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人材育成を視野にYAMAHA FACTORY RACING TEAM、中須賀克行選手の「YZF-R1」を全日本ロードレース参戦ライダーが試乗
2023年12月5日
全日本ロードレース選手権の2023年シーズンを終えた11月中旬。全日本のコースの一つでもあるスポーツランドSUGOで、人材育成を担うbLU cRU活動の一環として、新たな試みを実施しました。それが「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」のマシンであり、今シーズン、チャンピオンを獲得した中須賀克行選手の「YZF-R1」を、全日本に参戦する一部のヤマハライダーに試乗してもらうという企画です。
「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」の吉川和多留監督、中須賀選手、岡本裕生選手も参加。まさにバイクを作ってきたメンバーが参加ライダーたちにさまざまなインプットをしながらの、育成を見据えた試乗会です。まずは、中須賀選手によるウォームアップラップのオンボード映像と、試乗会のダイジェスト映像をご覧ください。制作:Japan Road Race公式ファンサイト、協力:ヤマハ発動機
中須賀克行選手「YZF-R1」オンボード映像
「YZF-R1」試乗会ダイジェスト映像
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ヤマハ発動機は過去にも、さまざまな目的でファクトリーマシンを使った試乗会を実施してきましたが、今回についてMS戦略部レース支援グループの担当者は、「ライダーは、他のアスリートと同様に“心技体”、そのすべてが求められますが、モータースポーツの特殊性は、これに加えてバイク(道具)が必要になり、その良し悪しが成績を左右します。その中でファクトリーチームのYZF-R1は、チャンピオンを獲り続けており、JSB1000の中では最上級のバイクであるという自負がありますが、それを他のライダーに味わってもらう機会を作りました。
当然ながら、Rシリーズで参戦してくれているライダーの皆さん全員に乗ってもらいたいのですが、ライダーとしての成績、取り組む姿勢、将来性など、さまざまな基準を持って今回は5名を選抜しました」
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「参戦クラスによって感じ方もそれぞれだと思いますが、日本の頂点に立ったバイクがどんなものかを味わうことで、自分のセンサーに刺激を与え、足りないもの、ファクトリーで走るため必要なもの、セッティングのヒント…… たくさんの“気づき”を得てシーズンオフに役立ててもらうことが大きな目的です。そして、参加したライダーたちのキラキラした表情を見ていればわかりますが、モチベーションを掘り起こし、ファクトリーチームに入るという明確な目標を持ってもらうことも狙いの一つです」
「加えて、各ライダーがチームにこの経験を持ち帰ることで、スタッフやもっと若いライダーたちにも刺激が加わることが見込まれます。さらに参加できなかったライダーたちは、“次は自分が”とモチベーションを高めてくれるはずであり、中長期にわたってさまざまな波及効果を期待しているのです」
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「一方で、私たち自身の“モノづくり”の良し悪しを確認するといった意味でも重要な機会になりました。現在のYZF-R1は2015年に導入して以来、ライバルたちの進化に負けないよう中須賀選手を中心に開発を進め、熟成に、熟成を重ねたバイクです。中須賀選手や岡本選手以外のライダーがどのように感じ、受け入れるのかを知る機会でもあったのですが、懐の深いバイクに仕上がっていることを改めて確認できました。
普及・育成にはさまざまなアプローチがありますが、この試乗会もそのメニューの一つとして、今後もさまざま形で活動していきたと思います」
今回の試乗会は1名2セッション。1本目がアウト・インラップを含めて4周、2本目がアウト・インラップを含めて5周の合計9周(タイム計測は合計5周)を設定。やはりファクトリーマシンということで、各ライダーともかなり緊張した様子で出走していきますが、皆、興奮状態でピットに戻ってくると、さまざまなインプレッションを語ってくれました。
児玉勇太選手:JSB1000(Team Kodama)
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「最初は恐る恐るということもあり、制御の入り方に違和感があったのですが、車速が上がっていくととともにそれは解消されていきました。自分のバイクに重さを感じており、どうにかしたかったのですが、ファクトリーのR1はとてもキビキビ動きます。とにかく入力に対して動きすぎるくらい動くのが印象的でした。エンジンについては音から雑味がなく本当にキレイにパワーが出てきます。最高速は特別ではありませんが、コーナーでの向きの変わり方、アクセルの開けやすさがまったく違っていて、本当にしっかり作られています。同じR1ですが"こんなキャラクターになるんだ!"と発見ばかり。トータルでの完成度が高く、これは到底敵わないという感じです。
ただ、これを速く走らせるのはまた別の問題で、次々とコーナーが来る中で数歩先を見て考えて準備しなければならないので、バイクの動きに対して自分が遅れているのがはっきりとわかってショックでした。同時に今後、自分とバイクをどうすべきか考えさせられるとてもいい機会になりました」
芳賀瑛大選手:JSB1000(WORK NAVI Nitro Racing)
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「楽しかったのは確かですが、言葉が出ませんね。同じR1で、同じタイヤを履いているのに、車体が違うだけでグリップなどの感じ方がぜんぜん違うんだなと。押し出されるようなパワーもすごかったです。自分のバイクより車体は硬い印象ですが、嫌な感じではなくしっかりしている硬さで、逆に乗りやすかったです。ウィリーなどの制御、ブレーキの精度と安定感、バイクの軽さ、同じ1,000ccとは思えないぐらいの加速感… 何もかもが違っていて、まったく別の乗り物でした。軽く想像を超えてきましたね。
自分のバイクと同じ乗り方をしたら、まったくタイムが出ませんでした。自分のバイクは動いてバイクを使わないと曲がりません。ファクトリーのバイクも動かしていく必要があるのですが、バイクの軽さもあってすごい乗りやすかったです。いろいろと習得して早くこのバイクに乗れるようになりたいと改めて思いました」
豊島怜選手:ST1000(DOG FIGHT RACING)
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「もう別物です。1,500ccくらいの排気量に感じた一方で、600ccも比較にならないくらい、まるでミニバイクのように軽くて、シケインで切り替えした時に“速すぎて”逆に倒れそうになりました。中須賀選手や岡本選手のすごさがより鮮明になったというか、こんなバイクを操っているなんてすごいなと… ストックのバイクよりも荷重とか、ブレーキングとか、自分で意識してやらなければならない操作が多いし、体にかかる負担も大きくて、自分がやっていることが2人に比べると何段階も下にあることに気がつきました。
体を動かすテンポ、もっと速く動かしていくとか、アクセルの開け方を丁寧にとか、ストックでももっと頑張れることがあるし、もっとやらないといけないし、やっていかないと頭打ちしてしまうということを痛感しました。今年の開幕からやり直したい気持ちですが、それはできないので、この経験を来年にしっかりと生かしていきたと思いました」
井手翔太選手:ST600(AKENO SPEED)
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「マシンの軽さ、制動力、パワー… バイク自体の一体感がすごくて感動しました。制御も無理して開けてスライドしてもすぐに戻ってくる。これまで感じたことのない安心感がありました。僕自身はレーサーに乗ったことがないので、“レーサーってこんな感じなんだろうな”というふうに思いました。1,000ccには鈴鹿8耐や鈴鹿2&4で乗っていますが、これとはまったく別物で1,300ccみたいな感じ。開けはじめはとても開けやすいのに、パワーが乗ってきた時の力が別格です。
ファクトリーマシンは、とにかく速くて乗りやすいものと思っていましたが、実際はライダーがマシンと同じレベルに達していないと機能しないんだとわかりました。僕はマシンのレベルに達していないので機能させられないし、まったりしてなくて、ライダーが考えてやり続けないとダメ。めちゃくちゃ仕事量が多いです。人生で一番疲れた3周になりました。でもめちゃくちゃ楽しかったです。ずっとファクトリーを目指してやっていますが、改めてこのマシンに乗りたい、このチームにいくべきだと再確認できたし、今後、練習内容を変えていかないといけませんね」
伊達悠太選手:ST600(AKENO SPEED)
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「直線はもちろん速くて、ちょっと戻したのははじめてです。こんなに曲がるんだとも思いました。ぜんぜん攻めることができず、最初は不安な感じがありましたが、おそらく攻めてないからそう感じたのだと思います。タイムも出ませんでしたが、これを乗りこなせたら楽しいだろうなと思ったし、ずっと乗っていたいです。
そもそも、ファクトリーマシンに対して具体的なイメージがありませんでした。ただ今回乗ってみて、止まるし、曲がるし、進むし。自分の想像をはるかに超えたバイクが存在することに気づくことができました。ただ、これ走らせるにはまだまだ成長していかなければなりません。簡単ではないし、超難しいですが、自分なりにこうしてみたいというアイディアは湧いてきましたし、いつか、これに乗ってレースができるようにがんばろうと思いました」
各ライダーが狙い通り、自身が目指すべき未来を明確にし、モチベーションを高め、今後の取り組みに思いを巡らせるなど、それぞれが強い刺激を受けたことがわかります。このシーズンオフをどのように過ごし、2024年シーズン、どのような姿を見せてくれるのか、今から楽しみです。
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