Moto Life 「この道が尽きるところ。」
この道はどこへと続くのか、ライダーならばシンプルな好奇心に忠実であれ。
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一本の道が延びている。
わたしは湧き上がる衝動を抑えられずそこを歩き出す。
この道はどこまで続いているのか……。
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まだ幼いわたしはこの世界に対して何の知見も持ち合わせていない。
目の前に広がる風景すべてが美しく、好奇の対象だ。
買ったばかりの絵本を1ページずつめくるような気持ちで一歩、また一歩。
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だが、しばらく歩いてわたしは思った。
道があるということはすでに他の誰かが歩いたということだ。
これまでの漠然とした行動に目的らしきものが芽生える。
この道の終点まで歩き、まだ誰も目にしていない風景を見てやろうと。
わたしは夢中で歩いて、歩いて、歩いた。
だが、小さな歩幅をいくら重ねても終点はやってこなかった。
わたしは諦めてへたり込んだ。見上げた空はいつもより少しだけ青かった。
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いま、大人になったわたしの傍らにはオートバイがある。
人間をはるかに超えるスピードとパワーを瞬時に発揮し、
あたかも自力で走っているような充足感まで与えてくれる機械である。
わたしはそれにまたがり再び目の前に延びる道を行く。
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夜が明けるとともに太平洋に面した賑やかな町を出て西へ。
列島を縦に隔てる山脈を超えるためスロットルを開ける。
秋の冷たい風がわたしに吹き付ける。
ある人は、自動車の移動が「快適」とするなら、
オートバイの移動は「快楽」だと言った。
その二つを分けるのは肉体的な負荷があるか否かだという。
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ライダーがいなければ自立すらできない不安定な乗り物を
身体をむき出したまま右へ左へ走らせる緊張と不安は
否応なしにすべての事象への集中力を高める。
集中した鋭敏な精神は心と自然の距離を縮め、このうえない快楽を生む。
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いくつもの山を越え、数えきれないほどの集落を巡り、
数百kmのトリップを経て、ついに日本海へと至ったときにわたしは理解した。
この道が尽きるところとは、精神の高揚の果てに辿り着く心の状態であることを。
機械の圧倒的な能力を安楽なまま享受できる自動車や鉄道では達することのできない境地。
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ライダーたるもの、子どものようなシンプルな好奇心を忘れず、それに忠実であれ。
目の前の道を走って走って走り続ければやがてオートバイの本質が見えてくる。
新しい発見はいつもの道の先にある。
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