最後のレースで最高のパフォーマンスを期待。470級世界選手権大会
2020年度の470級日本代表選考の対象となる470級世界選手権大会が8月4~9日、江ノ島ヨットハーバー(神奈川県)で開催されました。
2020年度の470級日本代表選考の対象となる470級世界選手権大会が8月4~9日、江ノ島ヨットハーバー(神奈川県)で開催されました。
選考シリーズの緒戦となった「プリンセス・ソフィア杯」(スペイン/4月)に続く第2戦となる今大会ですが、規定では、この世界選手権で3位以内に日本チームが入った場合には、選考の最終戦である9月のワールドカップの結果を待たずに、代表が決定することになっており、その点において大いに注目されるレガッタとなりました。
[2019年470級世界選手権大会]
YAMAHA Sailing Team ‘Revs’の宇田川真乃/工藤彩乃の戦うべき相手は、吉田愛選手/吉岡美帆選手という日本470級の絶対的な女王です。高い壁であることは本人たちが一番よくわかっていることですが、勝負の場は何が起こるかわからない『代表選考』という舞台です。序盤戦で相手に少しでもプレッシャーを与えることができたなら、好機は生まれるはず。
5月の欧州遠征から帰ってからヤマハ製の新しい470級ヨット「YAMAHA470 CPH」に乗り換え、新艇をシェイクダウン。同時に新しいコーチ(小松一憲氏)の下で心機一転のトレーニングを始動し、軽風下という条件付きながら彼女たちのパフォーマンスは急激に向上していました。
「新しい470は本当に乗りやすいフネに仕上がりました。練習レースでも軽風なら男子のトップチームにも負けないくらいのスピードを発揮できました」という宇田川本人のインプレッションを証明するように、微風コンディションとなった今大会初日の2レースでは12・7位と走って7位の好位置につけ、4位の吉田愛選手/吉岡美帆選手を意識させるには十分なポジションでした。しかし中~強風が吹き始めた大会3日目以降は追い詰めることができず、最終順位は23位(日本チーム2位)。一方、吉田/吉岡は最終日のメダルレースにコマを進め、メダルレースではイギリスと熾烈な金メダル争いを演じ、銀メダル。選考第2戦で代表内定を決めてみせる圧勝ぶりでした。
レース後、華々しい表彰式を脇で見つめていた宇田川選手は、意外にも清々しい表情を見せていました。「実力の差です……。新しいフネを作ってもらってから、この1カ月の練習量は自信を持って世界一だったと言えます。軽風までなら勝負できる自信が着いてきたと思ってましたが……もう選考は関係ないけれど、最後のワールドカップでは悔いのない走りをしてみたい」(宇田川)
最後に、どんな気持ちで表彰台を見ていたのか問うと、宇田川選手は言葉を詰まらせました。「負けた……悔しいですよ」。爽やかな笑顔は精一杯の強がりだったようで、青空を見上げながら、大粒の涙をこぼしていました。
なお、今大会で宇田川/工藤は日本チーム2位が決定し、代表の補欠に内定しました。
日本470級男子は、上位チームの実力差が拮抗しており、選考は最後までもつれるという大方の予想どおり、レースによって上位を走る顔ぶれが変わるという展開となりました。
宇田川/工藤と同様に、ヤマハ製の新艇に乗り始めた男子の髙山大智/今村公彦もまた、レガッタ前にはいい感触を得ていたようです。「これまでの中でも最もいい準備ができている実感はありました。新艇も予想以上の出来で、走り比べをしていても手応えは十分にありました」という髙山でしたが、苦手な軽風となったレガッタ序盤でスコアをなかなかまとめることができず、2日間で行われる予選シリーズでまさかの敗退を喫してしまいました。
その敗因を問うと「苦手なコンディションではありましたが、それだけが原因ではない。選考のプレッシャーも否定できないと思います。そんなつもりはなかったんですけど」と、自分でも信じられない結果に戸惑っている様子でした。
後半戦は皮肉なことに髙山/今村が得意とする中~強風コンディション。予選落ちした下位半数のグループで行われるシルバーフリートのレースでは、6レース全てで2位以内(第8レースではリコール)と別次元の走りを見せつけました。
日本チーム男子で表彰台に上がるチームがいなかったため、男子の代表決定は最終シリーズのワールドカップ(9月/江の島)に持ち越されました。ポイント差を考えると今大会で9位となった岡田奎樹選手/外薗潤平選手が圧倒的優位に立ったことは間違いありませんが、レベルが拮抗している男子では何が起こるかわかりません。
「わからないといっても、相手が自滅することが前提ですから……失敗を期待するというライバルに尊敬を欠くような思いは持ちたくないので、最終シリーズのワールドカップでは自分たちにとって最高のヨットレースとなることを目指すだけです。メダル獲得を目指します」(髙山)
代表争いは厳しい状況となりましたが、ヤマハの「Revs your Heart」を世界で体現するという彼らの目標は残されています。キャンペーンをこのまま終わらせるわけにはいきません。可能性がゼロだとしても、若い4人はワールドカップという最後の舞台で最高のパフォーマンスを発揮すべく、これからの全ての時間を注ぎ込んでいきます。