マウンターから電動車いすへ
ヤマハ発動機の技術ストーリーをご紹介します。
きっかけは1983年の東京でした。ヤマハが初めて「国際ロボット展」でブースを出したとき、あるメーカーから相談を受けました。「チップ部品をプリント基板上に搭載する装置を作れませんか?」と。以来ヤマハは現在に至るまで、電子部品実装関連機器を扱うIM(インテリジェント・マシナリー)事業部というセクションを構え、国内外のお客様のニーズに応え365日24時間稼働の生産ラインを支えています。そこで培った制御ノウハウは、例えばPASユニットの仕組みを応用した電動車いす「JW」シリーズなどに織り込まれています。技術の広がりがあります。
もともとバイク生産から創業した私たちヤマハですが、製造・組み立ての精度向上を狙いに1974年からロボットの研究を開始、2年後の1976年には自社開発の部品組み立てロボットを生産ラインに配置しました。その経験を経て1981年ロボット事業を始め、2年後には展示会に出展したのでした。そのロボット開発で培った基礎技術がチップ部品をプリント基板に搭載するマウンターの技術へと展開したのです。
マウンターが活躍する「プリント基板製造工程」は、飛躍していうと”ピザを焼く”流れでイメージできます。ピザ生地にソースを塗り、具をトッピングしてオーブンで焼く流れです。その中で具をトッピングするのが「マウンター」です。ただしマウンターでは1チップ辺り数十ミリ秒で搭載する高速性と数十ミクロン単位の高精度が求められます。その制御のコア技術となるのが「ビジョン制御・画像処理技術」と「モーター制御技術」です。
「ビジョン制御・画像処理技術」は、デジタルカメラで超高速に部品を撮像する技術と、画像処理をして部品の種類や正確な位置や良否を判定する技術。数ミクロン単位の高精度判定を数ミリ秒の時間で実現します。ピザの例でいうと具の種類や位置を判定する役割です。
「モーター制御技術」は、ゴマ粒より小さな0.2×0.1㎜サイズのチップをピックアップし、定められた場所に正確に置く作業を行う制御です。吸着ノズルを使ってエアでチップを吸い上げ、複数のモーターを組み合わせ三次元の動きをタイムラグなしで行いチップを置きます。ここでのポイントが、これらの作業をいかに同期させるかですが、最新のコントローラーでは100軸近いモーターを1ミリ秒以下で同期させることができ、主力製品「Z:LEX」(#1、ジーレックス/YSM20)では、1時間に9万個のチップを搭載する能力を実現しました。デジタルカメラやコントローラーなどコア技術となる主要電装品は全て社内で開発しています。
制御技術との展開
このマウンターの制御技術の展開の一例が、車いす完成車の「JWスウィング」(#2)や、アシストユニット「JWX-2」などです。電動アシスト自転車PASの技術の適用で、ハンドリム操作の負荷(手の力)に応じてモーターの補助力が働きます。ただ自転車は駆動する車輪がひとつですが車いすの車輪は2つ。そこでは同調が求められます。また自転車は足がペダルの上にいつものっていますが、車いすではハンドリムを前から後へ持ち替えながら前に進みます。左右の力の強さや時間差もあります。そのまま補助力を働かせると動きが滑らかにはならないので、これを制御して快適なアシストを実現。手がハンドリムから離れた間もスムーズに、また坂道でも思い通りに操作できる制御が織り込まれており、その細部にIMで培ったモーター制御技術が生きています。
ヤマハは、ジョイスティック搭載の電動の車いすもラインナップ(#3)して人気を得ていますが、この「JWスウィング」系は、加齢に伴い筋力が弱ってきた方にとって身体機能の維持・増進にもつながるとされるモデル群。使える力を存分に使って外出を楽しんでもらいたいという開発陣の思いである“JW=ジョイ・ホイール”をストレートに示唆しています。