技報【バックナンバー】
ヤマハ発動機では研究開発の成果や製品を支える技術をご紹介するために、年1回(12月)、技報を発行しております。
本ページでは、PDFファイルのダウンロード・閲覧ができます。(現在、冊子の配布はいたしておりませんのでご了承ください。)
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| 巻頭言 | 内山 徹雄 今、世界は不況の真只中。こんな重苦しい事態を引き起こした原因は何なのか。昨年来のサブプライムローンの焦げ付きに端を発した、金融危機。それまで旺盛であった消費需要を後退させ、一気に経済活動の低下を招いてしまった。ここで、真因はある技術への過信であり、事態をより深刻なものにしてしまったといったら、言いすぎだろうか。ここでの技術とは、金融工学での金融商品設計の際に使われるものです。この商品の仕組みは難解ですが、単純化して言えば、焦げ付く確率が高い(高利回り)サブプライムローン債権と、低い(低利回り)債権などを組み合わせて、リスクを分散しつつ、高い格付け(安全性信用力)を得ることで、利回りが高くリスクが低いとされる画期的な金融商品を提供したわけです。何もかもうまくいきました。投資家は高配当を享受し、サブプライム市場には、資金が潤沢に入りクレジット購入による市場拡大を促進しました。ただし、住宅値上がり基調の下で、サブプライムの焦げ付き率は一定の確率範囲にとどまる前提でした。しかし、結果は…。元来、リスクとリターンには、正の相関関係があるのにその原理・原則を軽視して利益追求した結果の破綻だったのです。 |
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| 技術紹介 | 斉藤 琢也/渡邊 彰人/神谷 登 ヤマハモーターハイドロリックシステム(株)では、車輌の運動性能をチューニングするコンポーネント部品である、フロントフォーク、リヤクッション、ステアリングダンパーをヤマハ発動機(株)へ供給している。2009年フルモデルチェンジしたスーパースポーツモデル“新型YZF-R1”の高い運動性能に応えるべく、伸圧別体カートリッジ式倒立型フロントフォーク、2wayアジャスト機構付きリヤクッション、電子制御式ステアリングダンパーを新開発した。本稿では伸圧別体カードリッジ式フロントフォークについて概要を紹介する。 |
製品としてのパフォーマンスダンパーの実績と新たに確認された広範囲な効果についての紹介 沢井 誠二/近藤 勝広/志賀 孝夫/石川 幸夫/原田 豊二/赤堀 実 パフォーマンスダンパー(以下PD)は、ヤマハ発動機によって開発された全く新しい車体性能向上技術である。2000年に特許出願され、2001年には世界初の車体技術として、乗用車の少量限定車に標準装備された。PDは、それまでの「走り」の基準を越える安定感と運動性の双方を向上させるばかりでなく、乗り心地等の上質化まで実現する。大幅な車体性能向上を実現するために、従来の「車体剛性最適化」に加え、「車体粘性の積極的付加」という手法を用いる考え方は、効果の説明に難航することが多かった。車体の動的変形というミクロンオーダーの物理量を対象に議論するためである。しかしながら、一度その効果が体感され、理解されるや、次々と採用が進んできている。また、装着の簡便さからアフターパーツとしても多くのお客様から高い評価を得ている。加えて、新機械振興賞、自動車技術会賞、市村産業賞の3つの賞を受賞し、世界初の車体粘性技術がもたらす効果と価値が広く認められることとなった。本報告では、PDの普及状況と効果、振動減衰特性について紹介する。本報告により、お客様がPDの理解を深め、更なるドライビングプレジャーを得る助けとなることを期待する。 | |
武智 裕章/小林 健二/高橋 知泰/安達 修平 世界の二酸化炭素排出量は2005年で271億トンと報告されている。一方、二輪車の世界の保有台数は約2億台と推測され1台のCO2排出量を100g/km,年間走行距離を7,500kmとすると、総排出量は約1億5000万トンと推定される。これは、世界全体の排出量の0.55%に相当する。地球温暖化防止や将来のエネルギー問題の面から脱化石燃料の動きが、様々な手段により今後も加速していくものと思われる。そのような状況の中、ヤマハ発動機では、各種用途に展開が考えられる燃料電池システムを開発している。本稿では、その用途の中の1つである二輪車に燃料電池を適用した例を紹介する。 | |
黒田 寛/黒田 英里 数年前よりマイクロバブルの効果が注目され始め、様々な分野への応用が行なわれている。そもそもマイクロバブルとは、直径数十マイクロメートルの微細な泡を指す。通常の気泡とは違い、浮上速度が遅い(水中溶解の容易)、また気泡のマイナス帯電(気泡同士の合体が起こりにくく、水中の浮遊物への吸着性がある)、自己加圧効果(泡の収縮、崩壊によるフリーラジカルの発生)など物理化学的特性をもっていると言われている。水と空気の混合のみで前記の効果を示すことから化学物質等の付与もなく環境に優しい技術と言える。しかしながら、マイクロバブルを多量に発生させるためには高圧の動力源が必要であり、各部品の強度が求められる事、また高圧送水に用いられる特殊高圧ポンプがコストの造り込みにおいて課題であった。マイクロバブルの商品展開、及び技術の構築を目指し、コストメリットが高く、低圧式でも多量のマイクロバブルが発生可能な装置の開発に着手した。 | |
| 製品紹介 | 電動船外機 YAMAHA Marine Motor M-15( XGW)/ M-25(XGX) 松井 太憲/久保田 昌利/早川 栄一/井原 博英/高木 敏幸/岡田 武士/舩倉 嘉一郎/三橋 学 電動船外機は、主に北日本沿岸の磯貝漁(ウニ、アワビ)、わかめ漁の漁具として広く使われている。当社は、1988年に初代モデル12V基本仕様M-15を製品化し、1995年には高出力タイプの24V仕様M-25を発売した。今回20年ぶりに電動船外機の主要コンポーネントである制御装置(コントローラー)を開発したので、電動船外機製品概要も含め、紹介する。 |
ステッピングモーター単軸ロボット「TRANSERVO(トランサーボ)」 加茂川 良/加々谷 功 近年では、生産設備に対しては、ローコストでの自動化・半自動化や、エアー機器を電動機器に置き換えることによる省エネルギー化などが求められており、小型・低コストで信頼性・耐久性に優れたアクチュエータの市場が拡大している。「TRANSERVO」は、これらの要求に応え、新開発のベクトル制御方式のステッピングモータを採用した新しいタイプのアクチュエータとして開発された。精密組立が要求される電気・電子部品や小型精密機械部品のあらゆる生産設備において、組立、検査、移載、搬送、などの様々な工程・用途に使用可能なほか、医薬品・食品分野のハンドリングや検査工程への採用が期待されている。 | |
アスタキサンチン含有応用製品(PURESTAシリーズ)の開発と顧客商品への利用例 鈴木 里英/斎木 朝子/御手洗 篤/杉山 裕之 ヤマハ発動機は2006年10月より、アスタキサンチン原料としてヘマトコッカス藻色素製剤「PURESTA OIL(ピュアスタオイル)」の販売を開始し、好評を博している。アスタキサンチンとは、エビ・カニ・鮭・イクラなどに多く含まれる赤色の色素で、にんじんのβ-カロテンやトマトのリコピンと同じカロテノイドの一種である。近年、その強い抗酸化作用が明らかになり、その機能性が注目され、健康食品、美容、スポーツ市場等で、サプリメント、飲料、化粧品等の原料として幅広い分野で利用可能な機能成分である。当社では、自社工場の原料から抽出したアスタキサンチンを含有する自社ブランドのサプリメント「ASTIVO(アスティボ)」を販売するとともに、食品原料として「ピュアスタオイル」を健康食品、飲料、食品メーカーなどに販売している。近年では、食を楽しみながら機能成分を摂取したいという消費者の意識の高まりから、種々の特定保健用食品(通称:トクホ)にも見られるように、普段の生活の中で食べる食品へ機能成分を配合した商品が増えている。しかしながら、ヘマトコッカス藻から抽出したアスタキサンチンオイルを希釈した「ピュアスタオイル」は、油溶性(水に溶けない)のペースト状であること、アスタキサンチンが酸素、光、熱などに分解しやすい性質をもつことから、商品形態としてソフトカプセル型の栄養補助食品が主流となっていた。今回はアスタキサンチンを更に幅広い商品に利用していただくため、「ピュアスタオイル」に新たな特性を付与した「ピュアスタシリーズ」製品を紹介する。 | |
西田 豊士/藤原 英樹/竹田 祐一/渡辺 隆志/山田 一也/鈴木 満宏/赤塚 秀則 「YZF-R1」とはパワフルな走りと、軽快なハンドリングを高次元でバランスさせた1000ccスーパースポーツモデルである。1998年の初代モデル誕生以来、欧州の「セカンダリーロード」と呼ばれるワインディングロードを中心に、1000ccの強大なパワーを意のままに操るエキサイトメントを提供するモーターサイクルとして、世界中のスーパースポーツファンから愛され続けてきた。変わらない価値として追求されてきた「コーナリングのエキサイトメント」は、時とともにその姿を変え、圧倒的なハイパワーを意のままに操る電子制御デバイスの登場を見ることで、飛躍的にそのコントロール性能を高めてきた。2009年、スーパースポーツのエキサイトメントの新たな扉を開けるために、モトGP直系のテクノロジーであるクロスプレーン型クランクシャフトを採用し、従来の常識を打ち破るコントロール性を身につけてYZF-R1は生まれ変わった。 | |
今村 高志/松土 真一 ヤマハ発動機は2008年、4ストロークラフ・トレイルモデルとしてFXNytro R-TX、およびマウンテンモデルとしてFXNytro M-TX等を発売し好評を得ている。この中、市場では恒常的に降雪、積雪のある山岳部で使われるマウンテンモデルは、近年その販売台数が伸びており、その仕様もヒルクライム(山登り)に特化するようスペシャライズされてきている。この市場トレンドに合わせたマシンが望まれ、今回紹介するFXNytro M-TX SEの開発に着手した。 | |
宮下 祐司/芦田 祐介/箕浦 実/薄 雅弘 近年の国内プレジャーボートは、快適性へのニーズが飛躍的な高まりを見せる中、フィッシングボート、マルチパーパスボートを問わず居住空間の充実が、大きなコンセプトの柱となってきた。本艇「FR-23」は、艇体全長23ft(約7m)であり、マルチパーパスボートとしては、最も小さいクラスに位置づけられるが、1クラス上の居住空間の実現と快適装備の充実を、必須の開発課題として取り組んだ。一昨年に開発・市場投入されたフィッシングボート「FR-32」でも、これまでのフィッシングボートでは性能上マイナスとされていた巨大なブリッジ(室内空間)を搭載したモデルであるにも関わらず、その居住性の高さと、高い航走性能・釣り機能を両立させることで、市場で非常に高い評価をいただき、多くのユーザー様に購入していただける結果となった。 | |
櫻井 太輔/宮代 幣彦/佐藤 勝利/小倉 利彦/高山 清彦/星野 恭平/田村 幸樹/加茂 厚/長谷川 仁/佐々木 優一 YZシリーズはモトクロスコンペモデルとして、1973年のYZ250(2サイクル)の発売以来、モトクロスレースにおいて数々の記録を残してきた。1998年には初の本格的4サイクルモトクロッサーYZ400Fを発表。現在の4サイクルモトクロッサー時代を切り開いたモデルを世に送り出した。そして今年、4サイクルモトクロッサーの新しい時代を切り開く革新のモデルを2010年モデルとして発表する。2010年YZ450Fは今までには無い車体レイアウトを採用し、従来の4サイクルモトクロッサーでは達成出来得なかった高い運動性能と、優れたエンジン性能をライダーに感じさせるモデルとなっている。 | |
| 技術論文 | 久保田 剛/山下 恭幸 近年、アジアやBRICSにおける自動二輪車市場の成長は著しく、欧米での需要が鈍化する中で、特に重要度が増している。これらの市場で販売される車種は、主力機種を中心として、単気筒エンジンを搭載するものが多く、その部品構成の一部は、一般的な多気筒エンジンとは異なる。本稿では、その中でも、単気筒エンジンでよく使われる組立てクランクを構成するクランクピンに焦点をあて、小型軽量化と高信頼性を両立するために重要な転動疲労寿命について、材料強度試験結果および台上試験結果をワイブル解析し、実走行車両におけるクランクピンの寿命と耐面圧の関係を推定する方法を考察した。 |
大本 浩司/米田 圭祐/吉倉 肇/八木 昭宏 近年、二輪車においても情報化が進展している。安全性を確保するためには、ライダーの情報通信機器の利用に伴う負担レベル(メンタルワークロード;MWL)を客観的に評価して、ライダーに提示する情報の量やタイミングを最適化する必要がある。しかしながら、主観指標では、時々刻々と変化するMWLを測定することは難しい。これに対して、我々は、生理指標と行動指標を併用することで、時系列で客観的にライダーのMWLを測定する評価手法を構築した。生理指標としては、脳の情報処理過程を直接反映する事象関連電位を用いる。行動指標としては、二輪車の操縦を単純化した二重課題として、主課題のトラッキング課題と副次課題の検知反応課題の作業成績を用いる。本研究では、ヘルメットに組み込んだデバイス等により「事象関連電位の視覚P300」と「二重課題法によるトラッキングエラーとLEDに対する正答反応率」を同時計測し、MWLの程度が各指標に及ぼす影響を実験的に検証した。その結果、このMWLの評価手法の有効性を確認でき、その制約事項も明らかにできた。 | |
多目的GAを適用したオンラインエンジン制御パラメータ適合手法の開発 阪脇 篤/迫田 茂穂 近年、自動車用内燃機関を取り巻く環境は、大気のクリーン化促進、地球温暖化抑止、原油高といった社会情勢を背景に、エミッション低減はもとより、CO2排出量の低減も要求され、年々厳しさを増している。また、商品性につながるドライバビリティーも加えれば、複数の目的を同時に満足する制御器とパラメータ適合の重要性は極めて高い。しかし、多目的なパラメータの適合は、評価数がシステムの複雑さに応じ指数的に増加するため、探索が非常に困難となる問題を有している。これは、運転条件に応じて燃料をどのタイミングでどれくらい噴射すればよいのか、あるいは付随する機器をどのように動かせばよいかを考えれば想像は容易であろう。この課題解決のひとつの提案として、実測で得られたデータから最適値を探索するという技術が挙げられ、次の問題が設定できる。1いかに目的の真値となるパラメータに到達できるか?2いかに高速に到達できるか?そこで我々は、近年研究を進めている多目的遺伝的アルゴリズムによる探索理論に着目し、これらの問題をオンラインで解決する自動最適点探索手法の開発に着手した。なお、この探索技術開発には、適合パラメータが多い一般的なコモンレール(CR)ディーゼルエンジンを用いている。 | |
藤井 茂/塩澤 総一/品川 晃徳/岸 知昭 二輪車市場の成熟化が進み、更なる安全性や走破性といったニーズに応えるため、二輪車にも車両運動をコントロールする電子制御デバイスが導入されることが増えている。電子制御デバイスの導入により、きめ細かな性能の作り込みが可能になる反面、最適な制御パラメータを選定する為の開発コスト増大が課題となっている。そこで、制御パラメータの最適化を効率的に行うために、制御パラメータごとに操縦性が予測でき、操縦性の観点からも合理的にパラメータを決められるといった開発手法が期待されている。二輪車ではライダーの僅かな操作や体重移動の違いで車両の運動特性が大きく変わる場合があるが、定常特性に限るとライダーの影響はその姿勢の違いによる重心位置の違いに限定できるので、再現性の高い試験も可能である。そこで、私達の研究プロジェクトでは定常特性に注力して、シミュレーションや計測を駆使し、定量的に基本的な操縦特性を評価する手法を開発することを目指している。また、景山らも、定常特性についての研究に近年注力しており、定常特性についての操縦性評価指標の提案やその理論的な背景、および四輪車の操縦性評価指標との違いを示している。しかし、これらの研究では評価指標を求める際に重要なタイヤの横すべり角を精度良く計測する手法が確立していないために理論検討が中心となっており、実験による検証は不十分である。本報では、スポーツツアラ二輪車での定常円旋回走行中の舵角、保舵トルク、ロール角、タイヤ力・モーメント、タイヤ横すべり角の計測結果を報告する。特に、タイヤ横すべり角の計測データについては2つの手法で取り組むと共に、シミュレーション結果とも比較し、その精度を検証した。続いて、ライダーのリーン姿勢の違いが定常特性に与える影響を調査した。加えて、計測結果から、景山らの提案したステア特性(スタビリティファクタ)、横すべり特性、保舵特性の操縦性評価指標を実測データより算出し、有効性の検証を行った。 |
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