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Moto Life 「初夏の飛騨路、山間の古都へ」

日本に留学中のノルウェー人青年が、MT-03に乗って目指したのは飛騨高山。古い街並みを巡る旅を綴ったツーリング・エッセイ。

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モデル/Erik Svartås

週末を控えた金曜日。大学でその日最後の講義が終わると、キャンパスのあちこちで学生がたむろしては、週末の予定やこれからどこへ飲みに行くかという話で盛り上がっていた。僕はその中のどの輪にも加わらず、真っ直ぐにドミトリーへと戻っていった。先に帰宅していた留学生仲間のひとりが、少し浮かれた表情で僕の肩を叩いて言った。

「やあエリック。もし今夜予定がなかったら、みんなで食事でもどうだい?」
「残念だけどこれから出かける予定なんだ。高山っていう町なんだけど」
「行ったことないけど、たしかキョートみたいとこだろ? いまから電車で?」
「モーターサイクルだよ。ヘルメットがあるなら後ろに乗せていってもいいよ」
「ノーサンキュー。ヘルメットは持ってないし、土曜日はガールフレンドと出かけるんだ。 戻ってきたら感想を聞かせてくれよ。それじゃ、Have a great weekend! 」

グーグル・マップによると、僕が滞在している名古屋から飛騨・高山の町までは、約170kmほどの距離らしい。軽い食事を済ませてから、僕はMT-03にまたがって走りだした。ハイウェイに乗ったときはまだ空が明るかったけれど、高山に着くころにはもうすっかり日が暮れていた。予約していたゲストハウスにチェックインすると、そこは既に海外からのツーリストで溢れていて、いろんな国の言語が飛び交っていた。僕はそのなかの数人と言葉を交わしたが、モーターサイクルでここに来たのはどうやら僕だけのようだった。外国語のおしゃべりは深夜まで続いていたが、僕はそれを子守唄のように聞きながらあっという間に深い眠りに落ちていた。

僕が生まれ育ったのはノルウェーのヴァーダルという小さな田舎町で、自宅から20キロほど離れたハイスクールにYZF-50というヤマハ製のモーターサイクルで通っていた。排気量は小さいけれどレーシーなライディングスタイルのマシンで、スピードもたしか80km/hくらい出せたと思う。ティーンエイジャーだった僕にはそれが刺激的で、毎日の通学が楽しくてしかたなかった。MT-03はもっとパワフルでアップライトなポジションだけど、クルマでは味わえないエキサイティングな感覚は、マシンが変わって僕が20歳になったいまでもまったく変わっていなかった。まさか数年後、同じヤマハ製のモーターサイクルに日本で乗る日が来るなんて想像もしなかったけれど。

翌朝は思ったより早く目が覚めたので、高山の町をモーターサイクルで巡ってみることにした。駅の近くにあるゲストハウスからほんの数分走っただけで、すぐに木造の古い建物が並ぶエリアにたどり着いた。まるでサムライが出てくる映画や時代劇のなかに迷い込んだようで、僕はとても興奮していた。

古い町並みの路地はとても道幅が狭かったけれど、コンパクトで軽いMT-03は、この町をまるでサイクリングするかのように走り回ることができた。

しばらく行くと、ある建物の中に樽が積みあがっているのが見えたので入ってみることにした。中にいた人に聞いてみると、味噌と醤油を作っているお店なのだという。店の奥には大きな樽が二つ並んでいて、チョコレートのようなダークブラウンとライトブラウンの2種類の味噌がそれぞれ入っていた。
「どうぞ味くらべしてみてくださいね。プリーズ・トライ!」
お店の人が指をなめるジェスチャーをしたので、テイスティングしていいのだとわかった。おなじ味噌でも、原材料や熟成させる期間をアレンジすることで味わいが変わるそうだ。日本に来て以来、味噌汁は何度も飲んだことがあるけれど、味噌をそのままなめるのは初めての体験だった。濃い茶色の味噌は3年熟成させたエイジド・タイプのものらしく、味が複雑で僕はそちらの方が好みだった。

※大のや醸造様のご好意により、店舗前まで押し歩きの上、撮影させて頂きました。

「かっこいいバイクですね! どちらからいらしたんですか?」
モーターサイクルを停めて道を確認していた僕に話しかけてきたのは、人力車を引く若い青年だった。彼は僕のモーターサイクルの色が、町の雰囲気に合っていてとてもシックだと言ってくれた。じつは僕自身もまったく同じことを感じていたので、それを聞いてうれしかった。
いまは留学中で名古屋に住んでいるが出身はノルウェーだと伝えると、彼は自分もノルウェーに行ったことがあると教えてくれた。学生時代はスケートのアスリートだったので、ノルウェーにはスケート留学でショートステイしたそうだ。街の名前は覚えていないが、オリンピックが開催された都市だったという。彼の年齢を考えると、きっとオスロじゃなくてリレハンメルだろう。
日本の暑さにいつまでたってもなじめない僕は(寒いのはまったく平気だけど)、涼しくて太陽がいつまでも沈まないノルウェーの夏を思い出して、少しだけ懐かしくなった。

高山の町を巡ったあとは、山に向かって続く道へとモーターサイクルを走らせた。町から少し離れると、飛騨エリアはそのほとんどが山と深い森に覆われている。ノルウェー人はハイキングなど自然と触れ合うのが好きなので、この自然豊かな環境はとても落ち着いた。アスファルトと空以外、どこを見渡してもあたり一面が緑色だった。
「この森の景色、まるでジブリ映画の世界みたいだ!」
今度は時代劇からアニメの世界にトリップしたみたいで、ヘルメットのなかで僕は思わずそうつぶやいた。葉っぱの傘をさしてバス停で待つ大きな森の精霊や、体がバスになった猫……この先何十キロも広がっている深い森の中、何だかそんな不思議な存在とカーブの先で出会えるような気がして、僕は川沿いのワインディングロードを日が暮れるまで走り続けた。

ライディングギア協力

DRAK(ダラク) TRIBUTE

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