シーンを選ばない“2ストローク”
ヤマハ発動機の技術ストーリーをご紹介します。
日本の食卓に上がるタコの多くがアフリカ産ですが、西アフリカのタコ漁で日々稼働しているのがヤマハの2ストローク船外機「エンデューロ」シリーズです。そこには50余年の物語があります。ヤマハ発動機とアフリカの接点は、1960年代にまで遡ります。初めてこの地を訪れたヤマハマンが目にしたのは、厳しい環境と向き合いながら、沿岸漁業に取り組む漁業従事者の姿でした。以来ヤマハは、「船外機の普及による漁村の動力化」で暮らしの向上に寄与しようと、各国政府や国際機関との連携・協力を図りながら漁業振興の取り組みを続けています。こうした活動の主役であり、いまなおアフリカ各地の漁村で主力として活躍しているのが、「エンデューロ」シリーズ(#1)です。
アフリカの沿岸漁業は、船外機にとって非常に過酷な環境です。船体は重く、高い負荷がかかったままの長時間運転、また浅瀬や水草をかき分けての走破性も必要です。毎年のように細部の改良が加えられている「エンデューロ」シリーズが、それでも「基本設計を変えない」という開発姿勢を守っているのは、壊れにくく直しやすい構造であることを最優先にしているからです。
ヤマハ2ストロークエンジンの礎は、1955年に誕生した第1号製品「YA-1」の125㏄ですが、以後業務用途だけでなく、スポーティな特性をもつモーターサイクル用(「RD」や「RZ」)として、また競技用のモトクロス車(#2)や水上オートバイ(PWC)(#3)、スノーモビル等にも展開され、ロシアではスノーモビル「VK540」(#4)が極寒の環境下で信頼を得て、いまもトップセラーモデルとして人々の暮らしを支えます。今では珍しい存在とも言われる2ストロークですが、ヤマハは環境・用途に応じた製品化で技術を培っています。
汎用性という力
2ストロークエンジンの特徴は、軽く設計できパワーとトルクに優れることです。4ストロークのように吸気・排気用の専用バルブは存在せず、吸排気(掃気・排気とも言う)の仕事はピストンの上下に伴ってシリンダー壁にある孔が通路となる仕組みです。およそ30:1の割合で燃料とオイルを混ぜて燃焼させているので、潤滑用のオイルを供給する必要もありません。とにかく部品が少なく軽いのです。燃焼室の整備も、バルブ機構がある複雑な4ストロークに較べとても容易。こうしたシンプルな構造に加え、長年基本設計を変えず部品互換性や整備のしやすさを考慮したヤマハの2ストロークエンジン開発・供給の姿勢が、アフリカ等沿岸漁業の皆さんから支持されているのです。
また2ストロークは、吸排気の仕様如何でパワーに長けた特性を発揮できます。効率的に出力を絞り出せる回転数の範囲は限られることもありますが、適切なパワーバンドに入ると、胸のすく加速感や瞬発力を得られるのです。この特徴を引き出して実用化したのが1970~1980年代の「RZ250」などの2ストロークスポーツ。また競技用のモトクロス車や水上オートバイ(PWC)、スノーモビルなどにも2ストロークが採用されます。