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黒山健一、ニューマシン「TYS250Fi」で日本GPへ挑戦
Day1は11位、Day 2は10位を獲得
2017年5月30日
苦戦から、巻き返しに向けた「TYS250Fi」投入
黒山健一は、2012年に前人未踏の偉業を成し遂げた。全日本トライアル選手権において7戦全勝し、驚異的な強さで通算11度目のチャンピオンを獲得したのだ。これはトライアルはもちろん、全日本のロードレースやモトクロスを含めて日本モーターサイクルスポーツ協会(MFJ)における最多王座獲得記録を更新する快挙となった。
そして翌2013年の開幕戦(※第1戦が中止となり第2戦が開幕戦)も黒山は圧勝したが、その後はライバルの小川友幸(ホンダ)と抜きつ抜かれつの熾烈なタイトル争いを展開。最終戦の最終セクションまでもつれ込んだタイトル争いの末、小川が逃げ切って優勝。これで3勝3敗となりポイントランキングでも黒山と小川が同ポイントで並んだが、ルールにより最後戦で勝った小川がチャンピオンとなった。
その後も小川が2016年まで4連覇するが、2016年の第6戦中部大会に、満を持して新型ファクトリーマシン「TYS250Fi」を投入。初の実戦ながら、インジェクションならではのすばやく的確なセッティングを駆使しデビューウインを飾った。レース後、黒山は「発展途上のマシンで最初から良いデータが取れ、最高の結果になった。このバイクをまだ使いこなせていないので、チャンピオンを取れるレベルに仕上げたい。最終戦は今季3勝目を目指す」と語っていた。
その言葉通り黒山は「TYS250Fi」で2連勝。これでシーズン3勝目を獲得したが、黒山はまだ満足していなかった。「実力というよりは運で勝てた感じです。まだ反省もあり乗り込みが必要だし、チャンピオンを取れず残念ですが、後半戦はよい走りができていました。新しいバイクに乗るのが楽しくてたまらないので、2017年は実力でしっかりと王座を奪還します」と誓っていた。
黒山の長年にわたる活躍と苦労を見守り、支え続けてきた木村治男監督は「心臓に良くない展開でしたが、やはり喜びは黒山選手と一緒。2017年につながるよい結果を得ることができました。ファンの皆さまには本当に感謝です。ライバルの失敗ではなく、黒山選手の粘りの勝利で、ニューマシンも彼の走りを助けることができ、よいバイクになったと思います。来年に向かってさらにがんばっていきます」と、晴れ晴れとした表情で2017年に目を向けていた。
勝負の年
こうして迎えた2017年。黒山の快進撃は止まらなかった。開幕戦、そして第2戦と連勝。かつて全戦全勝したあの2012年以来、5年ぶりの開幕2連勝で、「TYS250Fi」では2016年第6戦のデビュー戦から、負けなしの4連勝としたのだ。続く第3戦は2位となり連勝は止まったが、それでも第3戦終了時点のランキングで黒山はトップに立ち、2位の小川に3ポイント差をつけている。
そして、第4戦中国大会は6月11日、鳥取県のHIROスポーツパークで行われるが、その前に黒山がニューマシンで挑戦したのが、5月26-28日、栃木県のツインリンクもてぎで開催されたトライアル世界選手権第2戦日本GPである。
「第3戦は何回も勝てるチャンスもあったし、勝ちパターンにもっていけそうでしたが、結果的にそれができず残念でした。ニューマシンでの連勝はとまりましたが、走りも調子も悪くないので日本GPでは、7位か6位くらいに入りたい。ニューマシンで初めての世界選手権は楽しみが半分、プレッシャーが半分ですが、とにかくチャレンジします」と抱負を語っていた。
また木村監督も「第3戦は残念でしたが、世界選手権は非常に楽しみな大会です。新しいマシンで世界にチャレンジできるし、黒山選手も調子がよいので、トップライダーの胸を借り、思いっきり戦って全日本につなげて欲しいですね」と、世界挑戦に思いをはせていた。
これまでの日本GPでの黒山は、2011年、表彰台へ後一歩に迫る5位/4位と活躍を見せているほか、2015年は8位/10位、2016年は10位/12位となっていた。
予選:世界のトップライダーを抑え5番手
いよいよ開幕した日本GP。競技は27日と28日の2日制で行われ、それぞれが独立した決勝となり順位がつく。その前に、今年は新たに予選が行われ、スタート順が決められた。さらに、昨年までの競技は12セクションを3ラップ(合計36セクション)だったが、今年から15セクションを2ラップ(合計30セクション)となり、6セクション減ったぶん、ミスが許されないシビアな戦いになった。新たな15セクションは、さらにハイレベルにリニューアルされ、そのひとつひとつをどう乗り越えていくかが勝負どころであり、見どころにもなる。
予選は1つのセクションだけの、いわば一発勝負で行われた。しかも雨でぬかるんだコンディション。そこでは、研ぎ澄まされた集中力と高い走破力が要求され、いかに減点を抑えるかが勝負となるが、同点の場合はセクションを抜けたタイムで順位が決まるため、スピードも要求された。
21名が出場した世界最高峰のGPクラスの予選、黒山は減点3。そして同じ減点の選手は12名いたが、その中で黒山は2番目に速い40秒84でセクションを走破し、世界ランキング3位の藤波貴久(ホンダ)を含む日本人選手の中で最高位となる5番手に食い込んだ。ちなみに同じ減点3で黒山よりも速かった選手のタイムは38秒69、減点3で最も遅いタイムは58秒50であり、黒山のライディングがいかにスムーズかつスピーディだったかがわかる。
Day1:序盤の不運を乗り越え11位
競技は1日毎に5時間の持ち時間で15セクションを2ラップ。初日の黒山は、1ラップ目に9番手となり、2ラップ目はわずかに減点を増やし11位となった。雨の後の重たい泥が岩の上にかかって非常に滑りやすい状態となり、多くの選手が苦戦した中で、黒山もまた減点5が1ラップ目は15セクション中9セクション、2ラップ目も8セクションと多かった。なによりも黒山は競技開始早々、1ラップ目の第1セクションで大岩から転落し、左手の小指を4針縫うケガを負っていたのだ。それでも全日本勢の中で11位は一番の好成績。「もう少し上を狙えました。明日はもっと上位を狙ってがんばります」と2日目にかける黒山だった。
Day2:1ラップ目は5番手、2ラップ目に失速もトップ10を確保!
2日目、黒山は左手のグローブの小指部分を切り取って、包帯を巻いた負傷部分が少しでも動きやすいようにしていた。
そんな手負いの状態ながらも本領を発揮。1ラップ目は15セクションのうちの半分以上にあたる8つのセクションをクリーン、3つのセクションを足着き1回のみの減点1で切り抜けた。一方、減点5は3セクションだけにとどめ、3回以上足を着く減点3はわずか1つのセクションのみ。つまり、美しいライディングが多く「今日の黒山選手は乗れている!」と見る者にインパクトを与える好調ぶりだった。結果も1ラップ目を終えた時点で、黒山(減点21)は6番手につけた。この6番手は、5番手と同点だが、クリーンの数ふたつの差で順位が決まった。また、4番手の藤波(減点20)とは1点差。さらに、3番手のアルベルト・カベスタニー(減点16)や2番手のアダム・ラガ(減点14)らも視野に捉えており、1万人近く集まった観客に、2ラップ目の追い上げを大いに期待させる内容だった。
ところが、2ラップ目は路面が乾いてきたことによって、ドライコンディションに強いスペイン勢が追い上げてきた。また、全日本はセクション中に停止しても良いルールだが、世界選手権はセクションの中で止まると減点5になるノーストップルールで行われている。そのルールに慣れ、ルールに合わせた技術や体力も培っている世界の強豪たちが地力を発揮しはじめた。一方、黒山は1ラップ目にクリーンしていた第4セクションでまさかの失敗。その後も減点5や減点3が目立つようになり、2日目は10位となった。それでも小指を負傷した状態ながら1日目よりもひとつ順位を上げ世界のトップ10に入り、ニューマシンで初の世界選手権を終えた。
RACE DATA
■大会名称:トライアル世界選手権日本GP
■開催日:2017年5月26-28日
■開催地:栃木県・ツインリンクもてぎ
■観客:1日目/6,700人、2日目/9,500人
■気温:1日目/19度、2日目/24度
■天候:1日目/曇り、2日目/晴れ
■競技:15セクション×2ラップ
■持ち時間:5時間
RESULT 1日目
順位 | ライダー | マシン | 総減点 |
---|---|---|---|
1 | T・Bou | Honda | 48 |
2 | J・Dabill | GasGas | 72 |
3 | 藤波 貴久 | Honda | 74 |
4 | J・Fajardo | Vertigo | 75 |
5 | A・Raga | TRRC | 77 |
6 | J・Busto | Honda | 90 |
11 | 黒山 健一 | Yamaha | 103 |
RESULT 2日目
順位 | ライダー | マシン | 総減点 |
---|---|---|---|
1 | T・Bou | Honda | 22 |
2 | A・Raga | TRRC | 24 |
3 | A・Cabestany | Sherco | 30 |
4 | J・Fajardo | Vertigo | 33 |
5 | 藤波 貴久 | Honda | 35 |
6 | J・Busto | Honda | 35 |
10 | 黒山 健一 | Yamaha | 58 |
COMMENT
YAMAHA FACTORY RACING TEAM
黒山健一選手談(11位/10位)
「予選は5番手。1セクションだけの勝負なので、これが自分の実力だとは思いませんが、後ろから5番目のスタート順となりました。自分の目の前を、藤波貴久選手をはじめ上手い世界のトップライダーがたくさん走ったので、彼らのライディングは非常によい参考になりました。とはいえ1日目は、指をケガしたこともあり、まったく納得も満足もできない、悔しく悲しいストレスがたまる試合結果でした。2日目の1ラップ目はとても調子がよく、普通に走れました。2位や3位に減点数が近かったので、ちょっと夢を見てしまい、順位をひとつでも上げようと攻めたのですが、僕自身が疲れてしまったこともあり、結果的に順位を落として10位。残念ですが、とても楽しい2日間のレースでした。次はまた全日本に向けてしっかりとがんばります」
木村治男監督談
「感触は良かったですね。2日目は一時6番手につけ、もっと上を狙える可能性があったし、新型マシンも黒山選手の世界レベルの走りに合わせることができたかなと思います。この感触が、今年最大の目標である全日本タイトル奪還に向けて、勢いがついたと思います。もちろん、満足しているわけではありませんし、日々少しずつ車両を向上させて、次回の第4戦中国大会を迎えたいと思います」