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「海洋プラは最高の遊び道具」ゴミを資源に変え、45兆円の海上都市を構想する元航海士

これまで焼却するしかなかった「複合プラスチック」を分離せず資源へ。遊び心を起点に、45兆円の海上都市を目指すREMARE・間瀬雅介さんの実践論。

これまで焼却するしかなかった「複合プラスチック」を分離せず資源へ。遊び心を起点に、45兆円の海上都市を目指すREMARE・間瀬雅介さんの実践論。

2025年12月24日


「海洋プラスチックは、最高の遊び道具なんですよ」

そう語るのは、アップサイクル素材ブランド「REMARE(リマーレ)」の創業者・間瀬雅介さんです。

REMAREが手掛けるのは、「複合プラスチック」の再資源化。リサイクルが困難とされる“厄介者”を、独自の技術とデザインで新たなプロダクトへと生まれ変わらせています。

「複合プラスチック」とは、異なる種類のプラスチックや複数の素材・原料が組み合わさったものを指す(提供:REMARE)

南極調査船の小さな機関室から始まった規格外の冒険心。それを原動力に、「誰もやりたがらないことこそ、僕たちの役割」と突き進む間瀬さんですが、その道のりは決して平坦ではありませんでした。初期衝動だけでは乗り越えられない、多くの壁にも直面します。

単なる環境保全の枠を超えて、プラスチックを「地球を再生する遊び道具」に変える未来。その果てに見据える「45兆円の海上都市」という、あまりに途方もない野望。

遊び心とビジネスの“あいだ”で、何を天秤にかけ、どう乗り越えようとしているのか。間瀬さんが描く長く険しい航路から、地球がよろこぶ遊びとビジネスのヒントを探ります。

誰も手をつけない“複合プラ”という鉱脈

REMAREには、「燃やさず、埋め立てず、プラスチックを社会に貯蔵する」というミッションがあります。その実現に向け、どのような事業を展開しているんでしょうか?

一言で言えば、REMAREは「これまで燃やすしかなかったゴミを、価値ある資源に変える」企業です。

具体的には、回収した廃棄プラスチックを、内装材や建材といった板材に生まれ変わらせるマテリアルリサイクルの技術を開発しました。この技術を活用した商品づくりはもちろん、企業の廃棄プラスチック削減に向けた伴走支援も行っています。

そもそも、なぜ多くのプラスチックはリサイクルされずに燃やされてしまうのでしょうか?

日本では年間約800万トンのプラスチックが焼却されていると言われていますが、その大きな理由の一つは、廃棄物の多くが複数素材からなる「複合プラスチック」だという点にあります。これらは素材ごとの分離に莫大なコストがかかるため経済合理性が合わず、現状では燃やすしか手段がないのです。

そこで僕たちが挑んだのは、この最も扱いづらい複合プラスチックの再資源化でした。燃やさず、埋め立てず、価値ある資源として社会に貯蔵していく。これが仰って頂いたREMAREのミッションです。

プラスチックのアップサイクル事業は数多くありますが、REMAREの技術や製品の独自性はどこにあるのでしょうか?

発想は非常にシンプルです。複数の原料が混ざった複合プラスチックを「分離せず、そのまま活用する」こと。

複合プラスチックは組成の特定が難しく、品質担保の観点から既存のリサイクル技術では扱うことができません。仮に素材ごとに分別・洗浄しようとすれば、膨大なエネルギーコストがかかり、採算が取れない。結果、焼却処理するしかないわけです。

だからこそ僕たちは、分別せずに融点の異なる素材を“まとめて”成形する技術を追求しました。産業利用に耐えうる強度や耐久性、成形性を満たすために、基礎研究とデータの蓄積を重ね、技術を磨き続けています。

身近にあるプラスチックが美しい素材に生まれ変わる(提供:REMARE)

この技術は海洋ごみだけでなく、企業から出る複合プラスチックにも応用可能です。鉄道や自動車、家電、飲食、医療など、プラスチックを使うほぼすべての業界に対し、新しい選択肢を提供できると考えています。

分離しない複合素材のリサイクルは、まさに手つかずの領域だったわけですね。

単一素材に分別してリサイクルする技術は自動化が進んでいますが、導入には莫大な資本が必要で、大企業でなければ成立しません。そこで勝負しても勝ち目がないじゃないですか。

僕たちが向き合っているのは、誰もやりたがらなかった「分離を前提としない成形技術」の開発です。誰も手を挙げない領域に踏み込むことがスタートアップの役割だと思ってますし、そこにこそ勝機があると信じています。

すべては「冒険」のために。
始まりは船上の遊びだった

REMAREが手がける「複合プラスチック」事業は、どのような着想から誕生したのでしょうか?

そもそもは、「冒険家になりたい」という幼い頃からの夢が原点です。中学生のときから、自転車を8時間こいで海釣りに行くような子どもで、それを自分なりの「冒険」と呼んでいたんです。次第に、陸から離れた場所へ行きたいという思いがどんどん強くなっていきました。

大学では航海士・機関士の資格を取り、就職した船会社では航海士として日本沿岸を航海しました。退職後に応募した南極調査で、7カ月間を船の上で過ごしたこともあります。そこは、すべてが有限の世界。エンジンや配電盤が壊れても、そこにあるもので直すしかない。モノの構造を理解し、分解し、再構築する。そんな日々でした。

それに加えて船上生活は、ネットもつながらないし、娯楽がほとんどない。だから、「遊び」として、船にある重油やバーナー、圧縮機を使って1,000度以上の釜を作り、予備のスパナを溶かして鋳造するみたいなことをやっていたんです。幸い、技術だけはあったので(笑)。

もはや遊びの範疇を超えているような...!

ただ、それってものすごくエネルギーコストが高いんですよ。航海に一番重要な重油を大量に使ってしまって、ものすごく怒られて。

そこで考えたんです。「このエネルギーがかかりすぎる『遊び』を、いかに少ないエネルギーで実現できるか」と。行き着いた答えが、プラスチックでした。地球上で最も少ないエネルギーで成形でき、海には大量に漂流するので仕入れ原価はゼロ。

こんな夢のような素材を、陸上ではみんな「ゴミだ」と言って捨てている。当時、僕が思い描く冒険を実現するには50億円ほどの費用が必要だと試算していたので「これだ!これを使って事業をやろう!」と閃いたわけです。

難処理プラスチックを再資源化して生まれたスツール(提供:REMARE)

事業を始めたきっかけが、まさか冒険資金を作るためだったとは……。強烈な冒険心と遊び心が起点にあり、今の事業もその道のりの途中にあるということですね。

REMAREのコンパクトな工場設備も、僕にとってはかつての小さな機関室みたいなもので、そういう遊び心は今も変わらず持ち続けています。むしろ、それこそが一番重要なんじゃないかな。

現場の「欲しい」を聞くため、僕は漁師になった

遊び心や冒険心から始まったREMAREですが、とはいえ初期衝動だけでは乗り越えられない多くの壁があったと思います。事業化の過程で、どんな課題に直面しましたか?

数えきれないくらいありましたし、いまも戦ってる最中です。特に大きいのが産業構造の壁ですね。自治体ごとに産廃法の運用がバラバラなうえ、複合プラスチックは管理上「雑プラ」としてひとくくりにされてしまう。

本来、再資源化には「どんな素材が、どこで、どれだけ出ているか」という詳細なデータが必要不可欠です。しかし「雑プラ」と大雑把にくくってしまえば、その重要なデータは蓄積されず、定量的な評価もできない。その結果、焼却処分するか、頑張っても一過性のリサイクルで終わってしまうのです。

ものすごく難しい問題ですね。

いまや多く企業で「サーキュラーエコノミー推進」を掲げる部署が作られていますが、現場には「製品の組成管理をどうするべきか」「最終的にどのようにゴミとして流れていくか」といった具体的な知見が圧倒的に足りていません。だからこそ、まずはそうした設計の必要性を社内に浸透させる「インナーブランディング」から始める必要があります。

REMAREでは、自社のゴミ組成や物性、過去の活用データを全社横断で可視化できる管理ツールを提供しています。そのデータをもとに、ゴミを活用した新規事業の構想から販売先の開拓まで、一気通貫で伴走支援しているんです。

役目を終えた廃棄漁具をはじめ、さまざまなプラスチックが工場に集まってくる(提供:REMARE)

そうした現場のリアルな実情や「生の声」は、どうやって拾い上げていったのでしょうか?

もう、当事者の方々に「なにが欲しいか」を徹底的に聞く。それしかないですよね。

それこそ僕、創業当初、一度漁師になっているんです。牡蠣養殖の漁協に入り、漁師さんと何度も海に出て、毎日一緒に酒を酌み交わした。みなさんと話すために、工場の2階にバーまで作ったくらいですから(笑)。

当事者が抱える現状や問題点を肌感覚で理解しないと、意味がないじゃないですか。その泥臭い積み重ねが、事業を前に進める原動力になったんだと思います。

「売れなきゃ、意味がない」。
理想のために資本主義に振り切る

事業を続けるうえで、「遊び心」と「ビジネス」を天秤にかけざるを得ない瞬間もあったんでしょうか?

その天秤が最も大きく揺れたのは、やっぱり「資金調達」の壁にぶつかった時ですね。いろいろな困難はありましたが、スタートアップにとって最大の危機であり、常に抱える悩みは、突き詰めれば「お金」の問題に集約されると思います。

REMAREは三重県鳥羽市でスタートしたんですが、地方には投資家がほとんどいないし、銀行融資の審査もなかなか理解されない。さらにコロナ禍が重なり、都市部の投資家にアクセスする機会すら奪われてしまいました。

「売る自信はあるのに、そのためのお金がない」。設備トラブルで生産が急に止まっても、修理や予備設備に回すお金がなく、「ここで納品できなかったら本当にヤバい。どうしよう!」みたいな極限の状況でした。プレス機が買えなかったときは、船で培った溶接技術を駆使してしのいだこともありましたね。

さらに言うならば、「投資トレンド」の影響も大きかったと思います。

どのような影響でしょうか?

昨今はスタートアップ業界全体がディープテックやAIに寄りすぎていて、投資もそうした領域に偏っているんですよ。投資家はユニコーン企業を目指せる技術や、巨大なリターンが見込めるビジネスモデルを求めている。正直、新規でスタートアップを立ち上げて戦うには、かなり厳しい環境になっている、というのが僕の肌感です。

そうした逆風の中で、ご自身の考えに変化はありましたか?

答えはシンプルです。一度、完全に“資本主義に振り切る”こと。

社会的な意義や初期衝動といった「想い」と、資本主義の中で再現性を持って利益を生む「機能」。この二つの間で揺れ動く瞬間は何度もありました。でも、結局売れなければ、掲げた社会的意義も果たせません。

だったら、社会や企業、困っている人が「今、欲しい」と望むものしか作らない。そう割り切って進むことに、もう迷いがないんですよ。

それは先ほどの「徹底的に相手が何を欲しいのかを聞く」という姿勢ともつながりますね。

根底にある遊び心や初期衝動が消えたわけではありません。ただ、それを持続可能なビジネスとして成立させるために、あえて資本主義の論理をすべて受け入れた。それが、僕の中で起きた一番の変化かもしれません。

リサイクルの果てに見据える
「45兆円の海上都市」

これからの展開については、どのように考えていますか?

直近の10年は、現在の事業を拡大しつつ、製造ラインの完全自動化を目指しています。それが実現できれば、製造原価を木材と同等レベルまで下げることができると考えていて。現在、日本の木材産業は約半分を輸入に頼っていますが、それを国内で循環するアップサイクル建材に置き換えていく。そんな仕組みを作りたいですね。

ただ、それが順調に進んだとしても、僕の中での「本番」は2040年からなんです。

2040年から、ですか。

先ほどもお伝えしたとおり、現在のアップサイクル産業が抱える最大の問題は、日本全国の「どこから、どんなゴミが、どれだけ出ているか」という情報が、把握できていないことです。

そこで僕たちが密かに進めているのが、このブラックボックス化した廃棄物データの蓄積です。つまり、企業がどんな素材のゴミを出し、それがどこへ流れていくのかを、位置情報と共にマッピングしていく。

日本全国の廃棄物フローが可視化できれば、次世代のインフラ、例えばプラスチックを分子レベルで分解して新品同様の素材に戻す、「ケミカルリサイクル」の巨大なプラントをどこに配置すべきか、その最適解が見えてきます。そうすれば、物流を含めたエネルギーコストを劇的に削減できる。

現在の建材事業は「データ収集」こそが真の目的であると。では、2040年の先に、何を見据えているのでしょうか?

国内の廃棄プラスチックをすべて回収し、化石燃料を使わない化学原料を精製し、それをバージン材や船の燃料として再利用する……みたいな完全な循環型バリューチェーンをつくりたいですね。

この「化石燃料を使わずに、プラスチックごみだけでエネルギーと資源を回し続ける」という技術が完成したとき、僕がかつて船の機関室で夢見た、あの場所へようやく帰ることができる。

……と言いますと?

2040年以降のデータビジネス、その先にある僕の本当の野望。それは、「海上都市」をつくることです。

えっ、海上都市ですか?

はい(笑)。海の97%はいまだ解明されてない未知の領域ですし、どの国にも属していない公海領域は、全体の49%にも及びます。この広大な海を航海してデータを集め、最終的には「海上都市」を築く。それが僕の目指す“冒険”なんです。

で、この海上都市の実現コストをいろいろ試算してみたら、だいたい45兆円くらい必要なことがわかって。だからこれくらいの規模までビジネスをやらなきゃいけないな、と。

50億円から45兆円に...!冒険家になるという野望は、変わらず抱き続けているんですね。

冒険家になりたいという夢も、海洋プラスチックは「最高の遊び道具」だという視点も、昔からずっと変わりません。ただ、それを実現するためには、資本主義の論理を受け入れ、ビジネスとして成立させて、圧倒的なスケールまで広げる必要がある。

正直、「脱プラ」を叫ぶだけではもう間に合わない気がしているんです。むしろ大量にある資源として捉え直し、プラスチック自体を持続・循環可能な素材にひっくり返して共生していくほうが、可能性があるんじゃないかと。

「減らす・やめる」ではなく、「どう使い続けるか」を再設計する、という発想なんですね。

危機の啓蒙だけでは乗り越えられない限界があるとも思います。義務感や使命感ではなく、好奇心や楽しさを前提にしなければ、人は動かない。だからこそ、REMAREは製品のデザインをものすごく大切にしているんです。

遊びと資本主義、個人の衝動と社会的意義──その全部を繋げて、最終的には地球規模の資源循環システムをつくる。そういう意味で、僕がやりたいことは、単なるスタートアップや事業の枠に収まらない「革命」なんです。今後もその初期衝動だけは、常に忘れないようにしたいですね。

執筆:和田拓也 撮影:Hide Watanabe 編集:日向コイケ(Huuuu)

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