三次元曲面のFRP製舟艇とNC加工
ヤマハ発動機の技術ストーリーをご紹介します。
ヤマハのFRP舟艇は1968年の量産化から本格的に動きだし和船、漁船、プレジャーボート、クルーザーへと広がりを見せました。1980年代には、レジャーの多様化を背景に、高速化、クオリティ感を求めるニーズも広がり、より高速で快適に走れる舟艇への期待が膨らんでいきました。
このFRP製舟艇へのニーズに呼応するため、私たちは1989年にFRP製ボード製造用の「型」製造に、5軸での制御もできるNC(Numerically Controlled)加工機を初めて導入しました。FRP舟艇の製造では、オス型と呼ぶ船体(ハル)の原型を精度よく製造することが性能に直結します。従来は2次元の図をもとに型を作っていましたが、高精度へのニーズに応えるものでした。
「チャイン」と呼ばれる船の側面と底面の境界ラインは、波切りをよくして船にかかる水の抵抗を減らす機能があります。そのラインが数ミリ違うと、走行性に大きな影響を及ぼします。バイクではタンク形状が少し変わっても、走行性はほとんど影響しませんが、船体が水圧と戦う力は、空気中を疾走するタンクの比ではありません。また走破性とデザイン性の両立を求めると、チャインまわりは流体特性に優れ滑らかにえぐられたネガ面が必要となることもあります。
このネガ面の形状を2次元図で設計するとなると、断面図を何枚も作らざるをえません。それまでは、各断面図の間のポイント決めは、熟練スタッフが補完していましたが、NC導入により、このハードルをクリア。設計図面は100%オス型に反映することが可能となったのです。
NC加工技術では、元の形状は全て3Dデータで表現、大型5軸などを駆使し高精度な加工ができ、また大きな型でも分割加工技術で合体が可能です。3D設計とこのNC制御により、1mm単位の精度で舟艇のFRP成形を実現したのです。NC加工機の導入以降、艇体への部分的な採用を進めながら、データ作成や新たな型構造などのノウハウを積み上げていきました。そして、このNC加工機による「オス型」を全面的に使った市販第1号が、2004年にデビューした「YF-27」(#1)。そのモダンなスタイリングと走破性が人気でした。それ以後は、多くのFRP舟艇にこのNC加工を投入。現行モデルでは、フィッシング用途の「F.A.S.T.23」(#2)からプレミアムヨットの「イグザルト36 Sport Saloon」(#3)まで、全てNC加工を経て製造されています。
ただ、NC加工による「オス型」製造を経たFRPだけがヤマハの特色という訳ではありません。長年のノウハウ蓄積による技術、高速性能を浜名湖、外洋での波きり性は遠州灘でチェックする立地を活かした官能評価、さらに自社生産のエンジン(船外機)とのマッチングの確認と作り込みなど。この総合力こそ、ヤマハ製FRP製舟艇に貫かれている“人機官能”の熱意です。
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