Yamaha Journey vol.29
ヤマハ XT660Z テネレに乗るメタボン(望月康司)のユーラシア~アフリカ大陸横断ツーリング体験談です。
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地平線の先に広がる奇跡の出会い
メタボン
XT660Z テネレ
#03 アフリカ大陸南下、夏を追いかけて。
2019年 アフリカ大陸 前編
東京の下町生まれ。日本ではロスト・ジェネレーションともいわれる1970年代前半に生まれて明るい未来を描けないまま、なにかを成し遂げたいという気持ちだけはくすぶり続けてきたメタボン(望月康司)さん。さまざまな出来事に背中を押されて出発し、人々の助けを借りながら突き進み、時に立ち止まる、ユーラシア〜アフリカ大陸横断の旅。悪路と不確かな情報、そして大自然に翻弄されながらも、広大なアフリカを愛車テネレと共に南へと突き進む。
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青壁は近くで見ると幾重にも重ね塗りされていて奥行きを感じる。
月明かりに照らされたシャウエンは幻想的な世界を見せてくれる。
シャウエン(モロッコ)
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座礁船が放置されている姿に引き込まれる。乗っていた乗客はどうしたのだろうと想像が膨らみ、
ゴムボートがあれば乗り込んでみたいと冒険心が掻き立てられた。
マルサ(西サハラ)
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個性豊かなデコレーションを施された漁船には愛情を感じる。
驚くことに日本の国旗と大漁旗が掲げられており、日本とのつながりを改めて感じた。
エルミナ(ガーナ)
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可愛いの一言。「可愛い」という言葉を真似て「かあーいー」と連呼する。
忘れられないヒンバ村の訪問となった。
ヒンバビレッジ(ナミビア)
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アフリカの入り口、青い街シャウエン
これから向かうアフリカの国々に関して、僕の拙い英語力で検索しても、見つかるのは不確かな情報ばかり。ビザの費用やゲートの場所など国境越えの情報や、キャンプサイトなどの野営施設などはスマホのアプリが役に立つが、不安定な情勢の国々ではいつ状況が変わるかわからないし、両替することすらままならないことも多い。
なんとも不安な気分のまま、タリファからモロッコのタンジェへと向かうフェリーに乗り込んだ。出国手続きは思った以上に簡単で、船から降りる際に出国スタンプをもらって拳銃やドローンを持っていないか確認されるだけだった。
タンジェで一息つく間もなく、シャウエンへ向かう。到着した頃には、もうあたりは暗くなっていた。なるほどこれは青い町だ、と納得してしまう幻想的な風景。ここシャウエンは、町中が淡い水色から深い青までさまざまなトーンのブルーで塗り込まれた「青い町」として有名な地なのだ。
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翌日、ホテルの外に出ると、町中が真っ青。夜の幻想的な風景とはまた違う、まさにSNS映えする街。そこら中でヨーロッパ系や中東系、中国系など、世界中からの観光客たちが自撮りを楽しんでいる。青いことを除けば映画で見るような古い町並みだが、観光地ならではの活気にあふれている。もう一つの主要な産業は漁業だけあって、そこら中に野良猫がウロウロ。
シャウエンへ一泊した晩、スペインで一度合流したFacebook友達、タケヤンからメッセージが届いた。なんとジョージア滞在中に出会ったジョー君と偶然にもマラケシュの日本人宿で知り合ったのだという。3人で再会したく、一刻も早く来て欲しいという。「そう言われたら仕方ないな」と、シャウエンを観光もろくにせずにマラケシュへ急いで向かうことにした。
マラケシュ旧市街の道路は非常に狭く、バイクで通るのもやっと。少しモタモタしていると、少年たちが寄ってきて「ここは入れないから、こっちこっち」などと親切を装いながらチップ目当てで駐車場へと誘導しようとする。後で聞いた話では、スリも多いらしく油断はしないほうがいいかも。
安宿の朝食は50円で食べ放題。マッシュポテトやピタパンにオリーブオイルをたっぷりとつけ、腹ごしらえして出発。
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モロッコはアフリカでありながらヨーロッパの香りも残る街並みで、不便に感じることもさほどない。でも道路上においてはルールを守らないドライバーもちらほら見受けられ、安全運転を心がけていても事故になりそうでヒヤヒヤする。その証拠というわけでもないが、崖っぷちにコンボイと自家用車が正面衝突した残骸が放置されていたりも。その手前にガードレールが取り付けられ、朽ち果てるのを待っているところを見ると、もう片付けられることもないのだろう。
モロッコから西サハラに向かう道中では、マティスというドイツ人と仲良くなり、一緒にダフラまで走ることに。さらに行くとGAS HAVENという看板を掲げたガソリンスタンドの廃墟を発見。ここもうち捨てられた建物なのかと思いきや「The Hills Have Eyes」というホラー映画のために建てられたセットだという。確かにあれは廃墟にしては出来過ぎていた。
モロッコを過ぎてから女性に会うことが全くないことに気づいた。別に旅先でのロマンスを求めているわけではないし、宗教的な理由なのかもしれないが、なんだか寂しい。
ユーラシア大陸と違って、言葉の壁もあり、アフリカはよくわからないことが多い。同じ店でも日ごとに水の値段すら違うことも多い上に、聞く人によって情報も変わるため、これから向かう先のイメージをつかむことすら難しい。
宿泊に関しても不安なことは多い。英語圏ではホテル予約サイトが使えるのだが、それ以外の地域ではスマホアプリを使ってホテルを探し出すぐらいしか手段がなく、飛び込みで行ったらやってないなんてこともしばしば。しかもキャンプ天国であるナミビア以外の多くの地域では、野生動物が危険なため、野営もままならないのだ。
「それでも進むしかない」と言うとかっこいいが、場合によっては命の危険にもなりかねない。モロッコを抜けると本格的にアフリカの文化圏に入る。不安な気持ちを抱えながら、西サハラへとテネレを走らせた。
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モーリタニア国境は、まるで映画の世界
西サハラの荒野をひたすら走りつづけると、いきなり海に出た。座礁したまま放置された船を見つけて「なるほどこれがアフリカか…」と驚く。沖に点在するスペイン領の島々、カナリア諸島を横目にしばらく進むと、華やかなリゾートの雰囲気が漂ってきた。マリンスポーツが盛んなリゾート地、ダフラだ。綺麗な海とパラセーリングを楽しむ人々を眺めながら、リゾート気分でツーリングを満喫する。
西サハラは観光地であるダフラを除けば、ひたすら砂漠しかないという印象。砂漠の中のオアシスにあるホテルにも宿泊した。ガソリンスタンドが併設してあり非常に快適だったが、吹き抜けの天井には網が張られており、夕方は鳥やトンボが行き交っていた。ちなみにアフリカでガソリン=エッセンスという呼び名が一般的。ガソリンというと軽油のことになる地域もあるためだ。エンジントラブルは命取り。匂いを嗅ぐくらい用心したほうが賢明かもしれない。
アフリカでは国境が曖昧なことも多い。その関係で西サハラとモーリタニア国境周辺では、武装した軍が見張りをしていたり、事故車両が放置されていたりと不穏な空気で、地雷が残っていることもあるという。まるで映画で描かれる終末世界のような、荒廃した雰囲気だ。そういえば車の故障により砂漠で遭難しかけたフランスのエンジニアが、バイクに改造して帰還したという面白い話も聞いた。
モーリタニアでは通貨の切り替えがあった関係でお金でトラブルとなることも多く、ボロボロのホテルが3万円と言われたことも。さらに砂漠には住所がなく、スマホアプリを頼りにホテルを探してもなくなっていたなんてことも。そういえばヘッドライトをぶら下げながら走るゾンビのような車を見かけた。 お金のトラブルはできるだけ避けたい気持ちもあり、モーリタニアはひたすら走り続けて抜けることに。
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貧しくも心豊かなギニア
セネガルに入国後、タケヤンと日本人宿で待ち合わせ。国民食だという、パエリアのような「チェブジェン」を食べてギニアへと出発。非常に旨くてしかも100円くらい。
この辺りからマラリアの流行しているエリアに入るため、蚊が嫌うというDEETがたっぷりと含まれた虫除けを買って用心することに。ちょっと値段は張るが、一般のものと比べて長時間にわたり虫除け効果があるという。
ギニアの道路はあまり整備されておらず、オレンジ色のパウダー状の土が眩しい。ネット上ではこの国についての情報はなぜか少なく、出てくるのは悪徳警官や軍人に賄賂を要求されたことばかり。かなり警戒していたものの、行ってみると人懐っこく、お金をせびることもごまかすこともなく正直な人ばかり。ネットは便利なことも多いが、検索して簡単に得た情報を鵜呑みにしてはいけないな、と痛感する。
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コートジボワールのヤムスクロでは、世界最大と言われるカトリック系の大聖堂「LA BASILIQUE NOTRE DAME DE LA PAIX=平和の聖母聖堂」を見学。広大な敷地と美しいステンドグラスに圧倒されながらも、「これは相当お金をかけているんだろうな…」と余計な心配をしてしまう。
コートジボワールからガーナに向かおうとビザを取ろうとするも、なかなか許可が下りない。短パンではなくジーンズに着替えたりと、できる限り小綺麗で印象を良くしようと試みながら、2週間もの間大使館に通い詰めるも返事は「NO」の一点張り。さすがにこれではラチがあかないな、と諦めて「仕方がないから、迂回してブルキナファソを通っていくことにするよ」と伝えると、「あそこは危険だからやめたほうがいい、じゃあビザを出してやる」とあっさり。なぜかはわからないが、急にOKになったのが不思議だった。
ガーナは日の丸を掲げた漁船も見受けられるほどの親日な国。その旧首都アビジャンは、西アフリカのニューヨークと呼ばれるほどの都会だ。現地の人の話によると、見栄を張っていい車を買うという文化らしく、高級車も多く走っている。
職業柄、さまざまな国のお葬式に興味があるのだが、この国のお葬式ではパイロットに憧れていた人は飛行機の棺、マルボロが好きだった人はマルボロの棺と、オリジナルの棺に入れるのがならわし。そしてその棺を道端で作っているのが日常の風景なのだ。歌い踊り、そして故人のために祈るという、明るい雰囲気のお葬式を見ることができなかったのは残念だ。
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ナイジェリアを通ってアフリカ大陸を南下するつもりだったが、当時は同国が非常に危険な情勢にあり、出国できるかも怪しいという話だった。そのためベナンのコトヌーから飛行機に乗り、バイクは船で運んでガボンの首都リーブルビルに入国することに。
それにしても、バイクの受け渡しがクレーンで吊り上げられるという鉄クズのような扱いだったのにはまいった。しかも受け取るとヘッドライトが壊れている! 当然指摘するも「大丈夫だよ、走れるし」の一点張り。おいおいそれは俺のセリフだろ…。しかもそれをゴマかすためなのか「輸入税がかかるがいくら払える?」なんて怪しいことまで言われる始末だった。
これから向かうコンゴは雨季。道も非常に悪路と聞いていたため、リーブルビルで天気の回復を待ってから向かう計画だったのだが、2週間経っても天候は悪いまま。ビザ切れしてしまうため、装備を整えて悪天候の中出発することに。
それからの3日間はまさに地獄の日々だった。連日の土砂降りにより、どこが道なんだか全くわからない。頼りのナビアプリも100km単位でズレてしまい使い物にならない。さらに宿が見つからず教会に駆け込んで泊めてもらうも、虫に囲まれて寝る羽目になるという始末。もちろん泊めてもらえるだけありがたいのだが、さすがに生きた心地がせず、かと言って疲れと眠気には勝てず…いまでも思い出すたびにゾワゾワしてしまう。
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マラリアの洗礼、アンゴラの出稼ぎヒンバ族
どうにも生きた心地がしないままポワントノワールに到着し、アンゴラの飛び地であるカビンダへ。偶然知り合ったバイククラブのメンバーが手続きを手伝ってくれたおかげで、スムーズにアンゴラ入りできたのは良かったのだが…。
旅先でのトラブルは重なるもので、飛行機に乗り込んでひと安心、というタイミングで体調が猛烈に悪くなってしまった。ソワソワして落ち着かなくなり、思考がまとまらない。体温も低下して肌寒くなってくる。ぼんやりとしながらも「これはどう考えても風邪なんかじゃないな」と気付いた。幸いタケヤンと同行していた時期だったので、彼の助けを借りながら検査へと向かうと…恐れていたマラリアに罹ってしまっていた。
薬を飲んで治ったかなと思うと体調が悪化し、翌日も痙攣が続く。「意識がなくなったらどうしよう、どこに連れて行かれるんだろう」と不安だけが募る。珍しく食欲もなくなり、カップラーメンすら作る気力もなく、タケヤンに飯を買ってきてもらったりと世話になる。ホテルで何をするでもなくぼーっとしながら5日間、なんとか薬を飲みきるとようやく快方へと向かった。マラリアにも種類があるらしく、三日熱と呼ばれる軽いものだったのは不幸中の幸いだった。
体調も回復したところで、アンゴラの首都ルアンダに向かう。産油国だからだろうか、オーストラリアの観光地を彷彿とさせるきらびやかな都会。世界で一番物価の高い町としても知られているリゾート地にて、高級クルーザーを横目に野営。さて給油してツーリングに出かけるか、とスタンドに立ち寄ると、なんと産油国なのにも関わらずガソリンが切れているという。ヒヤヒヤしながらスタンドでトレーラーの到着を待つ。
ツーリング先で出会ったのが、アンゴラから出稼ぎに来ていると思しきヒンバ族。世界一美しい民族とも呼ばれている彼らは、観光客を見るなり「写真撮らせてあげるからチップを」と寄ってくる。肌に塗っているのはバターと土を混ぜたもので、虫除け効果があるんだとか。
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アフリカ屈指の先進国・ナミビアのお母さんとの交流
ナミビアの首都ウィントフークへ向かう道中、タケヤンが砂漠で動物の撮影をしたいというので、何百キロも走りながら赤い砂漠と呼ばれるソーサスフライへ向かう。一面の砂漠と青空、そこに塩害で枯れ果てた樹木が立ち並ぶ光景は、まるでシュールレアリズムの巨匠・ダリの絵画のようだった。
キャンプ場では、慣れない一眼レフを使いながら夜景とバイクの撮影にも挑戦した。露出やシャッタースピードなど試行錯誤を繰り返し、ようやくこれでオッケー、とシャッターを切ったタイミングで、なんと流れ星が! 興奮しながら確認すると、完璧とも言える写真に長い流れ星が写り込んでいた。
ナミビアはスーパーも充実しており、ホテルのキャンプサイトも快適。とはいえ首都ウィントフークではキャンプができなかったため、ネットで見つけた安宿に向かうも「ウチはそんな安くないよ」と言われ宿のお母さんとトラブル寸前。しかも改装工事中につき風呂には入れないという。周辺には泊まれるようなところもないので渋々言い値で泊まることに。
こりゃボラれちゃったかな、と思っていると「お風呂に入れなくて申し訳ないんだけど、これで体を綺麗にしてね」と、ポットで沸かしたと思しきお湯を桶にたっぷりと用意してくれた。おかげで体もすっきりとして熟睡。翌朝起きると、ボリュームたっぷりの朝食に感謝の手紙が添えられている。「意外といい宿だったな」と思いながら出発の準備をしていると、お母さんが扉から覗きながらモジモジ。「これでご飯を食べなさい、頑張ってね」と、お昼代まで渡されて見送ってくれた。「ちょっと頑固な方がいい人だったりするのは、どこの国でも一緒なのかもな」なんてことを思いながら、テネレを南へと走らせた。
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メタボン(望月康司)
1975年 東京生まれ。
バイクが好き、キャンプが好き、焚き火が好き。
仕事中にも愛車テネレとの旅を妄想する毎日。
休みは愛車にまたがりツーリングで憂さ晴らし。
もっと遠くへ、もっともっと遠くへ…
いつの間にか異国の地へと思いは巡るようになった。