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今日とは違う明日を探す旅へ

退屈に塗りつぶされていく人生は我慢ならない。あてのない旅、オートバイで南へ。

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友人がこんなことを言っていた。
人生は時が経つほど退屈になり、それは決して止められないと。
なぜなら、今日初めて見たものも、明日には昨日見たものに変わる。
今日初めて触れたものも、明日には昨日触れたものに変わる。
そして、一度目の感動を二度目の感動が上回ることは決してない。

おまけにヒトの頭はとても優秀なので、100の事柄を知るのに100の経験をする必要はない。
その何割かを経験すれば、残りの事柄はおおむね予測できてしまう。
こうして歳を重ねるごとに、人生から少しずつ感動が失われてゆく。
子どもの頃は無限の広がりを持っていると思われたこの世界が、大人になるにつれて加速度的に小さくなってゆくのだ。
私は人生のアイロニーに底知れない切なさ感じた。

ある日、私は手に入れたばかりの愛車と生まれて初めてのひとり旅に出た。
目的はあるけれど、目的地はない。
これまでの人生で高く積み重ねてきた退屈から逃れようと、衝動的に南へ向かった。

海上に延びる道を走っている。
白々とした太陽の光とエメラルドグリーンの海が速度を上げるほどに溶けて混ざり合い、七色の風になって吹き抜ける。
空には羊の群れのような雲と青空。
これまで見たことも感じたこともない風景だった。

不思議な土地だった。まるでここだけ底がぽっかりと抜けたような弛緩した空気が漂っている。
そして、誰からも忘れ去れたような場所が無数にあった。
それはポツンとした小さな浜だったり、サトウキビ畑を抜ける細道だったり、潮風にさらされて風化した石作りの建物だったり……バイクの旅では、こういう風景とよく出会った。

自由な乗り物が与えてくれた、私による私だけの空間。
この土地の人間と自然は、あっけらかんと明るく、ナイーブな私を笑い飛ばしてくれた。

軽やかなエンジン音に促され、私は夢中で駆けた。
昨日とは違う今日、今日とは違う明日、いつもの日常とは違う日常を過ごしながら。

陽だまりのありがたさや、生命の息吹、木々のさざめき……
そういった身の回りの事象ひとつひとつに心が揺れ動く様を真に「生きる」ことだとするなら、いま確かに私は生きている。
バイクを手に入れ、バイクで旅をしたことで、私の切ない人生の歯車はゆっくりと逆転をはじめた。

ライディングギア協力

ヘルメット:ワイズギア YJ-20 ZENITH
ジャケット:マックスフリッツ シープレザージャケット
ブーツ:クシタニ K-4536 MOCCASIN BOOTS

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