Yamaha Journey Vol.15
ヤマハ スーパーテネレに乗るフレデリックとアルドによる、フランスからオーストラリアまでのツーリング体験談です。
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世界の果てまで
フレデリック&アルド
スーパーテネレ
#01 ユーラシア編: パリを発ち、ビシュケクまでの旅路。イランで温かい歓迎を受ける。
パリ ー キルギス
フレデリックとアルドがバイクに乗って敢行する地球横断の一大アドベンチャー。総距離はなんと3万キロ。フランスのパリを出発し、アジアの高山砂漠や、ヒマラヤ山脈の麓、マレーシアのジャングルを走破。ふたり がオーストラリアのシドニーへ至るまでの壮大なツーリング旅行記。
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何千年もの歳月をかけ、アドリア海の波に削り取られてできたコトル湾の地勢は、荒々しくも美しい。
コトル湾、モンテネグロ
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カッパドキアは、2,000年以上もの歴史をもった非常に珍しい洞窟網で、岩山に掘られた教会や家屋が地下都市を形作っている。
カッパドキア、トルコ
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見慣れない大排気量のツアラーバイク「スーパーテネレ」に興味を持ち、集まってきた人々。
タブリーズまでの道中、イラン
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雄大なキルギスの山岳地帯。合成写真ではなく、自然の生み出した地形だとは信じがたいほどの美しさだ。
ナルイン峡谷、キルギス
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着の身着のまま
背中に背負った服と、ほんの僅かな荷物を準備しパリ北西部にある自宅を出発。3大陸、20カ国に及ぶ旅の始まりです。旅の支度は当日わずか2時間で完了させました。一つのパニアにコンピュータ、カメラ、3つのレンズ、その他の工具、その上にくくり付けたバッグにはTシャツ5枚、ズボン2着、寝袋、テントの入ったバッグを詰め込みます。どこに泊まるか前もって計画はせず、ルートにもあまりこだわらないで行こう。“成り行き任せ”の旅の方が楽しいだろう――。2人とも、純粋にアドベンチャーを楽しむ旅を望んでいました。
妻のフレデリックが私の腰につかまり、南に向けて出発です。何年もの間、夫婦で世界一周バイクの旅がしたいと話していましたが、4人の子どもを家に残して出掛けるには彼らの成長を待たねばなりませんでした。そしてある日、ようやく大人になった子どもたちに告げたのです。「夢を叶えるために、6カ月間家を留守にするね」と。南東へと進み、雪のちらつく高山地帯の峠道から国境を越えてイタリアの北部に入る間も、心の中で子どもたちのことを考えていました。
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愛車のヤマハは私たちを乗せ、目の前に延びる長い道のりを難なく走り抜けると、やがてスロベニアとの国境地帯に到着します。そこで給油していると、偶然にも私たちと全く同じタイプのヤマハ「スーパーテネレ」が横に停まりました。乗っていたのは、休暇でアルバニアに向かう途中のドイツ人男性、ディルクでした。もちろんすぐに意気投合し、しばらくの間旅の仲間になります。
クロアチアのアドリア海沿岸をなぞるように、潮の香りを爽やかに感じながら長い道のりをゆっくりと走る。岩石の多い海岸線は険しくも美しく、その道の先は、16世紀のおとぎ話に出てきそうな街、ドゥブロヴニクへと続いていました。この街は、ルネッサンス様式の石造りの城壁に囲まれ、世界遺産にも指定されています。さらに南下し、波立つ海に面して修道院が並ぶ入り江の街、コトル湾で少しのんびり。
モンテネグロを後にした私たちは、やがてギリシャに入りました。約10日間で8つの国境を越えたことになります。途中で立ち寄った美しい海辺の町、カラミツィでは、ビーチでオパール色の海を眺めながらおいしいグリークサラダに舌つづみ。砂浜に打ち寄せる波はまるで“催眠術”のように甘美で、うたた寝をしてしまったほどです。
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イスタンブール:アジアへの玄関口
翌日、ボスフォラス海峡に架かるヨーロッパとアジアを結ぶ巨大なつり橋を渡りイスタンブールに入りました。橋の向こう側に見える「アジアへようこそ」と書かれた標識に向かって進むと、ここに来て初めて、自分たちが故郷から遠く離れた場所にいることを実感します。その日は、私の51歳の誕生日でした。
次の日私たちは、思い立ってグランドバザールに行ってみました。そこは61の通りに4,000もの店がひしめく世界最大の市場とも言われ、その歴史は1,400年代まで遡ります。その後、そびえ立つブルーモスク(スルタンアフメト・モスク)を訪れ、昼下がりに響き渡る祈りの声に感動し、いにしえの歴史を肌で感じました。
ここでついにディルクと別れの時がやって来ました。6カ月後、私たちがさらに南東へ進み、広大なアナトリア平原を横断する前に、きっと再会しようと約束しました。ディルクと別れた私たちは、おとぎ話に出てくる煙突のような火山の頂や、奇妙な形の岩など、まるで昔話の一場面を思わせるカッパドキアの風景に迎えられます。山の斜面には洞窟の家が掘られ、かつてそこに住む人々が地域社会を形成していたといいます。その光景は、まるでSF映画の中に迷い込んだかのようでした。その一角で、ある農家の男性と立ち話をしているうちに、「ウチにお茶でも飲みに来ないか」という話になり、家に招待してくれました。聞けば男性は、洞窟にジャガイモを貯蔵していて、中は天然の冷蔵庫のようだと自慢げに教えてくれました。
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その日、泊まる場所を探していると、1軒の美しい古宿がフレデリックの目に留まります。古宿にはカントリー風の中庭があり、豪華な客室には白い高級シーツのかかったキングサイズのベッドが置かれ、窓からは谷をはるか向こうまで見渡す絶景が見えました。しかし宿泊料の高さを聞いた彼女は立ち去ろうとします。宿主は、出て行こうとするフレデリックを呼び止め、どうして泊まっていかないのかと尋ねました。私たちが少ない予算で旅をしていること、そしてどんな旅をしているかを聞いた宿主は、外に置かれたバイクを見て、「さあ、入った入った。好きなだけ泊まっていくといい。お代は払えるだけでいいから」と言ってくれたのです。モーターサイクリストに向けられた人々の圧倒的な優しさを噛み締め、私たちはそこで豪華な一泊を過ごしました。
翌日、焼け付くような真昼の気温の中、国境を越えてイランに入ります。タブリーズに行く途中、食事を取るために小さな町に立ち寄ると、バイクに興味を持った人々があっという間に群がってきました。イランでは大型バイクを見る機会が少なく、私たちが乗っているタイプのバイクは珍しいのかもしれません。若者がバイクにまたがっては、笑顔で互いに写真を撮り合っていました。
それからテヘランに入り、友人の家を探しながら走っていると、すっかり道に迷ってしまいました。結局、56度の猛暑の中、郊外から郊外へと180キロもの距離をさまよいましたが、ようやくサバーの家にたどり着くことができました。彼は果物の卸売商をしている友人で、そこで数日間の休暇を取った後、カスピ海近くの山中にある彼の別荘に連れて行ってくれました。さらに彼は、私たちの食べ物やバイクのガソリンまでも「自分が払うから」といって聞きかない程、私たちをもてなしてくれました。テヘランでの猛暑を経験した後だったこともあり、別荘のある山の涼しさがとても気持ちよく感じられました。
翌日は、トルクメニスタンとの国境に向けて出発。一日中バイクに乗って過ごした後、山中の人里離れた美しい場所にテントを張って泊まることにしました。黒いビロードの上にダイヤモンドをちりばめたような満天の星の下に横たわり、幾つかの果物と、パンとチーズだけのシンプルな食事を楽しみながら、自由を実感し、周囲の山々にみなぎる力を感じ取っていました。
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中央アジアの砂漠と山岳地帯
イランとトルクメニスタンとの国境では、入国を認めてもらうのに5時間もかかりました。ここは世界で最も入国規制が厳しい国の一つです。色鮮やかな服やスカーフを身にまとった女性たち(イランの黒い服とは一転して)が、トルクメニスタンに絨毯の行商にやって来ていました。私たちが進む乾燥地帯は、かつて世界で最も偉大な文明国家が出会う“交差点”だった場所。ヨーロッパと中国をつなぐ古代の通商ルート、シルクロードの最初の中継地として栄えていました。
首都のアシガバートは、白い大理石の町並みが美しく輝く街で、大統領の写真が至る所に掲げられています。数日間の通過ビザしか持っていなかったので、そこでは時間を割かずに、小さなレストランで食事を済ませる事にしました。経営をしている20代の若者たちはとても親切で、私たちの旅に興味津々。お互いの言葉は話せなくても、初歩的なロシア語と身ぶり手ぶりで理解し合うことができました。そして彼らは「今夜はここで泊まっていくといいよ」と勧めてくれました。食事に使っていた低いテーブルの上で寝ることになったのですが、あまりに蚊が多かったので、蚊帳代わりに店内にテントを張ってその中で寝ることにしました。
ウズベキスタンとの国境では、私たちと同じくオーストラリアを目指し、バイクで旅をしているドイツ人に会いました。ブハラに入ると、石造りのモスクやマドラッサ(イスラム神学校)の美しさと精巧さに目を奪われます。そのどれもが、5,000年前から続く文明国が存在していた証なのです。ブラハでは、小さな宿に泊まることにしましたが、地元の貨幣を一切持っていないことに気付きました。宿主に、両替してもらうための50ユーロを渡すと、お金がぎっしりと詰まったビニール袋をもって戻ってきました。まるで億万長者になったような気分です。
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数日たち、東に向かって出発する時が来ました。これまで走行してきた中で最も凸凹が激しく険しい道に、フレデリックの背中の筋肉が悲鳴を上げているようす。しばらく走っていると、岩だらけの景色の隙間から突如、岩の大地に宝石をはめ込んだような美しいターコイズブルーの湖が現れます。私たちはそこで小休止を取り、写真撮影を楽しんだあと、緑の生い茂るフェルガナ峡谷に入っていきました。ここはこの地方の綿花貿易の中心地だった場所で、丘の斜面はまるでビリヤード台のように鮮やかなエメラルドグリーンの草が生い茂っています。私たちはアンディジャンという小さな村に立ち寄り、キャンプに適した場所はないか地元の人に尋ねました。すると、ある村人が泊めてくれるという家に連れて行ってくれました。そこでもまた、身振り手振りのコミュニーケーションでしたが、私たちに寝室を空けるため、女性と子どもたちが外で眠るつもりでいることを知ります。見ず知らずの私たちに、こんなにも親切にしてくれる人々の存在は、驚きと感動を与えてくれました。
翌日、国境を越えてキルギスへ。愛車の「テネレ」で、頂に雪化粧をした山岳地帯へと登っていくと、この地方ではよく見られる移動式の円形テント、ゲルに住む遊牧民や、ゲルの周囲の丘をのどかに歩き回る馬の姿が見えました。2人の少年が恐る恐る近付いてきたので、ガムをプレゼント。標高2,500メートルもある最も高い峠の一つを通過中に激しい雨に降られながらも、山岳地帯から谷を一気に下ります。ビシュケクに向かって進んでいる道中で、少しずつ寒さが和らいでいくのに気付きました。そして、街にたどり着いたときは、何か偉業を為し遂げたときのような達成感で満たされました。
そこで見つけた小さな宿は、旅人でごった返していました。自転車で世界を旅する日本人の男性や、仕事を辞めて世界旅行を楽しむフランス人男性にも出会いました。私たちのバイクの旅も全行程の3分の1を走ったことになり、訪れた国は14カ国、距離にして1万キロに達しました。しかし、アドベンチャーはまだ始まったばかりです。
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フレデリック&アルド
夫婦でタッグを組むユニークなチーム。アルドが文章、フレデリックが写真をそれぞれ担当し、バイクツーリングでの冒険旅行記を共同で発信している。人々との新しい出会いを何よりも楽しみながら、“オーストラリア遍歴”では20カ国、延べ3万キロを走破。初めての本格的アドベンチャー旅行を無事に終え、現在は南アメリカ大陸横断ツーリング旅行を計画中。