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進化する鍛造技術

ヤマハ発動機の技術ストーリーをご紹介します。

新型モーターサイクルは、いつも華々しく登場します。発表会では開発者たちが晴れやかな笑顔で注目を集め、誇らしげに新型車を披露するのが常です。新型車はさまざまな角度から写真を撮られ、著名なジャーナリストたちに試乗され、こちらもやはり誇らしげです。
そんな華やかな舞台にはなかなか登場しませんが、新型車を支え、かたちにしているのが「製造技術」です。設計要件を満たしながら、設計者の思いを実際の製造・生産へと落とし込む製造技術は、理想を現実にする、まさに縁の下の力持ち。黒子として、しかし極めて重要な基盤として、モノ造りの根幹を成しています。

ヤマハ発動機は、1955年の創業以来、常に製造技術を重視し、高めてきました。特に金属を製品のかたちにする鋳造・鍛造技術は、弊社の屋台骨とも言える存在です。多くのメーカーが経営効率を重んじて外部から技術を購入する中、ヤマハは地道に、実直に、時間をかけて、多くの製造技術を自社開発しています。
例えば、アルミ鍛造ピストン。薄肉化・軽量化と同時に高強度化を果たし、エンジンの高回転化と同時に信頼性を向上し、さらには低燃費も実現する、まさに「いいことずくめ」のピストンです。

レース用の四輪車などでは使われていたアルミ鍛造ピストンですが、細かな形状作りが難しく工程が複雑で、量産二輪車への採用にあたっては技術的なハードルが指摘されていました。そうした中ヤマハは高温強度に優れるアルミ鍛造の特徴を走りの性能に活かすため、これを1996年のYZF1000R Thunderace、YZF600R Thundercat(#1)に採用。その実績を踏まえ、アルミ材および金型に噴射して型離れをよくする“離型剤”に注目。この離型剤の組成と鍛造条件(材料および金型の温度等)を高度にチューニングし、複雑な形状のピストン成形の単一ストロークでの量産化の仕組みを構築。1997年にはアルミ鍛造ピストンの量産化に成功。従来難しかった鍛造によるピストン製造の量産化を世界で初めて実現(#2)したのです。1999年モデルのYZF-R6やYZF-R7にこれを採用、その後のスーパースポーツを中心に展開モデルを増やし、今では多くのヤマハ製モーターサイクルに用いられています。

開発に携わった技術者は、「自分たちでやることに意味がある。押さえるべきポイントを自分たちが深く理解しているから、製法をよりシンプルにでき、それがコストダウンにつながったこともある」と振り返ります。失敗を繰り返しながら、製造技術を自分たちのものにする。それらを汎用化し、多くの製品に採り入れる。そういった例は枚挙に暇がありません。
2003年発売のYZF-R6(#3)で初採用したCFアルミダイキャスト技術は、金型の真空度、金型の温度制御、溶湯(溶解したアルミ)の射出速度などを向上させることで、高品質なアルミダイキャスト部品の量産を可能にしたものです。薄肉かつ大物を両立させたほか、部品点数の削減、アルミ使用量の削減、製造工程の簡素化が可能で、生産コストダウンや環境負荷の低減が見込めます。
このCFアルミダイキャスト技術も、今では多くのヤマハ製モーターサイクルに採用されているほか、この技術は20%ハイシリコン含有アルミ材を用いるDiASilシリンダーの実用化にも貢献。さらにはマグネシウム部品の製造工程に最適化することでCFマグネシウムダイキャスト技術へと発展させるなど、進化と広がりを続けています。

先の技術者は、こうも言います。「自分たちでやるからこそ、技術の引き出しが増えていく。いつ、どんな形でそれが役に立つかは分からないけれど、引き出しをたくさん持っていることが大事だ」と。
華々しく登場する新型車のほとんどが、製造技術の進化による恩恵を受けています。果たしてどこに「製造技術の引き出し」が隠されているのか。そんな注目の仕方もお楽しみください。

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