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The People Behind Yamaha Factory Racing

Yamaha Factory Racingを支えるさまざまな分野・領域で活躍する人々の活動をご紹介します。

No.5 ライダーの背中を製品で押す、この仕事が好き鋳造技術1Gr 鈴木一洋

No.5 ライダーの背中を製品で押す、この仕事が好き

北米を中心に、南米、欧州、オセアニア、アジアなど世界中に市場をもち、AMAスーパークロス、モトクロス世界選手権、全日本選手権といったプロスポーツとしてのレースから、週末に家族や個人で楽しむファンライドまで、レベルも年齢も多様なユーザーがいるのがモトクロス競技用モデル「YZシリーズ」だ。
ある者は人生をかけて、ある者は人生を楽しむためにYZを駆る。その姿を力に、豊富な経験を持つ開発陣と生産者たちの匠の技によって「YZシリーズ」は作られているが、この「YZ」を生み出すさまざまな部門の従業員にスポットを当て、モノづくりへのチャレンジや情熱をシリーズでお届けする。最後は鋳造技術でYZのクランクケースの生産を担当する鈴木一洋さんにお話を聞いた。

夏は熱く、冬は寒い。鋳造の現場はとても過酷である。鈴木一洋さんの仕事は、「金型を作るために製品をモデリングし、どうやれば設計からオーダーをもらった製品の形を、品質を担保した状態で鋳造できるかっていうのを考えること。それから、プラモデルなどの部品をつないでいる枠がありますよね。ようは溶湯を金型内部に導く経路になる“方案(ほうあん)”を考え作るのも鋳造技術の仕事です。あとは、現行の金型をベースにして次の更新型を作るとか、品質不具合があったときの修正など、品質対策などが私たちの仕事になります」と、とにかく考えることが大半だが、現場を歩き、見て考える汗をかける頭脳である。

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YZは今回が初めてとなるが、鈴木さんはそのクランクケースの鋳造を担当している。「新規で型を起こしていますが、最初は金型を作るためのモデリングからスタートし、金型を作るために生産課が段取りしやすく、組み立てやすい状態をヒアリングして、それを織り込んで型を起こしていきます。この他にもいろいろと準備、作業がありますが、生産まで数年間かかるプロジェクトです」と、地道でタフな仕事であることを教えてくれた。

過去に鈴木さんはクロスプレーン・コンセプトの3気筒エンジン「CP3」や、同2気筒エンジンである「CP2」のクランクケースを担当してきた。製品でいえばMTシリーズや、今年のレースシーンで大活躍したYZF-R9など当社を代表するモデルがズラリと並ぶ。

ただ、これらのクランクケースは鈴木さんにとっての「代表作」ではない。「CP3やCP2は自分がゼロから手がけたわけではないんです。金型は作りましたが、ベースがあっての更新型。でも、もともとどの機種に対してもモチベーションは高くやってるんです」と、きっぱり言い切る。というのも「今の仕事がすごい好きなんです」というのが真相だ。

No.5 ライダーの背中を製品で押す、この仕事が好き
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「最初は鋳造する側、生産課にいたんですけど、今は、技術側に来てモノづくりのはじまりをやるようになって、他社だったり他部門との付き合いも増えて、自分に向いてるしやってて達成感とかもすごい高いんです」。だから、モチベーションが低い高いということがない。現場らしいブレない安定感がその言葉から滲みでる。

それでも、「YZは自分がゼロから手がけた最初のモデルなんでやっぱりちょっと違います。これをいいモノにして生産開始にこぎつけて、世に出してやるんだっていうモチベーションっていうのはものすごく高かった」

No.5 ライダーの背中を製品で押す、この仕事が好き
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そのため、多くのこだわりも込められている。「これはヤマハ全体で言えることですけど、ヤマハのモノづくりって、見えないとこにもこだわるっていうのがあるんです。性能や軽量化を重視するのは当たり前ですが、いろんなところを作り込んでいるのに、見えないからといって手を抜かない。だから全部の作り込みを徹底的にやっています。特にYZは競技用モデルなのでメンテナンスの機会も多くクランクケースも開ける可能性は十分あって、丸見えになるんですよ。だからちゃんとやっておきたいし、そういうところも見てほしいなと思います」

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そのこだわりは工程にも及んだ。クランクケースは左右2つに分かれていて、中にギアやミッションを入れて最後に合わせる。過去はクランクケース1と2、別々に金型を作っていたが、YZでは1つの金型でケース1と2を同時に生成するようになった。これは工程を短縮できるほか、費用も圧縮できるし管理も1つですむなどたくさんのメリットを生んだ。

さらに方案については思考錯誤を重ねたという。「実はこれがとても重要なところで、方案の作り込みが甘いといいものができません。溶湯を流し込むのは0.15秒。一瞬ですが、ポイントは充填が完了したときの溶湯の温度です。これが低いと不具合が出やすいのですが、高温を保つことができる方案ができたことで、より高品質な製品を生み出せるようになったのです」

No.5 ライダーの背中を製品で押す、この仕事が好き
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こうした技術の積み上げは工程へと好影響を及ぼしていった。「鋳造の後には、熱処理、ショット、バリ取り、含浸(がんしん)などいくつもの工程が残っています。この中で、小さなバリを取り払ってバリ取りの工数を減らしながら鋳肌を均一にならすショットと、パーツを樹脂に漬けて油や水漏れの懸念があるところに樹脂を流し混む含浸は、素材の段階で潰し込んで品質を上げることができたました。これで二つの工程をなくすことができ、工程の最適化によって更なる短納期を達成することもできました」

さて、AMAスーパークロスでチャンピオンに輝いたクーパー・ウェブ選手とヘイデン・ディーガン選手から、他の部署と同様、鈴木さんが所属する鋳造技術にも感謝のメッセージが届いた。「CP2とかCP3を乗せたバイクはよく走ってるんで、みんな乗ってくれてるんだなっていう実感はありました。でもYZはなかなかそういう機会はないし、レースでどういう成果を上げているのかは見ていませんでした。でも、勝ったとかチャンピオンになったっていうのを聞くと、すごいなっていうのは率直に思います。生産課のみんなも含めて、自分が関わったモノが世に出て、勝ったというのは嬉しいことですよね」と、アメリカやヨーロッパ、遠い世界での出来事が少しだけ自分事として受け止められるように変わってきたという。

No.5 ライダーの背中を製品で押す、この仕事が好き

そして、背中を押された鈴木さんは、「来年以降、いや、これからもずっと、いい結果が聞けるように良いモノを送り続けていきますよ」と、今度はライダーたちの背中を製品で押していこうと誓う。すべてのライダーと作り手たちの情熱・チャレンジ、互いへの感謝によってYZは進化しているのかもしれない。

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