The People Behind Yamaha Factory Racing
Yamaha Factory Racingを支えるさまざまな分野・領域で活躍する人々の活動をご紹介します。
No.3 ロボットで“職人品質”の溶接を目指して車体製造技術部プレス溶接技術2Gr 山崎乙仁

「はじめてYZに関わったのはYZ450Fが立ち上がった時が最初なので20年以上前になります。その後はYZF-R1やR6といったスーパースポーツの担当もしたし、海外モデルのフレームを担当していた時期もありましたが、またYZに戻ってラインで溶接のセットやリセット、手直し溶接、最終検査などを担当してきました。現在の部署に移ってきたのは4年前ですね」
山崎乙仁さんはヤマハ発動機における溶接の専門知識を持った技術者の一人。2026年モデルのYZ450Fでは、YZシリーズのフラッグシップモデルならではの品質や車両としての信頼性を担保する新しい溶接技術の検討・開発から生産ラインへの導入までを担当した。


そもそも製造技術の中で「溶接」がフォーカスされることはあまり多いことではない。しかし、今回の山崎さんたちのチャレンジはとても大きなブレイクスルーを生んだことから社内でも大きな注目が集まったのだ。実際、2026年新型YZのプレス試乗会に開発陣と山崎さんも参加しその脇を固めた。


「ロボットで溶接を行っていますが、均一な品質を実現するのは簡単ではありません。溶接時には急激な加熱や冷却によって金属に膨張・収縮が生じる熱ひずみが起こります。YZシリーズではパルス溶接を使っていますが、この方法だと入熱量が高くなって熱ひずみも大きくなり、一部、作業者による手直し溶接が必要でした。そこで今回のYZ450Fからワイヤー送給制御という方法を採用しました。これは低入熱で溶接ができることで熱ひずみを抑えることができるため、手直しが減って品質を担保しやすくなったのです」
新たな溶接技術に挑戦できたのは、「溶接の精度を高めて、手直し溶接という“無価値”な作業を減らしたい」と、工場側と製造技術が同じ方向を向いていたことからだ。山崎さんたちは工場側の期待も背負って、溶接条件と治具の精度を突き詰めていった。治具というのは溶接の際にフレームを拘束する装置。これに高い精度がないと熱ひずみによる微細な変形によってフレームがガタガタと動いてしまうのだが、それを解決する治具の開発にも成功した。

「きれいなアルミ溶接って何なんだろうって考えた時に、僕が思うのはウロコも高さが均一でかつうねりがないビードです。じゃあ、ロボットと作業者ではどっちがその実現性が高いかといえば作業者なんです。作業者は熱が入ってきたらスピード上げていけるし、入れるワイヤーの量も変えられる」、しかしセンスとスキルと技能が必要で、選ばれし者でしかできない。一方のロボットは同じ速度、同じ条件で作業できるが、「フレームが熱くなってきた時に変化という対応ができないのでウロコができにくくなる。だから、すごくうまい熟練の作業者と同じ溶接ビードをロボットで作りたいと考えてきました」

そしてご覧の通り、「達成できたと思います」と山崎さんは胸を張る。「溶接の条件には速度や周波数、いろいろな要素があるんですけど、いい条件を出すことができました。今までは溶接ビードが薄いっていうか、ぺしゃっとしていましたが、今回はふんわり厚くなっているんです。ガッチリして見えるし、競技用モデルらしい力強さを与えることができました」
品質の向上に加え、重量では80グラムの軽量化に成功。手直し溶接が減ったことで納期やコストなどにも良い影響が出ている。ちなみに2026年モデルYZ450Fの価格は、2025年モデルから据え置きとなっていることをお伝えしておきたい。


YZシリーズは競技用モデルとして速く、強く、軽く、扱いやすく、機能性、耐久性、信頼性など、積み重ねとブレイクスルーを繰り返しながらあらゆる面で深く、深く追求している。製造現場では、その磨き上げたパーツを忠実に再現することが使命だが、山崎さんたちは、「設計が精魂込めて描き、実験が徹底的に鍛えてきたフレームなので、僕らとしても、もっと良くしたいなっていう気持ちが湧いてくるんです。軽くならないか? 強度を上げることはできないか? 品質を良くすることはできないか? できることはほんの少しのことかもしれませんけど、ユーザーの皆さんにいいものを届けたいという気持ちはみんな一緒なんです」と生産の現場でも付加価値の創造が行われているのだ。

そしてこうした思いが湧き立つモチベーションの一つがレースである。「レース結果は常に気にしていますよ。プロライダーも一人のユーザーですから。順位を見て、調子いいんだなとか、みんなで協力して、努力して作り上げたフレームなんでうれしいし、レースの写真見てカッコいいなって思ったりしながらニヤニヤしてます。
私だけでなく現場のみんなもアンテナは立てていますね。溶接や検査をする作業者たちは、“こんなに高く飛ぶんだからしっかり溶接しないとな”って。優勝したとか、今こういう順位だよっていうと、自分たちが作ったバイクが活躍してるってことに意識もするし、誇りも生まれるんです」
ヤマハ発動機には品質を守るためにたくさんの砦があるが、山崎さんたちは溶接という分野で品質の砦となっている。「性能面は設計や実験の皆さんに頑張ってもらって、製造技術や生産は、ユーザーの皆さんが安心して乗れるよう品質を担保できるようにと意識しています。溶接ビードも実際はあまり目に付かないところかもしれませんが、そこもYZの一部だと思って、ぜひかわいがってもらえたらうれしいですね」
開発から製造まで同じ情熱を持って改善を積み上げることが良い製品を作り上げる肝であり、山崎さんたち、そして溶接改善のチャレンジも、欠かせないものとしてモノづくりの一端を担っている。

![[No.1]人が乗って遊び、楽しむ車だからこそ“感性”で磨く](../img/yp-yz_index_no1.jpg)
![[No.2]決して足を止めない、欲張りなエンジニア](../img/yp-yz_index_no2.jpg)
![[No.4]良品を追い求める”品質”の番人](../img/yp-yz_index_no4.jpg)
![[No.5]ライダーの背中を製品で押す、この仕事が好き](../img/yp-yz_index_no5.jpg)