本文へ進みます

Yamaha Journey Vol.03

ヤマハSR400に乗る日本人男性ライダー、細川博史のユーラシア大陸横断ツーリング体験談です。

MENU

旅を豊かに彩るもの、それはハッピーな出会いだ

細川博史

SR400

#03 ユーラシア:大好きな都市ができた
スイス ― イギリス

好きな日、好きな時間に、好きなところへ。
景色を、匂いを、音を、気候を、全身で感じながら──。
未知のものと出会いを求めて、ロシアからはじまったバイク旅は、
温かな出会いと、大地の息吹に彩られていた。

ステルビオ峠を越えてスイスに入国。ドイツではフュッセン、ローテンブルク、ハイデルベルグ、ケルンなどを、オランダではアムステルダムを経由して、ホーク・ファン・ホランド港から出るフェリーでイギリスに上陸。はじめてユーラシア大陸を離れる。総走行距離は7, 500キロメートル。

標高2800メートルを、五感で味わおう。

ステルビオ峠、スイス

静かな気持ちになった。こんなの久しぶりだった。

ケルン大聖堂、ケルン、ドイツ

白、青、緑のアンサンブル。地球の色は美しい。

セブンシスターズ、イギリス

草原に突如としてあらわれた迷宮へ。

コッツウォルズ、イギリス

シニカルと思いきや、とってもウェルカムな人たち

アルプスを越えてスイス、ドイツ、オランダを走り抜けたものの、このあたりでは出会いに恵まれなかった。そのせいか実のところ強い印象が残っていない。スイスなんて人は優しい上に、完璧なまでに美しい景観もある。だから好きな人には最高な国だと思うけれど、僕は塵ひとつ見つからないような街よりも、もう少し隙があって生活感がにじみ出た土地のほうが好き。ただしイタリアとスイスの国境にあるステルビオ峠だけは別。標高2700メートルからの眺めは格別だった。周辺各国のバイカーとも交流できたしね。あの日、あそこにいたバイカーで、一番遠くから走ってきたのは、きっと僕だと思う(笑)。

いずれにしても西ヨーロッパで一番気に入ったのはイギリスのロンドンだった。世界有数の都市だし、首都の人って総じてそんなに人懐っこくないものだから、本音をいうと、行く前はそこまで出会いに期待していなかった。だけど、ここではいい意味で予想を裏切られた。ロンドンではシチリアで仲良くなったディエゴの弟、アレクサンドロのアパートに転がり込んだのだけど、彼を通じて知り合った人たちが決まってナイスでね。イギリスの映画監督、ガイ・リッチーの作品ではイギリス人ってシニカルに描かれているから、そういう取っ付きにくい人たちだと思い込んでいたけど完全な勘違いだった。むしろ歓迎してくれる人ばかり。最高だったな。

ロンドンは例外的にほれこんだ大都市

ロンドンには世界中のバイカーが集まってくる「エースカフェ」がある。そこでも僕が走ってきた道程をマーキングした世界地図を広げて見せたんだ。すると、みんなから「ここで待っていろ」と言われ、店のオーナー、マーク・ウィルズモアを紹介された。バイクの世界では、彼はちょっとした有名人。従業員がいる前で僕のことを指さして「こいつはオレのゲストだから一切金を取るな」と言ってくれたんだ。ああいう心づかいは本当にうれしい。お言葉に甘えてエースカフェには1週間くらい通い詰めた。

イギリスは、セブンシスターズやコッツウォルズ、ストーンヘンジをはじめ、美しい景色に恵まれた国だ。ロンドンから離れて北に向かうと、のどかな田園風景がたくさん残されている。ロンドン自体も緑が驚くほど多い。どちらかというと天気が良くて明るい街のほうが好みなのにロンドンだけは例外。そうではなくても許せる。不思議なことに曇っていても街並みが美しいからだろうね。

バイクが、旅をどこまでも気楽なものにしてくれる

ほとんどの旅人は、未知の国に対して何らかの思い込みを持っている。けれども、いざ足を運んでみたら、そのイメージをくつがえされることは本当に多いし、想像を超える何かと出会ってこそ、味わい深い旅になる。それにね、悪い人ばかりの国なんて、そうそう存在しない。どこに行ったって9割以上の住人は親切だった。自分のほうこそ警戒されないように、頭髪やヒゲ、身なりには気を配っていたくらい。そのおかげか、すべての出会いはハッピーなものだった。

いずれにしてもバイク旅では、好きなときに、好きな土地へと向かえばいい。好きなペースで、好きな景色だけを観て、その土地の匂いをかぎ、周囲の音に耳を澄まし、暑さも寒さも、空気の状態も、肌で感じながら。これこそがバイク旅の醍醐味。こんなにフットワーク良く移動できる乗りものはほかにはない。地球の魅力を五感で味わうのにピッタリな乗りものなんだよね。


細川博史

1977年神戸生まれ。大学卒業後、バイク関係のWebサイトを起ち上げる。その運営を経て、2009年から3年間に渡って世界を巡る旅に。愛車はYAMAHA SR400。これまでにバイカー、バックパッカーとして足を踏み入れた国は50カ国以上。現在はWebコンテンツ制作する編集者として東京で暮らしている。

ページ
先頭へ