ヤマハ発動機の技と術

プロフェッサーMAXが切る!技術の“都市伝説”

Vol.1: 「バイクは体重移動で曲がる」と言うけれど・・・。

真由

バイクに乗り始めて17年になります。バイクに惹かれるのは、やはりコーナリングの爽快さです。でも「コーナリングが綺麗に決まった」と自分で思えることは、時々かな・・・。そもそもバイクが何故曲がってくれるのか・・?どうやれば上手に曲がれるのか・・・?という基本が、よくわからないんです。


コーナリングはバイクの醍醐味
MAX

なるほど。では真由さんは、どのようにしてバイクで曲がりますか?真由流の曲がり方とかありますか?
またどうしたらバイクは傾いて曲がるのでしょう・・・?

真由

そうですね。コーナーでは先の方、出口に視線を向け、曲がる内側のフットレスト(#1)を踏みつける、という感じですかね。


(#1)「曲がるきっかけ」をつくることに役立つ時もあるフットレスト
MAX

確かに、教習所などのスラロームでは曲がるきっかけをつくる操作として、フットレストを踏むということはありますね。デモ、まゆさん一般道でコーナリング時に毎回踏んでます?
私は、曲がる時に全く踏まないとは言いませんが、ツーリングなどでは殆ど踏んでません。だって、フットをレストさせるところですから。(^^ゞ

真由

そうですか。なら、やっぱりバイクを十分に寝かせることもポイントですかね。内側に体重を移動してやるのも重要かと・・・。
MotoGPのライダーも、思いっきり内側に体重を移動しているし、膝を擦ったり、肘を擦りそうにしたりしてコーナリングしています。やはりバイクを傾けるて曲がるのは、体重移動ですかね。

MAX

たしかにMotoGPなどでは、大胆な「ハングオンスタイル」(#2)が一般的ですね。でもそれは、バイクを傾けて曲がるための”条件”とは言えません。あれはコーナーで、遠心力とのバランスをとる工夫のひとつ、とボクは見ています。何故ならモトクロスではライダーがリーンアウトの姿勢を取ることが多く、曲がる方向とは逆に体重をかけていますよ。(#3)つまり体重を移動する側と、バイクが傾いて曲がる向きとは同じではない訳ですよ。


(#2)MotoGPでの「ハングオン」シーン

(#3)曲がる向きとは逆に体重を掛けるモトクロスシーン
真由

MotoGPも、モトクロスもやはり体重移動でバランスをとっていることには違いないですよね。やはり傾けて曲がることと「体重移動」は繋がっていると思いますが。違ってますか・・・・?

MAX

んじゃ、ひとつ映像を紹介しましょう。これはヤマハ発動機の研究開発のひとつです。マシンにロボットが跨り操縦し、サーキットを走行するという映像です。

https://global.yamaha-motor.com/jp/showroom/motobot/

映像を見る限り、このモトボット君は全く体重移動していませんよね。と言うか出来ません。なのに、このマシンはサーキットを高速でコーナーを気持ち良さそうに曲がって走れています。

真由

これは電子制御のチカラでマシンとロボットを制御しているわけでしょ。人が扱うバイクでは、違和感も少々。
体重移動できないモトボット君はどうやってバイクを傾けてコーナリングしているんですかね。
ハンドルを操作している?一瞬反対にきっているとか?

MAX

いま、「ハンドルを一瞬反対にきる」って言いましたね。いい表現です。ちょっと専門的用語になりますが、それを“逆操舵”(#4)と言います。例えば右に”逆操舵”すると、マシンはその反対側(左側)に倒れようとします。皆さん経験があると思います。そこが実は鍵です。
ライダーは曲がるとき、意識するしないにかかわらず、”逆操舵”をしています。その角度はとても微小で、曲がりたい方向と逆にハンドルを”押す”と言った方が、むしろ感覚にあうかもしれません。


(#4)「逆操舵」:軽くハンドルに力を加える(押す)と、その反対方向にバイクは曲がる性質があります。
真由

へーッ。ハンドルを曲がりたい方向と逆に押すことでバイクが傾いて曲がってくれるということですね。

MAX

そう。左に曲がるなら、右に僅かにハンドルをきります。逆操舵です。
例えるなら、傘を手のひらの上で立ててバランスをとった状態をイメージしてみましょう。左に移動しようとする場合、一瞬手のひらを右に動かすと、傘は左に倒れ始めますね。そして左に手を動かすと、傘はバランスをとったまま左に動いてくれます。バイクのコーナリングはそれととても似ています。(#5)
つまりライダーは逆操舵することで、旋回したい方に車両をバンクさせ、あるバンク角になると逆操舵を無意識にやめ、腕の力をぬくことで、バイクは自然に曲がる方向にハンドルをきっていきます。
するとバイクはバランスをとってバンクしたまま気持ちよく曲がっていくのです。これらの動作をライダーは無意識でやっています。しかもその舵角は極僅かで、コンマ数度から2度程度。だからライダーとしてはハンドルを操作した感覚が、ほぼないのですよ。


(#5)ライダーの「逆操舵」は、傘でバランスをとる動作に似ている
真由

へー。そうですか。逆操舵ですね。

MAX

MotoGPライダーも、コーナーでのハンドルのきれ角はそれぞれ違いがあるようです。凄くハンドルをきることもあれば、そうでないことも。それが高度なGPテクニックなのかも。そんなことを考えながら、MotoGPの車載カメラの映像を眺めると、面白いかもしれません。

真由

なるほど。ありがとうございます。バイクを傾けて曲がるために、実は人がハンドル操作しているんですね。でも、人間はなぜ、そんな高度な操縦が無意識のうちに出来るのでしょうかね。

MAX

ヒトは、重力のある地球で誕生し進化してきたわけです。だから自然に、重力などと上手にバランスして暮す“技”を身に付けてきたのでしょうね、きっと。

MAX

”バイクは体重移動で曲がる”と言うのは、都市伝説かもしれません。

Vol.2: 「加速するとリアは沈む」と言うけれど・・・。

真由

加速感はバイクの魅力。ダイレクトに加速感が身体に伝わるところが爽快。とくに発進や加速のときはリアが沈み込み、リアタイヤが路面に密着。この感触もバイクに惚れる理由ですね。

MAX

そうね。今、「リアが沈む」って言いましたね。「加速するとリアが沈む・・・」感覚的には確かにそうですよね。
また、自動車などを街中で観察すると、たしかに発進時に後方が沈んでいますよね。では、バイクはどうでしょう?
ちょっと映像をお見せしましょう。(#1)


(#1)

どうですか・・・・・?

真由

そうですね。うーん。確かにこの映像ではリアは沈んでないですね。浮き上がっているようにも見えますね。
でも、体感としてはリアが沈むように思いますが。

MAX

そう感じるのは、フロントフォークの動きに関連します。実は加速するとフロントフォークは伸びる方向に動きます。すると車体の前が浮き上がって、相対的に後ろが低くなり、リアが沈んでいるように錯覚するわけです。

真由

へー。では、フロントフォークが柔らかいと、加速感もよくなるとか?それもちょっと変かな。

MAX

確かにフロントフォークが動かなければ、体感的な加速感も違うかも知れませんね。普通の自転車は、フロントに緩衝機能がないので、姿勢変化がありません。でも、バイクは姿勢変化があるので、より加速感が味わえるのかも知れません。
一方、その姿勢変化はバイクの性能にも関係しています。その秘密は、実はリアアーム(「スイングアーム」とも呼ぶ)です。リアアームの形とか長さ、配置、剛性などが大きな要素です。

真由

確かにリアアームはガッチリ感があって、頑丈に見えますね。でも役割は、よく分かりません。後輪タイヤとショックアブソーバーを繋いでいる部品とか?

MAX

そうですね。しかし、実は他にも重要な役割があります。エンジンの力でタイヤが回転しますね。タイヤの回転は路面との摩擦を生み駆動力となります。その伝達経路を大まかに言うと、エンジン⇒前ドライブ軸(ドライブスプロケット)⇒チェーン⇒後ドライブ軸(ドリブンスプロケット)⇒ホイール・タイヤ⇒地面という流れになります。(#2)


(#2)

この時、チェーンは大きな力で引っ張られます。その力をリアアームが受けます。重要なのは、その力の受け方にあります。

真由

力の受け方?当然前方向ですよね。でも力の受け方って、よくわかりませんけど。

MAX

はい。前方向です。でも正確には水平方向の前とはやや違います。殆どのバイクのピボット軸は、前後ドライブ軸を結んだラインより少し上にあります。(#3)


(#3)

仮に下側にあってもバイクは前進できますが、上側にあるところに、ちょっと秘密があります。ピボット位置が上の場合と、下にある場合の相違をイメージで紹介しましょう。(#4と#5)を見てください。


(#4)

(#5)
真由

面白いですね。

MAX

三角形が変形するシーンをイメージするとわかるかもしれません。

真由

三角形が変形って?どこが三角形なのですか?

MAX

前後のドライブ軸を結んだ線と、ピボット(リアアームの車体側取り付け軸)が作る三角形です。図で説明しましょう。(#6)を見てください。


(#6)

(#6)

加速の時、エンジンのトルク(力)でチェーンが引っ張られリアホイールはエンジンに引き寄せられようとします。左の図です。従って、A-B間の長さは短くなろうとします。でも、A-C間とB-C間の長さは固定されており、変わりません。すると右の図のようにこの三角形の高さ(C点)が高くなっていくのです。タイヤは地面に当たっているので、リアアームの前方だけが上がり、どんどん起き上がっていきます。

真由

なるほどね。

MAX

ピボット(C)が上へ上がろうとするので、車体の後方は沈むのではなくて、浮き上がるようになるわけです。もちろんリアアームの傾斜角(「垂れ角」ともいう)も影響がありますが。

真由

つまり、加速してリアが沈むように感じるのは、錯覚であって、厳密には、加速するとバイクのリアは浮き上がるということですね。

MAX

そういうことです。要するにピボット位置やリアアームの形、長さはバイクの特性に大きく影響するということです。ちなみに90年代のGPマシン、YZR500や近年のMotoGPマシンYZR-M1でも、ピボット位置の調整が可能となっているようです。(#7)


(#7)YZR-M1のピボット部分

こうしたニッチな技術も想像しながら、レース観戦するのも、また面白いかもしれませんね。

真由

ありがとうございます。でも、MotoGPもスタートシーンを見る限り、スタート時にリアは沈んでいるように見えますが。

MAX

MotoGPでは前輪が地面から離れるほどの猛烈な加速をして、時にウィリー状態になるので、リアが沈んでいるように見えるだけです。(#8)


(#8)2016年MotoGP第15戦日本GP

”バイクは加速時にリアが沈む”というのは、都市伝説かもしれません。

Vol.3: 「タイヤが多いLMWはパンクも多い」って本当?

MAX

真由さん、トリシティに乗ったことありますか?

真由

はい。知人が乗っているので、借りたことがあります。ほんと、バイクと同じ感覚でいける。しかもフロントにすごく接地感があってタイヤが路面に貼りつく感じで、それでいてバイクと同じリーン感覚で気持ちよく曲がれる。

MAX

LMW(リーニング・マルチ・ホイール)の特徴はいろいろですが、抜群の安定感が一番の魅力ですね。

真由

とにかく不安感がないんです。あの「不思議」と言われたりもしている独特なフィーリングには、はまる人も多いんでしょうね。

MAX

うちの会社では通勤で使っている人も多いです。天竜川の橋を渡るときなどは「遠州の空っ風」で知られている強風に見舞われるのですが、横風に対する安定感は「大型バイク並み」と言う人もいます。
実証テストがあるので見てください。

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真由

横風を受けたときの安定感は、前2輪であるがゆえということですね。一方で「タイヤが多いLMWはパンクしやすい」と思っている人もいるようです。

MAX

興味深いです。そんな「説」が出回っているとは。

真由

先日、友達のバイクのリアタイヤに釘が刺さっていたそうで、速攻でショップに行って修理してもらっているときに、他のお客さん同士の会話で耳にしたそうです。

MAX

そうでしたか。でもタイヤが3本あるトリシティが、通常の二輪バイクに比べてパンクの可能性が増えるというのは、少し違うかなと思います。

真由

でも実際に路面に接触している面積は、確かに二輪に比べて1.5倍です。単純に確率の話をしたらやはりパンクに見舞われる可能性は増えると思ってしまうのですが・・・。

MAX

逆です。パンクの可能性は減る場合があります。釘踏みによるパンクの多くは、路面に転がっている釘をフロントタイヤが跳ね起こし、その真後ろにあるリアタイヤがこれを踏みつけるケースが殆どと言われています。

真由

へー。自分が乗っているバイクの前輪が原因を作って後ろのタイヤがパンクしているとは思いもしませんでした。

MAX

もちろん、この現象は、車速、ホイールベース、釘の向きなどさまざまな条件が揃ったときに起きるわけで、釘を踏んだからといって必ずしもパンクする訳ではありません。

真由

なるほど。個人的にパンクはリアタイヤのほうが多い気がしていたのですが、これなら話がつながりますね。

MAX

走行中に生じる釘などが原因のパンクは、リアタイヤに多いと言われています。であるならば、後輪が前輪の真後ろにないLMWでは、釘踏みでのパンクの可能性は低いと言えます。分かりやすくしたアニメーションを作ってみました。

真由

図式化されていて分かりやすいですね。

MAX

後輪のパンクが多いので急なエア漏れが少ないチューブレスタイヤを、リアだけに使っている車種もあります。例えば真由さんのセローもそうでしょ。

真由

そういう訳で、リアだけチューブレスなのですね。軽量化のためなのかな、と思っていました。

MAX

もちろん、後輪チューブレスの理由はそれだけではなく軽量化の意味もありますが、やはりパンク時に急なエア漏れが少ないこともチューブレスタイヤのメリットですね。

真由

へぇ。なるほど。

MAX

ともかくLMWは二輪のバイクに比較すると、確実にパンクのリスクが少ない、と考えられています。

真由

でも、やはりパンクしないわけではないですね。タイヤに刺さった釘を抜くと、その穴から空気が急激に漏れてしまうこともあるから、まずはすぐにバイクを止め、慌てて釘を抜かずに、その状態のままショップに持ち込んで点検してもらうのがいい、と聞いたのですが?

MAX

正しい対応と思います。いずれにせよ、LMWはタイヤの数が多いのでパンクの可能性が増えるというのは、都市伝説かもしれません。