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サマーブレイクまでの2009年MotoGP前半戦を、ヤマハ勢は10戦6勝(V・ロッシ4勝、J・ロレンソ2勝)という成績で折り返した。ここまでの10戦を振り返り、4人のヤマハライダーの戦いぶりと今シーズンから始まったタイヤワンメークルール、そしてシーズン後半戦の目標や新たに採用されるエンジン使用基数制限等について、フィアット・ヤマハ・チーム総監督であり、モトGPグループリーダーである中島雅彦に語ってもらった。 |
■今シーズンからのレギュレーション変更と、チーム戦略への影響 今年の前半10戦を振り返ると、レギュレーション上でもチーム戦略上でも、一番のポイントはやはり、ブリヂストンタイヤによるワンメーク化だと思います。我々は昨シーズンのバレンティーノで一年分の経験があるとはいっても、今年は大きく事情が異なっているんです。全チームに対して同じ形状・構造のタイヤをフロント8本、リア12本の計20本。コンパウンドはブリヂストンがサーキットごとに選択する2種類のみ。さらに去年とはタイヤ特性も違う。そのような条件下で、マシンとタイヤのパフォーマンスをどうやって100%引き出すか。まずはそれが大きな課題で、我々同様、ライダーにとっても難しいテーマでした。というのも、すぐには頭が切り替わらないんですよ。乗り方や考え方を変える必要がある、と理解できてきたのは、ようやくシーズン最初の3戦が終わった頃です。
そのようにさまざまなトライを行っていくなかでも、特に今年の前半数戦は天候に翻弄されることが多く、これには本当に悩まされました。毎年天候は気になるものですが、とはいっても、今年の開幕戦カタールGPでの雨天順延という状況がまず、ありえない(笑)。次の第2戦日本GPは、雨で予選が中止。第4戦フランスGPと第5戦イタリアGPはフラッグ・トゥ・フラッグのレース。まともに晴れたのは、第3戦スペインGPと第6戦カタルニアGPくらいでした。第8戦アメリカGPも、気温は低かったけれども晴れてくれたので、まあまあ、といった状況でしょうか。
今シーズンは金曜午前のフリープラクティスが廃止されたので、決勝レースまでのセッションは3回しかありません。だから、今年は特にスタートセッティングを重要視しているんです。走り出しの1時間で、セッティングをどれだけ積み上げられるか、まとめ上げられるか。この1時間、1回目のセッションが勝負になります。というのも、土曜日午後の予選セッションでは、最後の30分はタイムアタックモードに入ってしまいます。今年から予選用タイヤがなくなったとはいっても、いいグリッド位置を獲得するために一発タイムを狙うという事情はやはり変わりません。つまり、このモードに入ってしまうと、マシンの変更はほとんどできない。だから、正味でいうと、1日目金曜日の午後と2日目土曜日の午前中が勝負なんですよ。しかし、2日目の午前中はたいてい、決勝レースのときと大きくコンディションが異なると想定されるし、実際にそうなる場合が多いのです。つまり、結論的に1日目の午後がすごく大事、ということになるし、そこでだいたいの方向性が決まる。スタートセッティングを重要視する、というのは、つまり、そういうことなんです。
今シーズン、バレンティーノとホルヘの両名で1-2フィニッシュを決めたレースは10戦中4回。正直なところ、ここまでの好リザルトになるとは私も思っていませんでした。1-2フィニッシュのときは、彼らだけの世界でレースしているくらいの雰囲気がありますね。チーム総監督としての立場からいえば、勝つのは一人だから、チームメイト同士のトップ争いをうれしく思いつつも気を揉みながら見ているんですが、技術的な側面では、非常に効果が上がっているのも事実です。ライダーにしてみれば、隣に最大のライバルがいるわけだから、メカニックたちも、ものすごい集中力と絶対にミスはできないという緊張感があって、お互いにうまく刺激し合っています。同じマテリアルで勝負しているわけだから、そこに携わっている人たちは全員が必死なんです。そういう意味では、お互いに刺激をし合っていることがいい結果につながっているのでしょう。 今シーズンのチャンピオン争いは、フィアット・ヤマハの2台とペドロサ選手(ホンダ)、ストーナー選手(ドゥカティ)の“四強”と言われていますが、そのなかでも、ホルヘはオーバーテイクにかけてはバレンティーノの次にうまいライダーだといっていいでしょう。実際に本人もそういうふうに戦おうとしていて、いっとき前に出して様子を見たりしているのですが、今度はバレンティーノがさらにその上をいく、といった具合なので、現状ではホルヘのほうがまだ勉強させてもらってる状態ですね。とはいえ、あの若さであそこまでできるのは私も予想外でした。
バレンティーノは第7戦オランダGPで通算100勝を達成しました。完全とはいえないにしても、おしなべてうまく進んできたと思います。ただ、最初に話したように、本当に噛み合いはじめたのは、今季2勝目を挙げたカタルニアGP前後からです。スペインGPではたまたま優勝できたけれど、あのときはまだ十分ではなかったんです。にも関わらず勝てたのは、たぶん、ホルヘがいたからだと思うんですよ。自分を脅かす速い選手があらわれると、ライダーは絶対に満足しません。必ずその上をいこうとしますから。例えばセッションが終わってからでもセクションごとに考えて、どこが遅いか、と自分なりに考えてくるんです。思うように走れない部分はここなんだ、と。我々も、そのために何をすればいいのか、と考えて問題解決に取り組みます。それがうまく噛み合いはじめたのが、カタルニアGPあたりからなんです。
マシン面からこのふたりのアプローチを見てみると、旋回性とブレーキングは本来トレードオフ(二律背反の関係)で、例えばブレーキングを重視すればその分だけ旋回性で失うものもあるわけです。だから、セッティングしていくなかでは悩むところなんですが、現実問題として考えた場合、レースでのオーバーテイクのポイントは、ストレートで圧倒的な差がある場合は別として、ブレーキングしかないんですね。コーナーでも、よっぽどのスピード差がない限り、フルバンク状態でインやアウトから抜くのは難しいし、リスクも大きい。だから、武器としてブレーキングを強くできるライダーは勝負にも強い、ということがいえるわけです。しかし、ブレーキングを強くするとラップタイムの速いオートバイができるわけではない。ここが難しいところなんです。
ジェームスは、シーズン冒頭から苦しんでいました。特にカタルニアGPでは自信をなくしかけてチームも悩んでいたので、レース終了後に彼のモーターホームまでいって、二人でゆっくり話し込んだんです。「今までのことは忘れて、次のアッセンで一度すべてリセットしよう。基本的にヤマハのオートバイはこうすれば走れるというベースに戻すから、それでしっかりと走りこむところから始めよう」と話しました。そこからは、レースへの臨みかたやコメントも落ち着いてきて、リザルトも極端に悪い、ということはなくなってきました。とはいえ、彼の力なら本来もっと走れるはずなので、まだ十分に満足のできる結果ではありませんが。 コーリンに至っては、私から言うことは何もないですね。彼はそれだけの経験を積んできているし、ヤマハのマシンも熟知しています。いつも言うように、コーリンはヤマハのバロメーターなんです。彼がうまく走れているときは、ヤマハのマシンはMotoGP全体のなかでもいいレベルにある、ということがわかる。コーリンの意見は、タイヤにしてもオートバイの状態にしても、すごく参考になるんです。開発のバロメーターだし、我々が悩んだときに引きだしてくれるものも持っている。だから、彼があれだけやってくれているのはすごくありがたい、といつも思っています。経験が豊富な分だけ、何より冷静なんですよ。とにかく転倒回数が少ない。転ばない術を知っていて、必ずオートバイを無事に戻してきてくれる。だから、私はいつも彼を頼りにしています。それに、コーリンは性格が良くて、話が面白いんですよ。実は、我々ヤマハは2008年の開幕戦以来ずっと連続表彰台を続けているんですが、ファクトリーの二台が潰れて記録が終わるかもしれないというときには、きまってコーリンがヤマハの連続表彰台を繋いでくれる。頼りになるし、感謝しています。
だから、今年の後半戦は来年のシミュレーションを兼ねて臨む予定です。レース現場がバタバタせず、ライダーにも不安を感じさせないようにエンジンの信頼性を向上させ、なおかつマイレージ管理も今まで以上に緻密に行っていきます。ただ、こういった内容は表面上にあらわれない事柄なので、観戦客の方々が見てわかりやすい変化ではないと思います。「エンジンの台数制限をされてるんだね。大変だね」くらいの印象ではないでしょうか(笑)。つまり、このエンジン使用制限というレギュレーションは、あくまでエンジニアリングの内部的な課題だから、表に出てはいけない事柄なんですよ。ライダーにも不安を感じさせず、チームの仕事も増やさない。ライダーとチームスタッフは、今まで通りレースに集中できる環境を維持しながら、その結果を来年へ繋がるようにしていく、ということです。
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