The People Behind Yamaha Factory Racing
Yamaha Factory Racingを支えるさまざまな分野・領域で活躍する人々の活動をご紹介します。
No.4 良品を追い求める”品質”の番人組立工場品質管理課 髙栁憲二

「品質管理の業務を行っています。具体的には、新機種の各組立工程における品質基準の策定と維持・管理。不具合の未然防止と再発防止の立案と実行。品質データの分析による改善活動の推進です」と、モノづくりへの実直さがこもった堅い言葉が整然と並んだ。製造現場のど真ん中で品質を守る人財らしく、きっちりとその業務を教えてくれたのが髙栁憲二さんだ。
ヤマハ発動機への入社のきっかけは二つ。「兄が当社の社員で、バイクの検査に携わっていたこと」。いわゆる兄の影響だ。そして、「子どもの頃にヤマハ発動機のサッカースクールに通っていたこと。当時は小学校1年生なので、30年以上前ですね。だから親しみもあって、それでヤマハ発動機に入りたいと」。バイクはビッグスクーターに乗っていた時期はあるそうだが、現在は乗っていない。「YZも残念ながら乗ったことはありません。恐らく足が届かないので」と、照れ笑いを浮かべた。


髙栁さんとYZの付き合いは長い。「入社してから磐田南のエンジン工場に配属され、主にパラ4系の組み立てを行いました。その後、品質管理の業務に5年間ほど携わったあと、YZのボディ組み立てラインに異動になり新機種生産準備を担当しました。機種ですか? YZ65〜450F、WR、FXまですべてです。その後、エンジン組み立てに戻ったのですが、そこでもYZとWRを担当して、それから品質管理課に来てもYZ。トータルで11年? 12年ぐらいかな」


馴染み深い機種だけあって、「YZだけではありませんが、個人的にはYZシリーズは競技車両ということでライダーの身体を預かっているような感覚があります。だから品質に関しては一切妥協できないし、しない。違和感がなくなるまで、OKになるまで改善を続けて、良品だけを出荷することを意識しています」
2026年モデルのYZ450Fにおいて特に品質にこだわったのが新フィーチャーである「油圧クラッチ」だった。「YZ450Fがシリーズ初採用なので失敗は許されないという設計者たちの思いを現場のみんなも強く感じとっていました。そして改めて図面と私たちの組み立て方をつけ合わせていくと整合性が合わない部分があり、その解決を設計と品管が協力して生産にこぎつけたのです。品質を守り、生産を立ち上げるという意識だけでなく、その先でYZを待っている皆さんのバイクライフに貢献したいという感覚が、現場の隅々まで根付いていることが大きな原動力になったと思います」
このように現場の髙栁さんたちがお客さまの顔やそのバイクライフをモノづくりの中で思い描くことができるのは、実生活の中で自分が関わった車両を何度も目にすることからだ。「色や形で自分が関わったモデルだというのはわかりますし、自分たちが作ったモデルを乗ってくれている姿を見るとやっぱり嬉しい。だから記憶に残るし、モチベーションにもなります。ただYZは生産の中で目標を立て、それを達成した時にいい準備ができたと思うんですけど、やっぱり競技車両なので実際に使われているシーンを見ることはないんです」と、素直に話してくれた。


「でも、開発の皆さんとの会議で、海外のYZ65や85に乗る子どもたちの映像を見せてくれることがあるんですけど、それはもうみんな真剣で楽しいっていうのが伝わってきます。また開発の皆さんからはYZが勝利したことに対して感謝の言葉をいただくこともあって、子どもたちの夢だったり、世界中のライダーたちの勝ち負けを背負っていることを実感して身が引き締まりました」
さらに続く。「YZ125と250の組み立てについて開発の皆さんと会議している時には、ライダーからのYZに対する信頼がすごいという話を聞かせてもらいました。それはとっても嬉しかったし、製造工程においても妥協せず、絶対にその信頼を損なってはいけない、もっと信頼度を高めるために自分たちも立ち止まっていてはいけないという思いになったんです」


そして今年、AMAスーパークロスでは450SXでクーパー・ウエブ選手が、250SX Westではヘイデン・ディーガン選手がチャンピオンを獲得したが、そんな彼らからYZに関わる日本の従業員に向けて感謝のメッセージが届けられている。これを受け取った髙栁さんは、「今回のように世界のトップライダーから現場の私たちに“ありがとう”という言葉を送ってくれるということはあまりないので驚きましたが、YZを生み出す私たちと市場やレースでYZを使うライダーまでがつながっていることを実感したし、作っている人がいるから、勝利に辿り着いたというふうに聞こえて嬉しさも倍増です」と笑う。

ご覧のように工場では、多くの2026年モデルの製造が進められている。ある意味、品質管理としてはひと段落ついたのかと思ったが、YZシリーズには多様なモデルがあり、今回のYZ450Fをプラットフォームに開発サイクルは常に目まぐるしく回っている。「YZ450Fがモデルチェンジしたばかりですが、勝ちたい、速くなりたいというライダーのために開発は常に動いていますし、きっと新しいアイディアがまた生まれてくるはずです。私たちは、それを受け入れてどういうふうにやったら組み立てに落とし込めるのか、品質を作り込めるのかっていうのを現場で前向きに考えていかなきゃいけない。私たちもチームの一員だっていう気持ちが芽生えたし、これからも現場の全員で1グラムでも軽い、1秒でも速い勝てるバイクを作っていくだけです」
髙栁さんたちはYZが勝って、勝って、勝ち続けることでもっと世界中に広がってほしいと願い、現場で良品を追い続ける。そして「作りたいと言われれば、それがどんなものであっても作り上げるプロフェッショナルが現場には揃っています。次のYZも楽しみにしていてください」と胸を張り、今日も現場で品質を守り続けるのだ。

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