全日本モトクロス選手権 「IAの壁を打ち破れ!」若手ライダー住友選手の挑戦
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2025年10月15日

2025年全日本モトクロス選手権も佳境に入り、残すところ2戦となった。今年もYZシリーズを駆るプライベーターがそれぞれ目標を掲げ、その目標を達成するために準備と努力を重ねている。ここではIA2、IBOPEN、レディースで成長を見せ、今後もさらなる成長が期待される若手プライベーターにクローズアップ。モトクロスをはじめたきっかけ、現在、未来などについて語ってもらい、彼らの実像と魅力に迫った。
「お兄ちゃんがバイクに乗ってて、ちっちゃい頃からよく家族でコースに行きました。乗りたいとは言ってたみたいですけど、自分ではあんま覚えてなくて、物心ついたらもう乗ってたみたいな。4歳ぐらい? PW50が最初のバイクです。フライングドルフィンサイセイに入ったのはキッズの頃。自宅から近かったこともあり兄と一緒に加入しました」

こうモトクロス人生の初期を振り返ってくれたのは全日本モトクロス選手権のIA2に参戦する住友睦巳選手(フライングドルフィンサイセイ)。仲間たちからは「むっちゃん」という愛称で親しまれている。2007年3月生まれの18歳、2023年にIBOPENのチャンピオンを獲得しているヤマハライダーにおける注目すべきライダーの一人だ。
子どもの頃は、AMAスーパークロスに憧れる少年だった。「DVDをよく見てました。クリスマスのときにもらってたんです。450も250もシーズン全部が入った2枚組。リードVSスチュワートとか、ピロポートの450の一年目とか、もう何回も何回も繰り返して見てました」
こうしてモトクロスにハマっていった少年が本格的にプロを目指そうと考えはじめたのは、「ジュニアの最後の頃、中学2年生、3年生くらいでした。子どもっぽい発想かもしれませんが、お客さんもいっぱい見にくる全日本の会場の雰囲気が好きでテンションが上がるんです。見られてる感じも好きだし、いいとこ見せたいなというか、何も知らんお客さんでも、“あっ”って見てもらえるようになりたいなっていうのはその頃から思ってました」


青年になった今も当然のように海外のトップライダーには注目している。というのも、最終的な目標は昔から変わらず、DVDで見ていたアメリカ、海外だからだ。過去と違うのは憧れではなく、そうなりたいと自分を磨いていることだ。「理想的な乗り方はセクストンですね。めちゃめちゃきれいにスタイリッシュに乗ってるなって思うんです。体格とか自分とは違うけど、イメージとしてこういうふうにしていきたいなっていうのはセクストン。あとライディングでいうとディーガンとか。アグレッシブやけど、姿勢はめちゃくちゃきれいやしバイクのコントロールもすごい。頭の位置だったり、足・膝の使い方やったりめちゃ勉強になります」と、少年時代に戻り目を輝かせながら教えてくれた。
ジュニアの後は国内A級、そして国際B級と順調にステップアップした住友選手。「全日本の難しさがわからないからこそしっかり準備が必要だと思っていました。だからチームメイトのリョウタ君(浅井亮太選手)とか、幼なじみのジュンヤ君(田中淳也選手)と一緒に練習させてもらって。後ろ走ってもらったり、自分が追い掛けたり。ちょっと突っ込みが遅いとか、開け始めが遅いとか的確なアドバイスをもらえて2人に成長させてもらいました」
そして2023年、IBOPENでチャンピオンを獲得した。
「日本でモトクロスするにあたっては一つの目標だったんでめっちゃ嬉しかったし、自信になりましたね」。こうして2024年、チャンピオンのみがつけることができる#01でIA2に参戦することになった。17歳でのチャンピオン獲得は今後のキャリアを考えた時にいいタイミングではあったが、一気にレベルが上がるIA2では、苦戦することとなった。簡単に言えば、先輩たちと積み上げチャンピオンを獲得して得た自信は打ち砕かれることとなったのだ。

「今でこそ慣れてきましたが、やっぱりみんなめちゃくちゃレベルが高い。IAの壁に心折れかけました。成績もそうですけど、正直もっとやれると思っていたのに通用しなかったことが一番ズシンと効きました。特にスタート。自分の中では得意な方で自信があったんですけど、なんか全然出れない。トップのライダーが隣に来たりすると、気になってしまうというか心配になってしまう。気持ちで負けてるんです」
そこで、モトクロスから離れる時間をつくるなど心身を整え、住友選手は現実から逃げることなく受け入れた。「“これでいいや”っていうのは通用しない、とことんやり切らないとけない世界だとわかりました。手を抜くわけじゃないけど、例えばトレーニングして、めちゃくちゃしんどいとそのまま諦めてしまうところをもう一踏ん張りする。それを積み重ねていくようにしました。同時に長くやればいいというわけではなく、ただこなしてるだけでも身にならない。しっかり成果につながるように、質を高めなければならないと思っています」と意識も取り組みも変えた。
さらに走りも変えた。「自分のライディングやフォームもそうですし、もともとそんなに開け込んで走るタイプではなかったのですが、アメリカやヨーロッパを見てもやっぱり250って開けないと進まないんやなっていうのを感じて、そっからしっかり開け込むようにしています」

今、壁を乗り越えるために辛い時期を過ごしている住友選手だが、それでも恵まれているのかもしれない。NAやIBでも力を貸してくれたIAで実績のある浅井選手、田中選手とういうよき手本が側におり、今でも彼の拠り所になっているからだ。「同じ京都のリョウタ君やジュンヤ君と一緒に走る回数を増やし、スピード差、タイム差を把握し、スピードを上げていくように意識してます。まだみんなについていこうとするとミスが多くなってしまいますが、ちょっとずつその差は縮まってきてるかなとは思います」
住友選手は今、高い壁を前に必死にもがいている。その中で「意識してやっていることを積み重ね、ヒート練習などでできなかったことが無意識にできるようになった時が一番モトクロスをやっててよかったという瞬間です」と嬉しそうに人懐っこい顔で笑う。住友選手はまさにチャレンジの只中におり、確固たる自信を取り戻し、IAの強敵たちと渡り会える日を目指して、必死に小さな成功体験を積み上げている。
サマーブレイク明けとなる全日本第5戦、地元の名阪スポーツランドで住友選手は今季初のトップ10入り(6位/9位)を果たした。また一つ、トップライダーに向けて成功体験を積み上げた。

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