Yamaha Journey Vol.05
ヤマハBW’Sに乗る日本人サラリーマンライダー、小口隆士のキューバツーリング体験談です。
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どこまでもマイペースな旅を、それが僕の流儀です
小口隆士
BW’S
#02 キューバ:未知の出会いに、思いを馳せる
キューバ
バイクで走る。現地の日常を目にする。人々と交流する──。会社員を続けながら、たくさんの国でバイクを走らせてきて早19年。そんな小口隆士さんにとって海外ツーリングとは、未知との出会いを意味していた。
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大昔にタイムスリップ。まるで映画のワンシーンみたい。
コロン、キューバ
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降っても晴れても、夕陽は僕らを、やさしく包み込む。
コロン、キューバ
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舟はハンドメイド。キューバでは、これも日常です。
シエンフエーゴス、キューバ
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こんな立派なリゾートがあるとは、想像もしなかった。
バラデロ、キューバ
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報道では知り得ない、キューバ人の日常に触れたい
私にとってキューバは、22番目に走った外国でした。コスタリカや、グアテマラ、ホンジュラスといった中米の国に足を運んだことはありましたが、やっぱりこのときも自分の目でキューバという国を見てみたかったのです。それがキューバを訪れた一番の理由でした。そうはいっても「何を見たい」という具体的な対象はなかったですね。強いていうならメディアが取り上げてこなかったキューバを知りたかった。たとえば、ごく普通のキューバ人の生活。報道には偏りがあるものですから、テレビや本で目にしただけでは、その国の本当の姿はよくわかりません。もちろんキューバを訪れる多くの人と同じようにチェ・ゲバラにも興味はありました。キューバのような軍事政権下にある社会主義国の様子を知りたかったのも事実です。
このときは、オーストラリアやモンゴルのときとは違って、パックツアーではありませんでしたから、自分でバイクの手配をしました。現地でバイクをレンタルできることまではわかっていたものの、リゾート地であるバラデロ地域の外を走れるのかどうかまでは不明でしたので、いうなれば出たとこ勝負だったわけです。
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古いものと、新しいものとが共存する国
訪れて最初に感じたことは、ほかの中米各国に比べると、キューバはすごく整っているということ。いい加減な部分が少なく、キッチリしている印象を受けました。経済制裁が入っている国のせいか、古いものを再生し、上手に生かす文化もあるようでしたしね。 そのせいか今でも馬車が走っていましたし、古いクルマもたくさん現存していました。しかもクルマについては「一人に一台」ということは希のようで、多くの人が乗り合いをします。そういった意味でも無駄づかいは控える文化なのでしょうか。それに子どもたちは制服をキチッと身につけていて、教育に力を入れているお国柄であることは、観光客の目にもわかるほどでした。さすが教育や医療が無料なだけはありますよね。
想像と違っていたのは、思いのほか新しいクルマをはじめ、現代的なものも揃っていたことです。もっと制限されているのかと思い込んでいました。そうはいっても街の看板を見ていてもホテルが見つからないのは、社会主義国家らしいところ。商売っ気が希薄です。外国人向けの観光地だけは、リゾートホテルが建ち並ぶから例外ですが、ほかのエリアだとバイクで走っていても、看板が出ていないからホテルが見つからないほどです。見つかっても窓ガラスがなくて、ブラインドだけのホテルもありました。ガラスが不足していた時代があったのかもしれませんね。
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予期せぬものと出会う。それが一番の楽しみ
ゲバラのお墓には足を運びましたが、この頃には有名な観光地をくまなくチェックして回るような旅には興味がありませんでした。たしかに有名な観光スポットを自分なりに評価するなら、一度は足を運ぶべきでしょう。けれども「有名だから行かなければ」という気持ちでいると、せっかくの旅が重荷になります。私の場合、有名な観光スポットが途中にあれば立ち寄りますが、観光地そのものを旅の目的には据えません。それよりも、どこかからどこかへの移動中に、予期せぬ何かと出会うことが一番の楽しみです。その過程で、現地の人たちの生活を知るのも良し。現地の人と触れあうのも良し。必ずしも大きな出来事を楽しみにするのではなく、淡々とした日常風景を眺める旅です。やっぱりガイドブックには載っていないようなことを知りたい。いつも心は、走っている途中のできごとにあります。
キューバでもそうでしたが、ルートは日本で大まかに決めておきます。けれども到着してから入手した情報や、気分によってどんどん変更します。こっちのほうが楽しそうだと思えばそっちへ。疲れたら、ためらうことなく予定を変更して休む。とにかく事前に決め過ぎないことがポイントです。そんな風だから、ホテルも事前には予約しません。もちろんサッと泊まれる地域と、サッとは泊まれない地域がありますし、泊まれないことが命とりになるような場所もありますから、あらかじめリサーチはしておきます。そしてサッと泊まれなそうな場合には事前に予約をしたり、ガイドを雇います。
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バイクが、目的のない旅を、豊かに彩ってくれる
私の旅は、ある意味「目的のない旅」です。そんなスタイルであっても気持ち良く楽しめるのは、バイクで移動しているからに違いありません。観たことのない景色を目にする、五感でその場の空気を味わう、好きな場所で自由に停まる。いずれもバイクだから容易にできることです。きっと自転車だと体力的にきつくて、移動が億劫になりそうですし、飛行機でひとっ飛びだと、旅した気がしない。やっぱり私にはバイク旅が、ちょうどいい。マイペースで遊べますからね。
海外ツーリングを続けてきてわかったことは、2週間ほどあれば地球上のたいていの場所には行けるということです。長期休暇を上手に使えば、会社を辞めなくても大丈夫。しかも国内旅行よりも安く楽しめる場所すらあります。海外ツーリングというと、ものすごい大ごとのように響きますが、必ずしもそうではありません。ごく普通のサラリーマンである私が、こうして何10カ国も気楽に回って来たのです。思ったほど難しくないことだけは、自信をもって言えます。
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小口隆士
1961年、茨城県水戸市生まれ。海外ツーリング普及家。1995年に初めての海外ツーリングを経験して以来、サラリーマンを続けながら世界中をバイクで駆け巡る。これまでに足を踏み入れたのは32カ国以上。海外ツーリングに興味のある人たちをつなぐ「ワールド・ツーリング・ネットワーク・ジャパン」のスタッフも務める。