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「直す」とは、“物語”に関わり続けること。ゴールドウインが紡ぐ、リペア文化の神髄

「THE NORTH FACE」などを展開するスポーツアパレル企業・ゴールドウインは、なぜ「直す」ことに向き合うのか。リペアの現場からその思想と実践に迫る。

「THE NORTH FACE」などを展開するスポーツアパレル企業・ゴールドウインは、なぜ「直す」ことに向き合うのか。リペアの現場からその思想と実践に迫る。

2026年7月3日


春先でもまだ冷たさを残す、富山湾からの風。そんな厳しい風土に育まれた富山県小矢部市で、ゴールドウインは産声を上げました。1950年、小さなメリヤス工場として出発した同社は、いまや「THE NORTH FACE」「HELLY HANSEN」「Speedo」など、各カテゴリーを代表するブランドを多数擁するスポーツアパレルの大手企業として知られています。

2008年に環境活動「GREEN IS GOOD」をスタートさせた後、2021年には製品や材料の「廃棄ゼロ」や、循環型経済への移行を掲げた長期経営ビジョン「PLAY EARTH 2030」を策定。環境配慮と事業成長の両立という大きな変革へかじを切る中、その中核を担うのが、本社と同じ小矢部市に構えるリペアセンターです。

各ブランド製品の修理をここで一手に引き受ける
各ブランド製品の修理をここで一手に引き受ける

2023年には、かねてより続けてきたキッズウェアの無償修理に加えて、Goldwinブランドの個人向け修理も完全無償化。さらには自社のキッズ製品を買い取り、アップサイクル、再販まで一貫して行う「GREEN BATON(グリーンバトン)」の立ち上げや、メーカーを横断したリペアイベント「DO REPAIRS」の開催など、「直す」という行為をブランド哲学に据えた試みは、この数年でさらに加速しています。

モノが溢れ、壊れたら買い替えることが習慣化された社会で、なぜゴールドウインは「直す」ことにここまで向き合うのでしょうか。そしてその行為は、ものと人との関係に、遊びの質に、何をもたらすのでしょうか。アパレル事業部の畑野健一さんと、生産技術部リペア・EPグループマネージャーの鏡達朗さんに話を聞きました。

左:アパレル事業部の畑野健一さん 右:生産技術部リペア・EPグループマネージャーの鏡達朗さん
左:アパレル事業部の畑野健一さん 右:生産技術部リペア・EPグループマネージャーの鏡達朗さん

「俺は、南極の氷の方が心配なんだ」

まず、ゴールドウインが推進されている環境活動について、どのような取り組みなのか教えてください。

畑野根本にあるのは「地球環境の改善と革新的な製品開発を地続きで捉える」という私たちのモノづくりへの姿勢です。主に「回収・リサイクル」「再生・植物由来素材へのシフト」「リセール・アップサイクル」「修理」の4軸で、活動を展開しています。

どのようなきっかけで動き出したのでしょうか?

畑野弊社はどちらかといえばブランドごとに縦割りで事業を運営してきた会社です。ただ環境活動については、当時事業本部長だった現社長の渡辺貴生が、組織を横断する全社共通の価値軸として立ち上げました。

その時に渡辺が言った「俺は売り上げや利益より、毎年南極の氷が5cm減っていることのほうが気になって仕方がない。この取り組みは、一度スタートしたら絶対にやめられないぞ」という言葉は、いまでも覚えています。

企業として、そこまで言い切るというのは簡単なことではないですよね。そのなかで、「直す」ということが、ゴールドウインの重要な価値観の一つにもなっていったわけですね。

畑野そうですね。そもそもアウトドアの道具は、過酷な自然環境に長く身を置くことを前提に作られています。ですから、万が一不具合があれば、その場で工夫しながら自ら修理して、命を守る必要がある。リペアとはアウトドアブランドのアイデンティティそのものでもあるんです

そしてそれは、私たちのものづくりの精神とも深くつながっています。正直に言うと、ゴールドウインは「安く・大量につくって売る」がとても下手なんです(笑)。その代わり、高機能で価値の高い製品を丁寧につくることには、尋常じゃないこだわりがある。だからこそ、生み出した製品には最後まで責任をもちたいし、お客様にも長く使ってほしいんです。

近年では、「サステナビリティ」という文脈に加え、欧州を中心に「修理する権利」の法制化が進むなど、メーカーを取り巻く法規制や社会的要請も急速に変化していますね。

畑野これまでリペア部門は、製品を長く使ってもらうためのサポートといった位置づけでした。ただ近年、アパレル産業の環境負荷に対する責任が大きく問われるなかで、さまざまな役割や文脈が加わっていると思います。

それこそ、戦争といった社会情勢の不安定化によって、あらゆる原材料の価格が上がり、ものをつくること・買うことのコストは膨れ上がる一方です。「直して使う」ことが、「いいことだから」という理想論にとどまらず、これからの社会を生き抜くための極めて切実で合理的な手段になりつつあるようにも思います。

「つくる」と「直す」は根本的に異なる

ゴールドウインのリペアセンターは、現在どのような体制で運営されているのでしょうか?

富山県小矢部市の本社敷地内にあり、約30名のスタッフが在籍しています。届いた製品を見て「どこをどう残せるか」を判断するチーム、実際に縫製を行うチーム、そしてお客様と修理内容や費用などをやりとりする窓口、といった構成になっています。

年間でどれくらいの修理依頼があるんでしょうか?

現在は、約1万7,000件ですね。

1万7,000件! スタッフはどういった方々が集まっているんですか?

縫製チームでいえば、もともと当社の生産ラインで長年腕を磨いてきた、熟練の技術者たちが、自然とここに集まるようになっていますね。やはり、それだけ高いレベルの腕が求められる現場なんです。

どういうことでしょうか?

まず、通常の生産ラインでは、パーツごとに分業が可能なんですよ。ここだけまっすぐ、ここは曲げて縫う、といった具合に行程が細かく分かれていますからね。

ところがリペアの場合、一人でウェアを縫い上げられるぐらいの技術と知識が欠かせません。届いた製品のどこをどう解体すれば直したい箇所にアクセスできるか、どんな手順で直せばまた使えるようになるか。すべての工程を知り尽くしたうえで、構造を立体的に理解し、逆算しながら解体と縫製を進めていく仕事なんです。

「つくる」ことと「直す」ことでは、そもそもの発想が異なるんですね。

まったく別の仕事だと思っています。ものを「つくる」というのは、決まった工程をいかに品質高く、スピーディーに進められるかが勝負の世界。一方で「直す」というのは、1点1点状態が違いますから、経験値を総動員して、その都度考えて判断していくしかない。つくる工程をただ逆にたどればいい、というものではないんです。

ゴールドウインの面白いところは、その「つくる拠点」と「直す拠点」が、通路を一本挟んだだけの同じフロアに併設されている点ですよね。

日本で展開している大手アウトドアメーカーにおいて、生産工場とリペア部門を併設して置いているところは、実はかなり珍しいと思います。たいていは、海外で製造した製品を、リペアだけ国内で行うパターンが多い。生産と修理の距離が近いのは、弊社の一つの特徴ですね。

リペア部門と生産部門は、同じフロアに地続きで広がっている
リペア部門と生産部門は、同じフロアに地続きで広がっている

その近さには、どういったメリットがあるのでしょうか?

まず、相互に共有できる情報の量がまったく違います。この製品が何年度のものか、使われている素材は何か、どういう縫製工程でどんな順番でつくられているか。当時の指示書や型紙まで、すべて手元に揃った状態でリペアに取りかかれるんです。海外の生産拠点にいちいち確認するようなロスがありません。

加えて、製品の最初の設計図を描いて、工場へ指示を出すのも、すべてこの生産技術部で行っていますから。つくる行程の入り口から縫製の仕上がりまでを一貫して管理しているので、その知見をそのままリペアに生かせる。逆に、直した経験がつくる側へのフィードバックにもなる。これは日本発のメーカーである私たちの大きな強みだと思っています。

「修理」を持続的なものにするには

リペアを企業の重要な価値観として位置づけ、続けていくというのは、ビジネスの観点からはどのような構造になっているのでしょうか?

畑野結論から申し上げると、リペア単体では事業といえるほどの収益は出ていません。現状はまだ「サービス」の領域にとどまっています。というのも、修理にかかる実費を全額お客様にご負担いただくというのは、金額的に見てもかなり難しい。実際、1件の修理に5,000円分のコストがかかっていても、お客様からいただくのは1,000円というケースも珍しくありません。その差分は当然、メーカー側の負担になっているわけです。

ということは、件数が増えれば増えるほどコストが膨らんでいく構造なんですね。

畑野そうなんです。ですから、アウトドアブランドがリペア活動を持続していくには、いまのところ二つの方向しかないと考えています。

一つは、コストの割合を圧縮して赤字幅を狭める、つまり修理価格を少しずつ「適正化」していくことです。しかし、世の中的には「修理は無償、あるいは安くて当たり前」という共通認識が根強くあるので、いきなり価格を適正にするのは難しい。とはいえ、ものの価値を取り戻す行為には、ゼロからつくることと同じくらいの手間と技術がかかります。それを理解していただくための信頼関係とコミュニケーションが、前提として必要なんです。

とはいえ、価格を上げたことで「それなら古いものは捨てて新品を買おう」となっては本末転倒じゃないですか。それは私たちとしてももっとも避けたいところです。

ユーザーから買い取ったTシャツを染色し、カスタムしたもの
ユーザーから買い取ったTシャツを染色し、カスタムしたもの

となると、残すはもう一つの道、ということになりますね。

畑野ええ。リペアという活動が、ブランドの価値を高めることに直結する、あるいはそれが社内外で適切に可視化される仕組みをつくることです。たとえばISO認証のように、リペアを積極的に推進している企業や製品に対して明確な格付けを行う認証制度があれば、一般の消費者にもその価値が伝わりやすくなりますし、自分たちの意義も明確になる。

メーカー単体だけでなく、経産省や環境省といった行政レイヤー、あるいは産業団体との連携も視野に入れながら、そういった仕組みをどう構築していくか。そこを考えていかないと、メーカーが疲弊していくばかりだという危機感もあるんです。

企業価値として可視化できれば、収支のバランスも変わっていきそうですね。

畑野そう思います。現状はリペアがプロモーションやサービスとしてどれほどの価値を生んでいるのか、その効果を社内で共有しづらいという難しさがあります。しかし、その価値をきちんと整理し、可視化すること。それによって、リペアの意義が社会にも、社内にも広く浸透していけば、「この技術と手間のために、せめて3,000円ご負担いただけますか」という理解が得られるようになるかもしれない。そうなれば、持続可能な仕組みとしての土台も変わってきますよね。

もちろんこうした新しい価値観を社会に根付かせるには時間がかかります。だからこそ、いまはそのための「種まき」をしている段階だと考えています。

直すとは、“物語”に関わり続けること

今はまだ事業性に重きを置かず、ユーザーとの信頼関係を築くための手段として捉えていると。

畑野ファストファッションのような安価で消費サイクルの早い製品は、そもそもリペアとの相性があまりよくありません。500円のTシャツを直すのに相応のコストを割くというのは、現実的ではないからです。しかしそうなると、ユーザーとブランドの接点は「消費(購買)」の瞬間だけになってしまう。結果的に、もっと安くてそこそこの品質の製品が現れたとき、ユーザーは簡単に離れていってしまいます。

だからこそ、購入時以外でもユーザーとの継続的な信頼関係を築く必要があるということですね。

畑野おっしゃる通りです。高機能で高価値な製品を出しているからこそ、リペアというコミュニケーションが成り立つし、そこで初めて収益とのバランスがとれる。決して安くはないアウターを選んでくださったお客様に対して、買った瞬間や使っているときだけでなく、その製品のライフサイクルの変わり目(終わり目)にも信頼の瞬間をつくることができる。これは単なるアフターサービスの話ではなく、ブランドとユーザーとの信頼と関係性をつくる行為だと思っています。

たしかに、良いものは買うときも納得して選びますし、使っている間もその価値を実感しやすいですよね。それに加えて、壊れたとき、つまり製品の寿命がきた節目にも接点をつくる手段になると。

「技術は信頼になる」というのは、リペアにもそのまま当てはまるんですよ。例えば、ウェアの穴を塞ぐだけなら補修テープを貼れば事足りますが、私たちはできる限り、元の状態に近づけることを目指しています。同じ生地を使い、縫い方まで再現する。どこを直したのか、お客様が気づかないくらいの仕上がりを追求したいんです。

何年も使い込んだ製品の終わり目に、私たちのものづくりの真価を実感してもらう。これは決して簡単なことではありません。でも「こんなに丁寧に直してもらえるなんて」と驚かれたり、「修理をきっかけにブランドが好きになった」と言ってもらえることは、日々技術を磨いている職人にとって大きなモチベーションになるんです。

これまでの修理で、特に印象に残っているものはありますか?

たくさんありますが……一つ忘れられないのは、お子さんのリュックの修理依頼ですね。ひどく破れたものを、お母さまがダメ元で送ってくださって。直って戻ったとき、お子さんがすごく喜んでくれたそうで、後日、リュックの裏に「ありがとう」と書かれた写真を送ってくださったんです。そういう声をいただくたびに、お客様の暮らしの一部を預かっているんだな、と背筋が伸びる思いがします。

一方で、状態によってはどうしても修理を断らざるを得ないケースもありますよね。そういったものとはどう向き合っているんですか?

生地やパーツの劣化具合によっては、どうしても「修理不能」と判断せざるを得ないこともあります。ただ、そのときに「申し訳ありません、お返しします」と事務的に終わらせるのか、お客様に戻す前に全体を点検し、「ここを気をつければ、次はもっと長く使えます」とアドバイスを添えるのか。修理の可否だけがコミュニケーションではないと思っています。

買って終わりではなく、使い続けるプロセスに伴走し、信頼を積み重ねていく。リペアとは、お客様と一緒にその製品が持つ「物語」を紡いでいく行為だと思うんです。

「直す」行為を、使い手が取り戻すために

リペアの価値を浸透させていくためには、使い手自身が「自ら直すことの楽しさ」を知るのも重要ですよね。家電や自動車をはじめ、あらゆるものがブラックボックス化されている現代において、アウトドアの道具にはそうした発見や手応えがまだまだ残されているように思えます。

畑野まさにその通りだと思います。それを象徴する事例として、オランダのアムステルダム発祥の「Repair Café(リペア・カフェ)」という市民活動があります。地域の憩いの場にさまざまな技術を持った人が集まり、みんなで一緒にものを直すという試みです。

現在、オランダ国内だけで約400カ所にまで広がっているそうで。やっぱり、こうしたムーブメントは企業が単独で抱え込むより、みんなで取り組んだ方が絶対にいいんですよ。企業はそこでノウハウや楽しさを伝えていくことができますし、ユーザーが自ら直せるようになれば、結果的にメーカー側の修理負担も減っていくわけですから。

私たちがパタゴニア日本支社さんと共催しているリペアイベント「DO REPAIRS」も、まさにそうした思想と共鳴しています。実は、本来競合他社であるブランド同士が、一つの目的のために手を組んでイベントを催すというのは、極めて異例の試みだったんです。しかし、実際にイベントの様子を見た米国本国のチームの方々から「これは素晴らしい。絶対に続けるべきだ」と背中を押していただいた。こういう積み重ねが、これからのリペア文化を育んでいくんだと思っています。

「DO REPAIRS」開催時の様子
「DO REPAIRS」開催時の様子

イベントなどを通じた啓発活動と並行して、リペアを支える職人たちの「技術継承」も大切なテーマだと思います。その点、社内ではどのような育成や取り組みをされているんでしょうか?

それこそがまさに、今私たちが精力的に取り組んでいる最重要課題の一つです。現在は、次世代を担う若い人材を段階的に採用しながら、熟練の職人によるOJTや研修制度を推進しています。また、定年を迎えた方々の再雇用制度の整備にも力を入れており、技術を持った職人たちが、その知見を生かして少しでも長く、誇りを持って働ける環境づくりに努めています。

畑野リペアの神髄は、最新の設備以上に、職人一人ひとりの手仕事による技術にあります。その技術は、一度途絶えてしまったら、簡単には取り戻せません。収益と直接結びつきづらいリペアの取り組みは、往々にして、単なるCSRやプロモーションの一環として扱われがちで、企業からしたら打ち切ってしまうのは簡単なことかもしれません。

しかし、一度失った技術や人材をもう一度ゼロから築き上げるには、大変なパワーが必要になります。社長の渡辺が言った「一度スタートしたら絶対にやめられない」という言葉の真意も、まさにそこにあると思います。単発で終わってしまっては、どんなにいいことでも意味がない。続けること、そして続けられる状況と環境をつくること。結局は、それが私たちのような大手メーカーに課された、一番大きな責任なんじゃないかと思います。

執筆:和田拓也 撮影:金本凜太朗 編集:吉山日向

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