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XV750 Special 開発者インタビュー

展示コレクションの関連情報

鼓動、性能、外観……バランスを追求した75度V

PROFILE

倉井宣好氏(くらい・のぶよし)
XV750Special/XV1000TR1の車体設計担当
鈴木貞英氏(すずき・さだひで)
XV750Special/XV1000TR1のエンジン設計担当

倉井:XV750Specialは、まず1970年代後半に並列2気筒のXS650Specialが出て、次のアメリカンはV型エンジンにしようということで、企画が持ち上がったと記憶してます。

鈴木:横置き空冷Vツインというのは、当時日本のどのメーカーも作ってなくて、ヤマハ発動機では初めてのトライでした。でもアメリカでエンジンの形態をヒアリングすると、クルーザーはV型だっていう、強い固定概念がある。だから、これまでのSpecialシリーズを超えるアメリカンを作るには、どうしてもVツインが必要だったってことでしょう。



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倉井:ただもうひとつ、同じエンジンとフレームを使ったXV1000TR1という1000ccヨーロピアンスポーツも平行進行していたから、アメリカン専用設計じゃなかった。

鈴木:企画段階では750ccが先です。国内の自主規制がありましたから。

倉井:まず、国内向けのXV750Specialとアメリカ向けのXV750Viragoという750ccのアメリカンがあって、同時にヨーロピアンスポーツのXV1000TR1とアメリカ向けのXV920Rも作った。

鈴木:ヨーロピアンモデルは、日本にもありましたよね?

倉井:XV750E。こっちは1年遅れの1982年発売だったかな。

鈴木:アメリカでは、当初からViragoって名前を使ってましたっけ?

倉井:そう。アメリカは愛称をつける場合が多くて、ベンチャー(XVZ12/13)やセカ(XJ650)もそうでしょう。Viragoは、V型ツインだから頭文字にVが付く名前ってことで探して、"口うるさいオンナ"とか"男まさりの娘"とか、そういう意味でしたよ。

鈴木:日本では、その前のXSシリーズで「ヤマハアメリカン=Special」みたいなイメージがあって、1984年にモデルチェンジしたXV750が最初のViragoですよね。

倉井:その時に、車体も足まわりも全部変わったけれど、エンジンだけはほとんど変わってない。それどころか今のDragStar1100、これは私がプロジェクトリーダーだったんですが、エンジンの中身はXV750Specialの頃と同じ。それくらい、よくできたエンジンなんです。

鈴木:このエンジンの狙いは、Vツインらしい不等間隔爆発の鼓動感。また、TR1の存在があるから、それなりの性能も出したかった。でも、鼓動と振動は表裏一体。回転を上げれば、振動で壊れるかもしれないという信頼性の問題もついて回るんです。

倉井:だから、まずVの挟み角を決めるところでずいぶん苦労したよね。


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鈴木:どこで折り合って、バランスを取るかの問題。90度なら一次振動が出ないから回転を上げられるし、性能も出せる。でも、そうするとV型に見えないし、全長も伸びてしまうという弱点がある。ところが45度じゃ狭過ぎて、性能を出すために大きいキャブレターを入れようとすると、Vバンク内に入らない。

倉井:そのうえ、挟み角が狭くなるとエンジンが立ってきてタンクやシートの位置が上がってくる。でもアメリカンだから、スタイルはロー&ロングにしたい。そんなことでももめた。

鈴木:ハーレーは45度、ドゥカティは90度のL字型、モト・モリーニには72度というのがあるんです。それと昔のクルマで、ビンセント・ラパイドという60度Vもあった。もっと古くなると、アラビアのロレンスに出てくるブラフ・シュペリアは確か40度だったか45度だったか……(笑)。とにかく、いろんなモデルを参考にしましたよ。

倉井:クランクのところをハトメで止めて、Vの角度が変えられる絵というか模型を作ったりもしたよね。

鈴木:今みたいに、コンピューターでパッパッと何種類も図面を作るというわけにはいかないので、大きなAゼロの図面の下に、角度が何度だったら振動がどのくらいという計算をして、一覧表を作った記憶があります。ただ、75度にしようと決まってからは、最高馬力がいくつとか、そんな数字にあまりこだわってなかったと思います。むしろ乗り味というか、Vのフィーリングのほうを重視していました。


未知のアイデアに独創の技術で体当たり
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倉井:最初にV型のこんなエンジンを使うって決まってから、車体設計のチーフがプレスバックボーンのモノコックフレームを発案したんです。でも、そんなフレームは誰も作ったことがない。ちょっと試してみようと、ハーレーのエンジンに合わせて簡単な絵を描いて、いきなり試作フレームを作っちゃった。

鈴木:それでちゃんと走ったの? 記憶に残っていないんだけど……。

倉井:実は私もよく覚えてない……。結果的にこの方法を使ったわけだから、よかったんだろうね、きっと(笑)。

鈴木:V型エンジンも初めてだったけど、モノコックフレームも初めて。マウントする時は大変でしたよね。前側のシリンダーヘッドをメインフレームに、クランクケース後端をリアアームブラケットにがっちり固定して、エンジンをフレーム剛性部品の一部として使うという構造なんだけど、前側シリンダーのヘッドと車体の間に入れるガスケットがヘタって剛性が出ない。それで、メタルタイプの特殊なガスケットを使ったりした。

倉井:その時、後方シリンダーをどうするかも問題でね。フレームが鉄でエンジンはアルミだから、しっかり拘束してしまうと、熱膨張でエンジンにストレスがかかる。そうかといって、解放したままでは振動が収まらない。

鈴木:空冷で排気量が大きいうえに、後ろのシリンダーは風が当りにくいから、熱膨張は避けて通れない問題なんです。

倉井:それでラバーマウントしてみたら、すごく具合がよかった。どうしてなのか、実はよく検証できてないんだけどね(笑)。でも、熱といえば、TR1のほうが苦労した。



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鈴木:そうそう。1000ccだし、アメリカンよりもっと回転を上げるから、よけい発熱量が大きい。買ったばかりの赤外線表面温度計でTR1のエンジンを測ったら、風を受ける前方シリンダーは青っぽいのに、後ろは真っ赤っか(笑)。びっくりしましたね。

倉井:それで、右のサイドカバーの前端に黒い導風板をつけた。

鈴木:表面温度計のモニターを見ながら、サイドカバーのところに手を当てて風の通り方を確かめながら、板の向きや形状を文字どおり手探りで決めていきました。真夜中まで、実験と設計の担当がみんなで「うーん冷えないねえ」なんて言いながらね(笑)。

倉井:単純な仕掛けだけど、効果はすごくあった。

鈴木:そのほかTR1は、Specialがシャフトドライブだったのに、わざわざチェーンドライブを使ったでしょう。

倉井:アメリカ市場を見ると、圧倒的にシャフトが支持されていた。ヤマハの主力車種も3気筒、4気筒とシャフトでしたから、これでいこうと決まってたんです。ところがヨーロッパでスポーツと言えば、チェーンが定番。TR1はヨーロッパ市場向けだから、シャフトドライブなみの耐久性を確保するために、グリス封入式チェーンケースという方法を使った。

鈴木:こういうチェーンケース、ほかには例がないでしょう?

倉井:ないねぇ。それ以降もないと思いますよ。作るときだって、参考になりそうなものといえば、ビジネスバイクの板金タイプのチェーンカバーくらいしかなかった(笑)。

鈴木:リアのモノクロス・サスペンションに使ったリモコン付きエアクッションだってそうだよね。こういう新しい、ユニークな試みが盛りだくさんっていう点では、実にヤマハらしい1台というか、2台だったと思います。

※このページのプロフィール、および記事内容は、2004年9月の取材によるものです。
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