【新拠点】自然資本を未来につなげる「新しい遊び」をつくる
【NewsPicks|2024年公開記事】なぜヤマハ発動機が「リジェネラティブ」に取り組むのか?想いを語る
【NewsPicks|2024年公開記事】なぜヤマハ発動機が「リジェネラティブ」に取り組むのか?想いを語る
二輪車を中心にグローバルで大きなシェアを持つモビリティ企業・ヤマハ発動機(本社:静岡県磐田市)は、ここ数年で医療、金融、FAソリューションなど、異業種とのオープンイノベーションによる新規事業の立ち上げや新会社設立を実現している。 そのヤマハ発動機が新たな進出分野として「自然資本との共生」を掲げ、自然資本を活かした事業創出における共創パートナーを求め始めた。今秋、新たなランドマークとして横浜みなとみらいに常設の社外交流拠点も立ち上げる。 生物多様性やサステナビリティへの影響が注目され、「ネイチャーポジティブ経済」への移行が求められる世界的潮流のなかで、ヤマハ発動機が目指す「自然資本との共生」の狙いとは何か。 同社新事業開発本部長の青田元氏と、技術・研究本部 共創・新ビジネス開発部共創推進グループリーダーの福田晋平氏に語ってもらった。
「便利だから買って」の時代は終わった
青田一言でいえば、「便利だから買ってください」という時代は終わったからです。
我々の主力商品の1つである二輪車は、アジア諸国ではまだ“生活必需品”としての位置づけですが、ヨーロッパ諸国では“趣味財”としての位置づけが濃くなっています。いずれアジアでも生活必需品から趣味財の色が濃くなり、ビジネスに大きく影響を与える可能性があります。
ヤマハ発動機の売上は94%以上が海外市場によります。日本国内の本社だけで次の需要創造をしている場合じゃない。グローバルの意見を聞きながら、新たな展開を考えることが必要。そのなかで行き着いたのが、グローバルなイシューであり、大きな潮流である「自然資本領域」での事業開発です。
青田元/ 1996年三井物産に入社、主に金属資源の鉱山・工場開発等投融資案件の組成やトレーディング業務を担当。デトロイト、ニューヨーク、ロンドンで合計10年の海外駐在を経験。2010年ハーバードビジネススクール リーダーシップ開発プログラム(PLD)修了。2017年ヤマハ発動機入社、経営企画部で全社の長期ビジョン及び中期経営計画の策定、実行管理を担う。技術・研究本部NV・技術戦略統括部長を経て、2024年1月から新事業開発本部長。同年3月から執行役員に就任。
福田とはいえ“流行りに乗って手を出す”というわけではありません。
ヤマハ発動機の製品は、オートバイ、ボート、eバイクなど、アウトドアフィールドを走行するためのモビリティが中心です。そして社員のなかには、自社製品に乗って遊ぶ人がとても多いんですね。
企業理念にも「感動創造」というFUN(楽しむ)のようなキーワードがあるように、我々は“自然のなかで楽しむこと”を追求してきた会社です。
私自身、事業開発の仕事に就きながら、自社製品で野山を走り回り、自然の移り変わりや気温、環境の変化を肌身で感じて、咀嚼する機会がたくさんあります。自然資本でとことん遊んできた社員がたくさんいるからこそ、自然資本領域での新規事業を考える動きが生まれました。
青田ヤマハ発動機はそもそも、楽器メーカーの「ヤマハ株式会社」からスピンオフされた会社です。社員一人ひとりが自分のやりたいことに熱中し、それを会社が許容することで、さまざまな事業を生み出してきたDNAがあります。
今回も、自分たちの好きなことで新たな事業領域を模索するなかで、「自然と向き合う」という原点に立ち返ったとも言えます。
福田我々の製品は、そもそも豊かな山、海、雪といった自然環境がなければ存在意義がありません。さらに、その製造過程でCO2を排出するなど、地球環境や生態系に影響を与えてきたことも否めません。
福田晋平/ ヤマハ発動機 技術・研究本部 共創・新ビジネス開発部 共創推進グループリーダー。横浜国立大学工学研究院卒業後、Northeastern Univ.にて経産省Japan Entrepreneur Training Program修了。大学発ベンチャー企業を経てヤマハ発動機に入社。技術戦略や電動車両開発企画を経て現職。
実際、1960年代から半世紀以上にわたって継続してきたスノーモビル事業から昨年撤退を発表した背景のひとつには、地球温暖化による降雪量の減少があります。
自然の恩恵に依存するビジネスをしてきたからこそ、10年、20年スパンでの環境変化に対する解像度は高いと自負しています。
オープンイノベーションのための新体制
福田はい。24年からの新体制で、新規事業開発のコンセプトが2つに分かれました。1つは、一般的にモノからコトと言われる製造業である当社の強みをコアとした“サービス型”事業を開発するもの。そしてもう1つが、環境や価値観の変化に適応した“社会共創型”事業を生み出すものです。
私のグループは後者に特化し、社外のさまざまなステークホルダーと新しい関係性を構築していくなかで、シード探索から共創パートナー探索といった0→1の種を見出すことを担います。一言でいえば、オープンイノベーションによるインキュベーション担当部門でありますが、単なる事業創出だけでなくそのKPIを再定義することも役割です。
青田いえ、我々はオープンイノベーションが決して上手とはいえない、むしろ不器用な会社です。社内で事例が増えてきたことで、ケース別の「教科書」は少しずつ増えてはいますが、毎回手探りしながら必死に取り組んでいる、というのが正直なところです。
ただ、どんなプロジェクトでも新規事業はほぼすべて経営会議の俎上に載せて、何度も議論したうえで判断をもらっています。時間がかかるかもしれませんが、その説明、ストーリー、対話も重要です。なんとしても形にするために、ひとつひとつ必死に進めています。
青田そうですね。新規事業は、あくまでも「経営のオプション」です。だからこそ担当部署だけでなく、経営陣が本気で考えて判断することだと思っているんです。
新事業開発本部として「もっと自由にやりたいから権限委譲してくれ」と言ったことはありません。その代わり、会社の決裁規定を理解して、ガバナンスのルールを理解して、新しいことを実現できるように考えるのが私の仕事です。
ガバナンスと新規事業推進は水と油です。ガバナンスコントロールだけを考えると、新しいことはできなくなってしまいますから、両者のバランスを取る必要があります。
写真中の全モデルが異なるパートナー企業との共創による。
「大きな魚」を見据えた議論をしたい
福田我々は本質的にはエンジニアの集団です。そのDNAを活かしながら、しかし内製思考に縛られることなく、新しい価値を創造していくためです。
もともと「共創でのものづくり」は我々の土台にあるんです。たとえば、世界で初めて電動アシスト自転車「PAS」を開発した際には、ブリヂストンサイクルさんの力をお借りしました。
社会の新しいニーズを捉えようとするとき、自社だけでは限界があります。特に環境や自然のような大きなイシューに向き合うなら、我々がカバーしている範囲外のことを熟知している新しいパートナーが絶対的に必要になってきます。
具体的には、豊かな自然資本と、それに付随する課題を取り巻くステークホルダーは、製造業のサプライチェーンとは異なる領域に多くいらっしゃるはずです。例えば、一次産業や観光業、地方自治体、スタートアップなど、これまで我々とご縁のなかった方々と新たに出会いたいと思っています。
青田もちろん課題やアイデアも大事ですが、我々が共創のパートナーに求めたいのは、ヤマハ発動機よりはるかに「大きい魚」を見据えて議論をするという姿勢です。いい表現かどうか悩みますが、当社を踏み台にして、成長するという気概です。
オープンイノベーションにおいて重要なのは、双方の企業規模によらず、片方が「主」で片方が「従」という関係性にならないことです。「これまでの常識を変えるんだ」という目線で議論ができるパートナーと、ぜひ出会いたいですね。
福田すべて手探りですが、ヤマハ発動機が持つ技術・製品はもちろん、人材や資金の持ち寄りもしたいと思っています。一緒にジョイントベンチャーを作っても良いし、M&Aやバイアウトもあり得ます。
いずれにしろ、本気だからこそ短期的なゴールは考えていません。社会のためになる事業を創り、それを継続する仕組みを創るために、財務指標だけではない判断をしていく必要があると思っています。
お互いを理解し共感するための「ラボ」
福田社外のパートナーと共創していくためには、お互いを理解して共感するプロセスが欠かせません。その共感のつながりを「関係資本」と定義しています。
この“リジェラボ”はそのための場所です。来訪のハードルを下げるためにキッチンを備えて、料理や飲食もできるようになっています。「ヤマハ発動機に興味をもっている人」に訪れてもらい、新たな関係性を構築する機会をどんどん作っていきたいと思っています。
青田もともと、我々は共創空間をフードコートのような場所と定義していました。簡単な食事をしながら、お互いの相互理解を深めることができそうな空間。そこで意気投合すれば、次のステップに進むための場所。
最初からいきなり「一緒に新規事業しませんか?」とお誘いしても難しいと思うので、まずは“リジェラボ”にお誘いして、気軽に対話していくなかで、自然発生的にプロジェクトの種が生まれ、そのうちのいくつかが事業に成長するイメージを描いています。
福田リジェラボのある横浜オフィスビルの1階にはどなたでも入れる体験型ショールーム“YAMAHA e-RIDE BASE”もあります。多くの人がヤマハ発動機を知るきっかけにもなることを期待しています。
リジェラボを訪れた人がヤマハ発動機の社員になってもいいし、共創パートナーになってもいい。直接でなくても、ヤマハ発動機に関わる母集団を増やしていきたいです。
青田逆にヤマハ発動機の社員に期待しているのは、この共創スペースを通して外の人たちとコミュニケーションをとれるようになることです。
これまで新規事業でご一緒してきた会社は、言うなれば自分たちと共通言語をもっているところばかり。そうでない人たちとゼロから新しいものを作り出していくような経験は、まだ我々にはほとんどないんです。
共通言語を持たない領域の人たちと、コンソーシアムのような形で議論しながら、新しいものを生み出していく経験を積んでいきたいと思っています。
福田最終的には一緒にビジネスをしたいわけですが、まずお金の話ありきではなくて、「自分はこれが好きで得意なんだけど、あなたは?」と、お互いの興味を持ち寄った議論ができればいいですよね。
コミュニティビルディングは企業にとっての大事な軸
青田そうですね。事業開発は毎回手探りですが、それでも社外と共有できる我々のアセットがあるとすれば、それはヤマハ発動機のコミュニティを創る力かもしれない、と思っています。我々の製品のSNSコミュニティは、公式だけを合算しても2,200万人を超え、非常に規模が大きいです。
ヤマハ発動機の社内には、自転車やマリンスポーツなどたくさんのコミュニティがあります。そこから「こんなものが欲しいよね」という社員の声が生まれ、それを系譜としてつなげてきた事例が多々あります。
上から押しつけられたタスクフォースと違い、自然発生的に生まれたコミュニティからは、頭で考えるだけでは生み出せない、面白いものが生まれることが多い。今後、世の中の方向性やKPIが変わっても、企業にとってコミュニティを創る力は重要な軸であり続けるんじゃないかと思っています。
“リジェラボ”での試行錯誤を通じて、ヤマハ発動機流のコミュニティを創る力を「教科書」として世界と共有していけたらと思っています。
取材・編集:呉琢磨/執筆:横山瑠美/撮影:岡村大輔/デザイン:田中貴美恵
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2024-10-24 NewsPicks Brand Design
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