Yamaha Journey Vol.06
ヤマハFZ1 FAZERに乗るオーストラリア人男性ライダー、クレイグ・マッカーシーの日本ツーリング体験談です。
ライダーを駆り立てる道がある、それが日本だ
クレイグ・マッカーシー
FZ1 FAZER
#01 日本:日本人の温かさに触れて
瀬戸内 ― 四国
走らずにはいられない場所がある。クレイグ・マッカーシー氏にとっての日本です。今回はオーストラリアから移り住み、この国でのツーリングに身を捧げてきた氏が愛するルート3つについて語ってもらいました。
比類なき存在感。驚くほど優美なんだ。
姫路城、兵庫、日本
森の静寂に、原色が舞う。
祖谷渓、徳島、日本
島から島へ。島から島へ。ゆっくり愉しもう。
しまなみ海道、愛媛、日本
自然とともにある信仰が、神々しくそびえ立つ。
宮島、広島、日本
農家の人たちは、笑顔でオレンジをふるまってくれた
四国。僕にとっては特別な土地です。はじめて愛媛県を走った2009年、僕らに話しかけてきた農家の人たちは「食べて、食べて!」と笑顔でオレンジを差し出してくれました。見知らぬ人にも優しく接するのは、日本人のすばらしいところ。四国では素晴らしい景色も目にできるからバイクで走るのが楽しい大好きな地域です。
そのスタート地点としては日本で最も大きなお城、姫路城を選びます。400年以上も焼失や破却をまぬがれ、昔からの姿を今に伝える珍しいこのお城。最上階からは、瀬戸内海と四国を臨むことができて、この旅の幕開けにピッタリです。これから始まる冒険、つまり未来へとつながるのと同時に歴史を感じさせます。僕はこの対比が好き。旅のスタート地点にお城を選ぶことは、オーストラリア人である僕にとっては日本的でグッとくる部分です。
姫路から小豆島へはフェリーで。多くの外国人にとってフェリーでバイクを運ぶことはワクワクのひとときです。その過程では多くの船とすれ違いますが、人や物の行き来が活発であることに驚かされます。であるにも関わらず、ものすごく静かなのが小豆島。ここには醤油の醸造所と、胡麻油の工場があります。同じ島にいても場所によって匂いが大きく異なるのは、そのためです。この島はすごく面白い。きれいな青い海があるだけでなく、豊かな緑もある。日本で一番乾燥しているエリアのひとつなので、天候に左右されずに走れますから、ライダーには打ってつけです。なかでも瀬戸内海を見下ろせる峡谷へといたる道は、ヘアピン続きで最高。小さな島なのに2日くらいは飽きずに楽しめます。野生の猿とも触れ合えますしね。
誇りをもって働く人たちと触れ合うのが好き
小豆島から高松へもフェリーで。高松では讃岐うどんを避けては通れません。お店でお金を払ってどんぶりを渡されると、最初のおばさんからは麺をもらい、次のおばさんからはスープをかけてもらう。最後は具材をセルフサービスで。この流れが何も気取っておらず実に機能的。「食べる」に特化した仕組みがあります。そして彼女たちが自分の仕事に誇りを感じながら笑顔で働いている。僕はそういった仕事に触れるのが大好き。いつも温かなサービスに心を動かされます。讃岐うどんも絶品ですが、彼女らの温かさも一緒に味わっている気分になります。
人の温かさに触れられる場所もあれば、四国には神秘的な気持ちにさせられる場所もあります。なかでも最もお気に入りなのが祖谷渓です。子どもの頃、オーストラリアの国立公園で、空気や風が自分のほうに吹き込んで来るのではなく、吹き出て行くような感覚にとらわれたことがありましたが、祖谷渓にもそんな生命の息吹を感じます。これこそがマイナスイオンなのでしょうか。ここでは谷を縫うように道路が走っていますが、日本で経験した景色のなかでも指折りといっていいでしょう。
いつものことながら四国の内陸部はすごく美しい。祖谷渓から裏道を通って高知に抜けると、高知城や坂本竜馬像などの見どころもありますが、なかでも僕が好きなのは怖くなるほどに巨大な龍河洞。ここには長い歴史があります。洞窟の出口には、そこにずっと住んでいた原始人を紹介する展示もあって、自然とともにあった彼らの暮らしぶりには興味をそそられます。
ライダー同士が交流しあえる宿が、旅をもっと豊かに
洞窟の後は、交通量が少なく、高知の市街を見下ろせる気持ちのいい龍河洞スカイラインへ。ほかにも高知は横浪黒潮ラインのような世界中のライダーを魅了する道に恵まれています。僕にとっては、変化に富んでいて、どっちに向かっているのか途中でわからなくなりそうなのが「いい道」。曲がるたびに新しい景色に出会えるのが魅力です。逆にオーストラリアや北海道には直進し続ける道があります。そこには大地をひたすら突き進む魅力はありますが、僕はフィジカルなアクションが求められる変化のある道のほうがいいですね。
もうひとつ、四国では「ライダーズイン四万十」に泊まるのが好き。ここはライダー向けの施設で宿泊費が安い。共有の冷蔵庫、キッチン、テレビがあって、夜には囲炉裏に集まった人たちが、お酒を呑みながら交流しあうし、キッチンで料理をしていると必ず誰かが「何をつくっているの?」と話しかけてきます。人と人との交流から生まれる温かさに満ちあふれた場所です。
日本一美しい朝日に会いに行こう
愛媛から広島へ向けては、しまなみ海道(西瀬戸自動車道)で瀬戸内海を渡ります。橋が連なるこの道の間には、たくさんの小さな島々があって、たくさんのビーチを目にできます。いくつかの島は、本当に何もなくて、ものすごく静か。ときには橋を走るだけではなく、ひとつの島をぐるりと走って、また次へと向かうことも。日本には朝日が最高に美しい場所がふたつありますが、ひとつが能登半島なら、もうひとつはここ。何度でも帰りたくなる思い出に残るエリアです。最後は広島に抜けて、景色のきれいな宮島へ。広島では牡蠣とお好み焼きに舌つづみ。これもお決まりのアクティビティです。
いつもツーリングの前にはこんな風にルートや周辺情報を大まかに調べますが、必ずしもそのままに走らなくてもいい。ときには雨に見舞われて動けなくなることもありますし、思いがけない出会いに恵まれたら、次の予定地をキャンセルして長居したっていいじゃないですか。ツーリングは仕事ではないので楽しむことが最優先。予定をフレキシブルに変えながら走ることこそが、思い出に残るツーリングのコツなんですよね。
クレイグ・マッカーシー
オーストラリア出身。曲がりくねった山道、美しい景色。バイカーを取りまく日本の環境に魅了され、これまでの11年間で47都道府県のうち46の地域を体験。長期ツーリングは年に2回。数日間のツーリングは年間を通じてたびたび。2007年からの愛機はヤマハFZ1 FAZER。本州の最北端、最南端、最東端、最西端のすべてをともに巡り、サーキットレースも、ドラッグレースも、台風の日も、雪の日も、ともに走ってきた。これまでの冒険の軌跡は「Touge Express」に。ここで毎年恒例となっているツーリングイベント「Coast to Coast Twistybutt」や「Tokyo Toy Run」のルートマスター。ツーリングのリーダーを務めることもある。