペドロサまでも抑えて4連勝。第11戦チェコGPを終えた時点で、ロレンソとの差は44ポイントにまで広がっていた。
それでも、勢いに乗ったマルケスを止める一番手はやはり、ロレンソしかいなかった。第12戦イギリスGPの舞台は、2010年から優勝2回、2位1回と相性のよいシルバーストーン。身体の回復も進んだロレンソは、予選からマルケスと激しいタイム争いを展開。ポールポジションこそ0.128秒差で逃したものの、決勝は最終ラップまでテール・トゥ・ノーズの競り合いを演じ、0.08秒差でファーストチェッカー。6戦ぶりの勝利に「長いキャリアのなかでも最高のレース」と、興奮した様子で語った。
そこに希望があるかぎり挑み続ける!
終盤で魅せたロレンソの大逆襲
さらに追い風も吹いてきた。第13戦サンマリノGPで、YZR-M1に新型シームレス・ギアボックスが投入されたのだ。ここで予選2位となったロレンソは、決勝でホールショットを決めると一気にリードを拡大。マルケス、ペドロサにつけいる隙を与えず、久しぶりの独走優勝を飾った。
しかし、続く第14戦アラゴンGPと第15戦マレーシアGPでマルケス、ペドロサに優勝をさらわれ、再びポイント差が43に拡大。残るレースは3戦となり、誰の目にも今シーズンは終わったかに見えた。ところが第16戦オーストラリアGPで、かつてない異例の事態が起こる。改修されたフィリップアイランドの路面は、予想以上にグリップが高く、タイヤへの負担が大きくなっていた。そこで主催者はライダーの安全性に配慮し、決勝レースの周回数を19周に短縮。さらに9周または10周後、新品タイヤをつけたマシンへの乗り換えを義務付けたのだ。そのなかで、ポールポジションからスタートしたロレンソは、トップをキープしたまま9周後にピットイン。その後もポジションを譲ることなく走り抜き、GP通算50勝目を挙げた。ところが2位につけていたマルケスは、11周後にマシン交換を行ったため失格。ロレンソのビハインドは一気に18ポイントまで縮まった。
さらに、第17戦日本GPでも予想外の展開が待っていた。台風の接近で濃霧が発生し、救急ヘリの離着陸が不可能となったため、フリー走行はすべて中止。その分予選が75分間に拡大して行われ、ロレンソがポールポジションを獲得した。決勝は一転してドライコンディションとなりセッティング不足が心配されたが、「失うものは何もない。ただ頂点をめざす」という言葉どおり、ロレンソは後方に張り付くマルケスとペドロサを振り切って連勝。ヤマハのGP500・MotoGP通算200勝目を達成した。
そして最終戦バレンシアGPを迎えた。マルケスとの間にまだ13ポイント残っているが、「戦いはまだ終わっていない」とロレンソ。決勝を2番グリッドからスタートし、すぐさまトップに立つと、逆転チャンピオンを狙って賭けに出たのだ。それは1983年、ケニー・ロバーツがフレディ・スペンサーを相手に実行した方法と同じ。自分のポジションを守りながら周回ペースを抑え、後続車が追いつくのを待ち、マルケスを5位以下でフィニッシュさせることだ。しかし、マルケスと接戦を演じたペドロサが後退すると、ロレンソはこれ以上無理にペースを抑えておけないと判断。再びスパートしてリードを広げ、終盤は4秒近い差で独走。今季最多となる8勝目のチェッカーを受け、タイトル獲得まであと4ポイントに迫るランキング2位でシーズンを終えた。
また、この日4位でフィニッシュしたロッシは第7戦オランダGPで2年8か月ぶりの優勝を果たしたほか、2位1回、3位4回などの好成績を残してランキング4位。フロントローを獲得すること7回、予選で非凡な速さを発揮したクラッチローは決勝でも2位2回、3位2回と合計4回の表彰台に上り、サテライトチームトップのランキング5位。MotoGPルーキーのスミスも健闘し、6位3回を獲得するなど目標としていたランキング10位とした。
来季はクラッチローがヤマハを離れるが、代わって2013年Moto2チャンピオンのポル・エスパルガロの加入が決まっており、ロレンソ、ロッシ、スミスとの4人体制となる。いっそうの飛躍にご期待いただきたい。